第17話 選ばれる婚活から、選ぶ婚活へ
お見合いの返事を出した翌日、由香は久しぶりに昼休みを外で過ごしていた。
会社の近くの公園。ベンチに座り、コンビニのコーヒーを飲む。
風が、少し暖かい。
(前なら、今日みたいな日は落ち込んでたな)
由香は、ぼんやりと思った。
「またダメだった」
「何が足りないんだろう」
「やっぱり年齢かな」
以前のお見合い後は、決まってそんな思考に引きずられていた。
でも今日は、違う。
何も進展していないのに、
自分を責める声が、ほとんど聞こえない。
(これって……変化、だよね)
自分で言葉にすると、少し照れくさい。
でも確かに、何かが変わっている。
午後、仕事を終えた頃、スマホに通知が入った。
佐藤からだ。
『由香さん、
今回のお返事の仕方、とても良かったと思います』
由香は、画面を見つめた。
(……返事の仕方?)
続きが来る。
『相手を否定せず、
でもご自身の感覚をはっきり伝えていましたね』
その言葉に、胸の奥が少し熱くなった。
(そんなつもり、なかったけど)
ただ正直に書いただけ。
それだけなのに、「良かった」と言われると、
自分の判断を肯定された気がした。
由香は、少し考えてから返信した。
『ありがとうございます。
前よりも、無理している感じが減りました』
送信。
しばらくして、佐藤から短い返信が来た。
『それは大きな変化です。
由香さんはもう、
「選ばれるために頑張る婚活」から
卒業し始めていますね』
由香は、その一文を何度か読み返した。
(選ばれるために、頑張る婚活)
確かにそうだった。
アプリのときも、
何もしていなかった時間も、
心のどこかでずっと
「選ばれなかったら終わり」だと思っていた。
だから、
・嫌われないように
・減点されないように
・無難に、無難に
そうやって、自分を小さくしていた。
(でも今は……)
由香は、最近のお見合いを思い返す。
緊張はする。
失敗したくない気持ちもある。
でも、
「私がどう思ったか」を
ちゃんと考えている。
それは、選ぶ側の視点だ。
家に帰り、部屋の電気をつける。
いつもの景色なのに、少しだけ違って見える。
(私、今まで“許可待ち”だったんだ)
誰かに選ばれたら、
やっと前に進んでいい。
そんな感覚で、生きてきた。
でも今は、
「違うと思ったら、違うと言っていい」
「まだだと思ったら、待っていい」
その選択肢を、自分に許せている。
由香は、ソファに腰を下ろし、深く息を吐いた。
(婚活って……
人を探す作業じゃなくて、
自分の感覚を取り戻す作業だったのかも)
誰と合うか。
どんな関係がいいか。
それを考える前に、
「私はどう感じる人間か」を
知らなければいけなかった。
スマホが、静かに光る。
新しいお見合いの通知は、まだ来ていない。
でも、不安はなかった。
(次が来ても、来なくても)
どちらでも、ちゃんと進める。
由香は、カップにお茶を注ぎながら、
小さく笑った。
選ばれる婚活から、
選ぶ婚活へ。
それは、強気になることじゃない。
偉くなることでもない。
ただ、
自分を置き去りにしないという選択。
由香は、その言葉を、心の中で何度もなぞった。
そして初めて、
この婚活が
「続けられるもの」だと、
はっきり思えた。
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