誠実
私は隠し事をしたくないという彼に対して誠意を感じた。
自分の親と同じ年の友達。
妙な感覚ですが‥父親っ子であった私は、父の早い死にどれほど心細い思いで過ごしたことでしょう。
父が遺してくれた商売も起動に乗り母の晩年は優雅な暮らしですが、
父が居ない物足りなさが堪らなかったのでした。
私の中で 彼に執着していくのは父を慕う思いからだったのかもしれません。
夕刻、彼からメールが来た。
『今、パーティが終わりました。9時ぐらいに電話をします。宜しいですか?』
リビングに下りてきた私は、彼からの電話を待った。
まだ見ぬ人の電話は、どこか緊張感あり、新鮮にも思えた。
着信音が鳴った。
まだ、曲などを着メロに取り込めないので私の着メロは、
「誰が作った曲か知らないけど、とっても綺麗なメロディだから着メロにしたらどう?」
そう言って友達が送ってくれたオルゴールメロディ。
作曲者も分からない美しいメロディ。
タタタタンタタ~タンタタ♪
「もしもし」
「こんばんは~雪乃さん初めましてだね!」
「こんばんは‥なんとお呼びすれば宜しいですか?美濃部さんで、いいですか?」
私は、ぎこちなく彼の苗字を言ってみた。
「何でもいいですよ。雪乃さんが呼びやすい呼び方で呼んでください。名前でもいいですよ」
「では、失礼ですが‥孜さんと呼ばせて貰います」
「はい」
「子どもさんたちは、もう寝ちゃったの?」
「はい」
「三人の年令は?何歳なの?」
「長男が11歳で、長女が9歳、そして次男が3歳です」
「3歳?そりゃ大変だぁ~、ご両親は?近くにいらっしゃるの?」
「はい、父は亡くなっていますが、母は近くに弟家族と住んでいます」
「そりゃ安心だ」
穏やかなで少しハスキーな声。
一言一言丁寧に噛み締めるような話し方の彼に、質問攻めに合った私も一つ一つ丁寧に答えた。
その後、彼は ご自分の話もされた。
名刺に肩書を並べるならば書き並べられないほどの役目があることを、謙虚にお話になられた。
一事業主である彼は、地元では かなり知名度の高い人であることが分かった。
だから、お友達が欲しかったのですと、仰った。
彼の会社は、30年前に設立されたIT企業。
起業者は余程先見の目があったに違いない。
もちろん、その鋭き起業者とは彼のことだ。
想像するに30歳前後の若き社長で、希望の夢と野望に満ち溢れていたのだろう!!
新事業を軌道に乗せるまでは並大抵の苦労ではなかったはずだ。
それには、きっと人には謂えない苦難の道だったろうと思う。
犠牲にしてきた物もきっと有るはず。
私の父も地場産の家業を営んでいたので経営者のいろはは、多少 分かっているつもりだ。
その上、彼は仕事以外でも地域での活動、ボランティア、市の役員。
家庭では威厳を保ち、子どもにはスパルタ教育‥
とならば、いったい彼は
どこで羽根を休めているのだろう。
そのようなことを勝手に想像した私は、彼の苦しみが解ったような気がした。