おっさん、クワガタに転生
気が付くとおっさんはクワガタになっていました。
あ、この場合のおっさんって言うのは一人称ね。つまりミーのこと。なぜこんな一人称かと言うと、十五歳離れた従妹に〇〇おじさんって呼ばれるから。や、最初は「おじさんじゃなくてお兄さんだよ」って訂正してたんだよ。でもさぁ、なんか三十越えた辺りからどうでもよくなってきて、開き直るように「ああそうさおじさんだよ。なんなら一人称をおじさんにしちゃうぞ」って言ったらその従妹の父親、つまりはおっさんの叔父に「君がそんなんしたら本物のおじさんな俺はどうしたらいい?」って真剣な顔で聞かれたから「じゃあおっさんにします(笑)」みたにふざけたら「じゃあそれで決定ね」っていい笑顔で従妹が言った後に引くに引けなくなるとこまで持ってかれて今に至るという感じ。
んで、話を戻すけどおっさんはこれでも元々人間だったわけよ。
じゃあなんで今はクワガタなのかっつーと、よくわかんない。
でもある日ふと気付いたら森の中にいたんだ。それまで住宅街を歩いてたのにいきなりよ?
こりゃ白昼夢かと思ったけど妙にリアルな感触や匂いを感じた。だが夢だとこの時は思ってたんだ。だって、おっさんはまだDTな中坊の頃に同じような超リアル夢を見たことがあるからね。「あ、こんなリアルな夢は久しぶりだ」って感激してたもん。ちなみにその時の夢は思春期特有の可愛らしいエロ夢だった。巨乳なロシア娘(ここが重要ポイント)を口説いてそのたわわなおっぱいを揉む。今でも覚えているあの感触は現実で触れた数人の女性の胸と比べると極上だったと言わざるを得ない。
え? おっさんがリア充? 現実で女性の胸を揉んだだけで何言ってんの!
言っとくけどね、ほとんど素人さんじゃないから。つーかおっぱいパブだよ。いわゆるお金の関係です。
いや、結構良心的なお値段なんだよ?
諭吉さんが財布からフライアウェイしていくお風呂に比べればなんてこともないじゃないか。
おっと、パブの話はもういいね。
んじゃクワガタになった経緯を説明しようか。
夢だと認識しながらもおっさんは森を歩いて美人なお姉ちゃんを探しました。いや、夢だからこそ探したんです。深くはツッこまないでね。オッサンという生き物は若人と違う意味で性欲が旺盛なんよ。
不倫してんのは大体オッサンだからね。
ちなみにオッサンと心の中でカタカナ表記してるのが世の中に漫然と生きるおやじを表してます。
閑話休題
そして森の中を彷徨っていた時に出会ったのがでっかいクワガタ。どんだけでかいかと言うとおっさんが横になって寝た時より幅が広くて、クワガタの目線がおっさんくらいの高さまである。長さはおっさん二人が縦に寝れるくらいかな。まあ、言ってしまえばライトバン(車)くらいの大きさかな。
んで、「うぉーでけぇ……」っておっさんが感心してると、そいつったら顎を広げておっさんのことをジョッキンコしちゃった。
どこまで顎を閉じれるねんっ! ってツッコミたくなるくらいに顎を閉じられたせいでおっさんは死んじゃった。ま、幸いなことに痛みを感じる前に死んじゃったから実感わかないけど。でも確かに死んだ。
んで、起きたらクワガタだったわけさ。
なんでって聞かれてもおっさんにもわかんない。ほら、あれじゃね? 死して尚、魂だけは身体に宿っていたが、クワガタがそれを喰ったせいでその子種に魂が宿りました的な?
うん、わかんないからこれでいっか。
おっと、説明不足だったけどおっさんは多分おっさんを殺してくれたクワガタの子供として生まれました。なぜ多分なのかはクワガタの区別なんかつかねーよってことでご理解いただきたい。
クワガタの子供だったら幼虫じゃねーの?
と思うかもしれないが、確かに幼虫だったよ? 生後三日目までは……
このクワガタ異常に成長はえーの! しかも卵は地中に産むでもなく地面の上に産んで両親が子育てまでするんだ。おかしいけどあんまりに普通なんで受け入れちった。
そしたら生後四日目の朝、起きたら蛹になってた。
そん時に脳内(あるかどうか不明だがこうして考えることが出来るのだからあるのだろう)で【キラースタッグビートル(幼虫)はキラースタッグビートル(蛹)に変態しました】って聞こえてきた。
誰が言ってるか知らないけど変態はないだろ? 確かに昆虫が幼虫から成長していく段階は変態って言うのかもしれないけど、オッサンに変態は禁句だよ! もう少しオブラートに包んで欲しいよまったく!
てゆーかキラースタッグビートルっておっさんのことだよね? ま、長いからKSBって勝手に言ってっけど。
そんなこんなKSB(蛹)のまま飲まず食わずで一週間過ごしました。正直これ以上はきっついと思ってたんだけど次の日起きたら【キラースタッグビートル(蛹)はホワイトキラースタッグビートルに変態した】という脳内アナウンスが流れた。
だからもう少しオブラートに(略)
まあ、無事に成虫となったわけだが黒光りしてる父親とは違い、おっさんは白いクワガタになった。勘違いしてはいけないのが、おっさんが特別なわけじゃなくて蛹から孵った他のクワガタ(兄弟達)も皆白いんだよ。
時間が経ったら黒くなるということもなく、成虫になったんだから出ていけとばかりに追い出されてしまった。
そして今に至るというわけ。
こうゆう時は解説役なのがいてくれると助かるのだが、両親も兄弟も「キシャーキシャー」的な発音しか出来ないから何もわからないし、クワガタのボディーランゲージもイマイチ伝わらない。
ということでおっさんは途方に暮れているのです。
兄弟は皆、何処かへと行ってしまった。
おっさんは一人(匹?)寂しく森の中を歩き続ける。
うん、予想外に疲れない。
運動不足やタバコの影響でここんとこ体力ががた落ちしてたのが嘘のようだ。
つーかよく考えたらおっさんの背中には翅があるじゃないか。
よし、ならば人類の夢である舞空術でもやってみようかな。
アーイ、キャーン……フラーイ!
…………あれ? どうやったら飛べるわけ?