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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、話し合う

女性の拳はおっさんの顔の中心を正確に打ち抜いた。


「普通に痛いっ!」

「なっ!?」


激痛に顔をしかめるおっさんと驚愕の表情を浮かべる女性。

おっさんの味わった痛みは例えるまでもなく人に殴打された時のそれだ。

だというのにその衝撃自体は全くないためのけ反るということはなく、ただ単に痛みだけが顔を起点に全身に回る。


「効いてないですって……」

「いや、痛いって言ったじゃん」

「くっ、ならばっ!」


女性はおっさんのツッコミを無視して距離をとり、構える。


「限定、部分解除」


女性の呟きと共にその右腕が白い鱗と爪を持ち肥大化する。

女性の華奢な身体には似つかわしくないその腕は、今なおおっさんの胸に顔を擦りつける竜のものと酷似していた。


「見かけによらずたくましい腕をお持ちですね……」


あれはやばくね?

殺る気が伝わってくるんですけど……


「とりあえず落ち着いて話でも……」

「黙れっ!」


そうは言っても……

とゆーか、なんでこうも立て続けに人の話を聞かない女と出会うのだろうか。

おお、ゴッドよ……おっさんはあんたになんかしましたっけ?


「リリーに施された護りを解くだけに留まらず、拐かそうなんて万死の刑に処してもまだ足りないわ」


要するに凄く怒ってますと彼女は言いたいらしい。

事の成り行きを弁明したいのだが、どうせ聞いてくれないんだろうな……

だったら!


「武装を解除しろ。こいつがどうなってもいいのか?」


胸に擦りつけられる竜の頭を抱え込みながら女性を脅迫する。

第三者の目から見ればおっさんは悪だ。

だが、こうでもしないと話聞いてくれそうにないんだもん。


「……下種め」


女性の腕が元の白魚のような腕へと戻っていく。

ああ、心が痛い。

だけど睨みつけるその瞳はご褒美と言えなくもない。


「おっさんの話を聞いて貰おう。あと、いくつか質問がある。拒否権はない。拒否すればこの竜がどうなるかわかってるだろうな……あ、こら顔を舐めるんじゃない」


ペロペロ攻撃リターンズ。

おっさんの顔は飴じゃないんだから、甘くないよ。むしろ塩っ気があるはずだからね。


「……リリーに手出しはしないで」

「君がわっぷ……素直にぬおっ……おっさんのおほっ……要求をのほほ……受け入れてくれるのならにあっ……だからやめなさいってば」

「クゥーン……」

「そんな叱られたワンコロみたいな声で鳴いてもダメだよ。おっさんらは今から大人の話し合いって奴をするんだからね」


竜に言い聞かせるかのように言うと顔を舐めるのは止めてくれたのだが、おっさんの胸板という名の装甲に顔を擦りつけるようにして甘えてくる。

まあ、顔を舐めないだけマシか。

さて、これからこの女性への質問タイムだ。

しかしその前に……


「まず、食べ物を恵んでくれませんか?」


腹を満たすことを優先しよう。




◇◇◇




与えられた食料は黒いパンと干し肉だった。欲を言えばスープ的な汁物が欲しいのだが、用意してくれと言って素直に従ってくれるかは不安だ。

そりゃあこっちには人質ならぬ竜質がいるのだから表向きは素直に聞いてくれるかもしれないが、これ以上好感度を落とす行為はいただけない。

今もおっさんがパンを咀嚼する行為の一挙手一投足を注視し、下手なことをしたら暴力に訴えて立場を逆転されかねない。


「さて、話し合いをはじめようか」

「……望みはなに?」

「だから話し合いだってば」

「リリーの心臓? それとも鱗や爪、牙かしら?」

「いや、聞いてよ……」

「でもおあいにくさまだけど、リリーはまだ生まれて間もない幼竜に過ぎないわ。あなたの欲するドラゴンの魔力素材としてはまだ大した力を持っていない。だからリリーを今すぐ解放して。代わりに私があなたへ心臓を提供するから」


おっさんの話を聞いてないのか、それともあえてそうしているのか女性は一気にまくし立てる。


「だからまずはおっさんの話を聞きなさいっ!」


故に怒鳴り付けるように声を発した。

まずは何事も話し合いが肝心だ。

相手を話し合いのテーブルに着かせることは先の少女の時は失敗したが、今度こそはと意気込みをかける。


「わかった……」


おっさんの熱意が通じたのか女性が話を聞く態勢をとってくれたのは僥倖だ。


「まずは円滑な話し合いのためにお互いの自己紹介と行こう。まずはおっさんからね。名前はラルド。ダンディかつストイックな男で未婚です。あえてもう一度言うと未婚です。好みのタイプは君のような果物屋さんを開けるボディの女性です」

「ラルド……ふっ」


なんか名前を鼻で笑われてしまった。

とゆーかおっさんの好みのタイプはスルーですか?

まあ、今思うと好感度がダウンするようなことを言ってしまったのでスルーしてくれるのは有り難い。


「次はそっちね」

「クラベジーナ」


女性の答えは簡素な単語ひとつだ。

恐らくではあるが、


「それが君の名前かな?」


おっさんの言葉にクラベジーナさんはコクリと一回だけ頷いた。

なんとも素っ気ないことだ。


「んじゃまずはおっさんの釈明を聞いてくれ……」


そうしておっさんはどうしてここまで来たのかと、なぜか竜が卵から生まれておっさんに懐いたという状況を一からバカみたいに正直に説明した。

この場において嘘を混ぜるのは大した益を生まないし、ばれた時に厄介だからな。


「……それを信じろと?」

「出来れば信じて欲しいかな」

「たまたまここへ入り込み、偶然リリーの卵に触れたら、なぜかリリーが生まれて懐かれた。ドラゴンの魔力素材には全く興味がない。そんなご都合主義のような豚の言葉を信じろと言うのか」

「そうだよ……っていうか今、おっさんのこと豚って言った?」

「お前はラルドという名前なのだろう? ならば豚だろ」


全く脈絡がない。

でも豚と呼ばれても悪い気はしないな。


「まあ、いい。リリーを解放して即刻ここから出ていけ。ここを口外しないと言うのならば殺しはしないでやる」


それに正直が過ぎて立場が逆転しちゃった。

おっさんと竜の様子を見れば、竜質としてどうこうしようと思ってないことが丸わかりなのも原因の一端を担っているかもしれない。


「よし、リリー

「リリーが汚れるから名前で呼ぶな」

……君はクラベジーナさんの元に行きなさい」


……行く気配がないな。

どないしよ? とばかりにクラベジーナさんへと視線を移す。


「リリー? そんな豚なんかに構ってないでこっちにおいで?」


しかし、リリーはクラベジーナさんの言葉を無視しておっさんに纏わり付く。


「リ、リリー?」


クラベジーナさんの顔に困惑と焦燥が浮かぶ。

ハッキリ言えばリリーの中ではおっさん>クラベジーナさんの構図が作り上げられていると言ってよいのかもしれない。


「豚、どういうこと?」

「……おっさんが聞きたいよ」

「あんたリリーに何かしたわけ?」

「神に誓ってないはず……だよね?」


おっさんがしたことと言えば卵に触って、リリーが生まれて、リリーがおっさんを見たかと思ったら懐かれた。ただそれだけ。

しかしそのプロセスの中に何かしらしでかしてないとは言い切れない。


「ちなみに竜って生まれて初めて見た存在を親だと思う生物?」

「断じて違うわ。確かにドラゴンは初めて見た存在を親と思うけど、ドラゴンは同種の魔力を感じ取ってるからドラゴン以外の種を親とは認識しないわ。だからたかが人間のあんたを親と誤認するのは有り得ない話だわ。ほんっっっっっとぉぉぉぉに何もしてないのね?」


念を押されて聞かれてもなー。

頭を働かせる。

そもそもおっさんはカテゴリーで見ると人ではあるがただの人ってのには当てはまらないかもしれない。

なにせ虫人(ムシビト)だ。そのせいなのか。

いや、竜は同種の存在を感じ取っているのならば、おっさんはアウトだ。だって竜じゃないもん。

じゃあ、何が原因だ?


考え込んでいると天啓のようにピロリーンと考えが降って湧いてきた。

確か、おっさんが卵に触れた時に無色の魔力吸収のスキルが発動したはずだ。

これによって吸収したのが竜の魔力ならば、それを感じ取ったリリーがおっさんを同種として認識してしまった可能性がある。

だが、正直にこれを告げたらおっさんの命がまずいことにならないか?

結局お前のせいだとか言われて殴られるオチが見える。

隠すべきだ。そう、これはおっさんの秘め事にするべき事項である。


「な、なんにも知らないよ?」

「なにか心当たりがあるのね?」


な、なぜわかった。

クラベジーナさんは読心術でも心得ているのか……


「ない。何もない。おっさんまるで何もわからないです」

「言え」

「何も知らないってば!」

「だったらなぜ挙動不審になるのかしら?」

「おっさんは元から挙動不審だよ」

「……はあっ、まあ、リリーがあんたを父親として認識している以上どうこう出来ないわね」


どうやらクラベジーナさんは追求を諦めてくれたみたいだ。


「すでにあんたを父親として認識してしまっている以上、あんたを殺せばリリーが悲しむ。だから今はあんたを殺さないわ」

「この子と君はどうゆう……」

「あんたには関係ない」


おっさんの質問は途中でばっさりと切られてしまった。


「とりあえずリリーの親権をあんたから私に移すわ」

「出来るの?」

「出来るのって言うかするの。あんたは父親ではないということをこの子に認識させて私が母親だと認識させる。これしか問題解決の手はないわ。少なくとも言葉を覚える前に本能に刷り込まないと……」


クラベジーナさんの呟いた言葉の最後の方は小ささ過ぎて聞き取ることが出来なかった。

それにしても……


「親権がどうのこうのって、おっさん達、なんか夫婦みたいだね。クラベジーナさんのことジーナって呼んでいいかな?」


まあ、親権を争っているのなら崩壊間際ではあるけどね。

でも、これを期にクラベジーナさん、いや、ジーナと仲良くなれたらいいなと思う。


「嫌」


しかし、回答はただ一言だった。

手厳しい。

だが、脳内ではジーナと呼ばせてもらいます。


「あー……そうだ。もしかしたらなんだけど、クラベジーナさんって竜?」

「……ええ」

「だよね。腕とか竜っぽいのに変わったし、リリーの代わりに心臓をどうのこうの言ってたからそうかもってちょっと思ってたんだ」


腕が変わるの見なかったら、そういう考えなど微塵も起きなかったに違いないが、さすがにあれを見てしまうとそういう考えも起きる。

とゆーか


「この子の母親ってクラベジーナさんなんだ」


人妻で子持ち。

旦那を知らないだけに何か滾るものがありますなぁ。


「……あんたには関係ない」


しかし、そこでジーナは言葉を濁してしまった。

もしかして、リリーの本当の母親ではないのだろうか?

それにしても、ジーナと仲良くなるというのは前途多難なようである。



リリーもクラベジーナも最近買った『幻想世界11ヵ国語 ネーミング事典』を参考にさせていただいております。

便利です(^_^)


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