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確かな愛

子どもたちが一番楽しみにしていた富士急ハイランドです。



広い園内を走り回る子どもたちに専務さんも汗だくです。



次から次へ 遊具を渡り、アトラクションへと。



お化け屋敷だったようで おちびちゃんは、泣き顔で専務さんに抱き抱えられて出てきた。



「菅野さん、3時に社長がレストランの方で待っておられますので‥私がレストランまでお連れします」




「いえっ、一人で行けますので。大丈夫です」




「では、3時にお願いします」




私は携帯に気がつかなかったので


専務さんの方に電話が掛かってきたようである。



携帯を開くと、メールが届いていたのです。


『ゆき、今、会議中だよ。

子どもたちは楽しんでいるかな?

相沢さんから話があったが、少し 二人で話そうか?

3時にレストランで待ってるよ。

子どもたちは、彼等にお願いしてるから大丈夫だよ!

一人でおいで』




私は覚悟を決めた。



ハイランドからホテルを経由しレストランへの道のりを


彼に逢える嬉しさより、


どう話を切り出そうかと考えながら


締め付けられるような思いで急いだ。



レストランに到着すると3時を少し回っていた。




店内を見渡すのですが彼の姿が見当らない。


すると、レストラン中央に聳えたヤシの木の陰から彼が顔を出した。



地元のレストランでは誰と出会うか知れない。


二人きりで会うことを避けていた彼の気持ちを知っていながら



私の我が儘で、こんな場所で二人になるのだから、彼の心境も落ち着かないであろう。



「ごめんなさい。遅くなってしまって」



「僕も、今 来たところだよ。ゆきは、コーヒーで良かったよね」



「はい」



そして、彼は黙って私の目を見つめていた。



緊張が走った。



何か言わなければ‥どうしょう。



ドキドキしてきた。



すると、彼が‥



「ゆき」


と、私を見つめたまま呼んだ。



私は、彼に見つめられたまま涙が出るのを堪え、視線を落とした。



「ゆきが、こちらへ来る前に僕なりに色々と考えたんだ。


ゆきにもメールしたよね」



「はい」



「それで、ゆきは解ってくれたものと思っていたよ」



「はい。解ってたつもりでした。

でも‥あなたに逢って、あなたを愛していることが、はっきり分かったの。

だから、パパと呼びたくなかったし、父親の代わりなんて考えられなかったの」




「僕たちが、どうにかなってしまったら、ゆきが悲しむだけだよ。解るね」



「…」



彼は、困った顔を隠せず 何かに追い込まれ行き場を無くした少年のような目をしていた。




「ゆき、お願いだ!困らせないでくれ」



そして、私を諭すように続けた。



「何度も言うようだけど‥

ゆきが新幹線から降りてきた時、

ゆきを抱き締めたいと思ったよ。

でも‥

年甲斐もなく俺は何をバカなことを考えているんだ!

ゆきは、娘のようなものじゃないか!

そんな卑劣なことを考えた自分に恥じたよ。

ゆきへの気持ちを抑えなくてはならないと必死だったんだ。

そして自分に言い聞かせて 堪えて来たさ」




「私の気持ちも分かっていらしたのでしょ?」



「ゆきの気持ちも分かっていたからこそ、

パパと呼んで欲しいと言ったろ?

そう呼ぶことで恋愛関係になってはいけないと理解してくれるだろうと思っていたんだ」





私の頬に涙が零れ落ちた。




「そんなことで私の心が変わるとでも思われたのですか?」




「そうじゃないんだ!!

ゆきが、そう呼ぶことで俺の気持ちを抑えることが出来ると思ったんだ。


ごめんよ。


俺が、どんなにゆきを愛してしまっているか解っているかい。


愛してしまったからこそ、

ゆきを悲しませたくなかったんだ。ゆきを、このまま、そっと帰そうと‥」





「私の気持ちは、どうなるの?


私、あなたが望まないことならと我慢しょうと思ったけど、


もう、こんなあやふやな気持ちのまま帰れへんと思い、

恥ずかしながら相沢さんに話したの」





「俺もゆきへの気持ちを、抑えようと思えば思うほど、抑えきれないことが分かったんだ。


それが、逆にゆきを苦しめていたんだね!


ゆき‥ゆきは、どうしたいの」




富めどもなく流れる涙で、もう、言葉になりません。



幾度となく私たちは、こんなやり取りをし、


気がつけば2時間も、この場で話し込んでいた。




辺りは薄暗くなり、富士の山小屋の灯が灯っている時間になっていただろう。



途切れた会話の中で



「あなたに抱いて欲しいの。孜さんと‥」





「ゆき、ゆきは、いいんだね?」


私は、神妙な顔でコクリと頷いた。




彼がテーブルの上に手を置いた。




そして、私も彼の手の上に手を差し出した。



彼は、私の手を優しく包み込み 私の目を見つめ直して、



たった一言



「わかった!!」



そう言ってくれた。



その顔は晴れやかだったような気がした。



私も胸に支えていたものが取り去られた感があり、やっと彼の心が読めた安堵感でいっぱいになった。




「ゆき、そろそろ子どもたちも お腹が空く頃だろう。行こうか!」




私たちはレストランを出て駐車場に向かった。






子どもたちは、とっても楽しかったと見えて、専務さんの両手にしがみ付いている。



専務さんも お疲れでしょうに



「行儀よくしなさい‥」


私は、強い口調で注意してしまった。



「ゆき、子どもには理由のない叱り方は しては駄目だよ。

大人の都合で叱るものではないよ」



「はい」




「航一くん、富士山が何処だか、分かるかい?」



彼がそう言うと、



兄貴と娘は、その場でグルグル回りだした。




「真っ暗でわからへん!」


娘が言った。




「中腹に山小屋の灯りが見えるだろう!それが目印だよ」




「あれだ!!あそこが富士山だぁ~」


と兄貴が指差した延長には、闇の中にほんのりと灯りが見えた。





夕飯は、彼らが行着けのお寿司屋さんに行った。




食事後、私たちをホテルまで送ってくれた彼。



おちびちゃんが疲れきって車の中で寝てしまい、



彼は部屋まで抱き抱えてベッドに寝かせ、



「ゆき、駐車場で待ってるよ」



そう言って部屋を出ていった。



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