表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第三章
30/35

おっさん、失敗する

あけましておめでとうございます。

年を取って中年くらいになった時に開かれる同窓会なんかでよく「仕事何してんの?」とか「仕事は順調か?」とか聞かれることがある。

常々思うのだが、その問いの答えが「いや、仕事してないから……」とか「リストラされそうなんだ……」みたいな言葉の後ろに点々が付きそうな暗いものだったらどう答えるつもりなのだろう。

ぶっちゃけ、「あの先生がぶちギレた時は全然怖くなくて逆に笑い出しそうになった」的な過去を懐かしんで楽しくお喋りするだけで十分じゃん。

人は触れられたくないことを誰かしら持ってるものなんだ。


そう、今のおっさんのように――



仕事をはじめてから早数時間が経とうとしていた。

それなのにだ!

それなのにも関わらず……

全っ然客こねーよ!

むしろこっち見てヒソヒソ知り合いみたいな人達と話し合ってるんですけど!

なに? そんな変な目で見られるような商売なわけ?

女性の視線はまだいい。

まだいい、というかむしろもっとその視線で見てくれと思う。

だが野郎にそんな蔑まれた視線で見られるのは不愉快だ。

プラスマイナスで考えてマイナスに天秤が傾くくらいに不愉快だ。


「見てんじゃねーよ」


客が来ないイライラと不愉快な視線に晒されるイライラの相乗効果でおっさんの口から尖った言葉が発せられる。もちろん睨みつけるような視線もセットだ。

だが、所詮はおっさんから発せられたもの。

威厳とか凄味がないのか視線はマイナス方向に強まってしまった。


「くそっ、どいつもこいつも社会の底辺を見るような目をしやがって……同情するなら金をプリーズ」


場に静寂が訪れる。

どうやら盛大に外したようだ。

心なしか視線が変人を見るようなものから可哀相な人を見るようなものに変わった気がする。


「皆さん聞いてください。おっさん、子供にぬいぐるみを買ってあげたいんです。だからお客さんいらっしゃいな」

「……なあ、あんた」

「なに?」


話し掛けてきたのは頭が鼠の男。

鼠と言ってもミッ〇ーみたいな可愛らしいもんではなく、灰色の毛の生えたリアルな鼠だ。


「子供にプレゼントしたいなら真面目に職を探しなよ。こんな事で稼いだ金でプレゼントされても子供は喜ばないよ。あと、ちゃんとした服着な」


すっげー真面目なトーンで諭された。

え……もしかしておっさん、説教されてる?

それも鼠にか?

ちょっと悲しくなった。


「これやるからまずは身なりを整えな」


鼠はそう言っておっさんに銀硬貨を一枚渡すと颯爽と去っていった。

なぜだかその背中にキュンときた。

説教はウザかったけど、渋いなあいつ……


「兄ちゃん、俺からも餞別だ」

「オレも」

「ボクからも」

「あたしも……」


鼠男を皮切りに続々と寄附が募る。

早くも目標金額を超えてしまった。

でも、なんか納得いかない。

完全に施されてるじゃん。

これはありがたく貰っとくけど、この金でリリーのプレゼントは買えないだろ。

例えどんな恥辱に塗れてもおっさんが体を張って稼いだ金で買った方が募金された金で買うよりいいに決まってる。

この募金はありがたくお酒を買うのに使わせてもらおう。


とにかく、ここでは客が来そうにない。

ならば場所を移動するしかあるまい。

だが、どこに行けばいいのやら……

そうだ! もっと卑猥な香りのする場所でやろう。


と言うことで、場所をストレスと欲望渦巻くピンク色の世界に移した。

そこは赤やピンクのネオンが煌めく大人の遊園地のある通り。

バラエティに富んだ卑猥な看板があちこちにあるよ。

なんだあの『棒険王』って……

どこを探索するんですか?

もしかしてさくらんぼを探しに登山したり、縮れた森から栗の木や水場でも探すんですか?

そんな探検なら是非ともしてみたいじゃないか!


此処こそがおっさんのあるべき場所ではなかろうか。


「お兄さんちょっと寄っていきませんか?」


感慨に耽っていると、ピンク色の法被姿の男がどでかい看板を掲げて声をかけてくる。

この人はおそらく客引きだろう。

頭髪がちょっとばかりバーコード調だが、至ってノーマルな中年のオッサンである。

なんか親近感が湧くなー。

いや、おっさんは虫人(ムシビト)になる前からフッサフッサだったけどね。

……さすがに言い過ぎた感があるな。でも白髪はあったけど禿げてはいなかったんだからね!

それにしても看板に書かれた『女医△□』ってなんて書いてんだ?

気になるじゃねーか。


「間に合ってるんで……」


だが、おっさんは中年の客引きに対し丁寧に断りを入れる。

気にはなるが金がねーから致し方ない。


「そんなこと言わないでよ。若くて可愛い娘いるよ?」

「女性に過度の若さは求めてないんで……」

「なに、お兄さん熟女好き?」


若さを求めてないと熟女好きをイコールで結ばないで欲しい。

確かに嫌いではないけど、一番好きなゾーンは三十前後だからね。

あの微妙な若さと熟した感じが入り混じったようなのが堪らん。


「うーん、うちは最高で三十五歳くらいまでの娘しかいないんだよねー。熟女好きじゃ、まだカウントされてないよね?」


ドストライクだよバカヤロー。


「でも熟女好きだったらうちの系列の『完熟 どすけべ倶楽部』にならお兄さんのお眼鏡に叶う娘がいるかもね」


猛烈にその倶楽部に入部したい……


「ちなみにあなたの持ってる看板のお店はどこに?」

「うん? ああ、それならあそこだよ」


客引きが指し示した先にあったのは一見すれば隠れ家的なレストランでもしてそうな洋風の建物。

だが、でかでかと『女医△□』の看板が立てられているためにそんな勘違いをする奴はいない。

やっぱりあの店名が気になって仕方ない。


「ちなみにあれはなんて読むのかな?」


好奇心に抗えず聞いちゃいました。


「お、興味持っちゃった? ま、漢字で書かれてちゃ読めないのも仕方ないね。あれはね、女医って読むんだ」

「いや、女医は読めるんだよ。その後が気になんの」

「え? 漢字が読めてグレンツェ文字が読めないって変わってんねー。つーかそんな人初めて会ったよ」


ほー、あの文字はグレンツェ文字っていうのか。


「そんなに変わってる?」

「漢字はここ二、三年で爆発的に広まった文字だからほとんどの奴は読めるけど、読めない人はまだ珍しくない。でもグレンツェ文字はずっと昔から使われてるだろ。どっちも読めないなら文字の学習の必要のない田舎から来たってことで説明がつくからまだしも、漢字だけ読めるのは変だろ」


まあ、言われてみるとおかしいかな?

おっさん的な見解を示すと普通の日本語は読めないのにギャル文字は読めるみたいなことかいな。

……なんか頭悪そうな女子高生にいそうだな。

うん、おかしくない。

たまたまこの客引きが初めて出会ったのがおっさんだっただけだ。

そのうちこの客引きもおっさんのような存在に出会うはず。


「おっさんの勉強が偏ってただけだって。んで、なんて読むの?」

「ありゃあ、女医フルって読むんだ」


Joyfulと女医を掛けたんか。

すっごく楽しめそうな店名じゃないか。


「ちなみに女医フルのフルはフル〇ンのフルね」

「なるほど、泌尿器科なわけね」


自分で言っといてなんだが、なにがなるほどなんだろう。


「ある意味間違っちゃいませんよ」


どういう意味かは推して知るべしである。


「診察でカテーテル入れられたり、直腸検査されたりするんだろうなー」

「それはオプションで別料金になりますね。で、どうですか? 寄ってきましょうよ」


別料金と聞いて、金がないことを再び思い出した。

つーかリリーへのプレゼント買うための仕事をするためにここに来たんだった。


「金がないからまた今度ね」

「あ、そうですか」


金がないって言ったら客引きの野郎、速攻で別の奴の所に行きやがった。

寂しいねー。

もう少し粘ってくれてもいいじゃんか。


まあいい。

おっさんはおっさんで商売を始めさせてもらおう。


「殴られ屋でーす。溜まったストレスを人を殴ることで解消。鬱憤の溜まった女性は寄ってらっしゃい見てらっしゃい。時間は砂時計の砂が落ちきるまで。値段は応相談」


声を張り上げて宣伝する。

その声量はそこいらに徘徊する客引きなんかにゃ負けやしない。

現に道行く人達は皆おっさんに注目している。


「ちょっとちょっと、お兄さん! いきなり何? 営業妨害だよ!!」


なんかさっきの客引きが来やがった。

そちらこそ営業妨害だと言いたい。


「おっさん、商売はじめたんだ」

「商売はじめるのは結構だけど別のとこでやってよ」


邪魔者扱いか。

確かにおっさんの存在は彼らにとっては邪魔かもしれない。だが、譲れないこともある。


「おっさんも切実なんだよ……」

「はっきり言うけど、邪魔なんだよ」

「役人でもないくせに偉そうだな」

「なんだその態度は? ここは俺らのテリトリーだって言ってるだけだ。商売すんなら余所でやれ」


急に高圧的になりやがった。

ドスの効いた声がえらく様になってるじゃないか。

ま、ジーナの方が怖いからおっさんには全然効果はないけどね。


「よし、そこまで言うならこれをやるから黙認してくれ」


そう言っておっさんは客引きの中年に先ほど貰った金から一部を取り出して握らせる。

どうせ使い道は酒でしかない金なのだから惜しくはない。


「……賄賂かよ」

「そうです。賄賂です」

「あんた、汚い大人だなー」

「争いを回避するための紳士的な対応でしょうが。で、ついでに協力してくんない?」


さらに金を握らせる。


「あん? 協力って?」

「知り合いの女の子におっさんのこと紹介してよ」

「……まあ、もう少しで店に勤めてる早番の娘も上がる時間だから声掛けてやってもいいが、これじゃ足りねえな」


もっと寄越せと催促してくる客引きの男。

結構がめついな。

ま、いいけどさ。

そう思って更に金を握らせた。


「へへ、毎度」

「ちゃんとやれよ」

「わかってるよ」


ホントにわかってんのかねー?

って今気付いたけど、あの金で女医フルに行っとけば良かった!?


なにはともあれ、おっさんの仕事に対してのパートナーが出来ました。



新年一発目の内容がこんなんですいません。

次話は本日の夜か明日辺りに投稿する予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ