第15話 「次がある」と思えた夜
お断りの返事を出してから、二日が過ぎた。
由香の生活は、また穏やかなリズムに戻っている。
朝、駅まで歩く道。
昼、デスクで飲むコーヒー。
夜、帰宅してからの静かな時間。
何も変わっていない。
なのに、どこか違う。
(……次が、あるんだよね)
以前なら、
ひとつ断る=ひとつ失う、だった。
チャンスを逃した。
もう次はないかもしれない。
そうやって、自分を追い込んでいた。
でも今は、違う感覚がある。
断っても、終わらない。
選んでも、責められない。
由香は、帰宅途中の電車で、ふとそう思った。
家に着き、着替えてソファに座る。
スマホを見ると、通知が一件。
『由香さん、
新たにお見合いのお申し込みが届いています』
胸が、少しだけ跳ねた。
(……来た)
前回ほどの緊張はない。
でも、油断もしていない。
詳細を開く。
四十一歳。
技術職。
趣味は料理とランニング。
(料理……)
それだけで、少しだけ想像が広がる。
条件を一つひとつ確認する自分の頭は、
妙に冷静だった。
(会ってみたいかどうか)
以前なら、
「会ってもらえるかどうか」が基準だった。
でも今は、
「私が、会いたいかどうか」。
由香は、佐藤にメッセージを送る。
『プロフィール拝見しました。
今回は、ぜひお会いしてみたいです』
送信。
心臓は、静かだ。
(……これでいい)
何かに勝ったわけでも、
負けたわけでもない。
ただ、自分で決めただけ。
由香は、スマホを置き、ベランダに出た。
夜風が、少し涼しい。
空を見上げると、星は見えない。
でも、雲の向こうに空があることは分かる。
(婚活って、こんな感じなんだ)
派手じゃない。
ドラマチックでもない。
でも、
「自分を見失わずに進める」感覚が、
ちゃんとある。
由香は、深く息を吸った。
次のお見合いが、どうなるかは分からない。
うまくいくかもしれないし、
また断ることになるかもしれない。
それでも――
「次がある」と思える夜は、
もう、孤独じゃなかった。
由香は、部屋に戻り、電気を消す。
今日も、特別なことは起きていない。
でも、確実に一つだけ変わったことがある。
婚活が、
「怖くて重いもの」から、
「続けられるもの」に変わっていた。
それだけで、
今は、十分だった。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
あと数話で完結となります。
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