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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、逃げる


「た、助かった……のか?」


思わず口から声が発せられる。

それはこの場の静寂を切り裂いてその場の全員に正気を取り戻すには十分過ぎた。


「お、おれの剣が……」


細身の男はすごく悲しそうな顔でその場に両膝をついた。

まあ、自分の剣が折れたのだ。大切にしてればしてただけその衝撃も大きいだろう。


それにしてもなぜ剣が折れたのか?

いや、そもそもなぜおっさんは死んでない?


「あなた……一体何をしましたの?」


少女がその鈴のような声を欺瞞色に染めて聞いてくるが、おっさんの方が聞きたいくらいだよ。

何をしたかの問いは簡単だ。答えは何もしていない。

とゆーか縛られてるんだから何も出来ないと言うのが正しい。

んじゃ、どうしておっさんは死んでないのか。

普通、剣で斬られれば人は死ぬ。

ん? 剣で……斬る?

あ、斬撃無効だっ!

大樹にもらった斬撃無効のスキルがおっさんの命を繋いだのだ。

いやー、もらったはいいけど使う場面ないし、実感したこともなかったからすっかり忘れてた。


「わたくしの問いに答えなさい」


おっさんが思考に耽っていることで返答しないことにイライラしてるのか、苛立ちの感じられる声音で少女がせっついてくる。


「おっさんが何したかは自分で考えてね」


ここでむやみやたらに正直に言うこともあるまい。

斬撃が効かないんだったら槍で突き刺しなさいってなる可能性が高いわけだし。


「くっ、なるほどね。剣が当たる間際に笑ったのは自分が死なないと確信していたのね」


はて? 剣が当たる間際におっさんってば笑ったっけ? そりゃ、笑った方がいいのかな位の思考はあったけど実際には……あ、そういえばくだらないことにウケてたかも。

とっさに浮かんだダジャレほど後々思い返して見るとくそ寒いことが多いんだよな。

そもそもの話、理不尽が過ぎすぎてなんてダジャレでもなんでもなく、ただ『すぎ』って言葉を一つ多く使っただけだ。


「アイリス様、わたしがザラ殿に代わりこの者を処刑しましょう」


あ、まだ諦めてなかった。

当然か。


次に進み出たのは上半身マッチョな男だった。

ただ……顔がチワワだ。

え、嘘?

何これ可愛い。顔ちっちーゃい。


「いいわ。クピン、やりなさい」

「御意」


名前も可愛い。

マッチョなのが残念かと思いきや、それがギャップになって更に可愛い。

って、和んでる場合じゃねーっ!

ヤベーよ。早く逃げねーと殺される。

でもどうやって?


「ふんっ!」


とりあえずおっさんを束縛する縄に力を込めてみる。


【剛力のスキルが発動した】


天の声が聞こえる。意識発動型のスキルは発動と同時に天の声のお知らせがある。おっさんが現状持ってる意識発動型のスキルは千里眼、魔力波、昆虫形態(インセクトフォーゼ)、そして剛力の四つだ。

スキルを発動させるとブチブチッという音がなってあっさりと拘束が解けてしまう。

そういえば、抵抗らしい抵抗したことなかったけどこうもあっさりといくものなのか。

最初からやっとけば良かった……いや、使ってないから忘れてただけなんだけどね。


「逃げちゃダメ。<赤熱の鎖よ 拘束せよ>」


おっさんの拘束が解けたのを見た少女が腕を振るって言葉を紡ぐ。

するとどこからともなく現れた赤い鎖がおっさんを拘束する。


「あっつ!」


ジューという肉が焼ける音が耳に届く。

この鎖、熱いなんてもんじゃない。


「ウフフッ、その苦悶の顔堪らないわ」


少女はおっさんの顔をみてその表情を喜悦に歪ませる。


「さあ殺しなさい」

「覚悟は良いか?」

「熱いとゆーか痛くなってきた」


チワワが背中に背負っていた大きな剣を構える。

何キロあるのかわからないほどに重量感タップリの無骨なデザイン。数多の獲物を斬ってきたのか、その刃はところどころ刃零れしている。

しかしそんなことに今のおっさんが注目出来るはずはない。

熱くて痛くて悶えることしか出来ないのだ。ぶっちゃけ、チワワが何もせずともこれだけでいずれ死ぬ。

くそー、これが蝋燭から垂れた溶けた蝋ならばご褒美なのに……

イメージだ、イメージしろ。このあっつい鎖は女王様の賜ったものでしかないんだ、と。あ、大分マシになってきた。


「さらば」


大剣が振り下ろされる。


「へぶっ」


その一撃は斬撃無効のスキルによりおっさんを切り裂くことは出来なかった。だが、その重量とチワワの腕力でおっさんの体が地面にめり込んだ。

痛い。確かにこれも痛いのだが……


「鎖の方が痛い……」


素直な感想がこれだ。

もう、マジで拷問だよこれ。まあ、イメージの影響でちょっと興奮するけど。


「まだ生きているだと?」


チワワが驚愕している。

驚いた顔がまた可愛いなオイ。

そういえばさっきまた新しいスキルを手に入れたんだよな。

武具破壊ってことで多少の当たりは付けられるけど具体的な条件とかはわからん。しかし、幸いにも大剣はまだおっさんに接触してるわけだし試してみる価値はある。


「壊れろ」


【武具破壊のスキルが発動した】


天の声とともにチワワの剣に皹が入り、そのまま砕け散った。


「なっ!」


少女、周りの男達から声が挙がる。

おっさんとしては鎖も壊れて欲しかったが残念ながらそうはうまくことが運ばなかったのは悔しい。


「……なるほど。武器破壊のスキルですか……他者の武器を幾千幾万も破壊したものが至ると言われている境地。有象無象かと思いましたが、存外あなたは武人でしたのね」

「違います」


勘違いもはなはだしいことこの上ない。

おっさんが壊した武器なんて細身の男のものが初めてだ。

だったら何故おっさんがスキルを得たのかという疑問に突き当たるが、得たものは得たのだから仕方がない。細かいことは考えないようにしよう。


「謙遜は煩わしいからいいですわ。あなたに武器破壊のスキルがあると知れば恐れるに値しませんわ。ドラゴンを殺す前に武器を壊されては敵いませんから、わたくしの魔法で殺して差し上げますわ」

「ドラゴン、だと?」


いるのか?

いや、ここがファンタジーな世界だというのならいても不思議ではない。


「あら、知らなかったんですの? いいえ、違いますわね。あなたも狙っていてしらばっくれてるのですわね?」

「どういう、ことだ?」

「演技がお上手ですわね。まあ、あなたの狙いがドラゴン討伐による勇名か魔法具の媒介としての最高級品であるドラゴンの素材なのかはわかりませんけれども目的が同じならばあなたはわたくしの敵。是が非でも殺しますわ。ライバルは少ないほうがいいですものね」

「いやいやいや、おっさんドラゴンに興味ねーから」

「さあ、遺言は済みまして?」


聞いちゃいねえよ……

くそっ、やべーな。逃げなきゃいかんが、剛力のスキルを使用しても鎖が引きちぎれない。それならば昆虫形態(インセクトフォーゼ)を……


昆虫形態(インセクトフォーゼ)!」


【失敗。対象に接触する不純物あり。昆虫形態(インセクトフォーゼ)時分のスペースを確保しろ】


えー……うそーん……

そんな条件があったんだ。


「何をわけの分からないことを……死になさい。<古の炎よ 全てを滅ぼせ>」


少女の言葉とともにその背後に炎が現れる。

それは雪のように白く、圧倒的な熱量を誇る炎の塊。

しかし、間近にいる少女は汗ひとつ掻いていない。周囲にいた男達は最も傍にいた巨漢の男以外は熱いのか少女から距離をおいている。

おっさんにとって幸いなのは白い炎が現れたその瞬間に体を拘束していた鎖が消えたことだ。これなら逃げられる!


昆虫形態(インセクトフォーゼ)


昆虫形態(インセクトフォーゼ)のスキルが発動した】


おっさんの姿がエメラルドグリーンのクワガタへと変わる。

しかし己へと迫る白き炎はすぐ目の前まで迫っていた。


「うおりゃぁぁぁ!」


火事場の馬鹿力とでも言うのかがむしゃらに羽ばたいて上昇した結果、辛うじて炎の一撃をかわす。

でもその炎の余波は凄まじく、おっさんの体のあちこちが焦げた。


「面妖なスキルを持ってますわね」


空のおっさんへと目を向けた少女が面白いものでも見たかのような微笑みを顔に携える。


「あんたは危ないもん持ってるね」

「危ないなんてとんでもないですわ。魔法ほど高尚な力なんてありませんわ。魔法とは……」

「そうですか。んじゃおっさんは逃げます。あばよ、貧乳」

「こら、わたくしがせっかく魔法について講釈をしてあげようと言うのですから聞きなさい! とゆーか今なんつった!?」


おぉ、すっげードスの効いた声。

こりゃ殺意割り増しだな。

殺されても敵わん。逃げられる時に逃げる。

そもそも人恋しいからと言って関わって良かった人種ではなかった。


「逃がしませんわ。<真紅の魔弾よ 敵を穿て>」

「ぬおっ」


向かってくる赤いスーパーボールみたいな奴を華麗にかわしていく。

ふふふ、おっさんがクワガタ姿でどんだけ飛んでると思ってんだ。これくらい避けるのなんて楽勝だ。


「何をしてますの! 弓でもなんでも使ってあいつを落としなさいっ!」

「は、はいっ」


むおっ、今度は弓矢かよ。

まあ、狙撃ライフルとかがなくてよかった。さすがにライフルの弾はアニメのキャラクターでもない限りはよけらんねーからな。


さーて、逃げることに集中しないとさすがにヤバい。おっさんの全力、その身に受けやがれ!





なんとか追撃をかわしてながら逃げていると次第にポツリポツリと雨が降り、次第に雨足を強くしてきた。

そのせいなのかどうかわからないが、少女の追撃は止み、おっさんも一安心ということで近くの森へと身を隠した。

しかしあれだ。天然のシャワーは有り難いんだが、降り注ぐ雨が強すぎて一メートル先も見えない。

どこか雨宿りが出来るところが必要だろう。

おっさんはそんな場所をわざわざ探す必要はない。

ここは森。つまりおっさんのホームグラウンドなのだからそこらの木にでも適当な場所を聞けば良いのだ。



教えてもらったのは森の奥地にある洞窟。

入口は人が一人ようやく入れるほどに狭く、中は先が見えないほどに暗い。

熊とかが住んでるわけではなさそうだが、蛇とかがいそうだ。


「ふぃ〜」


人型になって洞窟に入ったおっさんは入口付近に寄り掛かって座り、大きく息を吐いた。

なんとも言えない体験だった。

まあ、一度殺された身からすればすでに通った道だと開き直れるのだが、やはり問答無用で殺されるというのは慣れないものだ。

斬撃無効のお陰で斬られることはなかったが、少女の魔法で火傷を……あれ? ない? 火傷の跡がないぞ? 火傷しなかったのか? いやいやいやあれで火傷しないなんてことはありえねーよ。でも現に火傷はしてない。


「わけわかんねぇ……」


この世界はおっさんの想像を斜めにした出来事がよく起こる。

だからと言って自分で考えても埒がない。まあ、難しく考えてもしょうがないのかもな。

誰か説明してくれる人が現れるまで保留にしとこう。

今は火傷しなくて良かったってことで一件落着。おっさんはハッピー、はい終わり。うん、これでいい。


それにしても腹減ってきたな……

おっさんが持っていた日保ちする食料なんかの荷物は少女らに捕まった場所に置いてきてしまった。

森にいけば食べられる物を採集出来るだろうがさすがに土砂降りの中をと言うのは億劫だ。

では選択肢としてあるのは、我慢するか洞窟の奥に行ってみるかしかないわけだが、軽率な真似は危険だということを実感したばかりのおっさんは雨が晴れることを信じて待つことを選択したのだった。



アニメのキャラクターでもない限りとか同じ架空の存在である小説のキャラクターが言うことに我ながら違和感を覚えてます。

なーんか次の展開が読めるぞって思われるかもしれませんが、そいつは胸のうちに秘めといて下さい。


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