第13話 画面越しの二十分で、すべては決まらない
お見合い当日の朝、由香は目覚ましより早く目が覚めた。
平日よりも、休日の方が緊張するようになったのは、いつからだろう。
(……まだ、朝だよ)
天井を見つめながら、深呼吸する。
今日一日は、この二十分のために存在しているような気がして、少し大げさに感じた。
シャワーを浴び、髪を乾かし、服を選ぶ。
デートほど気合を入れるのは違う。
でも、部屋着は論外。
結局、シンプルなブラウスと落ち着いた色のカーディガンにした。
「ちゃんとしている人」に見える、いつもの装備。
「……画面越しだし」
そう言い聞かせながら、パソコンの前に座る。
開始五分前。
カメラの角度を直し、背景を確認する。
洗濯物が映らないように、少しだけ位置をずらした。
(何やってるんだろ、私)
自分にツッコミを入れつつも、手は止まらない。
時間になると、画面が切り替わった。
「こんにちは。初めまして」
画面に映ったのは、プロフィール写真とほぼ同じ男性だった。
少し緊張した笑顔。
無難な服装。
声は、思っていたより低い。
「こんにちは。よろしくお願いします」
由香は、自然に笑えている自分に驚いた。
最初は、当たり障りのない会話。
仕事のこと。
休日の過ごし方。
最近見た映画。
会話は、途切れない。
でも、盛り上がりすぎもしない。
(……普通)
悪くない。
でも、特別でもない。
沈黙が一瞬できたとき、由香は変に焦らなかった。
以前の自分なら、「何か話さなきゃ」と必死になっていたはずだ。
今は、相手の表情を見る余裕がある。
相手も、由香を観察しているようだった。
それが、不思議と嫌じゃない。
「オンラインだと、やっぱりちょっと緊張しますね」
男性が、少し照れたように言う。
「そうですね。でも、移動がないのは助かります」
由香がそう答えると、二人で小さく笑った。
(……これでいいんだ)
二十分は、あっという間だった。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。お話しできてよかったです」
画面が暗くなる。
由香は、しばらくそのまま動かなかった。
(終わった……)
心臓は、思ったほど早くない。
息も、ちゃんとできている。
嫌じゃなかった。
でも、「また会いたい」と強く思ったわけでもない。
由香は、ソファに移動し、深く息を吐いた。
(……これで、いいんだよね)
すぐに結論を出さなくていい。
二十分で人生が決まるわけじゃない。
スマホが震えた。
佐藤からのメッセージだ。
『お疲れさまでした。
いかがでしたか?
すぐでなくて大丈夫なので、率直なお気持ちを教えてください』
由香は、画面を見つめた。
以前なら、「どう思われたか」が一番気になっていた。
でも今は、違う。
(私、どう感じたか)
それを、ちゃんと考えられる。
由香は、ゆっくりと打った。
『嫌な感じはありませんでした。
でも、もう一度会いたいかと言われると、
まだ分からないです』
送信。
送ったあと、不安よりも納得感が残った。
(正直に言えた)
それだけで、今日は合格だ。
由香は、カーテンを開け、昼の光を部屋に入れた。
お見合いは、魔法じゃない。
一回で答えが出るものでもない。
でも――
「ちゃんと向き合って、ちゃんと判断できた自分」は、
確実にここにいる。
由香は、少しだけ背筋を伸ばした。
次があるかどうかは、まだ分からない。
それでも、もう「怖いだけの場所」ではなかった。
婚活は、
思っていたより、静かで、現実的で、
そして――
ちゃんと、自分の足で立てる場所だった。
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