おっさん、人と出会う
今回、会話文がちょっと読みづらいかもしれません。ニュアンスだけでも読み取って頂ければ幸いです。
大樹の願いからタファンの森に向かうことになったおっさん。
めんどくさいけど、生きてるうちに行けば期限は定めないらしいし、ゆっくりと行こう。
そう思ったおっさんはクワガタとして生まれ育ったミズドリウムの森を散歩するように歩いていく。
おっさんのスキルの一つにある昆虫形態を使えば前のクワガタの姿になることが出来るため飛ぶことも可能だったのだが、せっかく二本足で歩けるようになったのだ。この感動が続くうちは歩きたい。
途中で出会った肉食な動物達からは隠れて森の出口(便宜上そう呼ぶ)に向かっていく。戦ったりしないのかって? 理由がないのに喧嘩を吹っかけるとか好戦的じゃないおっさんには無理な話だわ。戦わないで済むならその方がいいに決まってる。とゆーか脳内で快楽に変換出来ない痛みは御免被る。
大樹から聞いたらしく、歩いていると色んな木々からおっさんが人へと進化したことへの祝福の言葉やこれからの旅路へ対しての激励の言葉がかかる。
うぅ……皆なんてええ木なんだ。優しくされると泣きそうになるな。
年取ると涙腺が緩くなって困る。
おっさん、感動物にすこぶる弱いんだよ。
途中から見て内容が全然わかんなくても、最後の方だけ見て泣いたことなんてしょっちゅうある。
特に養子の子が自分は養子だから愛されてないと思い込んでたけど実は養父母にすごく愛されてた、みたいなシチュエーションにはすっごく弱い。
……こんな話はどうでもいっか。
む、そろそろ出口みたいだ。
そういや初めて森の外に出るな。
どんな世界が開けているのか実に楽しみである。
『あ、そこ危ないですよ』
「へ? のあっ!?」
『人間がなんか仕掛けてましたから……って遅かったですね』
現在、おっさんは網に捕らわれた状態で宙吊りになってます。
これ、忍者とかがくせ者捕らえるための罠に似てんな。
『大丈夫?』
「あ、へーきへーき」
仕掛けを施された木がおっさんに話かけてくる。先ほどのちょっと遅い警告もこの木のものだ。
「獲物がかかったどーっ!」
「よっしゃー! 久しぶりに肉が食えるべ」
「わーのしかげがよかっだんだがらな」
「オラの戦術眼がよがっだんだべ」
ほどほどに訛りのある言葉で現れたのは四人の屈強な男達。
全員、皮の鎧に身を包み込んでおり耳とかの諸々のパーツは人間と変わりない。明度の違いはあれど全員黒髪であり、どことなくアジアンな顔立ちをしている。
なんかこえーな。
オヤジ狩りの一団じゃねーよな?
「さーで、獲物は……あれ、なんだべ?」
「人でねーが?」
「おいおい、やばぐねが? 間違って人ば罠さかけでまっだ」
「おーい、大丈夫だが?」
ふむ、話し合いを聞くにいい人達っぽいな。
「大丈夫大丈夫。それより降ろしてくれない?」
「へば、ちょっとこさ待っでろ」
しばらくして地面へと降ろされた。
「すいませんでした」
四人が揃っておっさんに頭を下げる。
「まさが、こんな田舎の森に人が入っでくるなんて思っでながっだはんで」
「いやいや、おっさんも驚いたよ。巧妙な罠仕掛けるねー」
「だべ? 自信作だ」
男達の一人が下げてた頭を上げて誇らしげに語る。
「自信があるのもわかるな。全然わかんなかった」
まあ、考え事してて注意力が散漫だっただけだが。
そうじゃなかったら、木の注意によって避けていたことだろう。
「んでも、ホーンラビットとがを捕まえるにはこんぐれぇの罠じゃねーとダメなんだ」
「あいづら、ちょっどでも違和感ば感じたら罠にはちがよんねーがんな」
「んだんだ」
ホーンラビットって、あのロップイヤーさんか?
忘れもしない、寝てるおっさんを角で突いてたあいつらの姿だけは!
……よく考えたらあんまり恨みに思ってないんだよね。どうでもいいって言うか……
「ホーンラビットってうめーの?」
「ん? まあ、そごそごだな」
「ハイキングベアーの方がうめぇげっちょ、ありゃつえぇがら」
ハイキングベアーとは多分二足歩行してた熊のことだろう。
おっさんはこいつを見かけたらすぐに逃げる。
「うん、そっか。大変だね。じゃあ、とりあえずお詫びの品をくれ」
「は?」
「え……」
場が唖然とした空気に包まれる。
そりゃそうだ。
元々の話、獲物を捕らえるために仕掛けた罠にかかったマヌケはおっさんの方ではある。罪悪感もあって謝罪した彼らではあったが、おっさんの友好的な態度に胸を撫で下ろしていたに違いない。
だが甘い。
普段のおっさんなら笑って許して終わりだろうが、今のおっさんの状況は無一文。
こうゆう機会は活用せねば。
「えっと……」
「とりあえず金銭での詫びを入れてくれ」
「オラ達、ほどんど自給自足だがら……金はあんま持っでねえ」
「よしわかった。あんた達全員その場でジャンプしろ」
おっさんの言葉に対して男達は素直にその場で跳びはねた。
おっさんは素直な奴は大好きです。つーか素直すぎる気もするけどね。
そして男達のジャンプに合わせて聞こえる金属音。
「お、持ってんじゃん。出しなさい」
「い、いや……これはナイフの音だぁ」
「とりあえず出しなさい」
無駄に強気なおっさん。
だがしかし、内心逆上されたらどうしようかとドキドキものです。
だけどこいつらのオドオドした感じが、その心配は杞憂だと思わせる。
オッサンとは反発する若者は苦手な奴が多いが、従順な若者には強気な生き物です。おっさんもその内の一人さ。
差し出されたのは刃渡り10cmちょいの外見果物ナイフみたいな物。つーか果物ナイフにしか見えない。
りんごでも採りにきたのか?
まあ、毒りんご的なのしかないけどね。
狩りに出た人間の装備としては貧弱だ。ナイフの良し悪しが分からないおっさんでもこれはナマクラだと判断出来る。
「はい、返す」
「あ、どうも……」
「他の奴らも提出ー」
おっさんの声にまたも男達は素直にそれぞれ金属音の元を差し出してくる。
ほんと、こんなに素直で良い奴ら初めてだ。
差し出されたのは全員似たり寄ったりの品で、おっさんの食指は全くといっていいほど動かない。
「はぁ……」
自然とため息がこぼれる。
ため息をひとつ吐くと幸せがひとつ逃げてくなんて俗説もあるが、この際仕方ないだろう。
「……なんが、すいません」
謝られた。
こいつらは全然悪くないのに。
やべ……おっさんの罪悪感がチクチクと刺激される。
「こちらこそ調子に乗ってしまったようで……」
「いやいや、オラ達が悪いんです」
「んだんだ。貧乏で何もあげられるもん持っでねぇのがわりぃんだ」
「お前ら……」
いい人過ぎやしませんか?
「好きだぜ」
「……え」
「あ……」
「ぬぅ……」
「オラ、嫁っこがいるんだげっちょ……」
「そういう意味ではない。おっさんは女好きだよ?」
めちゃくちゃって頭に付くくらいな。
「それにしても優しいのはいいが、優し過ぎるぞお前ら」
「だって……なぁ?」
「あぁ」
「んだ」
「何? なんで知り合い同士、目で会話してんの。おっさんも話の輪に入れてよ」
「だっで、あんた……鎧は着てっけども股間は葉っぱで隠してるぐらいだがら、哀れで……」
……うん、まあ、そうだね。
おっさん、そんな格好してたね。
自然と受け入れてたよ。
とゆーか胸とかは鎧じゃなくて一応、おっさんの肌なんだけどね。感触あるし……
つまり、全裸に葉っぱだけだった。
「……じゃあ、腰に羽織るもんない?」
「どんぞ」
差し出されたのは四枚のタオル。
おっさんはそれで簡易版の褌を作成し、葉っぱの代わりに股間を隠すのだった。
……あ、激しい動きだと取れちゃうな。
いつか来るかもしれない質問を先に回答しておきます
Q.なぜ言葉が通じるのか?
A.ファンタジーだからです
Q.主人公は戦わないのか?
A.そのうちあるかもしれませんが、少なくともそこそこ先の話です
Q.主人公の名前って?
A.一応、次話にて名乗る予定
私が現段階で思い付くのはこれくらいですかね。
他に何かあれば遠慮なくどうぞ。ただ、ネタバレになるような質問には回答できません。