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雨の城下町

「倫ちゃん、想像していたイメージと違っていたよ」


「そうなの、どんなイメージだったの?」



「しっかりした奥さまって感じを思っていたよ!」


どこから、彼がイメージしていたのか分からないが、倫子は、どこをどうみても奥さまではなく 水商売のママっていう感じだもんね。


遣り手の姐さんってイメージだよ。


私と倫子が親友だというのも不思議に思ったのかもしれない。


彼は、倫子に手渡したらマフラーと色違いの物を私にと手渡してくれた。


「開けてごらん」


きちんと包装されているそれを私は丁寧に開けた。


そこには、富士山からの爽やかな風が薫ったような若草色のマフラーが入っていた。



「ありがとう、孜さん。綺麗な色ね!!」



「ゆきには、この色が似合うと思ったんだ」



「あなたの好きな色ですね!私も好きですよ。大切にしますね」



極細の麻シルク糸で摘まれたそれは、薫り高い大自然に育む草木で染め抜かれ丹念に作り上げられたのでしょう。



手にとり、首に掛けてみたふんわりとした優しい肌触り。

このマフラー一つ選ぶのに彼が時間を裂いたであろうと思うと、嬉しかった。



彼と一緒に戴いたお蕎麦も格別だった。


彼も、ご機嫌で こちらでこんな美味しい蕎麦を食べられるなんて思ってもみなかったと言ってくれたのには、第一段階クリアだと、ホッとした。



外は、雨が止む気配もなく、次の予定をどうしょうかと躊躇していた。



「ねぇ、孜さん!この後、どうしますか?ここまで来たのですから車中から観光しますか」



「ゆき、僕はね、ゆきに逢いに来たんだから観光は、いいんだよ。気にしないで、ゆきの思うようにしてくれればいいよ」



「じゃあ、とにかく出発してみましょう〜晴れ男さん」


私たちは席を立った。


会計をして下さるのは彼である。

どこで何を頂いても、彼は丁寧に


「美味しかったです!ごちそうさま」


と、店員なり作られた方にお礼を述べるのです。



勿論、これまでも私は彼のそんな行動に 尊敬の眼差しを向けた。




姫路城は、ぐるりの壁が真っ白で覆われていることから別名白鷺城と呼ばれている。


観光名所であるため、天候の悪さに関係なく 観光客もそぞろ歩いていた。



「天守閣まで上がりますか?この城は、エレベーターもないので、かなり時間が掛かりますよ」



「そっか、止めておこうか!ここから眺めるだけでも充分だよ」



「はい!その選択は間違いではありません。急な階段ばかりで足下も暗く大変です。ただ、お天気が良ければ、天守閣から見える播磨平野に瀬戸内が綺麗に見えますが‥」


と、説明すると



「今日はダメだな!!」



「その通り!」



私たちは、門を潜り 三の丸まで上り、引き返した。


パラパラ雨が降ってきたので傘を差し、彼に手渡した。


「相合傘だね」

そう言って、私を抱き寄せてくれた。



少し、照れた口調で


「これも初めての体験だなぁ〜」


私もドキドキした。


「こんな風に歩いていたら、見てる人は、どう思うだろうね。親子で相合傘だと思うだろうね!」




「いいじゃない、どう思われようと」



そう言って、私は、彼に寄り添った。



「ゆき、知り合い居たら、どうするの?いいの?」



「いいよ!気にしないよ!!だって、孜さんの事が大好きですもん」




車に着くと同時にどしゃ降りです。



こちらに到着してから 随分、煙草を辛抱されている彼であることが気になっていた私は、



「珈琲でも飲みますか?」


「いいね。今日は、まだ一杯も飲んでなかったよ」



「あらっ、めずらしい」



そう言って向かったのは、私が会社の昼休みに 毎日 通っている純喫茶であった。


扉を開けると


『カランコロン』と音がして、


カウンターの中のマスターとママが、ニッコリ微笑み出迎えてくれた。



「今日は お休みだったの?」



「はい、山梨から お客様がいらしてたんで観光を!」



「そうだったの?そちら様?」


と、ママが彼の方を伺った。


すると、彼は、カウンターまで来て


「こちらの珈琲が美味しいと聴いてご馳走になろうとやって来ました」


と、仰り


ママは、ニコニコして



「遥々、遠いところからいらっしゃいました。どうぞ、ごゆっくりしてくださいね」



毎日、私と会話するママだけど、私はママの名前も知らない。



知っているのは、ママとマスターは もう70歳を遠に過ぎていて、教師をされていた二人は定年を機に 喫茶店をオープンしたそうだ。

ママは、政治に関心があり国会議事堂へも足を運び議員さんと意見を交わすのだと言っていた。


仲睦まじい老夫婦が営む純喫茶は、私にとってお昼を癒してくれる憩いの場でもあるのだ。


名前は、『舶来茶館』大きな大きなサイホンで時間を掛けて落とすアイスコーヒーは絶品であった。



奥の壁際が、私の指定席。

彼に告げると彼は、その席に腰掛け、右を見たり左を見たり店内を見渡している。


「ゆきは、いつも ここからメールを送ってくれるんだね」



「そうよ!!」



「落ち着いた素敵なお店だね」



ママが、お水を運んできた。

「何をお飲みになりますか?」



「え〜っと、マンデリンを二つ」



「孜さん、マンデリンで良かったですよね」



「はい!」



「畏まりました。マンデリンを二つですね。少々、お待ちを」



「はい!」


ママは、カウンターの方へ行くと、彼が



「ゆきは、何でもよく知ってるね。僕の好きな珈琲まで。どうして分かったんだい?」



「以前、あちらで喫茶店に入った時、店員さんに訊ねられていたので。頭にメモってたの」



「嬉しいね。本当に!」



そして、帰り際



ここだけはと思って、私が支払いを済ませている間、


やはり、彼は 同じように ママとマスターに


「とても美味しゅうございました。ごちそうさま」


と声を掛けた。



そして、『カランコロン』と音がして 外へ出ると、すっかり雨が止んでいた。






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