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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
18/35

クラベジーナと料理

閑話のようなものです。



ジーナ達と過ごすことに決めた日の翌日。

と言ってもここは洞窟の中なので朝と夜の区別はないので、眠ってから目が覚めた時のことだ。

おっさんはそこはかとなく漂う異臭によって強制的に脳を覚醒させるに至った。


「なんだこの臭い」


声を発してから再び漂う香りを鼻から吸い込む。


「うげっ」


感想を言えば、鼻の奥に不快な痛みと涙を誘う臭いだ。

例えるならばガソリンとくさやを足して二倍した感じが近いだろうか。

おっさんガソリンの臭いって微妙に好きで、目の前にあればとりあえずチャレンジするんだけどこいつはノーサンキューだ。


鼻を摘みながら起き上がって隣を見てみれば、おっさんから離れようとしなかったために一緒に寝ることになったリリーがぐったりしていた。


「リリー大丈夫か?」

「……■■」


明らかに元気ねーな。

原因は言うまでもなくこの異臭だろう。


立ち上がって臭いの元を探すことにするが、おっさんがどこ行こうとも付いてこようとするリリーが微動だにしないことから相当参ってる様子が伺える。

おっさんを見つめるリリーの目には「逝ってらっしゃい」と語っているように見えた。



臭いの発生源は簡単に見つかった。

そこはこの住居における厨房で、ジーナが鍋で何かを煮込んでいた。


「あ、おはよう。よく眠れたかしら?」

「……多分」


この臭いがなければ快眠だっただろうがね。


「何やってんの?」

「何って、料理よ料理。リリーに精をつけてもらわなくちゃならないからね。はりきっちゃった」


料理ではなくて何かの実験じゃないのかと言いそうになるのをかろうじて押し止める。

まだ臭いが酷いというだけの判断材料しかない。これがまずいとは限らないのだ。


「ちなみに何をお作りになられてるのでしょうか?」

「シチューに決まってるでしょ。匂いで分かるじゃない。安心しなさい。ついでにあんたの分も作ってあげてるから」


シチューってこんな臭いだったっけ……

つーか鍋の中が紫なんですけど。

いや、おっさんが知らないだけで紫のシチューがこの世界に存在しているのかもしれない。

おっさんの常識に当て嵌めるのは間違いの元だ。


「朝からシチューって重くない?」

「何言ってんの? シチューは凄く栄養価が高いんだから精をつけるって意味でこれほど適した料理はないわ!」


それ自体は間違ってはいないかもしんない。


「あ、ありがたいね〜。ところで味見はした?」


ここで予防線を張る。

こうゆうののベタな展開として料理音痴は味見をしないというのがある。

ならば味見と称した毒味を本人にさせるのが一番だ。


「今する。……うん、美味しい」


ジーナは小さな皿にシチュー(仮)を味見して満足したように微笑む。


「ほら、あんたも」


差し出される小皿。

それは今までジーナが使用していたもので……


「いただきます」


おっさんはそれを躊躇なく口にした。

まあ、味の面ではジーナ自身のお墨付きもあるし大丈夫だろう。

問題は食べた後に胃から立ち昇ってくるであろう異臭しかない。


だが、その判断は間違いだったと言わざるを得ない。

口にした瞬間、おっさんの背後に雷のエフェクトが発生したかのような衝撃が口の中に広がり、視界が白一色に染まる。

意識が戻って無理矢理シチュー(仮)を嚥下すると食道を通る時に通った道をシチュー(仮)が焼いていく。

無事に胃に達したとしても胃酸と互角の戦いをみせ、なおかつ異臭となって食道を逆流してくる。

はっきり言おう、クソまずい!!

おっさんの人生でもナンバーワンのまずさだ。

これなら砂場で作った泥団子の方がマシと言えるレベル。

一体何を入れればこの化学兵器を料理しながら作成できるのだろうか。

意識を失い、動きを止めそうになる頭を女王様に罵詈雑言を浴びせ掛けられる妄想をすることで必死に駆動させる。

そうでもしなければ忽ち意識は闇の彼方へと消え去り、お花畑と川が見えるだろう。

くそっ、おっさんには毒は効かないはずだ。だったらこれだけの力を持つこいつは毒ですらないと言うのか……


「どうだ?」


ジーナが期待を込めた瞳でおっさんを見つめる。


「クソよりまずい」


正直は美徳だ。

これを美味しいとかのたまったジーナの味覚は信用してはいけない。

美味いとでも言おうものなら、三食これになる。それだけは嫌だ。


「味覚大丈夫か?」

「え、ジーナの?」

「私じゃなくてお前のだ。こんなに美味しいのに」


ジーナは再び小皿に移したシチュー(仮)を口に運ぶ。

そしてやっぱり美味しいと一言呟いた。

もはやシチュー(仮)ではなくヘドロと呼ぶに相応しい液体をなんでもないかのように摂取するとは……アンビリーバボーやで。


「さ、出来た。早速リリーに持っていってあげなきゃ」

「そのヘドロを?」

「味音痴は黙ってろ。とゆーかそれ以上私を不快にさせる発言をすればお前の〇〇〇を××××って□□□□に沈めてやる」

「すいません」


さすがに〇〇〇を××××されるのは勘弁だわ。

とゆーか味音痴言われたよ……

確かにおっさんの味覚なんて大きく分けると美味い・食えるけどまずい・食えないほどまずい・至って普通の四つくらいしかない。あとは辛いとか甘いみたいな味の感想を判断するくらいだ。これらは一般的な範囲からはあまり外れてないはず。

そんなおっさんの味覚はあのヘドロを絶対に食えないほどクソまずいと新たに五つ目の評価を作り出した。

なおかつ味の感想は『痛い』だ。

こいつをリリーに食わせるのはいかがなものか。

しかしおっさんはリリーに食べさせる前に無理矢理ヘドロを全て平らげるほどのガッツはない。


……すまない。リリーよ、犠牲になってくれたまえ。


「■■■■■ー!!!」


ジーナが厨房から去った後、リリーのあげた悲痛な叫び声がえらく耳に残った。



「た、大変よ! リリーが……リリーが!!」


慌てた様子でジーナが厨房に舞い戻ってくる。

まあ、何が起こったかおっさんは察してるわけだが……


「どうした?」


一応聞かねばなるまい。


「それがいきなり意識を失っちゃったの」


予想通りではある。


「ハラナオールとドクケセールとキキメバイーゾはあるか?」

「あ、あるわ」

「んじゃ、ハラナオールとドクケセールをすり潰して水を加えて混ぜ合わせ、一煮立ちさせたものにキキメバイーゾを加えたものを飲ませればとりあえず大丈夫なはずだ。すぐに用意しよう。手伝ってくれ」

「う、うん」


急いで準備をする。

リリーはおっさんより丈夫そうだから死にはしないだろうが、早ければ早い方がいい。

ちなみにこのレシピは村に暮らしていた時にトイースの嫁から教わったものだ。なんでもこれであらかたの毒や病状は癒せるらしい。でもどちらかと言うと二日酔いでお世話になる薬だ。


「で、リリーはどうだったんだ? 詳しく教えてくれ」

「シチューを口にしたらいきなり白目を向いて口から泡を吹いたの。病気かしら……」

「十中八九このシチューという名のヘドロが原因ですから」

「またそれ? いい加減にしないと……」

「お仕置き? ねえ、お仕置きすんの?」

「なんでちょっと嬉しそうなのよ……」

「とまあ、半分冗談だからいったん横に置いといて、ジーナの作ったシチュー(仮)が色々な意味でまずい代物だってのは間違いないよ。毒が効かないおっさんをも殺しかねないほどにね。はっきり言えばジーナの味覚は変ってことだね」

「どこがどう変なのよ」


変だと言われて自覚のある奴もいれば自覚のない奴もいる。

ジーナは後者だ。

こういう奴には自身がいかに周りとズレているのか思い知らせるほか自覚を促す処方箋はない。

しかし、現在ジーナの周りにいるのはおっさんとリリーのみ。そのうち未だ言葉を話せないリリーは数にいれていいものか迷うからとりあえず除外しておく。

すると、おっさんしかいないわけだが、おっさんの言葉をジーナが素直に受け入れてくれるかどうかは心許ない。

だが、男にはやらねばならない時がある。


「だからこれクソまずいんだって」

「どこが?」

「そりゃあ……全てが」

「あんたの味覚に合わなかっただけでしょ。自分が美味しくないと感じたものが共通の意識だと思っちゃダメよ」

「それは逆にも言えることだよ。ジーナが美味しいと思えるものが全てにおいて正しいわけじゃない。そもそもおっさんの知ってるシチューって料理に紫色なものは存在しない。普通は白だし、許せて黄色(カボチャ入り)とかそんなもんだ。あと、これ臭い。何より――<中略>――だから、ジーナの料理は体に毒でしかないんだ。んで、臭い。ドゥユーアンダースタン?」

「長すぎて全然入ってこない。あと、なんかねちっこい」


おっさんの体内時間にして約十分間は無駄になったようだ。


「よし、薬が出来たようだな。早速リリーに飲ませるとしよう」


そう言ってジーナは完成後ある程度冷ましたおっさん謹製の薬を持って厨房を出ていった。


「……おっさんもいこ」


そう呟いてジーナに続いてリリーの元へと向かった。




「ほら、リリーお薬飲みなさい」

「■■■■■■」


嫌がってる。

リリーがすげー嫌がってる。

とゆーかもう涙目だ。

どうやら薬を作っている間に目を覚ましていたらしく、そこに再び何かを食べさせようとするジーナに恐怖すら覚えている様子だ。

そしてその瞳がおっさんの姿を捉えるとお父さん助けてとばかりに縋るような視線を向けてくる。


「ほら、リリー」


ジーナは頑なに閉じられたリリーの口を無理矢理こじ開けようと上あごに手を当てて力を込めているが、リリーもリリーで必死に抵抗している。

なんかもう見てられないな。


「ジーナ貸しなさい」


ジーナの手から薬を奪い、リリーの目の前に立つ。


「大丈夫。これはジーナの作ったものじゃなく、おっさんが作ったから安全だよ(結構苦いけどね)」


おっさんの言葉にジーナが何か言いたそうな顔をするが、空気を読んだのか黙って様子を見ていてくれる。


「ね?」

「■■■」


おっさんの言葉が通じたのか、それともおっさんが食べさせるからなのか、何となく後者だと思うがリリーが素直に口を開いてくれたのでそこに薬を注ぎ込む。


「■■■■■」


リリーは顔をしかめるようにしたが、それでもジーナの料理よりはマシだったのだろう。きちんと薬を飲み込んだ。


「うん、いい子だね」


リリーの頭を撫でてやるとリリーも嬉しそうに目を細めた。


「あんたばっかりずるい! 私も撫でるわ」

(ビクッ)

「リ、リリー……?」


ジーナがリリーの頭に触れようとした瞬間、リリーの体が妙な反応を起こし、震え出した。

客観的に見るとどっちも可哀相だな。

ジーナは良かれと思い愛情をたっぷり込めてあのヘドロを作り上げたのだろう。だが、その愛情によって怖い目にあったリリーの反応もまた当然だと言える。なにせ初めてといっていい食べ物があれでは浮かばれない。

まあ、どっちが悪いか言われればジーナが十割悪いけどね。

だからおっさんは心を鬼にして言わねばなるまい。


「リリーはジーナの料理に恐怖を覚えたようだ。これ以上嫌われたくなければおっさんの監督の元で料理を作るか、二度と作るな」

「……わかったわよ」


さすがにリリーの反応で自分に非があることを理解したのだろう。ジーナが神妙に頷く。

やはりおっさんの言葉よりもリリーの言動の方がよっぽど効くみたいだ。


こうして『ジーナ料理毒化事件第一章』は幕を閉じた。


なお、ジーナ作のシチューはスタッフ(ジーナ)が半分ほどは美味しく頂きました。しかし、別のスタッフ(おっさん&リリー)が美味しく頂けなかったのと臭いに耐えられなかったことが原因でもう半分は捨てました。

大地よ、環境を汚染してすまん……



次話は早ければ今日中、遅くとも明後日には投稿予定です。


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