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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、洞窟の中で……

洞窟に入ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

少なくとも丸一日近くは経とうとしているのかもしれない。

その間ずっと天候の回復を祈っていたのだが、その祈りは通じず空の機嫌は悪くなっていくばかりだ。

雨が強くなるだけでなく、風が吹きすさび、雷公様が絶え間無く降り注いでいる。もうこれは嵐と言っても過言ではない。とゆーか嵐そのものだ。

洞窟の入口付近にいては風に煽られた雨が侵入してくるので、おっさんは現在、洞窟内をちょっとばかり進んだところにいる。

腹の虫はすでに限界の域に到達しようとジワジワと近付いてきてるところだ。

たった一日でと思うかもしれんが、この体は存外燃費が悪いのだ。

車で例えるならば一リットルで五キロくらいだろうか。昨今の低燃費の風潮で一リットル三十キロ走る車も開発されているというのに嘆かわしいことだ。

まあ、おっさんが乗ってた車は一リットル十五キロ程度でそれを基準にしてるから、大体人の三倍は食料を消費すると考えてくれ。

おっさんが村にいた頃に畑仕事をすることになったのも、お前はよく食うんだから自分で作れみたいな揶揄があったからこそだ。


とりあえず、おっさんは人より食うので食料を確保せねば餓死してしまう恐れがあることはわかって頂けたかと思う。

そして、外に出るのは天気の都合上無理となれば残る選択肢は洞窟の奥に何かないか探すしかない。

どんな生物がいるか分からないから危険? そんなものこの空腹の前では関係ない。

むしろどんな生物であろうとも不意をついて殺して食ってやるくらいの意気込みを見せなければなるまい。

弱肉強食焼肉定食、所詮この世は食うか食われるか。道具がないから火をおこすことが出来ないのが残念だ。



暗い暗い洞窟を進んでいく。

その歩みは牛歩の如くゆっくりと、細心の注意を払いながら恐る恐るといった調子だ。

この洞窟は内部が入り組んでおり、先を見通すことが出来ないが、身を隠しながら進むにはうってつけだった。


どれほど進んだのだろう。

入口から計れば大した距離を進んでないかもしれないし、もしかしたら結構な距離を進んでいるのかもしれない。

そんな曖昧な感覚でしかなかったが、この光景を見ればそんなことは吹き飛んでしまった。

洞窟内を進んだ先にあったのはとてつもなく広い空間だった。

暗く狭かった洞窟の中を進んでたどり着いたというのにそこは仄かに明るく、野球場が丸々入る大きさで、天井は見上げるほどに広い。


「ん?」


天井を見上げていた視線を戻すとおっさんの入ってきた道とは反対側に明らかに人の手によるものと思われる扉があった。


「行ってみるか……」


扉の前に立ったおっさんは意を決して扉をノックしてみる。次いで


「ごめんください」


声をかけてみたが反応は返ってこない。

聞こえなかったのかと思い扉に手をかけて開けてから中に声をかけることにする。

そして開け放った扉の中に見たのは確かに人が暮らしていると思われる場所だった。

洞窟の中に作られた住居とでも言うのだろうか。

天井は約三〜四メートルの高さがあり、通路の幅はおっさんが昆虫形態(インセクトフォーゼ)のスキルを使ってクワガタになっても余るくらいはある。


「すいませーん」


声をかけたがやはり反応はない。

誰もいないのだろうか? それとも居留守?

どっちにしろ人が来るまで扉の前で待機しているべきではないのか。

しかし、そんな考えは惰弱だとばかりに腹の虫が催促する。

おっさん自身も限界が近い。それがおっさんから冷静な判断力を奪っていく。

そしてそのまま扉の内部へとおっさんの足は進んでいった。


扉内部の通路の横には部屋のように区切られたスペースがあり、中を覗いて見れば寝台であろうものが確かにあった。

その他にも調理場や書庫などの確かに人が住んでいる形跡がある。


「すいませーん。誰か居ませんかー?」


声をかけてみる。

これが住居ならば侵入したのはおっさんだ。

不法侵入など泥棒の所業だ。そんなことは分かっている。

なのでおっさんは迷い込んだ旅人という設定だ。設定というかそのものなのだが、そういうスタンスをアピールしとかないと住んでる人に会った瞬間に切り掛かって来られそうだ。

あの赤髪少女みたいに人の話を聞かないような人物だったら出会った瞬間にアウトだが、あれはわりと稀な例だろう。


「あのー、すいませーん」


しかし、おっさんがいくら声をかけようとも反応は返ってこない。

うーん……とりあえず誰もいないと仮定して調理場を漁ろうか。いやいや、そんなんしたらもう言い訳できない。

とりあえず誰かいないかくまなく探してみよう。


いくつかある部屋の中を探してみたが、人の姿を確認することは出来ない。

やはり誰もいないのだろうか。

最後に残ったのは通路の奥にある扉。

他の部屋には扉がないのにここだけには扉が存在する。

そのことに微妙に嫌な予感がしないでもないが、ここだけ見ないということは出来ない。

生唾を飲み込み、扉に手をかけ開けてみる。

しかし、そこには誰もおらず十畳ほどの空間があった。

ただし、中がちょっとおかしい。

なんとゆーかファンシーな世界観なのだ。

壁一面がピンク色でぬいぐるみやらおもちゃやらがいっぱい。お、幼児が使う滑り台まである。

部屋の中央には普通の三倍はある大きさのベビーベッドらしきものがあり、その頭上にはクルクル回るおもちゃ、通称オルゴールメリーまである。

完璧に赤ちゃんの部屋だ。

とゆーか品揃えが豊富過ぎてこの部屋の持ち主の親バカ度がよくわかる。

ただ、その部屋の持ち主である存在の姿はない。その代わりにベビーベッドにはダチョウの卵より大きな真っ白い卵が鎮座している。

今のおっさんは猛烈な空腹に襲われている。そんな時に卵なんてご飯に合いそうなものを見つけたのだが、こんな部屋に君臨する卵を食材として見ることが出来るのだろうか? いや、わかる。あれは食材として決して見てはいけないものだ。

だけど好奇心がくすぐられてしまうのは仕方あるまい。

一体あれは何の卵なのか。そして卵生の生物におもちゃなどをわざわざ用意するのはどんな人なのかと疑問が沸いてでてくる。


溢れる好奇心を抑え切れず卵へと近付く。

そしてそっと手を触れてみた。

手触りはツルツルで微かに温かい。


【無色の魔力溜まりを感知。吸収成功】

【ラルドは認識偽装のスキルを得た】

【ラルドは衝撃無効のスキルを得た】

【ラルドは時間遅延のスキルを得た】


え、何? 何事?

いきなり天の声が聞こえたけど……

ってあれ? この卵ってこんなでかくなかったよな?

なんか小学一年生のお子さんが丸々入ってそうなくらいに巨大化してんだけど……

あまりの出来事におっさんビックリというか呆気にとられてます。


しかし、そんな時間も長くは続かない。

なぜなら卵にひびが入ったからだ。


「え、嘘? 生まれんの? えーっ!?」


はい、パニック状態です。

体が自動的に動き、卵から一歩、ニ歩と後ずさる。ついには壁へと背中がくっついた。

そうこうしているうちに卵は割れ、中から出てきたのは卵と同じく真っ白な体の翼のあるトカゲ。

違う。

どう見ても竜だ。

竜はおっさんの見ている前で翼を大きく広げ、辺りをキョロキョロと見回す。

そしてその蒼い瞳がおっさんへと向けられ、ばっちりと目が合ってしまった。


「■■■■■」


竜が何事か叫ぶが、それはおっさんでは判別出来ない。聞いたままを表現すればギャウーだろうか。

竜が口を広げておっさんへと飛び掛かってくる。

生物の親というのは大体が子供のために餌を用意するものだ。実際おっさんも幼虫時代は親であろうクワガタに餌をもらっていた。

ならば竜がおっさんのことを親が用意した餌だと認識しても不思議ではない。


「お、おっさんを食べたら腹壊すよ! 装甲とか邪魔でしょ!?」


理解していないだろうとは思いつつも必死で弁明を試みる。

無駄な弁明をする前に逃げろと思うかもしれないが足が竦んでしまって動かない。

ファンタジーな世界とは割り切っていてもその象徴たる竜の前ではおっさんの思考など関係なく、いざ目の前にしてみると体の方が反応してくれないのだ。


だが、竜はおっさんの予想に反して目の前で静止し、おっさんの顔をペロペロと舐め出した。


「ほえ?」


思わずマヌケな声が漏れる。

しかしそんなことは意にも返していないのか、竜のペロペロ攻撃は尚も続く。

うわぁ、顔が竜の唾液でベチョベチョだ。


「ストップストップ舐めるのやめなさい」


竜の頭に手を置いて行為を制止する。

ちゃんとおっさんの意図が伝わったのか竜はペロペロするのをやめてくれた。だが、今度は頭をおっさんの胸にグリグリと押し付けてくる。


その……なんだ、もしかしておっさんってばこの竜の親とか思われてたりすんの?


「おっさんはお前のお父さんじゃないよ?」


そうは告げても理解はしていないのだろう。

グリグリ攻撃が止むことはない。

なんとゆーか、こうも懐かれるとおっさんの父性を刺激されるな。

だがおっさんが親でないのは純然たる事実だ。

それに、本当の親御さんに申し訳ない。

だってベビー用品をこんだけ揃えるくらいにこの子が生まれるのを楽しみにしてたんだろうから……


「リリーッ!」


その時だ。

扉を蹴破る勢いで一人の女性が部屋の中へと入ってきた。

その女性は一言で表すなら美人と言う以外に言葉が浮かばない。

髪の色は光沢を持った白で歳をとって増えて来る白髪とは似ても似つかない。髪の長さは肩くらいで水分を多分に含んでいるのかポタリポタリと髪の先から水滴が落ちている。

どこかのパーティーに出てたんですかと聞きたくなるような艶やかな青のドレスも同様に水に濡れてその肢体に張り付いており、メロン畑と言いたくなるような胸元やむっちりとした臀部をより艶やかに演出している。


「卵が割れてる……っ!」


女性は愕然とした表情を浮かべた次の瞬間にこちらに視線を移し、まずは竜の姿を見て頬を緩めたかと思いきや、ギロリとおっさんのことを睨む。

彼女が部屋の中に入って初めて真っすぐに顔を見たのだが、少し長めの睫毛や目鼻立ちが綺麗に整っているため、やはり美人である。そしておっさんが勝手に認定した左目の目元にある泣き黒子がやたら色っぽい。

ただおっさんを睨んでいるためなのか竜を見ていた時は穏やかで少し垂れ気味だった蒼い瞳は鋭角に吊り上がり、口は歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに噛み締められている。


「リリーに何をしたぁっ!」


女性が声を怒り一色に染め、おっさんに近付いてくる。

そして同時におっさんの顔に向かって彼女の握られた拳が迫ってくるのが見えた。


あ、これ問答無用で殴られるやつだわ。



やっとここまで来たって感じです。

ただ、またおっさんが強化されてしまった……

全然戦ってないのにまた防御力アップ

タグかあらすじにその旨を入れるべきなのかどうか……


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