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3.ニルカナヤカナ

ソングバードの強襲から一夜明け、正午。レオンとミリアはもう既に消え灰しか残らぬ焚き火の跡に雑魚寝をしていた。2人のイビキはセレンフェルの森に響き渡る。なぜ2人は起きないのか。それは2人を囲うように生えているニュルンメリ、通称"酔いどれの木"と呼ばれる木の存在が物語っていた。スレイヤーであるヒューバルト家はその豪快さでも名が知れており、その日害獣である"ユガイ"を殺すとその魂が天国へ行けるようにと酒を飲み、宴会をし、魂を持て成す。しかし、18歳である2人、しかも下戸であるレオンにとってはその宴は致死量の酒を浴びるようなものである。ましてやニュルンメリから取れる"酔いどれの蜜"は体内に蓄積するほど発酵が進み、人間の代謝を利用してアルコールを生成する。つまり、足し算ではなく累乗の形式で酔いは進行する。もはや泥酔も泥酔である。

そんなわけで未だ深く寝ている2人の横に、ある小さな影が忍び寄っていた。その影はミリアの宝刀を持ち去ろうと持ち上げようとした。だが、1.5メートルにも渡る大剣である。小さな影程度が持ち上げられるはずもなく、影は悪戦苦闘を強いられていた。影は己が力を振り絞り、ついに少し浮くくらいに持ち上げることに成功した。しかし、気が抜けたのか、小さな影は大きな音を立て、剣を落としてしまった。その瞬間、レオンとミリアはハッと目を覚まし、剣の方を瞬時に目を向けた。レオンとミリア、そして小さな影の目が合う。寝起きの二者を含む三者はお互いの状況に理解できず、ただ目を合わせるのみだった。風がひょーっと吹く音、それにより木々が立てるざわめき、遠くで鳴く動物の声が空間を満たしては消える。しかし、レオンとミリアはその影が剣を持ち去ろうとしたのだろうということを悟り、また影は悟られたことに気づきつつあった。旅前夜に酔い潰れるレオン、罠にかかりにいくミリア。後先考えない2人が考えつくことは不思議と同じである。


「「捕まえろー!!!!!!!」」


影はビクッとし、走り始める。草木を小回りを効かせながらかなりの速さで駆け抜ける。まるで猫が街を駆けるようである。レオンとミリアはすぐに追いかけようと立ち上がり、走り出す。しかし、ここで気づく自身らの二日酔い。ミリアは地面に向かって頭を打ち付け、レオンは唐突の吐き気から茂みに頭を突っ込む。本当に一年の旅で成長するのかと言いたくなるような光景に、セブンスはやれやれという表情を浮かべた。ここで、セブンスはどちらを背中に乗せてやるべきかと考える。しかし、昨日のソングバードを思い出したセブンスはミリアを乗せることを即決する。セブンスは自分の馬具に体を寄せて荷物袋をひっかけ、ミリアに鎧を寄せてやる。ミリアは死にそうな声でありがとうと言い、鎧を不細工に着てセブンスにまたがる。セブンスは小さな生物が走る音に耳を澄ませ、道を同定して勢いよく走り出す。


「し、しぬ!!!!!本当に!!セブンスゆっくり振動ないように!!!」


セブンスの苦悩が思いやられる。


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ミリアとセブンスが30分程度かけて森を駆け抜けると、そこには一つの街が広がっていた。ミリアはもう二日酔いが冷めており、地図を取り出して場所を調べた。


「ほほー…?ニルカナヤカナ…?たしかここも通る予定だったんだよね。ラッキーだねセブンス!」


そう言ってミリアがセブンスを撫でると、セブンスは満更でもなさそうに鼻を鳴らした。


「あ、そうだそうだ。あの小さな影を追いかけてたんだった!…あれ。レオンは?セブンス?」


セブンスはびくっと体をこわばらせたが、その直後、後ろからおーい!と大声を上げながらレオンが走ってきた。


「お、おはよう!朝からいい運動だねえ」

「10キロも走り続けたんだぞ…セブンス…どういうこうだこれ…」


息を切らしながらセブンスに詰めるレオンに、セブンスは申し訳なさそうに頭を下げた。


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午後2時


「あーあ食った食った!自分の作るのもいいけど、やっぱり店の飯の方が美味いなあ」


レオンとミリアは村の外側にセブンスを放し、村の店で2人は腹ごしらえをしていた。


「それにしてもミリア、よくそんなちっさい体で俺よりも食うな。どうなってんだ?」


ミリアは身長160センチもない。1.5mの大剣を振り回すにしては筋肉は見た目についておらず、むしろ華奢な体型である。長い黒髪を後ろで束ねながらミリアは答えた。


「ヒューバルト家の体質ですよ。代謝スピードが常人に比べ超越してるんですけど、その代謝の産物であるエネルギーを一気に消費する形で筋肉を一時的に増強、増幅する効果を得てるんです!ちなみに今はこんな量ですけど狩するとですね」


とまたミリアのお得意のお喋りが出てきたところでレオンは勘定を済ませ店を出た。

ニルカナヤカナはノルグラードに負けずの大都市であり、王都であるノルグラードが襲撃されぬよう砦としての役目も果たしている。そのため王都ほどではないがかなり栄えており、交易や武器商売が特に盛んな都市となっている。

ミリアはニルカナヤカナの彩られた建物からなる色とりどりの街を眺めてあることについて疑問を唱えた。


「私たち、何しにきてましたっけ?」


レオンはうーんっとしばらく考えたのち、知らんと言い放った。


ニルカナヤカナの街は貿易の街なだけあって、様々な商人やお店で溢れかえっていた。武器の店はもちろん、薬屋、機械屋、酒場、食料屋など多種多様にわたり、欲しいものは全て手に入る。2人は歩きながら、時にはお菓子を片手にニルカナヤカナの街を眺めていた。そこで2人はふと古びたアンティーク屋を訪れた。外装は隣に面している店よりもうんと古そうだった。ショーケースには昔ながらの顔が描かれたマネキンにツバの広いレースがついた帽子、華やかなドレスが着せられいた。よーく見るとドレスと帽子に"SALE"とかかれた古紙のタグが付けられている。建物は二階建てであり、入り口は回転式のドア。ドアのガラスの向こうには蝋燭をつかうシャンデリアが見られる。2人はドアを回し、中に入った。意外と奥行きがあり、壁際と中央の長いテーブルにぎっしりと商品が敷き詰められてる。中は薄暗く、店員は見えない。


「意外とアンティークとかお好きなんですねぇ」


と宝石の装飾が施された鏡を見ているレオンを、鏡越しにミリアは覗く。


「まあな。親も目がなかったし。案外こういうのは近代の文化とか紐解くのに使えるんだぜ。ほら、こういうステンドグラスの電気スタンドとか」


そう言ってレオンが電気スタンドに触れると、ビキっと歪な音がした。一瞬で顔が青ざめた2人は綺麗な彩りのステンドグラスに大きなヒビが入っているのを見つけると、慌てふためいた。レオンは冷や汗のあまり硬直し、ミリアは泡を吹いて今にも倒れそうになっていた。そうすると、奥からガチャガチャと物を掻き分けて誰か来ることを察すると、咄嗟に2人は電気スタンドを後ろに隠した。奥から出てきたのは髪がなく、髭を長く蓄え、茶色いローブを羽織った老人である。眉毛の毛量が多く、目元は見えない。老人はただ口をモゴモゴとさせながら、2人を眺めている。


「このまま逃げられそうか?いけるか?」


レオンは小声でミリアに囁く。ミリアは小さく頷き、口を開けた。


「あ、あー。すみません、勝手に入ってしまって…まだ閉店中でしたか…?とりあえずまた後で来ますあははは…」


とミリアはその場しのぎの言葉をいい、店を後にしようとした。


「おい。」


と老人は2人の後ろ姿に声をかけた。2人の肩が僅かにピクりと浮く。


「スノウフィールドの息子か、お前は。」


その言葉にハッとし、咄嗟にレオンは振り返った。突然の"スノウフィールドの息子"という言葉にレオンは自身の親を想起した。

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