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ファラオから教わったこと

作者: 宮智沙希

初めてファラオと食事をした時、瞳の綺麗な人だなぁと思った。


エジプトから、都内の私立大学に留学に来ていた彼は、けして裕福ではなかった。


学費を工面するバイトに追われ、睡眠時間を削って勉強していた。


カイロ大学の観光学科を卒業した後で、日本語の魅力に惹かれ、改めて日本語を学ぶために来日していた彼は、とても優しい人だった。


大学院を卒業したら、結婚しよう!そんな彼の言葉を疑ったことも無いほど、常に私を喜ばせようとアクセサリーやハンカチなど、当時の彼にとっては安くないお金をはたいて、常に愛情表現をしてくれた。


豚肉は食べない、酒は飲まない、そんなイスラム教の教えを不思議に思ってはいたけれど、結婚したらイスラム教徒になるのかと、なんとなく受け入れてもいた。


ディナーを食べに行くと必ずお店の人におすすめは何ですか?豚肉は使われていますか?と話しかけるのが常だった。


彼は私を、トムトムと呼んだ。


私たちは可能な限り、一緒に過ごした。


唯々諾々って、意味わかる?と、ファラオに聞かれ、知らないと日本人の私が答えるのも、よくあることだった。


トムトムも唯々諾々になって!嫌だ!そんなやりとりを思い出し、懐かしい思い出に心が暖まる。


一生、一緒に居ようと言っていた私たちの交際は、二年二ヶ月しか続かなかった。


テレビ局の依頼で、通訳翻訳の仕事がちょこちょこ入るようになった彼と英語すら人並みに話せない私。


せめて、英語だけはネイティブ並みに話したいと大学の派遣留学に応募し、奇跡的に受かった私にファラオは言った。


僕は遠距離恋愛はできないと。


私は、成長したかった。いつまでも、ファラオの胸の中で泣いたり、愚痴ったり、ついついわがままばかり言う自分になんの自信も持てなかった。


私は、ファラオの才能と努力に嫉妬した。彼の成功を心から喜べない自分が大嫌いだった。


家族に紹介したいからと、パリやエジプトに婚前旅行に連れて行ってくれたのに。


彼には感謝しかない。メディアで彼の成功を目にするたびに、今は心から喜びを感じるようになった。


私は、普通の日本人として、普通に生きている。豚肉も食べるし、お酒もたまに飲む。


友人からは、未だにファラオと結婚しとけばよかったのにと言われるが、私には今の私にはもったいないくらいの優しく美しい娘がいて、気のいい男友達もいる。


ありがとう。さようなら。


ファラオも私も、別々の道を選んだ。


少なくとも、今の私は私が昔の小娘だった自分より好きだ。

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