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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、帰宅する


剛力のスキルのお陰で苦もなく木を運んで来れたので報告のためにジーナの元へと向かう。

木を広間に置いて住居の扉を開くと仄かに生活臭が漂ってくる。


「ただいま」


中へ向けて声をかける。

ごめんくださいでもお邪魔しますでもなく

『ただいま』

自分から思わずといった調子で放たれた言葉が自分はもうここの住人であると感じてるんだな、と思わせられてしまう。


そんな考えに浸りながら中からの返答を待つが、一向にお帰りなさいって言葉は帰ってこない。


「ただいまー!」


今度はもう少し大きな声で呼びかけるが最早返答があるなどという淡い期待はない。

普通に住居の中を進み、ジーナらがいるであろう奥にあるリリーの部屋の扉(直しました)を開けた。


「ただいま」

「ああ」

「ただいま」

「ああ」

「……ただいま」

「うん」

「ただい」

「しつこいな! 今、今日四冊目の絵本がクライマックスでいいところなんだから静かにしなさいよ!」

「だって、ジーナがおかえりダーリン(ハート)って返してくれないから!」


おっさんは温かく迎えられたいの。

普段は怒声だろうと罵詈雑言だろうとジーナからならば悦びに変換出来るけどこうゆう時は温かい言葉が欲しいの。


「いや、ないから」

「一回。一回でいいから言って。一生のお願い」

「必死過ぎて気持ち悪い」


うぉ〜、これもやっぱり悪くないわ。

温かさとは真逆の冷たい言葉でもおっさんの心はホットになるんですな。


「■■■■■■■■■」

「リリー、ええ子や……」


冷たい言葉の後だから温かさ倍増だね。

冷徹と温暖のハーモニーがおっさんの心の鐘を打ち鳴らした。


「ねえ、リリーは何て言ったの?」

「おかえりなさいみたいなニュアンスかな? とにかく嬉しいね」

「……ずるい」

「おっさんにおかえりと言える素直なところが?」

「私もリリーにおかえりって言われたい」


ですよねー。

なんとゆーか、ジーナにとったらおっさんなんてホントどうでもいい存在なんだろうな。


「ところで、切ってきた木を広間に置いてるんだけどどうすればいいの?」

「うん? ああ、そうね……切ったばっかりなら水分含んでて薪としては使えないから、まずは薪割りしてその後乾かしておかないといけないわね」

「へー、そうなんだ」

「そうなのよ。んで、すでに乾燥させた薪が広間の隠し部屋にあるから薪を割ったらそこに入れといて」

「分かった……ん?」


なんかおかしいこと言われなかったか?


「すでに乾燥させた薪が隠し部屋にある……?」

「なに?」

「え、嘘。薪の備蓄あんの?」

「ええ」


あっさりと肯定される。

じゃあ、おっさんがさっきやったことはなんだったのか。


「備蓄あるなら、おっさんが木を切りに行く必要がなかったんじゃ……」

「いずれその備蓄もなくなるんだから、あらかじめ増やしておくのは悪いことじゃないでしょ。あと、リリーと二人っきりになりたかったし」

「絶対、後の方が本音じゃん」


要はおっさんはハブられたのではなかろうか。


「だっていっつもあんたばっかりリリーと一緒にいるでしょ」

「そのことは否定しない」


リリーとは料理したり憚りに行く時以外は大体一緒にいる。なぜならばリリーの方がおっさんに寄って来るからね。

そう、おっさんに非はない。


「だから少しの時間リリーと二人だけにしてもらったんじゃない」

「だったら一言リリーと二人だけになりたいっておっさんに言えばいいだろ。邪魔者をこっそり排除する真似しなくたって……」

「はいはい悪かったわよ。んじゃ、まだリリーと二人だけで楽しみたいから薪割り行ってきなさい」

「■■■■■」

「リリーはお母さんと一緒にいようねー」

「■■■■■■」

「ついていっちゃダメよ。あいつはまだ仕事があるんだから。ほら、さっさと行きなさい」


リリーがおっさんの方へと歩み寄ろうとするのを押し止め、ジーナは野良犬を追い払うかの如くおっさんを追いやろうとする。

まあ、本当はおっさんという異分子なんて存在せずにリリーとジーナの二人で生活出来ていたんだと思うとジーナの気持ちもわからないではない。

だけどおっさんが言ったこととはいえ、こうもあからさまに邪魔者扱いされると物悲しいものだ。


だが、おっさんは話のわかる男である。

その場に無言で背を向けて、広間へと戻ることにした。


「あ、隠し部屋は入口の扉を出て右に十歩くらい歩いたとこにあるから。それと……おかえり」


ぶっきらぼうに投げ掛けられた言葉。

だが、それだけでもおっさんにとっては十分な威力を持っていた。


「うん、ただいま。そして行ってきます」

「はいはい」


なんか元気出た。





隠し部屋はジーナの言った通りの場所にあった。

そこは壁がくり抜かれたような場所で、忍者の隠れ身の術みたいに壁に似せた模様の布で隠蔽されていた。

その中には一年くらいは余裕で持ちそうなほどの大量の薪や、小麦粉、塩などの色んなものが入っていた。

どうして今まで教えてくれなかったんだと思うが、この洞窟の中で生活する上で最も重要な場所だと言えるので、外様のおっさんには教えてくれなかったのではないだろうか。

今回、ジーナがおっさんにこの隠し部屋のことを教えてくれたのは多少なりともおっさんを信用してくれたことの表れに違いないと勝手に解釈する。


まずは切り倒してきたプレギエーラを程よい大きさに切ってから薪割りをしよう。


大体三十センチくらいの長さになるようにのこぎりで木を切っていくのだが、なんとも地道な作業である。

なんかもう間怠っこしいな……


昆虫形態(インセクトフォーゼ)


ものは試しとクワガタ形態になり、狙いを定めて顎を閉じた。

すると、あっさりと木が切れてしまう。

おっさん、思い付きだったとはいえ、初めてクワガタの顎の強さを思い知りました。


俄然作業効率も上がり、五分もしないうちに三十センチのぶつ切りになった木材が出来た。


あとはとりあえず半分にしとくか。

横にした木材を顎で挟んで持ち上げ、一気に閉じる。

これを何度か繰り返すとすぐに半分にする作業が終わる。そしてその半分になった木材を同じ要領でさらに半分にしていくとあっという間に薪割りは終了だ。


「おっさんに薪割りの才能があるとは……」


きこりもビックリの早業だ。

しかしなんだな……

この切り刻んだ木材とついちょっと前まで会話してたかと思うとやるせない。

これが木じゃなくて人だったらぶち殺してバラバラにしたようなもんだ。

そして、さらにそれを火葬するために保管しておく。

……おっさん外道じゃね?

ま、木だし。

いちいち気にしてたら飯も食えなくなるから、あまり感情移入しすぎるものじゃないよね。


人型に戻って切った木を紐で束ねていき、隠し部屋の空いてる場所へと置いていく。

運んでみるとそれなりの量があったが、いざ備蓄分と比べるとおっさんの作った薪の量は微々たるものだった。

ジーナはこれを一人で用意したのだろうか。

もしかしたらまだ見ぬリリーの実父がセコセコシコシコと用意したのかもしれない。

どちらにせよ関係ないことか。

積んである薪を両手に抱え込み、住居の中へと持って行くことにする。


しかし、ここで予想外の出来事が起こってしまう。


隠し部屋から出て住居に戻っている時、いきなりおっさんの抱える薪が燃えだしたのだ。


「あつっ!」


慌てて薪を放り投げる。

一体何が起こったのか。いやいや、何が起こったのかは抱え込んだ薪が燃えたということでファイナルアンサーなのだが、どうして燃えたんだ?

自然発火とかだったら逆に不自然極まりない。


その答えはすぐに分かることになった。

なぜなら原因の方から話し掛けて来たからだ。


「外してしまいましたわ」


そこに居たのは以前おっさんを殺そうとしたツインテールの貧乳だった。

確か名前は……忘れた。とにかく貧乳の少女だった。



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