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5.センジンノチエ

ニルカナヤカナの街を後にし、レオンとミリア、そしてセブンスはウィルロードを渡っていた。ウィルロードはニルカナヤカナとその北西に位置するヤルサナの間を繋ぐ街道である。そのまた昔、世界の創世記にウィリアムという青年が意地悪な神に"一夜にして何十キロも離れた二つの街を繋ぐ道を作れ"という命令を見事成し遂げたことに由来する。ウィリアムはニルカナヤカナ出身であり、作れなくばニルカナヤカナを焼き尽くすと脅されたそうだ。ウィリアムは道建設までの数日の猶予の間に牛を150匹以上を持ち上げては運ぶことで集め、大きな鉄板を引きずらせて道を整備した。神はウィリアムを力持ちで稀に見る正義感溢れる、人類の希望が詰まった人間であることを認めた。しかし、ウィリアムは全てを力で解決してしまうがあまりに叡智がないと残念に思った神は、一つの知恵をウィリアムに与えたとされている。それがニルカナヤカナに古来から伝わる最初の魔導である。ウィリアムは力と魔導を極め、次々と兵器や武器を作ってはその作り方も魔導も皆に伝えた。ニルカナヤカナは瞬く間に噂を聞きつけた他の街の者で溢れ返り、今のような貿易の街へと姿を変えて行ったのである。

レオンが老人から受け取った魔導書、それはウィリアムが授かった魔導が書かれた本であった。レオンは気難しそうに本を見つめながら歩いている。その横でセブンスに乗ったミリアがずっとソワソワしている。


「ねえねえ、なんかわかりましたか?火とか吹けたり、風を操ったりできるんですか?!」


ミリアがついに痺れを切らして口を開く。レオンはうーんと難儀を示し、答える。


「こんなん魔導でもなんでもないな。地域の特徴とか気候とか、自然現象を上手いこと利用して使うもんばっかだ。先人の知恵を使った戦略の本っぽい。それ以外は使えるかもわかんない魔導ばっか。爺さん役に立つとか言ってたけど大丈夫か…?」


ほれと言ってレオンはミリアに本を投げ渡し、よっとミリアは受け取って目を通す。


「本当だあ。確かにそれっぽいものもありますけど、突拍子もないものですねぇ。魔導なんて数百年前に最後の魔導士が消えてなくなったと聞いたこともありますし」


とガッカリした様子でボソボソという。相当期待していたのだろう。レオンはんなことできるわけ毛頭ないだろと呟く。ミリアはそれでも本を読んでるとおっとあるページに目を留める。


「これ、私の一族のこと書いてありますよ!ほらここ!筋肉を増強する術!!ニルカナヤカナで話したことが書いてあります!しかも全く同じ原理です!!」


レオンは驚き、ミリアから見せてみろと本を奪う。あちょっととミリアは不貞腐れた。セブンスは欠伸をしながらただただ歩いている。


「本当だなこれ。ヒューバルト家の体質じゃなかったのかこれ」

「まあ体質っちゃ体質ですけど、最初の方は訓練もします。筋肉がほぼない幼少期から重いものを持ち上げたりして、筋肉とエネルギーの使い方を体に刻むんです。ってことは、できる魔導もあるんじゃないですか?!」


2人は頭がぶつかりそうな程に近い距離で本を覗き込み、できそうな魔導を探す。その中に一つだけ、初心者に向けと書かれた魔導を見つける。


「「相手を埋める術…?????」」


説明を読むとどうやらそのままの意味であり、相手を蟻地獄のような罠に嵌めて埋めることができるようである。使い方はシンプルであり、手のひらを地面に当て、術を使いたい場所を強く意識する。そして地を手のひらで吸い込むように意識しながら思い切り腕を上げると魔導が発動されると書いてあった。2人はそんな馬鹿なと笑いつつも、半分本気で試してみるかと試すことになった。セブンスはできるわけないだろと言わんばかりにため息をつく。レオンは目の前を渡る蟻を見つけ、手のひらを地面に置く。ミリアは息を呑んでレオンを見つめていた。レオンは蟻が歩く地点を強く意識する。するとレオンは身体で地面の下がどのような地形になっているかを感じとれた。蟻の巣の在り方、動物の存在、地層の構成。レオンは力を入れ、地面から手を離そうとする。しかし、中々手は離れない。


「ちょ、ちょっとなにからかってるんですか!本当はできないからってそんな」

「まじだ!!まじで手が離れねえ!!まるで地面が俺の手を引っ張ってるかみてえに!!」


レオンは身体全体を使って手をあげようとする。もはや汗が身体中から吹き出し、顔は赤面、筋肉は熱を帯び始めている。レオンの周りから白い煙が立ち込め、その煙はレオンから出ているようである。レオンは叫び、力を振り絞って手を振り上げた。地面から凄まじい地響きのような音が響き渡る。そして、ミリアが蟻の方を見ると


「え。なんですか、あの枝で少し掘ったかのような蟻地獄」


蟻は少し足元を崩した程度で蟻地獄を難なく渡って行った。レオンは腕を振り上げた反動で仰向けで倒れており、息を切らしている。ミリアはそんなレオンに気遣って声をかける。


「す、すごいですよ!できたじゃないですか!!ちょっと小さいですけど相手を怯ます程度は…」

「だまれ…」

「はい…」


セブンスは依然欠伸をしている。


------------------------

午後6時


辺りはすっかり暗くなり、ウィルロードの道端で焚き火の火が辺りを照らす。道の横はある程度開けているため、索敵には優れている。


「どうやったら人1人埋めるくらいでかい蟻地獄作れんだよ。無理だよ無理あんなの。こっちが先に死んじまうって」


とボソボソと呟きながらレオンはマシュマロを火で焼いてる。


「まー偉大な魔導使いだって最初はそうなんじゃないですか?そもそも魔導を使えるってだけでも相当な功績な訳ですし」


んーそうかなあとレオンは熱々のマシュマロを一口で頬張る。もちろん、口の中は大火傷で、はふはふと顔を縦横無尽に無意味に振る。


「そんな熱いやつ食べるだなんてレオンは馬鹿ですね〜。ほら、こう、ふーっふーっとしてえ」


そういうとミリアは"ふーっふーっ"しただけの熱々のマシュマロを頬張る。言うまでもなくレオンの二の舞であり、馬鹿のデュエットである。博識で、力もあるコンビであっても常識がなくては不自由である。ドヤ顔で食べたミリアが苦しむのを見てレオンはバーカと囃し立てては、ミリアがムキになって喧嘩になる。ムキになった2人は誰にも止められず、ついに口で勝てないと判断したミリアはレオンを自慢の筋肉で10メートルほど投げ飛ばす。ミリアは自分のしたことにあっと気づき、やってしまったという表情をする。ミリアの前には宙に浮かび、突然の出来事になす術もないレオンがゆっくりと地面に落ちていく。レオンが落ちた後、ミリアは慌てふためいたが、すぐにレオンに謝った。


「ごめんなさい!本当、本当わざとじゃないんですよ!なんていうかじゃれあい的な?愛のあるじゃれあいで!!!」


レオンはかなり激怒している。レオンは幼い頃から負けず嫌いであり、姉のエリーヌが口達者で負けず嫌いであるように、レオンは腕っぷしと根性では右に出るものがいなかった。レオンは馬鹿にされた上に、投げ飛ばされたのだ。一応言っておくが、彼はニルカナヤカナで老人に大人びた返答をしていたが、まだ齢18の青年である。


「お前ぇ…」


ミリアは激怒するレオンにヒッと声を立て、走って逃げた。その束の間、レオンは手のひらを地面に接し、あの魔導の構えをとる。今度は地面に亀裂が入り、レオンからは煙が出ない。亀裂はミリアを追うように、しかも速く割れていく。


「うおあああ!!!」


ミリアの足元には大きな渦が撒かれ、それはさながら巨大な蟻地獄の渦であった。ミリアはどんどん地に埋まっていく。


「本当にごめんなさい!!まじで!!ガチでごめんなさい!!」

「ふざけんなあああ!」


ウィルロードのいつもは閑散とした夜に、謝罪の声と怒号が響き渡るのであった。そして、レオンは渦の魔導を習得したのであった。

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