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7/12

爆裂薬の荷はここで止める

夜。裏港の倉庫街。

 白報の幕とハウリ商会の旗。

 舞台では「安全デモ」と称した派手な演出。光と音が過剰だ。

 木箱には赤い印。爆裂薬の荷だ。


 俺――黒江シンは、相棒のリナと人垣の陰に立つ。

「匂うね。演出でごまかしてる」

「それと、荷運びの中に学徒が混じってる。未成年だよ」

 リナの声は低い。手はメモを走らせている。


 舞台の中央へ、勇者エヴァンが現れた。この間の入札で名を見た顔だ。

「爆裂薬は俺にしか扱えない! 今夜も安全に運ぶ!」

 拍手の録音が波のように押し寄せる。——まず飾りを脱がせ。


「――黒帯」


 俺が指をひと振りすると、黒い帯が舞台とレンズを撫でた。

 過剰な光が落ち、BGMと録音拍手がふっと消える。禁則処理。演出だけを落とす。

 静かになった港で、箱の木の軋みだけが残る。


 俺はエヴァンの胸に黒封を軽く当てた。

「三問だけだ。夜明けまでに紙で答えろ。

 一、今ここにある全箱の登録番号と危険等級。

 二、搬送員の資格条件と年齢上限、訓練時間。

 三、破損時の報告窓口と、過去一年の事故記録」


 エヴァンは言いよどむ。代わりに、ハウリ商会の係が前へ出た。

「緊急だ。善意で調整している!」

 俺は空へ字幕を三つ並べる。

〈去年:白報『未成年に危険物は触らせない』〉

〈先月:白報『在庫は番号で一括管理』〉

〈今夜:白報『善意で調整』〉


「鎖を下ろす」


 字幕が鎖になって落ち、係の足首でカンと鳴る。逆引用鎖。

「言ったことを、今も守れ」


 荷運びの列の端で、小柄な少年が手を上げた。学徒勇者ユイ。

「俺、十六。今日、『持てるだろ』って言われて……訓練は一度だけ。番号は聞いてない」

 リナが即座にメモを掲げる。「未成年の搬送。番号不明。訓練不足。——明確」


 俺は空を仰ぎ、指で活字を並べた。

「——上へ」


 夜空に一行が走る。

『登録と資格なしの爆裂薬に、契約なし』


 次の瞬間、倉庫の掲示板で契約予定札がふっと外れて落ちた。

 ハウリ商会の旗が墨色に裏返る。誰も拍手しない。沈黙だけが港を満たす。


 エヴァンが声を荒げる。

「誹謗だ! 俺は命を張る!」

「なら基準を出せ」俺は返す。「登録番号。訓練記録。年齢線。監督医。紙でだ」

 エヴァンは唇を噛む。鎖に留められた係が、目だけで助けを求めた。


 俺は処し方を告げる。子どもが読んでもわかる言葉で、短く。

「① 今夜の搬送は停止。荷は封印して明日昼に公開点検。

 ② 登録台帳(番号・等級)と訓練基準、年齢上限を掲示。未成年の搬送禁止。

 ③ 破損時の窓口と事故一覧を毎月掲示。

 ④ 学徒を使った分は、七日間の安全作業(片付け・標識設置)でやり直し。報酬はそのまま払え」


 ユイが小さく息を吐く。

「俺、やる。片付けも、標識も」

 リナがうなずく。「生きて帰るための仕事を、ね」


 白報の係がまだ粘る。

「数字が落ちる。派手さがない!」

「派手さで命は守れない」俺は切った。「紙で守れ。番号と線引きで」


 港の空気が変わる。怒鳴り声が減り、足音が増える。

 監督役の職人が前へ出た。

「番号、今すぐ写す。明日昼、誰でも見られるように掲示する」

「録音も残す」リナが補足する。「聞き逃しをなくすため」


 やがて——

 東の空が灰に滲み、倉庫の影が短くなる。

 ハウリの係の胸の黒封が、ひとりでにパキンと割れた。未回答の分が残ったのだ。

 衣の内ポケットの契約札が砂になってこぼれた。加護が錆びる音はしない。ただ、力が抜ける。


 係は顔を上げ、はっきり言った。

「番号は出す。年齢線も引く。未成年は使わない。……それを紙に載せてくれ」

「全文載せる。白紙の枠は空けてある」

 俺が答えると、彼は小さくうなずいた。


 ユイが恐る恐る聞く。

「俺……怒られる?」

「怒らない。告げたからだ」俺は言う。「守る側に回れ。明日、案内役をやれ」

 ユイは顔を上げた。「……やる」


 リナが袖で俺の手を見た。

「指、熱い?」

「熱い。焼けてはいない」

 真を打った。誤字はない。

 喉の奥には、また小さな空白が残った。禁則処理の代償。いつかの原稿の一行が、ふっと抜けている。——でも、必要なほうは残る。


 黒い一行は薄れ、港に朝風が入る。

 封印された箱の上に、白い紙が一枚。

 『昼、公開点検。番号と基準を掲示します』

 字は大きく、読めばわかる。子どもにも。

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