おっさん、更に失敗する
タグにもあるのでご了承済みとは思いますが、あえて警告を……
この話には『変態』が含まれております。ご注意下さい。
あの客引きに助力を求めたのは正解と言えるだろう。
なぜならば
「あのー、ポロトさんに紹介されて来たんですけど……」
早速客が来たからだ。
最初の客は顔が猫、体は女体なお方。
紛れもなく女性である。
ポロトっていうのはおそらくあの客引きで間違いない。
だっておっさんを紹介してくれる人なんてあいつしかいないからね。
うまくやってくれたみたいだ。
「いらっしゃいませ〜。どうも殴られ屋です。どうしたの、辛いことあったの?」
「はいにゃ、今日のお客さんがすっごい脂ぎっててそのくせに×××しろって言ってきて……もうホンットにムカついたのにゃ!」
ああ、そいつは辛い。
ムカつくのもしょうがない。
そんなこと要求するのは最早嫌がらせレベルだね。
とゆーか語尾ににゃとか付くと癒されるな。これで顔がリアル猫じゃなかったらなぁ……
「よし、ならばその鬱憤をおっさんにぶつけなさい。はい、このグローブ着けて。そんで砂時計ひっくり返したらスタートね」
「はいにゃ」
猫女がグローブを装着したのを確認して砂時計をひっくり返す。
さあ、初仕事の時間だ。
「いくにゃ! てぃっ!」
「おぅっ」
なかなかいいパンチ持ってるじゃねーか。
顎にクリーンヒットだ。
「にゃにゃにゃにゃにゃーっ!」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬ」
連続パンチとは恐れ入った。
中々速いな。
「ふにゃっ!」
「お」
強烈なボディフックが鳩尾に入る。
こいつは効いた。
「……あの、ちょっとタイムお願いしますにゃ」
「どうした、もっと来いよ!」
「いえ、あの……つまんないにゃ」
猫女は凄く冷めた声で意外なことを述べた。
「どこが?」
当然、彼女の態度が急変したことは疑問である。
それに意見を参考にして悪い所を改善していくのも仕事の一つである。
「えっと……」
「言い澱むことはないから、忌憚なき意見を言ってくれ」
「そうですかにゃ、じゃあ遠慮なく言わせてもらうにゃ。まず……グローブが安物すぎなのかしんないけど手が痛い。あと、あんたのリアクションが薄くて全然スカッとしない。とりあえず、兜と鎧は脱ぎなさいよ」
語尾のにゃはどこにいったんだ猫女っ。
まあ、それはこの際いい。
問題は猫女からあげられた意見をどうするかだ。
とりあえず格好はどうにもならない。おっさんだってキャストオフ出来るならしたい。
グローブに関して金がなかったんだから仕方ないよね。
どうこう出来る問題じゃない。
では、おっさんのリアクションが薄いってのはどうだろうか。
もちろん痛みはあるからおっさんも痛がったりとかそれなりのリアクションはしてる。
でも、衝撃無効のスキルのせいで殴られても微動だにしない。
要は発声する丸太人形を殴ってるようなもんか。
確かにこれじゃ面白くないかもしんない。
ならば演技するか?
でも、殴られたタイミングに合わせてのけ反ったりするには功夫が足りない。
付け焼き刃じゃどうこうなるもんでもあるまい。
何か妙案はないものか……
「そうだ! そうだよ……顔と腹を殴っても面白くないならケツを攻撃すればいいじゃない」
なんて名案なんだ!
おっさんはもしかしたら天才じゃないのか?
おっさんの身体で最も柔らかい部位の一つに数えられるもの、それが尻。
しかも尻ならば攻撃されてのけ反るなどのリアクションが薄くてもそんなに不自然じゃない。
「いや、お尻をぶっ叩くとかそういうプレイはなしでお願いしますにゃ。どうしてもお尻を叩いてして欲しかったらお店に来て下さいにゃ」
にゃが戻った。
つーかプレイじゃないし。
ただの天才的発想なだけだし。
「ケツをペンペンされるプレイならおっさんもお金払ってやってもらうよ。だけどこれは仕事。おっさんが提案するのは尻を気の向くまま感情のままにとにかく好きなように蹴りなさいってこと。あ、でも鞭とかあった方がいいのかな?」
アイディアが次々と湧き出てくる。
覚醒したな……
おっさん、覚醒しちゃったよ。
「そういう激しいプレイがしたいならちょっと裏に行ったとこにハードSMのお店があるにゃ」
「だからプレイじゃないっての。さっきも言ったようにおっさんも本気で責められたい時はツボのわかってる女王様のいるお店に行くから! だけど世の中にはそういう気質を表に出せないで溜め込んじゃう女性がいる。おっさんはそういう女性の心を満たすためにこの仕事をはじめたんだ」
取って付けた様な言葉。
実際はただ女の人に殴られたついでにお金も稼げて一挙両得だと思ったに過ぎない。
「あなたの気持ちはわかったにゃ」
だが、口先だけの言葉を猫女は信じてくれたようだ。
「ならおっさん、四つん這いになってケツを突き出すから思いっきりやってくれ」
砂時計の砂が落ちきったのを確認し、ひっくり返す。
さあ、今度こそ初仕事だ。
「てりゃっ」
「はぅっ」
全力の蹴りがおっさんのケツに叩き込まれる。
衝撃は露ほどないが、痛みは本物。
その痛みを受けて背中が自然とのけ反る。
こいつはいい。
おっさんのリアクションも意図せずして完璧ではなかろうか。
その後も時間制限いっぱいまでおっさんの尻を蹴り、踏み付けた猫女は満足した様子で僅かばかりの金を払って去っていった。
ありがとう猫女。
君のおかげでおっさんは一つ上のステージに到達したよ。
その後にも客は疎らではあるが訪れてくれて、彼女達の満足度に応じた金銭を払ってくれた。
おっさんも調子に乗って近くのおもちゃ屋で鞭を購入してしまった。
鞭の形状は乗馬鞭といわれる馬を追い立てる際に使用される物で、打撃が重いことで有名である。
これを使用した際の客の反応は何かに目覚めたように頬を上気させ、一心不乱に鞭を打ってくれるという大変満足した……じゃなくて、満足してくれた様子だった。
延べ十数人を相手にした結果、目標金額に届いた頃には日はとっぷりと暮れてしまっていた。
「そろそろ店じまいするか」
結構痛め付けられたというのにおっさんはまだまだ元気なのだが、あまり遅くなっては飯を食いっぱぐれそうだし、何よりリリーが生まれてからこれだけ長い時間離れてることもなかったので心配だ。
「あの、まだやってますか?」
そんなことを考えながら、店じまいの支度をしていると声をかけられた。
そちらを見てみれば、長い黒髪の幸薄そうな人間の女性がおっさんをみつめていた。
その女性は幸が薄そうなだけでなく身体付きも色々薄かったが、仕事に関しては好みだなんだと選んでる余裕などないために訪れた女性は貧乳だろうとロリ顔だろうと等しく接してきた。
彼女でも何一つ問題はない。
「滑り込みセーフ。ちょうど店じまいしようと思ってたんだけどね」
「すいません……」
「いやいや、セーフだから問題ないですよ。本日最後のお客さんだね。よし、じゃあこの鞭でおっさんをぶつかおもっくそ蹴ってね。さあ、来い」
砂時計をひっくり返して四つん這いになったところで気合いを込めて言う。
「い、いきますよ……」
女性が怖ず怖ずと出陣前の声掛けをしてくる。
声が弱々しいな。こりゃ、期待できないかもね。
「はあっ!」
「〇□△×ー!」
だが、おっさんは身体を貫いた今までにない痛みに悶え苦しむことになった。
衝撃無効なはずなのに内臓に衝撃がきたよ!
何が起こったのか説明しよう。
女性が蹴ったのはおっさんの尻の穴。
いわゆるア〇ルだ。
しかも、トゥーキック(つま先で蹴ること)で的確におっさんの尻の割れ目の中にある秘境に当ててきた。
今までのお客さんだってそこら辺は配慮して尻の面に対する攻撃しかしてこなかったのに……
さすがにこれを快楽へと変換するのは時間がかかる。
「だ、大丈夫ですか?」
「も、無問題。でも、出来れば回復するまでは違うとこ蹴って」
「は、はい」
深呼吸をして呼吸を整える。
とりあえず肛門活約筋を引き締めて第二撃に備えよう。
「バッチコイ」
「い、いきますよー」
この弱々しい声に騙されてはいけない。
腹に力を込めてケツも固くした。
これで準備はオッケーだ。
いつでも来やがれ。
「えいっ」
繰り出される女性の蹴り。
その蹴りは先ほどとコースは同じ。
しかし、その軌道は少しだけ下方で――
「ぬおっ」
それっきり言葉を発することが出来なくなる。
この女、結婚式の挨拶でもよく使われる大切な袋の一つであるキャンタマ袋を蹴りやがった。
しかも相変わらずのトゥーキック。
あえてどんな痛みかは語らないが、とりあえず下っ腹が痛い。
【ラルドは打撃耐性のスキルを得た】
天の声うるせーよ。
つーかおせーよ。
もうおっさんのキャンタマは手遅れだよ。
あ、やばい……意識が遠のいてきた……
「……ません……ですか」
女性が何かしらおっさんに声をかけている。
だが、その声を理解することなくおっさんは意識を失ってしまった。
◇
明るい光によって意識を覚醒され、目を覚ますとおっさんはどこかの部屋のベッドに寝ていた。
ピンクを基調としたあまり広くない部屋。
置かれた小物やらで判断するならば一人暮らしの女性の部屋っぽい。
一体、何がどうなったのだろうか。
窓からこぼれる光から判断すると少なくとも結構な時間が経っている。
意識を失う前のことは朧げだが覚えている。
おっさんはキャンタマを蹴られて気を失ったのだ。
「うん、二個ある」
触って確かめた結果、ちゃんとあった。
数が変わってなくて何よりである。
とゆーか、不思議とすでに痛みはないようだ。
「あ、起きられましたか?」
そこへ登場したのはあのトゥーキックの女。
ちょっとだけ心の中のおっさんが怯えております。
「昨夜はすいませんでした。わたし、人を蹴ったことってないもので加減がわからなくて……」
「加減云々じゃなくて君の場合、蹴り方に問題があるんだけどね。ゴールデンボールを包みこんだおいなりさんは百戦錬磨の格闘家でもそうは鍛えられない部位だから」
ま、そういうこともあるだろうし、狙ってやったんじゃないんなら特に怒る気はない。
むしろ、商売として尻を蹴らせたおっさんの方に問題がある。
「あの、お詫びの品としてなにか差し上げたいのですけど……」
「お構いなく。トゥーキックを禁止にしなかったこちらの落ち度ですから」
「いいえ、無事だったとはいえ、もう少しで子供が作れない身体にしてしまうところだったんですから遠慮なさらず」
参ったなー。
なんか恐縮しちゃうよ。
ん? なんで無事だったと断言したんだ?
まさか!
「ねえ、もしかしておっさんのキャンタマ見た?」
「容態が気になったもので……」
ちょっと恥ずかしいね。
ま、でもあの界隈にいておっさんに声をかけてきたんだからそういうお仕事の人だろう。
ならば必要以上に恥ずかしがることはない。いや、ここはむしろ……
「おっさんのどうだった?」
社交辞令としてこう聞くのが正しい。
「あの、平常状態だったので何とも言えません……ごめんなさい」
なるほどね。
まあ、彼女のボディに意識を失おうともおっさんの股間のカブトムシがヘラクレスるなんてことはまずないだろうから仕方ないね。
などとちょっと失礼なことを考えているとおっさんの腹が空腹を告げる鐘を鳴らした。
「あ、気がつかなくてごめんなさい。朝食用意したので持ってきますね」
そう言って女性はキッチンの方へと向かっていった。
せっかく作ってくれたんだし、ご相伴にあずかりましょうかね。
ベッドから起き上がって背伸びをひとつ。
窓の外を見てみると晴れ渡った青い空が見えた。
「いい天気だな〜」
のんきにもそんな言葉が口から漏れる。
だが、おっさんは重要なことを忘れていた。
いや、もしかしたら意識的に忘れようと現実逃避していたのかもしれない。
だが、現実はおっさんを逃がすなんて真似はしないのだ。
コンコンと扉をノックする音が聞こえてくる。
それに女性がはーいと答えて扉に向かう音も――
おっさんは今、死に神の鎌を首に突き付けられているに等しい状態。
だが、そんなことにすらおっさんは気付けない。いや、気付かないようにしていた。
だが、ここで無理矢理にでも思い出しておけば誤魔化しようもあっただろう。
なにを思い出すべきか。
それは、おっさんが宿に部屋をとっていたということ。
そしておっさんには娘がおり、未だ長い時間を離れるなんて出来ないということ。
最後に最も重要なことは――
「あの、お父さん居ますかって訪ねてきた人達がいるんですけど……」
その娘がなんでかわからんが、おっさんの居場所を見つけ出す特技を持っていることだった。
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