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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、侵入者と相対す


「こんな暗い穴蔵に住んでるなんて、さすがゴミ虫ですわね」


こちらを問答無用で攻撃してきた貧乳ツインテールは周りを見回すと大仰な仕草で話し掛けてきた。


「なぜここにってのは愚問かな?」


確かこいつの目的はドラゴンを殺すことだったはずだ。

ならば狙いはリリーやジーナということになるだろう。


「確かに愚かな問いですわね。そんなものあなたを殺しにきたに決まってますわ」


え?

あれ、ドラゴンは?

つーか狙いはおっさんかよ!?


「な、なんで?」


虫人(ムシビト)だからか?

いや、言ってないしわかんないはず……

あ、でもこの子の目の前で昆虫形態(インセクトフォーゼ)しちゃってたな。

もしかしてそっからバレたのか。


「なぜってそんなの……わたくしのことを貧乳呼ばわりしたからに決まってますわ」

「……えー」

「今までわたくしはわたくしのことを貧乳と言った輩を全て半殺しor全殺しにしてきましたの。わたくしが言ってること理解出来ますかしら? わたくしを貧乳と呼んだ輩は絶対に許さないってことですわよ!」


ちっさいなー。

胸だけでなく器もちっちゃい。


「ごめん。君の名前知らないからさ。外見の特徴で呼ぶしかないじゃん」

「それでしたら女神でも天使でも他に呼びようがありますわ。そこにきて胸のことを言うなんてわたくしを侮辱する魂胆がスケスケですわ」


理不尽に殺されそうになっておいて、その発端となった人物を褒めたたえられるような精神構造をおっさんはしていない。

あれだけのことをされておいて、侮辱のひとつもしない方が問題ある。

つーか、おっさんが女性を見るときには胸の大きさってのは確実に確認する部位だから仕方ないことなのだが、言ったところでどうこうなるわけでもないので口に出さないでおく。


「つまり、狙いはおっさんだけってこと?」

「ええ、あなたにはフルコースをお見舞いしてさしあげますわ。まずは両手両足の指を一本ずつ引きちぎり、次に腕、足、耳、鼻ときて、最後に首を捩りとってあげます」

「フルコースをお見舞いって、君いきなり魔法撃ってきたじゃん」

「ちゃんと火傷程度で済むよう手加減しましたわよ。まあ、当たりませんでしたけど……」


話を聞くと、どうやらリリーやジーナのことは知られてないようだな。

そいつは良かった。

どうやらこれはおっさんが蒔いた種のようだから、ジーナ達に迷惑がかからないようにしないとね。

貧乳の元の狙いがジーナ達である以上、接触させてはいけない。


あーあ、本当に蒔きたい種は未だに下半身で燻ってるというのに寂しいな。

息子よ、どうやら日の目を見ることはなさそうだ。


「そっか、わかった」

「あら、抵抗はなしかしら? せっかくあなたのために色々用意してきたのですけど?」


そう言った貧乳の背後からゾロゾロと二十人くらいの男達が沸いて来る。

その中には以前捕まった時に見た男達もいるし、見知らぬ顔もいた。

とゆーかやたら小さい髭モジャやらタイガーマスクだとかバラエティ豊かだな。


「んー野郎だけのパーティーでも開くのかな? おっさんとしては華が欲しいとこだけど?」


貧乳や依然見たお付きの連中くらいの人数なら引き連れたまま洞窟を脱するのも不可能ではなかったかもしれないが、この人数では無謀だろうな。

ジーナに気付かれないうちにこいつらを洞窟から追い出さないと。


「ふふふ、パーティーの華ならばわたくしだけで十分ですわ」

「なるほど、納得納得」

「あなたには武器での攻撃が効きませんから徒手格闘技を嗜む者達を集めましたのよ? 楽しい趣向でしょう?」

「おっさん如きに大袈裟だよ」


しかし、どうやってこいつらを洞窟の外に連れ出せばいいんだ……

広間から外に繋がる道はあいつらに塞がれている。

飛んで逃げれるかというと無理っぽいな。

なら、口で丸め込んで誘導するしかないか……


「おっさん、抵抗する気は微塵もないけどどうせ死ぬなら最後に空が見たいな」

「そうなの? なら、ここで殺すことにしましょう」

「うそー!?」

「ふふ、だって最後の望みを叶えてあげると安らかに死んでしまうでしょう? それじゃ楽しくありませんもの」


貧乳がこういう奴だったかもしれないってことを忘れてた。

今更真逆のこと言ってもおっさんが外に行きたがってることを安易に示してるようなもんだから、迂闊なことも出来やしない。


「さあ、問答は終わりかしら? そろそろパーティーをはじめましょうか。あ、そうそうあなたには身重の奥さんと三人の子供がいるのでしたわよね? あなたの目の前でまずはそいつらを殺してみるのもまた一興ですわ」

「え?」

「ここがあなたの住み処なら、その扉の向こうかしら?」


何言ってんだコイツ?

身重の妻と三人の子供?

そんなのおっさんにいるわけがない。

あんなものはあの時のその場凌ぎに出た言葉だ。

それを一々覚えてやがった。


しかも、今の状況が当たらずも遠からずってとこが質が悪い。

おっさんの軽口がジーナやリリーにまで害を及ぼした。


「誰もいないよ」

「その声音、いると言ってるのと同義よ?」

「いやいや、いないってば。おっさんが浮気性なせいで嫁さんは子供連れて逃げちゃったんだよ」


もはや騙せるなんて思っていない。

でも、万が一、億が一でも騙されてくれるのなら……


「中を改めれば分かる話ですわ」


やっぱりダメか。


「お行きなさい」


貧乳が指をパチンと鳴らすと男達がそれぞれ向かってくる。

そしてその行き先はジーナやリリーのいる住居の扉だ。


「くそったれ」


まずはジーナ達からってことか!


おっさんは男達に先んじて扉の前に陣取る。

距離が近い分おっさんの方が大分早い。


「こっから先には通さないよ」


そう宣言し、迫り来る男達を睨みつける。


まず、最初におっさんに肉薄したのは細身の顔が猫ってる男だった。

なぜ、男かどうかわかったかと言うと、上半身が裸で胸毛とギャランドゥが生えていたからだ。

そいつはボクサー宜しく構えながらおっさんに近付くとその拳をおっさんの顎へと振り上げた。

それ自体は見えてはいるが、かわせるかとなると話は別だ。

顎が持ち上がり、脳が縦に揺れる。

だが、その衝撃はスキルによって無効化され思った以上にダメージはない。

しかし、猫頭はおっさんに一撃を加えると斜め後ろにバックステップで下がってしまう。

そして中華っぽい服を着た黒髪を後ろで一本の三つ編みにした男が入れ替わるようにして近付き、縦にした拳をおっさんの腹に叩き込んだ。


その後も入れ替わり立ち替わりおっさんを殴り、蹴っていく男達。

特にローキックを正確に同じ場所に叩き込んでいく髭モジャ男がウザったいことこの上ない。

外側だけを見ればおっさんは壁のように未だにそびえ立ち、男達の攻撃を一心に受け続けている。

だが、内側は結構ボロボロで、全身にかなりの痛みが走ってる。

しかし、確かに痛いのだがそれはダメージの総量としての話。一撃一撃に関しては男達の攻撃はジーナの拳に及ばない。

とゆーか何気におっさんってば素の防御力が高いのでは?

まあ、そんなおっさんに大の男よりもダメージを与えるジーナは何者だって話になる。いや、ジーナはドラゴンか。

うん、それなら人間と比べちゃいかんよね。




そうして更にぼこられていたのだが、先に悲鳴を上げたのはおっさんをフクロにしていた男達の方だった。


「拳が! 拳が〜!」

「ぐおぉぉ〜」

「ヒーイズベリータフだよ」

「アイリスの嬢ちゃん、このままじゃ蹴りすぎて足の骨が折れちまう」


無欲の勝利である。


「まったく、どいつもこいつも役立たずですわね。下がりなさい」


鶴の一声で男達はおっさんから離れていく。


「まさか、打撃すらも効かないのではありませんわよね?」


貧乳が訝しんだ声で聞いてくる。


「どうかな?」


おっさんがそれに真面目に答えてやる必要などない。


「なあ、そろそろ勘弁してくれないかな?」


余裕ぶってはいるが、一度でも膝をついた瞬間に起き上がれなくなってしまうことは間違いない。


「何を言ってますの? 俄然殺しがいが出てきましたわ」


しかし、どうやらおっさんの態度は彼女の闘志を漲らせてしまった模様である。


「ザラ、クピン、ヤーコフ」

「ほーい」

「ここに」

「はい」


貧乳少女の呼びかけに答えたのは、かつておっさんに剣を振り下ろした細身の男とチワワ男、そして常に少女の側に控えていた重厚な鎧に全身を包んだ巨漢だった。


「お前達にとってはリベンジね。わたくしが魔法を詠唱する間の時間稼ぎをするもよし、そのまま殺してしまってもいいですわ」

「まずは奴の前で家族を殺すのではなかったのですか?」

「そうねぇ……でも、どっちにしろ殺すんだから順番はどうでもいいわ。お前達があいつを殺すなら、わたくしはあれの後に妻や子供を嬲るだけですもの」

「……御意」

「へいへい、お姫様の言う通りにしますよっと」


なんかこうして見ると、どこまでも悪役剥き出しな台詞しか言わないんだよね。


「では、今一度相手になってもらおうか」


チワワが大剣を構えながら言う。

確かおっさんが壊したはずなのだが、新調したのだろうか。

まあ、所詮は剣。

斬撃無効を持つおっさんにしてみれば怖くない。


「ほら、見ろよ。あんたに剣壊されちまったからさ、お姫様に頼んで新しいの買ったんだ。前の奴の倍はするんだぜ?」


そう言って嬉しそうにおっさんに剣を見せてくる細身の男。

こいつも怖くない。

一番怖いのは……


「私は己の武器を壊されたわけではありませんが、主を侮辱されて何とも思わないほど不忠者ではないのでね」


そう言って、穂先から柄までの全ての色彩が銀色で出来た槍を掲げる鎧の男。

槍の攻撃と言えば突く・払うだ。

恐らく無効化することは出来ない。


「その主が理不尽に他人の命を奪おうとしてるのを諌めてやらないのかい? 自称忠臣さんは」

「ふん、主が白と言えば例え黒であっても白。それこそが絶対なる我が忠義だ」


なんだかな〜。

とりあえず揚げ足取りでもしてみよっかな。


「だったら主が死ねっつたら死ぬの?」

「無論」

「肉親とか友人を殺せって言われたら?」

「元よりそんな者などいない」


すっごい寂しい人なんだな。


「もはや、貴様と口で語る言葉はない。あとはこの槍にて問答するとしよう」

「それで語られてもおっさんには全然解読できないからね」

「二人共いくぞっ! 私に合わせろ」

「御意」

「ういっす」


主従揃って人の話をまともに聞かないんだから!


おっさんと侵入者達との攻防の第二幕が幕を開けた。



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