夏休みの計画
そして、七月になり彼の誕生日が巡ってきた。
彼の誕生日に何か彼が喜んで貰えるものはないかと
悩んだ末、この暑さを乗りきるために社長室に鷺草の鉢植えを贈った。
その鉢植えに添えた物は二つ。
一つはBirthdayCard。
《63回目のお誕生おめでとうございます。あなたに出逢ったこと感謝します!!そして、あなたのこれからの歴史に私を添えてください》‥と。
そして、もう一つ、末息子と写した写真を同封した。
写真館で撮影したその写真は、実物と写真とのギャップを作りたく私はわざと
当時、流行っていたチビTに薄化粧。
ムチムチの実物大の私。
隣には、これまたムチムチの張り裂けそうな末息子。
それには、私なりの思惑があった。
いつか、近い将来 彼に逢えるような気がしていたのだ。
すると、思惑通りの彼からのメールが来たのです。
『バースディカードありがとう。雪乃さんの写真、とても嬉しかったよ。
しかし健康的だな~それに凜君は利発そうな顔してるね!!』
『健康的なんて言われたのは初めてです。喜んでいいのか悲しんでいいのか!?
女性に対してデリカシーのない表現ですね』
『そりゃ~悪かったね。綺麗だよ』
案の定、彼のリヤクションは私が思っていた通り、作戦は大成功です。
『ありがとう。鷺草も写真も大切にするよ。
今日、僕の写真も送ったからね』
そして、三日後
彼の写真が届いた。
細身のロマンスグレーで芸能人でいうと岩城洸一に似た感じでした。
神経質そうに見えなくもないですが、彼の人を見透かしたような鋭い眼力を感じた。
それから、七夕も終わり、子どもたちも待ちに待った夏休みが近づいた頃。
彼はステキな提案をしてくださった。
『雪乃さん、これは相談なんだが‥
もうすぐ夏休みだろう。子どもたちに夏休みの思い出を作ってやらないかい?』
『夏休みの思い出?』
『雪乃さんが良ければ子どもたちを連れて遊びに来ないか』
『本当ですか?
子どもたち、喜ぶと思います』
『正直、僕も雪乃さんに逢いたいと思っている。子どもたちが喜んでくれれば嬉しいんだが‥』
『子どもたちと相談してお返事します。ありがとうございます』
上の二人には休み度に、お友達の家は家族旅行へ行くという話を羨ましそうに話す。
いつか行こうねっと行く宛もない話で誤魔化してきた。
末息子については、毎日、保育園バスから降り家の鍵を首から外し玄関の鍵を開けて留守番をさせている。
家族4人が肩を寄せ合ってどうにか生活をしていたが内心、不憫で仕方なかった。
夕飯を囲みながら 三人の子どもたちに彼からの話を切り出しました。
「メールで知り合った社長さんが、夏休みに遊びに来ないかと言ってくれてるんだけど‥どうする?」
「行く!行く!行きた~い!!」
三年生の娘は飛び上がって喜んだ。
それを見た末息子も、はしゃぎ出した。
ただ兄貴だけは冷静です。
「お母さん、会ったことあるの?」
「お母さんも会ったことないけど家族みんなでおいでって言ってくれてるんだ!!不安?」
「バァバは一緒じゃないでしょう?」
「そりゃ、バァバは行かないよ。バァバには内緒で行くことになるけど‥どうする?」
長男は神妙な顔をして
「僕も行きたいけど、バァバにどう言うの?」
長男に言われてみれば その通りで 離婚してから 母は、子どもたちが気掛かりで、しょっちゅう我が家に電話をしてきます。
休みになると子どもたちを連れ出し食事に行ったり遊びに行ったりと‥
母の気持ちは有り難いのですが、何処へ行くにしても母は運転が出来ないので弟たちの手を借りなくてはならず 私としてはありがた迷惑の感でした。
だから離婚してからは実家にも余り帰らず、たとえ身内にも、世話になりたくないと頑なになっていたのかもしれません。
そんな私の頑な気持ちが余計に子どもたちに負担を掛けていたのでしょう。
この夏休みには、そんな私の気持ちを察して、母は、うちの子どもたちだけを誘ってUSJに行く計画を練っているようだ。
そんなこととは知らずに私たち家族四人は、相談した結果、彼の優しさに甘えることにした。
彼は子どもたちに夏休みの思い出を作ってあげたい!!
そんな思いを着々と進めて行った。
返事をした2日目には、旅行マップやら旅行雑誌、パンフレット等々が届いた。
『ありがとう。今日、旅行雑誌とか沢山届きました』
『早かったね。目ぼしい処はチェックしてはいるが、それらを見て子どもたちが行きたい処があれば教えてね。計画を練ってみるから』
『了解しました。宜しくお願いします』
『僕としては七月中の方が比較的時間が空くんだ。べったりは付き添えないけど、友人の相沢と専務に頼んでるから心配ないよ』
お友達や専務さんにまで話しているんだ。
少し、驚いた。
彼は、よく うちの会社は経営も全てガラス張りだよ。なんて、仰られていますが‥
私たちのことまでオープンなんだと一瞬怯んだ私でした。
どんな風に説明されたのだろう。
非常に気になるところでした。
その夜、彼に訊ねてみた。
すると‥『僕には親友と呼べる人は彼が一人だけ、お互い全てを話してるよ。男同士の秘密もね。勿論、専務にも隠し事は出来ないんだよ!便を図って貰わないといけないからね』
まぁ、善きにしろ悪にしろ男同士の友情っていうものなんだと、解った振りをした私でした。
後々、成る程と唸らせる出来事があるまでは。
それから、子どもたちは旅行のパンフレットを広げては毎晩、愉しい会話で盛り上がった。
そんな中、私は この旅行を実現させる為に、やらねばならぬことで頭がいっぱいになっていた。