正体
『僕の名前は美濃部孜、
年齢62歳。
残念ながら妻はいる。
僕は山梨県在住。
社員3000人の会社経営。
つまり、代表取締役。
趣味はゴルフ、花が好き』
驚いた。
接待ゴルフなんて聞いていたもので、サラリーマンだと思っていたが、まさか、大会社の社長とは想定外のことでした。
プロフィールを正体という表現で送って来られたことで、かなりの権力者若しくは、知名度の高いお方だと想像した。
私は、少し怯んではいたが、メールぐらいなら何か私の知らない世界があるのではないかとワクワクした。
しかし、次に返信する内容を控えめに‥
『驚きました。接待ゴルフとお聞きしてはいましたが、そのような大会社の社長さんとは!?びっくりです。では、私も自己紹介させて頂きましょう。
名前は菅野雪乃です。
兵庫県に住んでいます。
本当に貴方が仰ったように不思議な縁ですね。
こんなに遠く離れているのに‥
一通の間違いないメールで知り合ってしまうのですから。
私の年齢は、38歳。
独身です‥とは?
3人の子どもを育てています。
私の宝物です。
つまり、バツイチです。
学生時代からのバレーボールは今でも続けています。
これが、私です。
こんな普通の主婦ですが、貴方のお友達になれるでしょうか?』
『メール拝見しました。驚いたのは僕の方です。夜中に、ご友人と出掛けられると聞いて若い破天荒なお嬢さんかと思いました。
そうでしたか、3人のお子様を女手一つでお育てになっているのですね。
頼もしい限りです。
是非とも、お友達になって欲しいと思いましたよ』
『ありがとうございます。二年前、離婚してから人嫌いになってしまいお友達も少ない私です。
今は子育てに夢中で、自分の事は二の次三の次です。その中でママさんバレーは楽しみの一つです』
『僕は仕事柄、出張も多く仕事以外の様々の活動の関係で全国あちこちに出掛けます。
残念ながら、兵庫には、母校が甲子園に出場した時に応援に行ったきりです』
『私は、そちらへは中学の修学旅行で行ったことがあります。足早で廻ったせいで何を見たのか憶えてないのが残念です。でも霊峰富士だけは、心に残っています』
と、この日一日で二人の間を何通のメールが往き来したろうか?
寄せては返す波のように。
夕方、ゴルフを終えた社長さんは
『お友達になってくれたお礼を言いたいのだが、
電話は、駄目だろうか?』
この近年、ネットでの出会い系云々の犯罪が世の中を仰天させるような新犯罪が蔓延っておりました。
そんなことが頭を過りましたが、何故か 何かに導かれるように 私は携帯番号をメールで送った。