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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、攻勢に出る


三人が前、右、左の三方から向かってくる。

おっさんが守らなければならないものは背にした扉への相手の侵入である以上、離れるわけにもいかない。

迫り来るその姿をおっさんはただ見ているしかないのか……

せめて何か一矢報いる攻撃手段がおっさんにもあれば……

あ、ないこともないな。


――でもあれだと相手殺しちゃわないかな?


――でもでも実際相手はこっちを殺そうとしてるわけだし、お互い様な感じしない?


――しかし実際問題マジで相手が死んだらどうするよ?


――そいつは自業自得だし、正当防衛が成り立つよ。


――でも……


――ああもう、うっさいな。なら、あの鎧男にやればいいじゃん。頑丈そうだから死なないっしょ。


――なるほど納得。よし、やろう。


おっさんの中にいる天使と悪魔の話し合いの末、おっさんは目の前から駆けてくる鎧の巨漢へと攻勢に出ることにした。


まずは半身になり、足を開いてがに股中腰の姿勢をとる。

そして臍の上辺りで左手が下になるようにして重ね合わせ、その中にソフトボールが入るくらいの空間を作る。

そして静かに、されど地の底からはい上がるかのような声でその言葉を唱えた。


「まー」


何か感じているわけではないが、自然と指に力が篭る。


「りょー」


地面に突き刺されとばかりに脚へと力を込め、両手を右側に少しずつずらしていく。


「くー」


左腕が限界を迎えるまでずらされた位置にて動きを静止する。

今、おっさんはかなり斜めっている。


「はーーーっ!!!」


そして声と共に両手を鎧の巨漢に向けて突き出した。


【魔力波のスキルが発動した】


天の声と共におっさんの手から溢れ出る白い閃光。

それは巨大な光の柱となって鎧の巨漢へと襲い掛かった。


「……ぬ?」


おっさんの魔力波に当たる直前に鎧の巨漢は両腕を自分の前でクロスさせ、ガードの姿勢をとった。

しかし、だからどうしたとばかりにおっさんの魔力波はそこにぶち当たった挙げ句、そのまま鎧の巨漢を連れて壁へとぶつかり、それでも尚止まらず壁に巨漢を道連れに長大な穴を空けていった。


「き、消えろ」


慌てて魔力波を消す。

何と言えばいいのだろう。

とにかく、おっさんの想像より威力が大きかった……

確実に前出した時よりもでかかった。おそらく三倍はあったな。

よくよく考えれば魔力波なんて最初の一回しか使ってないスキルだ。

そして無色の魔力吸収のスキルは常時発動型であり、おっさんが外にいる間は上限がどこまであるかはわからないが、勝手に魔力を貯蔵していく。

その貯めに貯めた魔力のお陰でこの状況となったのだろう。


場に呆然とした空気が流れる。

あの貧乳少女でさえも今し方出来た穴をアホの子みたいに見つめている。


「や、殺っちゃった?」


あれで生きてる可能性なんて希望的観測だよね。

でも死体とかないせいなのか、実はやっちゃった感はあっても殺っちゃった感はあまりなかったりする。


「ヤ、ヤーコフの旦那……」

「ヤーコフ殿……」


他の二人も足を止め、ヤーコフとやらの消えた彼方を見つめる。


「な、なんですの……あの魔力量に任せた美しくない魔法は……」


呆然としたままで貧乳少女が視線をおっさんへと移す。


「まさか武器破壊だけでなく魔法まで……とんだ怪物ですわね……って! ザラ、クピン! あなた達いつまでボーッとしてますの! さっさとそいつを殺りなさいっ」

「……ですが」

「いや、お姫様それはさすがに……」

「雇い主の意向に逆らいますの?」

「うーん……おれはヤーコフの旦那と違ってただの傭兵だし、死を覚悟してまでお姫様に従おうとは思わないんだよね。そもそもおれってば勝てる戦いしかしないタイプなんだよ。クピンの旦那は?」

「私は……アイリス様に従う」

「そっか、じゃあおれは一抜けする。んで、どうだい緑色の旦那。おれを雇わないか?」

「は?」


やばい。話についてけない。

とりあえず、細身の男は敵ではなくなったのかな?


「いやさ、おれとしては勝ち馬に乗りたいわけよ。大丈夫、報酬はいらねーよ。とゆーか勝つこと自体が報酬かな」

「よくわからんから断る」


ただほど怖いものはないし、すごく怪しい。

ついさっきまで敵だった奴を無条件に受け入れるほどおっさんは甘くない。


「いや、聞いてくれよ。おれってばあのお姫様と契約してんだけど、状況的に敵前逃亡と離反起こしてるじゃん。これってすっげー馬鹿高い違約金取られんの。払えないわけじゃないけど、払いたくないのが人の性だよね。だからさ、踏み倒すためには雇い主に消えていただかないといけないってわけ」


つまり借金してた金融会社が倒産すれば借金帳消しになるとか思ってるのか。


「ふっ、借金ってのはな、借りてた金融会社が倒産しようとも別のところに債権が引き継がれて取り立ては終わらないものなんだよ。いいか、現実にはそんな都合のいいことはないんだよ!」

「よくわかんねーけど、お姫様とおれの契約は傭兵仲介センターを介さない非公式なもんだから、お姫様さえいなくなりゃチャラになるぞ?」

「そんな甘いもんじゃないっての!」

「だぁーもうっ! 味方になってやるっつってんだから、『わーいラッキー』とでも思って受け入れりゃいいじゃねえか!」

「やだよ。味方になる理由がすぐに裏切るフラグにしか見えない」


どうせあっちが優勢になった瞬間に背後から刺すに違いない。


「裏切らねーから! 絶対裏切らねーから!」


それを今まさに向こうを裏切っている奴に言われても説得力がない。

だが、昔の人は言った。


『立っている者は親でも使え』


ならば使ってやろうではないか。

だが、保険はかけておくに越したことはない。


「なら、おっさんには今の距離以上に近寄るな。近付いたら敵だと認識するから」

「うわぁ、全く信用されてねえな。ま、当然だけど」

「お話は済みまして?」


それまで、なぜか黙ってことの成り行きを見ていた貧乳の少女が声をかけてくる。


「あ、お姫様。わざわざ待っててくれたの? そいつはサンキュー。つーわけでおれ、緑の旦那に付くから」


なんか有名なカップ麺みたいな呼び方だな。

あれっておっさんのこと?


「ザラ、あなたのことは腕が立つので重宝していましたのに残念ですわ」


ちっとも残念なようには聞こえく、むしろ楽しそうに貧乳の少女は笑みを浮かべている。


「確かにお姫様は金払いがいいから客としては最高なんだけどよ、主としては最低だ。もう、人間椅子にならなくていいかと思うと清々するぜ」

「あら、悦んでたじゃない」

「そりゃあ最初はな。だけどその一回でよくわかった。お姫様のケツのボリュームは普通の女と変わんないってな! 胸がないこととそのツインテールに騙されたけど、あんたは幼女でも少女でもない! 実際、歳も十八だしな」

「身長で大体わかるだろうに……」

「背がちょっと高めなだけだと思ったんだよ! 背がちっちゃくて巨乳な少女が存在するように背が高くても色々薄い少女もいるんだ!」

「ちょっと、わたくしをロリのカテゴリーに入れてましたの!?」

「……ロリコンめ」

「だからおれはロリコンじゃねーよ! あんなちっちゃくて童顔であれば二十代だろうと三十代だろうと発情できる連中と一緒にすんな! おれが好きなのは十代半ば以下の少女とか幼女だけだ!」

「それがロリコンだと言うんだ」

「そうですわ。ただ、合法のロリが許せないだけで紛うこと無くロリコンですわ」


貧乳少女とチワワ男と細身の裏切り男の三人が内輪で痴話喧嘩してる。

なんとゆーかウザったいな。

全然話に入れないし、聞いてるのが面倒くさい。

おっさん以外のその他大勢の皆さんも同じような顔をしている。


「あの、喧嘩すんなら外出てくんない?」

「あ、緑の旦那すまねえ。あらぬ濡れ衣を着せられてつい熱くなっちまった。よし、いっちょ分からず屋のお姫様にさっきの魔法をぶっ放してくれ」

「黙れロリコン。命令すんな」

「だから違うっての!」


話を聞いてる限りロリコンとしか判断できない。

この人種は二十五歳以上のバインバインな女性が好きなおっさんとは相容れない存在である。


「さて、時間稼ぎはそろそろいいですわね」


貧乳少女が今までのテンションが嘘だったかのように冷静な声を発す。


「え……あ! 旦那、まずいっ!」

「どうしたロリコン」

「くっそ、ツッコむ時間すら惜しい。早くさっきの技でお姫様を攻撃してくれ」


そうは言ってもあれだけの威力がある以上、おいそれと使うわけにもいかない。

おっさんだって元日本人だ。

人殺しは良くないことだって認識が強い。


「グズグズしてっと……」

「<古の契約に基づき 顕現せよ 炎の精霊(サラマンダー)よ>」


貧乳少女の詠唱が終わると、彼女の目の前に幾何学模様の赤い光で出来た円が浮かび上がり、そこから炎を纏ったトカゲがはい出てくる。


「くそ、おれとの会話は魔法陣に魔力を満たすための時間稼ぎかよ」

「ええ、あなた達が口論してる時間だけじゃ精霊を呼び出すための詠唱の前段階までしかできませんでしたから」


どゆこと?

魔法に疎いおっさんには理解が及ばないが、つまりはあの味方にするしないの口論の最中に色々やって、あとは時間稼ぎをしてたってことかな?

とゆーことは


「ほとんどお前のせいじゃん」

「おれ? あ、いやー悪くないかどうかと言えば悪いかもだけど、あれが召喚される前にちゃんと忠告したじゃん」

「あれはもう手遅れな段階だった。んで、あれはなんなの?」


そう言って炎のトカゲを指差す。


「サラマンダー。お姫様の使う赤の魔法でも超弩級にヤバい代物だ。召喚するのに時間がかかるが、その威力は折り紙付き。さっきの旦那の魔法よりも多分強い」


ヤバくない?

それって物凄くヤバくない?


「ふふふ、わたくしにこれを使わせた事を誇りに思いなさい。ただのゴミ掃除には滅多に使わないんですから」


すでに勝ち誇ったような少女の笑み。

実際、彼女には自身の勝利のビジョンが見えていることだろう。


だがしかし、そいつはまだ早計というものだ。

相手が人でないならおっさんはなんの躊躇いもなく、魔力波を撃てる!


「まーりょーくー」


再び構える。

狙いは炎のトカゲ。


「はーーっ!」


【失敗。魔力残量がない】


「…………」

「……旦那?」

「……おしまいだぁー」

「旦那!?」


一発で終了なのか。

またしてもどんなスキルなのかを検証しなかった弊害が起こった。


「お、驚かせてくれましたわね」


少女が身を竦めた体勢から顔を上げ、やたらキョドった声を出す。

どうやらさっき撃った魔力波が意識下にあったために反射的に身構えてしまったようだ。


「まあ、あれだけの魔法を使ったんですもの。魔力切れをおこすのは当然ですわ。次はこちらの攻撃を……」

「さっきからうるさいっ! 今、リリーが眠ったとこなのよっ!」

「いたっ!?」


怒声と共に勢いよく扉を開いてジーナが現れる。

ちなみに扉を背にしていたために開いた時に扉がおっさんの後頭部に当たってしまった。


「……なにこれ?」


ジーナは扉の外の光景に事態が飲み込めないようだ。

まあ、いきなり沢山の人がいるわけだしな。


「とりあえず全員敵ってことでいいのかしら?」


ガシッとおっさんの頭をわしづかみにしながらジーナが呟く。


……全員っておっさんは入ってませんよね?



魔力波はド〇クエやったことある人ならわかるかもですけどマダ〇テのイメージです。


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