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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
016-AED 全3話
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016-AED 1 <AEDって何?>


 「う〜ん。僕には理解できないんだが。AEDの北キャンパス設置を安全衛生部が行うのですか? それって、保健管理センターが行うべきことじゃないんですか? 何で橋本君がそれで困っているのかな?」

 橋本君が困った顔をして安野に相談に来ている。また、上司から無茶ぶりされたのかな?

 「でしょぅ! でしょぅ! そうでしょ! それがすじですよね! でも押し付けられて困っているんです。 先生! 助けてください。」


AEDはAutomated External Defibrillatorの略だ。日本語だと自動体外式除細動機になる。でも、日本語で呼ぶ人はあまりいない。日本語で呼ぶときも略して『除細機』とか、『除細動機』と呼ぶ。心房細動、つまり心臓が痙攣して上手く機能しない状態を止めるための救急救命機器だ。

 2007年の現時点において、AEDの大学への設置について法的な義務は無い。あくまで安全配慮義務に基づいての設置である。そもそも一般の人へ、AEDの使用が解禁されたのは、たしか2004年でそれ以前は医療機器として誰もが使えるものではなかった。そのため、誰もが使える状態のAEDは設置されていなかった。

 

 「僕もAEDの存在は知ってるけど専門家じゃないよ。その分野の専門家は南キャンパスの付属病院に沢山いるんじゃないの?」

 「…います。でも、北キャンパスまで面倒をみるのは『イヤ』だって。」

 「そもそも設置義務の無いAEDを導入しようと言い出したのは誰なの?」

 「…大学病院長です。設置義務は無くても、安全・安心を目指すうちの大学には必用だって…」

 「あの統括(統括安全衛生管理者)の先生か...。新しいモノ好きだし、他大学にもアピールできるからかな? それなら、なおさら病院側にお願いするべきじゃないの?」

 「それが、南キャンパスのスタッフには、北キャンパスの『状況』が把握できないから、北キャンパスの状況をよく知っている本部の『安全衛生部』に設置を押し付けてきました。」

 「まあ、キャンパスの安全性を高めるために、AEDの設置は悪くはないと思うけど。 で、…本音は?」

 「安全関係の予算消化だと思います。」

 「予算はどのくらい?」

 「300万弱です。」

 「次年度は?」

 「ありません。」

 「ダメじゃん。300万じゃ値切っても10台も買えないょ。」

安野は両手で顔を覆った。


 安野はうつむいて、しばらく腕組みをして目をつむっていた。それを心配そうに橋本君が見ている。

 そんな橋本君に安野は言葉をぶつけた。

 「橋本君、AEDの設置だけでは、人の命は救えないよ?」

 「えっ? 装置のパッドをあてて電気を流せば心臓が動き出すんじゃないんですか?」

 「違う、違う。AEDは心臓を動かす装置じゃなくて、痙攣している心臓の動きを止めるものだよ。だから、AEDを使用した後に心臓マッサージを行わなきゃ、心臓は止まりっぱなしになる。AEDだけでは、急病者にトドメを刺すことになっちゃうよ。」

 「えっと? 心臓マッサージって、あの自動車教習所で習う奴ですよね。」

 「そうそう。1回AEDで心臓のダメな動き、つまり心房細動を止めて、その後心臓マッサージを行って、心臓を再起動させるってことだなぁ。もっともこの説明も正確じゃない、噓も方便だな。」

 「じゃあ、AEDは『危険な治療行為』じゃないですか。」

 「その通り、だから自動診断機能、つまり電気ショックの必要性などを装置がモニターして判断できるようになるまで、一般人は使ってはいけない装置だったんだよ。」

 「じゃあ、心臓マッサージをやればよいわけですね。」

 「それがねぇ、そんなに簡単じゃないよ。  おーい! 山田君。」

安野は4年生の山田君を呼んだ。山田君は「へ〜ぃ」と間抜けな返事をして橋本君と安野先生が話し合いをしている准教授室にやってきた。

 「山田君。君、心臓マッサージを知っているよね?」

 「えーと、応急処置ですよね。」 

 「そうだ。どうやるか知っているかな?」

 「やったことはありません。」

 「君、運転免許はとっているよね。教習所で習っただろぅ?」

 「僕は教習所じゃなくて自動車学校の方ですけど。一応、習ってます。」

 「このクッションを患者の胸部に見立てて、心臓マッサージをやってミソ?」

 「ドレドレ。え〜っと? こうだったかな?」

山田はクッションの表面をスリスリとさすりだした。この展開を予想していた安野ですら唖然とした。いわんや橋本君は白目を剥いて口をぽかんと空けている。

 「う〜ん。さすが山田君。期待を裏切らないアクションをありがとう。でも、それじゃダメ! 教本を見直しなさい。」

 「じゃあ、こんな風ですか?」

山田君はクッションの一部分を掴み、「ウヒヒ」とにやけながら揉みはじめた。

 「…山田。コラ! いいかげんにしろよ。」

安野は山田を准教授室からたたき出した。橋本君はもう息をしていなかった。


 「橋本さん。…ということだ。どんなに設備をそろえても、それを使う教職員や学生が基礎的な知識や心臓マッサージそのものを知らなければ、AEDもただのお飾りだ。 君や僕や、そして南キャンパスの医学部や大学病院の人には当たり前の心臓マッサージでも、多くの学生は全然知らない、できないんだよ。 まずは教育から始めようよ。 って…お〜い。橋本君! 息をしているか?」

 橋本君が呆けてしまって…正気に戻らない。

 《これは橋本君に救命救急処置をしなければいけないかな、マウス・トゥ・マウスの人工呼吸はイヤだなあ。》

 と安野は思った。


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