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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
23/35

おっさん、ほぼ空気


ジーナはおっさんの頭を掴みながらその他大勢を睨みつける。

そのえもいわれぬ迫力にロリコン男をはじめ、ほとんどの者がビクッと身を震わせる。


「豚、これはあんたの手引き?」

「断じておっさんの手引きではないです」

「手引き“では”?」


ジーナの指に力が込められる。


「諸々の事情がありまして……」

「そう、ならこいつらを殺した後にでも釈明を聞いてあげるわ。あと、他の奴らはここで殺す」


ジーナの口から冷徹な声音で紡がれる言葉によると、とりあえずおっさんの命は猶予期間を得たようだ。


「ちょっ、奥さん? おれは敵じゃないですよ? 味方味方!」


ロリコンが慌てた様子で味方アピールをする。

ジーナはその姿をジロリと見るとすぐに興味を失ったように視線を移した。


「……サラマンダー。へぇ、かなりの上級の魔法士がいるみたいね」


視線を移した先にいたのは炎のトカゲ。

それを見たジーナから強烈なまでの殺気が溢れ出す。


「だ、旦那。奥さんおれのことガン無視なんですけど……。つーかこえぇ……」


同感だ。

多分ジーナは物凄く怒っているのだろう。

だってここはジーナにとってのサンクチュアリで、そこには無数の侵入者がいる。

そしてそこでまずはじめに疑うのはドラゴンを狙う存在のこと。

いや、むしろジーナの中ではそう断定していてもおかしくはない。

ジーナのリリーへの溺愛具合は日に日に増していっていると言っても過言ではないから、それを犯そうとする者達への怒りもまた凄まじいのだろう。

って痛い! なんかおっさんの頭に加えられる握力が強くなってる。なんかミシミシいってるーっ!


「さっきから私のことを奥さんって言ってるバカがいるけどどういうこと?」

「色々誤解があったんです!」

「豚、あとの説明次第じゃ殺すわよ? あと、そこのお前」

「は、はいっ」

「殺す」

「いやいや、いやいやいや! え、理不尽。すっげー理不尽。なに、奥さんじゃないの?」


理不尽さ加減で言ったらお前の元主とどっこいどっこいだな。

ま、ここに侵入してきた時点でジーナの中では殺害対象なのだろう。

おっさんもリリーに懐かれてなきゃヤバかったに違いない。


「あ、説明するとちょいと長くなるんだけど……っておわっ!?」


ロリコンに説明しようと思った時、急に持ち上げられ横にポイと捨てられた。


「<我 災厄からの護りを 創造す>」


ジーナの言葉と共に彼女の前面に白い光の円が生まれる。その円は複雑な模様が描かれており、貧乳少女がサラマンダーを出した時に出現したものと似通っていた。


円はすぐに消え去り、その円が消えた場所には馬鹿でかい透明な壁が出現した。


そして次の瞬間、その壁に炎がぶつかった。

それは圧倒的な熱量と威力を持ってジーナの目の前に現れた壁に襲い掛かり、ついには壁にひびを入れていく。

そのひびが壁の全面に至ったところでようやく炎が収まり、それと同時に壁は砕けちってしまった。


「あら、耐え切りましたの? なかなかやるようですわね」

「お前がサラマンダーを召喚した魔法士か」

「そうですわ。希代の魔法士こと、アイリス=ゴッドウィルドと申します」


貧乳少女改めアイリスは優雅に微笑みながら自己紹介をする。

とても今さっき不意打ちしたようには見えない。


「ファミリーネーム持ちだと……貴様、貴族か」

「見たらわかりますでしょ? この全身から溢れ出る気品と麗容な姿。どこをとっても貴族としての正しい有様を映してますわ」


ついでに尊大な態度も想像しうる嫌な貴族そのものだ。

だがしかし


「ただし、胸はない」


それだけでおっさんの中での女としての魅力はマイナス五十点だ。


「今なんつったゴラァ!」

「お前は少し黙ってろ」

「旦那、空気読めないってよく言われません?」


三者三用に責められる。

だけど、それでも譲れないものってあるじゃん。

ね、チワワさん?


視線を黙ってことの成り行きを見ているチワワ男に向ける。

しかし、おっさんの視線を受けたチワワ男はゆっくりと首を左右に振った。

よしわかった。少し黙っていよう。


「あれのことは置いといて、お前が貴族だろうと手加減はしないぞ」

「あら、わたくしも妊婦だろうと容赦はしませんわ」


なんでそこで爆弾投下すんのよ!?

周りの気温が三度程下がった気がした。


「豚、説明次第では二回殺す」


ジーナと出会う前の発言でこんなにも自分の首を絞めることになろうとは……

でも、ここに辿り着いた経緯を話した時に殺されそうになったことは教えてるから、ちゃんと最初からキチンと説明したら許してくれるよね?

あ、でもお仕置きがあるならそれはそれで楽しみかもしんない。


「ふふふ、説明もなにもあなた方は今から死ぬのですから関係ありませんわ。やりなさい、サラマンダー」


アイリスの声に従い、サラマンダーがその口をジーナに向けて開く。

そしてそこから炎を吐き出した。

さっきの攻撃もあれか。


「<我 災厄からの……>っ!」


ジーナが迎え撃とうとさっきの壁の呪文を唱えようとしたところにチワワ男が自身の得物である大剣を投げつけることで詠唱の妨害をする。


このままではジーナがっ!


身を呈して庇おうと動き出すが、反応が遅れてしまったために間に合わない!


「チッ、限定、部分解除」



迫り来る炎の攻撃を薙ぎ払って現れたのは右腕をドラゴンのものへと変貌させたジーナの姿。

おっさんがジーナの無事に安堵する一方で、その他の者の視線はその右腕に集約する。


「は、は、あはははっ! まさか捜し求めていたドラゴンがこんなとこにいるなんてっ!」


最初に口を開いたのはアイリス。

その声は心底楽しそうであり、尚且つ抑え切れていないほどの狂気を内在している。


「……ぶったまげた」

「ふむ」


ロリコンとチワワ男も他に言葉が見つからないといった様子でジーナを見つめる。


「ジ、ジーナ……」


出来るならば隠しておきたかった。

そうであれば、最悪おっさんの命一つを犠牲にしてジーナとリリーが逃げて助かる道もあったかもしれないから。

だが、知られてしまった以上アイリスという少女はどこまでもジーナを追いかけていくことだろう。


「なにを不安そうな声を出してるんだ。確かに正体を知られたことは色々まずいかもしれないが、目撃者など全て消せばいい話だ。それにバレてしまったのだから隠す必要もない。むしろこれで良かったよ」


良かったとはあまり思えない。


「ドラゴン。あなたの心臓、このアイリス=ゴッドウィルドが有効に使ってあげますわ。だから安心して死になさい」

「死ぬのはお前だ。なぜこの空間がこんなにも広い造りなのかわかるか? それはな……いざという時に私が全力で戦うためだ! 限定、全解除」


力強いジーナの言葉。

そしてジーナの体が膨張し、着ていた服が破けていき、ついにはリリーの五倍以上はある大きな白いドラゴンへとその身を変えた。


「■■■■■■■■■■」


耳をつんざくようなジーナの咆哮に思わず耳を塞ぐ。


「サラマンダー!」


アイリスも同様に耳を塞ぎながらも、視線はドラゴンの姿となったジーナから逸らさない。

サラマンダーへと指示を飛ばしてジーナと相対する。

サラマンダーは召喚者であるアイリスの指示に従い、その口をジーナへと向けて開く。


「遅い」


しかし、サラマンダーが炎を吐き出すよりも速くジーナがサラマンダーへと腕を振るい、サラマンダーを叩き潰してしまった。


「う、うわああああ」


それを見ていたその他大勢の内の一人が恐怖に当てられ、広間から洞窟の通路へと続く道へと走り出す。

それに他の者も追従し、通路へとひた走る。


「一匹たりとも逃がさない」


ジーナが息を大きく吸い込む仕草をし、通路へ向けて口を開くとそこから白い光の球が吐き出される。

それが通路付近の壁へと当たり、通路を塞いでしまった。


「この場所と私の正体を知った以上、皆殺しだ」


死刑宣告と言えるものを淡々とした調子でジーナが伝える。

そしてその視線がアイリスで固定された。


「まず、一番厄介そうなお前を殺す」

「あ……くっ! <炎の槍よ 我が敵を貫け>」


赤い底辺の直径が一メートルほどの円錐がアイリスの背後に現れる。

円錐は現れた直後に赤い弾丸となってジーナへと襲い掛かった。


しかし


「ふんっ!」


ジーナの腕の一振りで霧散してしまう。

あれがいわゆるチートって奴なんだろうな。


「そ、そんな……」


たった数分。

それだけの時間であの自信満々なアイリスの姿は消え去ってしまった。

最初は悪役っぽかったのに、立場が逆転したように見えるのはおっさんだけ?

なんかもう、アイリスが哀れになってきた。


もはや彼女は放心した様子でジーナを見つめることしか出来ない。


「死ね」


そのアイリスに向かいジーナの腕が振り下ろされる。


「アイリス様っ!」


間一髪のところで飛び込んだチワワ男によって辛うじてアイリスはジーナの腕から逃れることが出来た。

だがそれは少しばかり寿命が延びたに過ぎない。


「ヤーコフさえ、ヤーコフの槍さえあれば……」


ブツブツとアイリスが呟く。

その声は静まりきった広間の中ではいやに響いた。


「ドラゴン殺しの力を持ったあの槍さえあれば、このような無様なことには……」

「アイリス様、お気を確かに」

「ヤーコフの槍さえあれば!」

「無いものねだりをしてもしょうがありません。今はいかにしてこの場を逃れるか考えるべきです」

「逃がさないわよ」

「くっ!」


迫るジーナの追撃をチワワ男はアイリスを抱えて避ける。

だが、いつまでも逃げ切れるわけじゃないだろう。

いつか二人は捕まり、ジーナによって殺されてしまう。


果たしてそれは良いことなのか。

確かにジーナの正体と居住が知れ渡ったことで口封じに殺すのは合理的なはずだ。

だけどおっさんは人として、そしてジーナと一週間ほど共に過ごした者として彼女に人を殺させてしまっても良いのか。


人としての倫理感とリリーやジーナのためという思いが天秤の両皿の上に乗り、揺れ動く。

だが、結論はあっさりと出た。

つまらない倫理感に囚われてジーナ達を危険に晒すことは出来ない。

僅か一週間ではあるが、共に暮らしたことは間違いではないし、情が沸くのは当然のこと。

対してアイリス達はおっさんの命を狙い、ジーナ達をも狙っている。

どちらを取るかは単純な図式だ。

おっさんはアイリス達の死を肯定した。


しかし、そう思った瞬間、おっさんの中で何かが失われたような喪失感を感じた。



シリアスって難しいです。

特に私の中では主人公はシリアスキャラじゃないのでなお難しい。なのでするーっといってみました。


次話で一連の話は終わりにする予定ですので出来るだけ早く投稿しようと思います。


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