おっさん、進化の条件満たす
修業したがりの大樹をはぐらかし続けて三日。
大樹がうるさいために予定より短い期間となったが、鋭気を養うことは出来たため、おっさんはいよいよ魔力を扱う技術を修業する。
と、その前におっさんも半年間ずっと空ばかり眺めていたわけじゃない。日の入りから日の出までは約十二時間くらいあるので、その間に大樹に色々聞いたのだ。
その中から二つ説明せねばならないものがある。
一つはスキルというものについてだ。
とは言っても詳しいことはよくわからないらしい。
だがしかし、スキルを得るには修練や経験がものをいうらしいということはわかっている。そしてスキルを得た瞬間にいつでもそれに即した行動をとることが出来る。
例えば、必死で剣を振りつづければ剣術基礎スキルを得る。これは修練により得たスキルであり、今まで野菜くらいしか切れなかったのに直径十センチくらいの木なら断ち切ることが出来るようになるらしい。更に色々な修練をつめば剣術スキルになり、剣豪スキルに変わり、剣鬼、剣聖と変化していくみたいだ。また、その過程で剣技という必殺技を得ることもあるのだが、これもスキルとしてカウントされる。
あとはおっさんが持ってる毒とかの完全耐性。こいつは修練の面がないとは言えないが、基本的には経験から会得するスキルだ。やたら毒を食った結果、体の中で「これ毒あるじゃん。分解しようぜ」ってな具合にやってくれてるみたいだ。
習得するスキルの種類は常時発動型と意識発動型、そして種族特有型の三つがある。
内容は読んで字のごとくであり、前者の二つは誰であっても会得出来ると言われている。最後の種族特有型はその種族なら最初から持ってるが、他の種族の者が会得するのは難しいみたいだ。
ちなみにおっさんの木々の声のスキルは多分種族特有型であり、他の種族は大樹曰く森にずっと住み着き、植物に話しかけ続け、人格的に優れた者が会得することがあるらしい。このスキルはエルフとか獣人の中に一世代に必ず一人は会得する奴が出るみたいだ。
さて、簡潔ではあるがこれがスキルの説明だ。なにかあれば後ほど詳しく語る部分もあるかもしれない。
次にスキルを得た時に聞こえてくる【】の声について軽くだが説明しよう。
とは言っても難しく考えるようなものではなく、世界を見守っている神様の声だという説が一般的(木達の中で)だ。人ならば違う見解を示していたりするのかもしれないが、おっさんもこれでいいと思う。
とゆーかこれ以外になにがあるの? って感じ。おっさんの妄想って言われればそれまでだけど、大樹も昔は聞こえたって言ってるからおっさんの妄想説は否定させていただく。
ファンタジーなら神様が実在してるとかは十分有り得る話だ。
以後、この声のことを天の声と呼称することにしよう。
では、魔力を扱う修業編に行こう。
「ふぅぅ〜、こぉぉぉ〜、ぬぅぅん〜」
湖に浸かりながら唸るように腹の底から発声する。気分的には気功の達人みたいに気を練っていくような感じだ。
あくまでも気分だけの問題であって大した意味はない。
さて、なぜおっさんが湖に浸かりながらこんなことをしているのかと言うと、魔力を扱う技術として広く知られているものの内の肉体活性を会得するための修業の一貫だからである。
肉体活性。つまりは魔力を使ってのドーピングだ。これが出来れば肉体の限界の枠を越えた動きも可能となる。ただ、見た目や実感的なものがわかりにくいために湖に浸からせてもらってる。
とゆうのも目には見えない魔力の波動というものであっても、流体である水には波という形で影響を与えるからだ。視覚的にはわかりやすい。
そして今現在どうなっているのかと言うと、おっさんを中心として波が立っているわけだ。
……おっさんが動くのにあわせてだけどね。
水に指を突っ込んだら波打つ。これは当然のことである。
ただし、魔力の波動で波打てばもっとすごい感じになるらしい。
つまりはおっさんはまだ魔力を使っての肉体活性に成功してないわけだ。
「はぁぁぁ〜……ダメだ、出来る気がしない」
『まだ一日目じゃ。諦めるには早いぞい』
「なんかコツとかないわけ?」
『コツと言っても、体内に吸収した魔力を体中に行き渡らせるだけの話じゃ』
それが簡単に出来たらコツとか聞きません。
つーか無理。どだいおっさんには無謀な挑戦だ。
『まずはじめに吸収した魔力が今どこにあるかはわかるじゃろ?』
もう諦めてバックレようかと思っていると大樹が今更なことを聞いてくる。
吸収した魔力の存在はなんとなく感じられる。なんか飴玉を丸呑みしたみたいな変な感じが体内の一部分にあるからだ。
「わかるよ」
『それを体中に送ってやればよい』
「だから、それがわからんのよ。どうやってやればいいわけ?」
『バシュッとやってギューンじゃ』
抽象的過ぎる……
もういいや。自分で考えてなんとかしよ。
イメージ。イメージが大切だ。
魔力を体中に行き渡らせるイメージ。
しかし、魔力とは無関係だった生を謳歌していたおっさんにはちょっとわかりにくい。
ならば魔力を電力に置き換えてみよう。そう、つまり今のおっさんは電池を積んだおもちゃだと思うことにする。
今はおもちゃに電力が伝わっていない状態。だから一切おっさんは動けない。
おっさんの動きによって波立つ水が静まってくる。
そして電池をプラスマイナスきちんと確認した上で差し込むと導線を通っておっさんの体に電気の道が通る。
そんなことをイメージした。
すると、おっさんの周りの水が波立ち始める。徐々にその波は大きくなっていく。
『ほむ、出来たようじゃの』
大樹からも合格をもらった。
これで、おっさんは、人へと……進化する!
『さて、次じゃが……』
ですよねー。
肉体活性が出来ただけで進化出来たら苦労しませんよねー。天の声も聞こえねーし。
『魔力を使ったスキルを使用するのじゃ』
「なるほど」
『はっきり言うとこれが一番難しいぞい。なにせ、使いたいスキルの明確なイメージがなければダメなのじゃ。人の間では弟子をとったりしてスキルを伝えていくなどしてるそうじゃが、わしにはおぬしに伝えるべきスキルがない』
魔力を使ったスキルっていうと魔法か?
まあ、木がそんなもん持ってたらそれだけですげーわ。
それにしても魔法か……魔法ってステッキとかコンパクトミラーがないと使えないだろ。あ、これは魔女っ子の話か。
つーかよく考えたら魔法のアイテムとかあっても持てねーわ。
とりあえず、なんか魔法的なものをイメージすればいいんでしょ?
どうすっかな〜。
あ、やべ……思考がかめ〇め波にしか辿り着かねーわ。魔法ではないけど魔法的な感じだしな。
おっさんも男の子ってことだね。
「かーめー〇ーめー……はーっ!!」
ジュルアーッ
え、うそ……なんか出ちゃいました。
おっさんの目の前の湖の水が割れ、それでも止まらずにかめ〇め波は突き進む。
ってやべーよ!? このままだと他の木とかにぶつかる! かめ〇め波よ、消えろ〜!!
おっさんの願いが届いたのかかめ〇め波は木に届く前に消えてくれた。
ふぅっ、なんとかなったか。
【エメラルドスタッグビートルは魔力波のスキルを得た】
【エメラルドスタッグビートルは進化の条件を満たした。進化するか?】
天の声まで聞こえた。
なんか進化するか? とかやたら馴れ馴れしいな。
しかしどうやらおっさんは進化できるようになったらしい。
『まさかこんなに早く習得するとはのぅ……おぬしには魔力を扱う才能があったようじゃの』
「……それほどでも」
他に比べれば時間がかからなかったのは確かだが、こんなんでいいの?
『よっぽどスキルをイメージする力が強かったに違いないわい』
それはあるかもな。
昔は胸が熱く燃えたものだ。いや、今もなお胸を熱くさせる作品だ。
『ならば、次の修業なんじゃが……』
「あ、ちょい待ち。おっさんもう進化できるよ」
天の声は本人にしか聞こえないため、大樹は次の修業をはじめそうになったので止める。
『え、嘘……マジ?』
「マジだ」
『まさか本当に進化出来るようになるとは……』
なんか聞こえたような気がするけど、気にしないでおこう。
【進化するか?】
おっと、再度天の声から催促がかかった。
悩む必要はない。
おっさんは天の声に高らかと宣言した。
「進化する!」
そう宣言すると同時におっさんの体が熱くなった。湖に浸かっていたためにおっさんの濡れた体から水が水蒸気となって蒸発していく。
頭がフラフラとしてきた。
呼吸も、心臓の鼓動も早くなっていく。
ついにおっさんは意識を手放した。
書き終わってから、ふとクワガタに心臓ってあるのかと疑問に思ってしまった。
調べた結果、どうもないらしい。似たような働きの器官はあるみたいだけど……
でも、あえて書き直したりはしないです。
なぜなら主人公もクワガタには心臓がないと知らないからです。似たような器官(背脈管というらしい)を心臓と勘違いしていると思ってください。