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結婚相談所に行く前の、38歳の私  作者: 早乙女リク


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15/18

第15話 「次がある」と思えた夜

 お断りの返事を出してから、二日が過ぎた。

 由香の生活は、また穏やかなリズムに戻っている。


 朝、駅まで歩く道。

 昼、デスクで飲むコーヒー。

 夜、帰宅してからの静かな時間。


 何も変わっていない。

 なのに、どこか違う。


(……次が、あるんだよね)


 以前なら、

 ひとつ断る=ひとつ失う、だった。


 チャンスを逃した。

 もう次はないかもしれない。

 そうやって、自分を追い込んでいた。


 でも今は、違う感覚がある。


 断っても、終わらない。

 選んでも、責められない。


 由香は、帰宅途中の電車で、ふとそう思った。


 家に着き、着替えてソファに座る。

 スマホを見ると、通知が一件。


『由香さん、

 新たにお見合いのお申し込みが届いています』


 胸が、少しだけ跳ねた。


(……来た)


 前回ほどの緊張はない。

 でも、油断もしていない。


 詳細を開く。


 四十一歳。

 技術職。

 趣味は料理とランニング。


(料理……)


 それだけで、少しだけ想像が広がる。


 条件を一つひとつ確認する自分の頭は、

 妙に冷静だった。


(会ってみたいかどうか)


 以前なら、

 「会ってもらえるかどうか」が基準だった。


 でも今は、

 「私が、会いたいかどうか」。


 由香は、佐藤にメッセージを送る。


『プロフィール拝見しました。

 今回は、ぜひお会いしてみたいです』


 送信。


 心臓は、静かだ。


(……これでいい)


 何かに勝ったわけでも、

 負けたわけでもない。


 ただ、自分で決めただけ。


 由香は、スマホを置き、ベランダに出た。

 夜風が、少し涼しい。


 空を見上げると、星は見えない。

 でも、雲の向こうに空があることは分かる。


(婚活って、こんな感じなんだ)


 派手じゃない。

 ドラマチックでもない。


 でも、

 「自分を見失わずに進める」感覚が、

 ちゃんとある。


 由香は、深く息を吸った。


 次のお見合いが、どうなるかは分からない。

 うまくいくかもしれないし、

 また断ることになるかもしれない。


 それでも――

 「次がある」と思える夜は、

 もう、孤独じゃなかった。


 由香は、部屋に戻り、電気を消す。


 今日も、特別なことは起きていない。

 でも、確実に一つだけ変わったことがある。


 婚活が、

 「怖くて重いもの」から、

 「続けられるもの」に変わっていた。


 それだけで、

 今は、十分だった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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