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オッサンの異世界記  作者: 焼きうどん
第二章:出逢い
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おっさん、名乗る


タオルのお礼と言ってはなんだが、スキル木々の声を活かして狩人達の狩りを手伝うことにした。

要はホーンラビットがよく通る道やホーンラビットの餌場などを教えてもらえばいいだけの話だ。樹木達はおっさんの味方なので基本的に何でも教えてくれる。

狩人達も良い狩場知ってるよと言ってやったら両手を挙げて大喜びした。

そんなに喜んでくれるのは嬉しいが、結果が出てからにして欲しいものだ。

あと、もう少しおっさんの素性を疑うとかないわけ?

客観的に見ると結構怪しい奴よ?

まあ、説明するのもめんどくさいから聞かれない方が都合いいんだけどね。

よし、気分がいいからサービスだ。食える山菜とかキノコも採ってやんよ。



結果として狩りは成功だった。

成果はホーンラビット六匹。いや、ラビットだから六羽の方が正しいのか?

とりあえず成功だ。

おっさんの指定したいくつかのポイントに狩人Cがおっさんの引っ掛かった罠を設置し、獲物がかかるまでひたすら待つ。そしてかかった獲物を狩人A、Dと協力して捕まえる。その後にまた罠を仕掛ける。

これを狩人達が繰り返している間におっさんは狩人Bを連れて食用植物を取りに行った。

狩人Bもそこそこ食用植物には詳しかったが、木の声を直に聞けるおっさんほど森の植物に詳しい奴はいない。

一時間もすれば両手に抱えきれないほどの食料を得た。


それにしても動物を殺す瞬間って惨いよな。おっさんも真っ当な人間だった頃に田舎で飼ってた鶏を絞め殺して羽根毟ったことあるけど、途中で祖母(ばあちゃん)に変わってもらったもん。

今じゃ、食料確保してる間に時々見かける事のある弱肉強食の世界によって見慣れた光景とは言え見てると気持ちが悪くなってくる。


「大丈夫だか?」

「……そんなに大丈夫じゃない」

「あんた、グロ耐性のスキル持ってないのが?」


グロ耐性のスキル。

そんなもんがあるなら是非とも欲しいもんだ。


「どうやっ……」


どうやったら獲得できる? と聞こうとした口を閉ざす。

スキルを得る方法は経験か修業。

ならばグロいものを率先して見たり、運悪く見てしまった奴が得るスキルなのだろう。

ネット画像とか写真とかならまだいいけど、隣でグチャグチャやってんの見るのはいやだ。


「大丈夫だぁ〜。解体作業ば百匹も見れば取れっから〜」


励ますな。

別にグロ耐性ないからって落ち込んでるわけじゃない。


「んでも、これだけ取ればカカアに(おご)られなぐでいいな」

「これもあんたさんのおがげだぁ〜」

「あんたも村さ来い。わーの作った野菜ばやる」

「オラの作った野菜はうめど〜」


すっげえ笑顔でおっさんの方を見てる狩人達。

笑顔が眩しいぜ。

それにしても、野菜作ってる奴ってお礼とかに大抵自作の野菜あげるって言い出すよな。おっさんの実家の連中もそうだったし、農家の友達もそうだった。

まあ、嬉しいんだけどね。


「狩人A、B、C、D……じゃあ、誰か泊めて?」


沈黙が降臨した。

なんか悪いこと言ったかな?

あれか? 「泊めて」はまずいか?

芸能人が田舎に泊まるテレビ番組でも難儀することがあるからなー。

でもテレビが入るわけじゃないからハードル低くね?

いや、よく考えると今日会った奴を泊めること自体がレベル高すぎか。

例え彼らの家が掘っ建て小屋であっても褒める自信があるのに残念だ。


「なあ」


沈黙を破るようにAが口を開く。


「狩人エー、ビー、シー、デーっておら達のことだが?」

「うん、そうだけど?」


なるほど、まずは他愛ない話をしつつお泊りを拒否るわけだな。

はっきり言ってくれていいのに……


「そういえば、お互い名乗りあってながたな〜」

「まんず名乗りあうのが礼儀でねぇが」

「んだ」


というわけでお互いに自己紹介する運びとなった。


とりあえず簡潔にまとめていこう。


「だば、おらがらいぐが」


狩人A。本来の名前はスノー。

スノーとか言いつつ、肌は日に焼けて茶色だ。

彼は四人の中で一番でかい。

また、Aを冠するだけあって彼らの中のリーダー的存在だ。既婚者。なお、嫁の尻に敷かれているらしい。また、嫁が妊娠中。


「次はわの番だな」


狩人B。本来の名前はトイース。

一緒に森で収集した男だ。

顔立ちはまだ二十代だというのに可哀相な頭をしている。でも既婚者。


「だらわーがいぐど」


狩人C。本来の名前はスサウ。

罠の名人。

身長は小学生くらいしかないけれども、あごひげの影響でかなり年がいってるように見える。やはり既婚者。


「最後はオラだな」


狩人D。 本来の名前はウエスト。

他の三人に比べると細い。だが、筋肉質だ。

また、彼らの中では頭がいいらしい。はぁ……既婚者。


全員既婚者だよバカヤロー!

なんだよ。三十過ぎても結婚出来なかったおっさんへの当てつけか?

くやしくないよ? だって、三十過ぎても結婚してない野郎なんていっぱいいるしー。


「んで、あんたは?」


今度はおっさんの番のようだな。


「おっさんの名前はたか……」


ちょっと待て。本名を名乗っていいものか……

こいつらの名前を聞く限り日本的な名前だと浮いちゃわね?

とゆーかすでに以前のおっさんは死んじゃってるわけだから新しい名前が必要ではなかろうか。

とは言っても西洋風な名前なんて咄嗟に思いつかん。本名を(もじ)るか?

……ないな。

うーん……一旦持ち帰って考えたい。

だけど、考えれば考えるほど坩堝に嵌まる気がする。


だったら……こうしよう。


「おっさんには名前がない。この森で生まれ、この森で育ったが故に。だからどうだろう、君達がおっさんに名前を付けてくれないか?」

「おら達が?」


聞き返すスノーに頷いて返す。

自分で名前を考えるのが面倒ならば、他人に考えてもらおう作戦だ。


「でも、なんでわー達が?」

「んだ。自分で付ければいーべ」


まあ、こうくるわな。

理由がめんどくさかったからじゃダメだよな。

どうやって言い訳しよう……


「それはだな……」


考えろ。考えるんだ。

自分を叱咤激励する。

すると、天啓のようにパッと頭に最適な言い訳が浮かんだ。


「名前ってのはさ、自分で付けるものなのか? 君達だって親に付けられただろう? つまり、血の繋がりがあるとはいえ他者に名付けられたはずだ」


おっさんの言葉に四人が理解の表情を浮かべる。


「だからこそ、信用出来る君達におっさんの名前を付けてもらいたいんだ」


ここで信用してることもアピールしておいて、お泊まりの許可をもらいやすくする算段を練る。

ふふふ、おっさんたらなんてクレバーなんだ。


「よ、よし。おら達がいい名前付げでやっから!」

(まが)せどげ」

「どんなんがいいべ?」

「テソロとかどんだ?」

「それは今度生まれるおらの子供の名前だべ!」


四人で固まって話し合ってくれている。

はてさて、一体どんな名前を付けられるのかな?

よほど変じゃなければ、どんな名前であっても受け入れるつもりだ。

その名前でこれから生きていこうと思う。


近くにある木に寄り掛かって座り、結果を待つことにする。


『あんっ』

「おっと、すまん」


どうやら寄り掛かった時に木の性感帯に触れてしまったようだ。


『いいんですよ。それより名前付けられるみたいですね』

「え? あ、うん」

『その旨を報告しましたら、ラウルス様がわしが名付けると言ってましたよ』

「へー」


ちなみにラウルスとは大樹の名前である。

だけどおっさんの中では大樹は大樹。名前などない。


「参考までに何て言ってんの?」

『えーと、ですねぇ……ムシビト1かムシビトαで迷ってるそうです』

「却下っつといて」

『はい』


大樹に名前付けてもらうことを考えつかなくて良かった。

そういえば、修業中にこの森のほとんどの木の名付け親は大樹だと聞いたことがあったな。あの杉15065みたいな感じのセンスのカケラもない奴。

絶対名付けられたくないね。


自分の案が即座に却下されたことで大樹が激しく落ち込んだ事はここで語るような事ではあるまい。



そうこうしている内に話し合いの終わった狩人達がおっさんの元に近寄ってきた。


「いい名前付けてくれたのかな?」

「最終的に三つ候補がでぎだ」

「ふーん、そっから選ぶわけね」


おっさんにも選択肢を与えることで、華を持たせてくれてるのかな?


「どんなのがあんの?」

「エメ、ラルド、グリーンの三つだ」


そっかその三つの中ならどれかな〜……って!?


「なにそれっ!? 全部見た目からじゃん! なんでそんな安直になった?」


エメ、ラルド、グリーン。繋げて読めばエメラルドグリーン。まんまだ。


「いや〜、パッと思いつぐのがなぐてぇ」

「スサウがプリンプリンとかふざげっからぁ〜」

「おめだって、悪ノリして名前ばアナルにしようとか言ってたっぺ」


なんでこいつらこんなに学生のノリなの?

判断間違っちゃったかな〜。

とりあえず真面目に考えてみる。

プリンプリンとアナルはないな。

でも、アナルって響きはちょっと惹かれるものがあるから将来息子が出来たら案として使わせてもらおう。

んで、エメラルドグリーンに関してだが、安直ではあるがわかりやすい。

面倒だし、この中から選ぼう。

まず、エメ。

エメさんと呼ばる姿を想像してみる。

なんかひょうきん者のイメージだな。ダンディーなおっさんには合わない。よって却下。

次に、ラルド。

これ単体で見れば、そこそこな代物だ。響きがいい。おっさんの名前の第一候補にしよう。

最後に、グリーン。

歌を唄うイメージがある。響きは悪くない。だけどどことなく主人公のライバル的ポジションっぽい感じがするのはなぜだろう?


「ラルドだな」


吟味した結果、やはりこれが一番しっくりくる。


「おっさんの名前は今日からラルドだ」

「そうが」

「よろすく、ラルドさん」

「いい名前だぁ」

「名付けだオラ達も納得だべ」


【虫人は固有名ラルドを得た】


天の声が聞こえた。

おっさんの名前はラルドで本決まりしてしまったようだ。

だが、これでいい。

おっさんはこの世界で生きていくのだから。


こうして名前を得たおっさんは狩人達に付いていって、彼らの村へと訪れるのだった。

ちなみに泊めてくれと頼んだ時に沈黙が降りたのは、おっさんが自分達を記号の如く認識しているのに気付いてちょっと傷付いたためらしい。

泊める事自体は奥さんに聞いてみないとわからないとのことだった。



なお、おっさんはラルドという名前が豚の脂(ラード)のことだとは知る由もなかった……



固有名詞はだいたい適当につけてます。

主人公の名前も本当にエメラルドグリーンから取ったんですが、まさか適当に取った名前がこんな意味を持つとは……

まあ、ありかなしで言えばありです。むしろ彼には合ってる気がします。


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