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結婚相談所に行く前の、38歳の私  作者: 早乙女リク


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第14話 断る理由を、ちゃんと持っていい

 お見合いの返事を出す期限は、三日後だった。

 由香はそのことを頭の片隅に置きながら、いつも通りの平日を過ごしていた。


 仕事は忙しく、気づけば昼休みも終わっている。

 集中しているときは、余計なことを考えなくて済む。

 それが、今の由香にはちょうどよかった。


 帰宅して夕食を済ませ、ソファに座る。

 テレビはつけず、スマホを手に取った。


(返事……どうしよう)


 「もう一度会う」

 「今回はお断り」


 二択なのに、簡単じゃない。


 嫌な人じゃなかった。

 話しやすかった。

 緊張も少なかった。


 でも、それだけだ。


(それだけ、じゃダメなのかな)


 頭の中に、またあの声が浮かぶ。


「贅沢なんじゃない?」

「その年齢で選り好みしてたら、誰とも決まらないよ」


 誰に言われたわけでもない。

 全部、自分の中の声だ。


 由香は、スマホを置き、目を閉じた。


 アプリを使っていた頃なら、

 この「迷い」はなかった。


 合わなければフェードアウト。

 理由を考える必要もない。


 でも今は違う。

 「断る」という行為に、ちゃんと向き合わなければならない。


(私、何が引っかかってるんだろ)


 由香は、紙とペンを取り出した。

 久しぶりに、文字を書いて整理したくなった。


 ・安心感はあった

 ・会話は成立していた

 ・嫌な点は特にない


 ここで、ペンが止まる。


(……でも)


 ・一緒にいるイメージが浮かばなかった


 それを書いた瞬間、胸が少し軽くなった。


(これだ)


 悪い人かどうかじゃない。

 条件が合うかどうかでもない。


 「この人と、もう一度時間を使いたいか」


 それだけだった。


 由香は、スマホを手に取り、佐藤への返信画面を開く。


『今回はお断りでお願いします。

 お話ししやすい方でしたが、

 もう一度会うイメージがまだ持てませんでした』


 送信ボタンの上で、指が止まる。


(これ、失礼かな)


 でも、嘘は書いていない。

 感情をごまかしていない。


 由香は、送信した。


 数分後、返信が来た。


『承知しました。

 理由もとても分かりやすいです。

 由香さんの感覚を大切にしてくださいね』


 その文を読んだ瞬間、

 由香は思わず息を吐いた。


(……怒られないんだ)


 誰にも責められない。

 説教もない。


 断ることは、

 失礼でも、わがままでもなかった。


 ただの判断だ。


 由香は、ソファに深くもたれた。


(私、ちゃんと断れた)


 それは、地味だけれど大きな変化だった。


 これまでの由香は、

 「断る=悪者になる」

 そんな感覚をどこかで持っていた。


 だから、

 会わない。

 選ばない。

 やめる。


 そういう行動を、

 自分に許せていなかった。


 でも今は違う。


 ちゃんと会って、

 ちゃんと考えて、

 ちゃんと断った。


 それだけで、

 自分を裏切っていない気がした。


 スマホが、また静かになる。


 次のお見合いが、すぐ来るかどうかは分からない。

 でも、もう怖くはなかった。


 由香は、キッチンでお茶を淹れた。

 湯気を見ながら、ふと思う。


(婚活って……減点方式じゃないんだ)


 合格点に届かなかったから切る、のではなく、

 「違った」と確認していく作業。


 遠回りに見えて、

 実は一番、自分に優しいやり方かもしれない。


 由香は、マグカップを両手で包み、静かに笑った。


 今日は、何も進んでいないようで、

 確実に一歩、前に進んでいた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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