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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
016-AED 全3話
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016-AED 2 <AEDはどこ?>



 呆けた橋本君が正気を取り戻すには、1分ほどかかった。

 「先生、心臓マッサージについての教育の必要性は、よ〜くわかりました。 でも、それとは別の話しとして、やはりAEDは必用でしょうか?」

 「現時点では、あればあるに越したことは無いよ。危険分析の3要素は『設備・人間・環境』だけど、設備の不備を補う対策になる。いまけに人間、つまり心臓マッサージ教育などのきっかけになる。」

 「なるほど。」

 「教職員や学生への救急講習会を行う言い訳になるよね。」

 「そうですね。本当にそうです。」


 安野と橋本は少し冷めたコーヒーを一口すすった。苦かった。

 「でもね、10台は少ないなあ。」

 「適切な台数はどのくらいですか?」

 「わかんないけど、うちのキャンパスは広いからなあ。まあ、高い建物は南キャンパスの病院棟だけなのが幸いなんだけど。」

 「広さと台数は関係するんですか?」

 「そりゃ、要救助者が心房細動になってから、どのくらいの時間で心臓マッサージや電気ショックを行えるかで、救命率は全然違うからな。 救命曲線って知ってるかな?」

 「聞いたことはありますけど…」

 「救命曲線はシグモイドになる。救命できる確率は心臓停止から5分で50%程度だよ。3分以内なら75%、7分で25%などと言われている。でもね、10分でほぼゼロになる。」

 「5分で半分死か助からないのですか。10台で北キャンパスをカバーするのは難しいですね。あまり時間的余裕はないですね。」

 「見積もりが甘いよ!橋本君。心停止した要救助者を見つけて、AEDを持ってくるかどうかの、周囲の人の判断煮必用な時間、タイムロスは計算にはいっているかな?」

 「あっ!」

 「そして、現場でAEDをセットする時間も当然必用だよ。上半身の服を脱がせて、通電パッドをセットするだけで1分や2分かかるよ。」

 「残り2分ですか…」

 「片道だと1分だな。誰かに電話して持って来てもらうにしても、説明のタイムロスがある。 …それに、電話に『誰もデンワ』では使えない。」

 「間に合わないじゃないですか。」

橋本君は絶望的な顔で安野を見つめた。


 「だから、その場ですぐに心臓マッサージをおこない、救急車が来るまでの時間稼ぎをしなくちゃならないんだよ。 AEDも有効だけど、皆が心臓マッサージできるようになることの方が、救命には有効だと僕は思うね。 下手にAEDがあるから、その機械的な判断と指示に従おうとして、現場での救命対応を怠ると、むしろAEDの設置が救急救命の害になる場合もある。 現場で直ぐに心臓マッサージを行いつつ、救急車を呼ぶ。AEDは時間稼ぎの手段の一つだと割り切って考える方が良いと思うよ。」

 「じゃあ、先生。この北キャンパスにAEDを何台設置すれば意味が出てくるんですか?」

 「そりゃ1台でも意味はあるよ。でも、本当に意味を持たせたければ、消火器と同じくらい欲しいだろうね。 少なくとも各建屋に1台はほしいなあ。」

 「先生! 北キャンパスに何個の建屋があるかご存知ですか。」

橋本君が悲鳴を上げる。

 「知らないよ。小さいのを入れれば100?くらいかな。」


 「ついでに言うと、AEDの設置や保管の方法も問題になるな。」

安野はクーヒーをもう一口啜った。冷えたコーヒーはマズくなっていた。

 「設置?保管?と言うと?」

 「消火器の場合も定期点検は必須だよね。それに加えて、『ここに消火器があるぞー』って掲示が必用だよね。建物案内図にも記載しなくちゃならない。消火栓は常時赤いランプで存在感を示しているよね。」

 「なるほど?」

 「AEDの装置は比較的高価だけどポータブルだから、イタズラされやすい。盗まれたら大変だ。しかし、緊急時にすぐに持ち出せなければ意味が無い。 盗難を恐れて、事務室の鍵を掛けたロッカーの中に入れたら、使い物にならないよ。」

 「隠し持っていたら使えない、目立たせば盗まれるということですね。」

 「その通り。AEDは現場に運ぶことを前提にしているから、持ち去りやすいんだよな。」

 「ダメじゃん。」

《君は学生と同じリアクションをするねえ。『ダメじゃん』がはやっているのかな?》と安野は苦笑した。


 「だから、AEDの設置にはそれなりの装置以外の費用がかかるよ。」

 「具体的には?」

 「例えば設置場所は、それぞれの学部や組織の事務室の廊下にAEDステーションを設置する。それを教職員や学生に周知する。そして、設置ステーションからAEDを取り出したら大きなブザーや警報音が鳴るようにしておく。AEDを使わなければならない事態はとにかく緊急事態だから、泥棒さんへの警告よりも周りに『大変だ』とおもわせるような仕組みにする。」

 「なるほど。」

 「で、その警報は、火災警報システムと同じように本部の警備室へも連絡がはいるようにしておけば、抑止効果はあるだろうな。ついでに、AED本体にも非常を知らせるサイレンを付けておくとか…」

 「検討します。」


 「そして、AEDの『電源』も考えるべきだな。おそらく市販のAEDはスタンド・アローンだから、定期的に電池交換しなくちゃならないよ。 だから、購入よりもレンタル・リースが現実的だな。リースなら保守点検契約しておけば、定期メンテもしてもらえる。 維持費はそれなりにかかるけどね、」

 「今回のは単年度予算だからレンタルやリースは無理ですね。」

 「知らないよ。そんなことは。 お金関係は統括と相談してください。」

安野は統括とあまり仲が良くない。だから、ここから先の面倒を見る気はない。橋本君に丸投げだぁ。


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