仮初めの光
瀬田西の夜が憎らしい一夜として私の心に深い根を下ろして往った。
三月も半ばを過ぎた。
思いもよらない展開に私も少々戸惑い気味になっていた。
彼からは全くメールが来なくなった。
もちろん、私からのメールは一方通行。
余りにも突然のことで彼に電話を掛ける勇気も出ない。
ある夜、子どもたちの寝顔を見て、ベランダに出た。
その日は、新月なのか、真っ暗な闇に包まれている夜空を見上げ 目映いばかりの星たちを見た。
次から次に溢れ出るものを堪える理由はない。
この溢れ出るものを思い切り出せば、この切ない思いは消え去ることが出来るのだろうか!
もう一度、話し合わなければ、彼は、何か誤解してる。そうとしか思えない。
あれほど愛し合っていたのだから。
『もう、あなたは新月を数えることを忘れてしまったのですね』
彼にメールしたが、彼からの返信は無かった。
そして、休日の朝、濱本さんから電話があった。
子どもたちとは面識があることを私は、すっかり忘れていたのだ。
「突然にすみませんが、近くまで来ているんですが、子どもたちを遊園地へ連れて行きませんか?」
「お気遣いなく!」
「この前、約束をしたんですよ。お兄ちゃんに代わってもらえませんか?」
いつ、何の約束をしたと言うのだ。私は、半信半疑で長男に電話を渡した。
すると、どうだろう!!
「あっ、キヨピー?」
長男が、いきなり濱本さんをキヨピーと呼んでいるのです。
そういえば、私を病院に運んでくれた日、母と子どもたちと一緒に食事をした筈。
しかし、そんな短時間で子どもたちを手懐けたというのか?
それが事実なら、只者ではない!
そんな気がした。
この日、子どもたちを伴って 兼ねてから行きたいと言っていた宝塚ファミリーランドで陽が落ちるまで遊んだ。
どこから見ても、家族連れ。
お父さんとお母さん、そして三人の子ども。
絵に描いたような家族の演出が、虚構の家族を写し出していた。
それは、妙に自然で、大きな声でバカ笑いをしてみたり、そこには、何の緊張感もない。
いわゆる心地好い空間に酔いしれている其々がいるのだ。
其処には無い確かなことは、恋愛感情!!
そう、既にして
其処にあるのは、まるで自然体の極々ありふれた親子が存在しているのだった。
夫婦間の甘いも辛いも知り尽くした馴れ合いの夫婦。
不思議だ!
妙だ!
有り得ない!!
子どもたちのはしゃぎ様は謂うまでもあるまい。
その夜、濱本さんは信楽の宿舎まで帰っていった。子どもたちと次の約束を交わして。
この年、例年になく永く寒い冬が続いたせいか、春の訪れを待ち焦がれていたであろう彼は‥どうしているのだろうか!?
彼を思わぬ日は無かった。
瀬田西で別れて二週間が過ぎていた。
その夜、彼から突然のメールが来た。
『ゆき、元気にしていますか?
連絡をしなかったのは濱本さんと話し合って欲しかったからだよ。その後、濱本さんとは?
それから、春休みも近づいて来たね。子どもたちとの約束を忘れるところだったよ。
春休みには、是非 こちらへ来させてください。
待っています』
なんてことだ。
こんな状態で、春休みの予定なんて‥彼の意図することが解らない。




