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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
016-AED 全3話
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016-AED 3 <不同意わいせつ?>


 橋本君は『もうお腹いっぱい』という表情で、安野研を辞去しようとした。でも安野はそれを許さない。

 「おっと!まったぁ! 橋本君。学内への一般向けAED設置と配備にはもう一つ大きな問題があるんだ。」

 「もうお腹いっぱいです。」

 「まあ、そう言わないで。」

と言って、安野は戸棚からカントリーマームの大袋を取り出し、小鉢に入れて橋本君の前に差し出した。

 「え〜と、コーヒーのお変わりはいるかな。」

 「これでコーヒーをもう一杯もらうと話しが長引きそうです。」

 「でも、この話しはもともと橋本君が相談しに来たんだよ。」

 「…」


 「さっき、危険の分析は、『設備・人間・環境』という3要素で分析しなければならないと言う話しをしたよね?。もう一つは環境についてだ。」

 「環境って?」

 「社会環境だよ。 まだAEDを使った救命救急は社会のコンセンサスを得ていない。」

 「どういうことですか?」

 「まず、その使用に関して法整備が十分にされていまい。 例えば、女子学生が倒れた時、君は躊躇無くAEDをセットできるかな? 僕にはできない。躊躇してしまう。」

 「救急救命ですよね。そんな躊躇する余裕など無いでしょ。」

 「でもね?AEDが本当に必用かどうかは、その女子学生の胸を露出させて、つまりブラジャーをたくし上げて胸を露出させて、AEDのパットをセットしなくちゃならない。そこまでやって、『AEDは必用ありません』って機械に判定されたら… 気まずいでは済まないよ。どうするよ?」

 「気まずいですね。」

 「気まずいどころか、犯罪とみなされても反論できないよ。気絶している女の子に対する強制わいせつだよ。」

 「…救命処置でも?」

 「それが救命処置かどうかは、ある意味、結果論だよ。」

 「…」

 「強制わいせつは『親告罪』だよ。1年生はまだ未成年(2007年の時点では19才までは未成年でした)だから、親が出てくることもあるだろう。現場の状況を見ていない親にしてみれば、未成年の娘が公衆の面前で胸をはだけさせられた、と警察に訴える場合も想定される。 だから、せめて学内ルールの制定が必用だな。使ってよい事態の明確化、明文化とその周知は必須だよ。 それと、顧問弁護士か法学部の先生の意見も聞かなきゃぁね。 南キャンパスのように『お医者様』が処置実行者になって、「これは救急救命行為だ」と認定することができるのなら、問題ない。でも北キャンパスには保健管理センターにしかお医者様や医療関係者はいないんだよ。」


 「AEDの導入は『危険』ですね。」

 「いや。その考え方は間違いだ。AEDで命が助かる可能性が高まるのは間違いない。AEDの使用を躊躇してはいけない。だからこそ、いろいろな準備が必須なんだよ。 皆に認知してもらわなくてはならない。」


 安野はコーヒを啜りながら、まだ何か考えている。

 「後は…野次馬対策が必用だな。」

 「野次馬?」

 「人が倒れた、というイベントがあれば、廊下でも教室でも野次馬が発生する。特好奇心の強い学生は「何事か?」とたかって来る。そんなところで胸を露出するのは、男女関係なくボクでもイヤンだよ。」

安野は自分の胸を抱き身をよじらせた。


 「なるほど?」

 「善意の野次馬ほど厄介なものは無い。「何か手伝うことはありませんか?」と聞いてくるけど、知識が足りないから、何か指示しても実行できないでうろうろする。 「僕は彼の友達です」とことさら関係性を根拠に関わろうとするけど、経験も能力が無い。 そう言う奴らに対する学内ルールの作成と周知は必須だ。」

 橋本君は頭を抱えている。

 「まあ、橋本君。がんばってくれたまえ。あとは任せた。」

そう言って安野はカントリーマームを齧りながら、コーヒーを口に含んだ。


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