おっさん、進化後の姿を見る
暗い視界
奥までどのくらい遠い距離があるのか、それともすぐ近くにあるのか
そんなことすらわからない闇の世界
何も見えず、何も聞こえない
だがそこに何者かの気配を感じる
「あんたは誰だ?」
問い掛ける言葉に返答はない。
「おっさん、話し相手が欲しいんだけど?」
やはり何も答えてはくれない。
もしかして気のせいなのか?
よく心霊番組とか見た後に眠ろうと布団に横になった時に何者かの気配を感じてしまうことはないだろうか? おっさんはよくあるタイプだ。
だから今回もそんな感じのアレなのかもしれない。
沈黙の時間が流れる。
<■ちた■星■■つ>
何者かが言葉を発した。
どうやら何者かの気配はおっさんの気のせいではなかったようだ。
しかし、不意打ち過ぎてよく聞き取ることが出来ない。
「もう一回言ってくれ。ワンモアセイプリーズ」
<落ちたる星は二つ>
正直意味不明だ。
こいつは何を言っているのだろうか。
「もう少しわかりやすい言葉を頼んます。オッサンが皆物知りってわけじゃないんだからさ」
<一つは強き光を放ち、もう一つは鈍く光る>
「なあ、何言ってんの?」
<強き光を放つ星は混沌を導いた>
「聞けって」
<鈍き光を放つ星は新たなる道を拓いた>
「おいこら、おっさんを無視するんじゃありません。含蓄はないかもしれんが時たまいいこと言うんだぞ?」
<混沌を導きし星にはその存在が混沌で身を滅ぼさぬよう既に悪意から己を護る最強の盾を授けた>
もういいよ。
どうせ「このオッサン、マジうざーい」とか思ってんだろ。
言っとくけどね。おっさん、女子高生とか全然興味ないからね。
諭吉三枚でどう? とか言われても断固跳ね返すから。つーか説教するから。
英世さん一人の超安値だとしても……行っちゃうか? いやいや、行かねーよ。むしろ勃たない。あ、別に歳のせいとかではなくて性癖的にノーサンキューなんです。
<故に新たな道を開拓せし星にはその存在が途切れぬよう再生の泉を授ける>
なんのことやら。
<二つの星は交わりて互いを滅ぼさんとす>
<地上で輝ける星はただ一つなり>
<最後に輝くのは強き光か>
<それとも鈍き光か>
<世界は星の答えを待っている――>
【エメラルドスタッグビートルは新たなる種虫人に進化した】
【虫人は再生の泉のスキルを得た】
【虫人は昆虫形態のスキルを得た】
【虫人は千里眼のスキルを得た】
【虫人は剛力のスキルを得た】
■■■
「んぅ……」
目を開けるとそこには透き通るような青い空が広がっていた。
『おお、目覚めたようじゃな』
聞き慣れた声が聞こえて来る。
声のした方へと顔を向けてみると顔の右側が水に浸かってしまう。
「げほっ、ごほっ……うぇっ、気管に入った」
慌てて起き上がり、手を口へと当てて咳込む。
そう、手を口に当てたのだ。
クワガタだった体では出来なかった行為。
口から手を離してまじまじと見てみる。
指は五本。関節の数も人間と一緒だ。
ただ、その手の甲や腕には無骨なエメラルド色のガントレットのようなものが接着している。
次に体を見てみる。
こちらはガントレットのようなものと同じ色の鎧みたいなものを着ていた。いや、この鎧みたいなものこそがおっさんの体のようだ。
だって、股間に赤黒いカブトムシの頭部が付いてるらね。
クワガタだったのにカブトムシが付くとはこれいかに。
足も同じく脚甲のようなもので覆われており、どこの戦士やねんと思わなくもない。
手の平や足の裏、太股の内側などは装甲みたいなものに覆われておらず、やや赤みがかった薄い黄色の皮膚が見える。感触も色も人間だった時のものと変わりない。いや、ちょいと肌にハリがあるかもな。
つーか顔は?
顔はどうなってんの?
おっさんは水面に自分を映して見てみた。
そこにいたのはどこぞの特撮ヒーローの方ですか? と思ってしまいそうな存在。
顔はフルフェイスの兜のようであり、そこの丁度人間の目のある位置に切れ長の鋭い赤い目らしきものがある。んでなぜか口の周りだけ剥き出し。エメラルド色の頭の頭頂部にはクワガタの顎を模した二本の角が生えている。
もう一度言うぞ、どこの特撮ヒーローやねん!
え……嘘。これが虫人とやらの姿?
つーかこれで人を名乗るわけ?
あ、でもちょっとかっちょいいかも……
でもでも、下手したら悪の怪人に見えなくもないかも。
うーん、この頭ってヘルメットみたいに取れたりすんのかな?
……無理だった。
つーかそれより股間っ!
何か隠すもの探さないと……
『三日も眠っとるから心配したぞい。もう大丈夫かの?』
おっと、大樹の存在を忘れてた。
つーか……
「そんなに眠ってたのか?」
『そうじゃ』
どんだけ寝てるんだよ。
とゆーかあれは夢だったんだろうか。
『それにしても無事に進化出来たようじゃの』
「ああ。とりあえずなんか下半身を隠せるものないか?」
『すまんが葉っぱくらいしか……』
オーマイゴッド!
んでも無いよりマシか。
そして大樹から一番大きな葉っぱを受け取り、下半身に当てて蔓で固定する。
これでひとまずは安心だ。
「ふぅ、恥ずかしかった……」
露出狂でもないのに下半身丸出しはきついものがある。
おっさんは衣食住足りてる日本人なわけだしな。
『それにしても……けったいな存在になったのぅ』
「カッコイイじゃん」
『ほむ、本人が言うのならわしがどうこう言うべきではないな』
「そうしてくれ」
そう言っておっさんは湖から出て肩を回して歩いたり、走ったり、スキップしてみたりと体の動きを確かめてみた。
うん、久しぶりに二本足で活動したけど違和感とかは全くない。
「絶・好・調っ!」
無駄に叫んでしまった。
『ほむ、それは良かった。では、約束通りにこれをやろう』
大樹がそう言うと遥か頭上からグレープフルーツ大の紫色の果実が落ちてきた。
それは万有引力に乗っ取り、かなりのスピードで地面に落下したにも関わらず一切傷が付いていない。
なにこれ……めちゃめちゃ怪しい。
「これは?」
『食べればわかる』
ますます怪しく思うが、さすがに今更大樹がおっさんをどうこうしようとは思っていないはず。
とゆーか毒でも大丈夫だし。
そう思いたった時不安は消え、果実を一口口にしてみる。
果実を一口噛むと甘酸っぱい果汁が口の中に溢れる。ぶっちゃけうまい。
貪るように一個を完食してしまった。
【虫人は斬撃無効のスキルを得た】
食い終わったと同時に天の声が聞こえた。
『どうじゃ? うまくいったかのぅ』
「これって……」
『わしが長い生の途中で伐採されないために身につけたスキルを実として落としたのじゃよ』
そんなこと出来るのか?
いや、実際やったんだから出来るんだろうな。
それにしても斬撃無効とは……木としては生唾を飲み込むほど欲しいスキルではなかろうか
『今更わしを伐採しようとする酔狂な奴もおらんから気にせず受け取ってくれぃ。おぬしがわしの我が儘に付きおうてくれたこと本当に感謝するぞい』
「いや、こちらこそ色々教えてもらって……」
『ところでじゃが!』
大樹に礼を述べようとしたところ、遮るように大樹が割り込んできた。
「……なに?」
せっかく礼を述べようとしたところを遮られたこちらは若干不機嫌だ。
つーかおっさんの感謝の言葉を聞けよ。
なんかモヤモヤすんじゃん。
『おぬしが起きる前に臨時で超長距離根っこワーク会議を開いて他の木に自慢したらの、皆して嘘じゃとか言いおるんじゃ』
「……で?」
まあ、なんとなく先の展開が予想出来るが。
『じゃから他の木におぬしの姿を見せてやってくれんか?』
大樹の願いにどう答えるべきだろうか。
進化出来たのは大樹のおかげだし、願いを聞き届けてあげるのはやぶさかではないが、めんどいんだよなー。
「保留で」
『そこをなんとか』
「えーでも〜……」
『タファンの森の大樹だけでいいんじゃ』
タファン?
えーと、確かエルフとドワーフの生まれた森だっけか。つまりは一番自慢できる立場にいる奴ってことか。
『別に期限は定めん。ただおぬしが生きてる間にタファンの大樹に会ってくれれば良いのじゃ』
結局おっさんは大樹の願いを聞き届け、タファンの森の方向へと旅に出ることになったのだった。
さて、オッサンの進化後の姿はどうでしたでしょうか。
私の中では
クワガタ系仮面ライダー+ビーファイターのクワガタ+ライダーマン
そしてライダーで言う装甲が無い部分が肌って感じみたいなビジュアルです。
最初は完全なるライダー系の容姿を想像してたんですが、やはり『人』なので『人』の部分がなくちゃねってことで今のイメージになりました。
まあ、あくまでも作者のイメージなんで細かい部分は読者様のイメージで考えてもなんら問題ありません。
ただ、鎧みたいなの着てて、頭にクワガタの顎みたいな角がある、エメラルドグリーン。この三つだけは外せません。
さて、あと五話以内にヒロイン出せるかなー?
とゆーかヒロインを出す前にあらすじをきちんと書こうと思います。
とゆーのも投稿するために適当に書いたものなので……