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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
015-挨拶の効用 全3話+3話
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015-挨拶の効用 2 <意思の疎通 机上避難訓練>

誤字のご指摘、いつもありがとうございます。

定年まで後3ヶ月を切りました。忙しく、見直しが雑になっているようです。

 安野が大学講師になったばっかりの4月のある日、研究室で机上避難訓練を行うことにした。学生さん達とセミナー室で火災発生時の対応を議論した。

 「さて、想定は603室で火災発生。消火器では消しきれそうもない。火は天井に達している。さあ、何をする?」

ブレインストーミングだ。やるべきことをホワイトボードに搔き出していく。

 「119番に通報します。」 

 「まて、工学部の事務室に通報する方が先じゃないか?」

 「壁に貼ってある緊急連絡先には両方書いてありますよ?」

 「まずは研究室のメンバーに知らせないと…」

いいぞ。いろいろな意見が出て来ている。しかし、これでは不十分だな。安野はホワイトボードに書かれている連絡先をまとめた。

 「さて、今のところまでで出てきた緊急時の連絡先は

・研究室の先生方

・近くにいない(授業に出ている)学生さん

・事務室(工学部と大学院)

・消防署(119)

・守衛所(消防車の誘導)

だな。その他には?」

 返事がない。

 「これで十分かな?」

安野の問いに学生が顔を見合わせて、首をかしげる。

 「十分じゃないですか? 次に研究室メンバーの点呼をして避難します。」

他の学生もうんうんと頷いている。安野の背中に冷たい汗が走る。

 「発災現場は603室だよ?」

 「だから?」

学生が、先生何をゆうてはるの?という顔をする。

 「602室への連絡は?」

 「他所の学部でしょ?」

ダ〜メだこりゃ。イカリヤ長介になっちゃった。


 「火事が起ったら隣近所の研究室の人にも知らせなきゃダメでしょ?」

 「でも、602室の先生や学生は知らへんしぃ。」

彼の頭の中では『知らない人』は『いない人』のようだ。そして、その考えは決して彼ひとりだけではなく、その他の学生も同じ様なものだった。


 安野は危機感を持って学生さん達に聞いてみた。

 「同じ階の他の研究室の人と廊下ですれ違ったとき、挨拶する?」

 「したことないなあ。」「ないねえ。」

 「前に女の子に微笑みかけて『こんにちは』と声を掛けたら、…逃げられた。」

 「それはお前さんが不審者にされたんだよ。下心を読まれたな?」

 「あの薬学部のかわいい子だろう?」 

 「お知り合いになりたいわぁ。」

収拾がつかなくなって来た。こんなんだからうちの研究室を女の子が希望しないんだぞ。


 安野は気を取り直すために大きな咳払いをした。

 「さて、その薬学部の女の子が煙に巻かれて死んだら困るだろう? 同じ階の研究室にも発災の連絡をしなければならないよ。」

 「でも、他所の研究室に連絡するのって、バリアが高いなあ。」

 「でも、命の問題だろぅ? 必ず連絡するように。 それから7階と5階4階の研究室にも連絡しないとダメよ。」

 「何でなんですか?」

 「この建物の壁面はテラスが無いつるんとした構造だから、上の階は窓から延焼するおそれがある。上の階は逃げそびれるとタワーリング・インフェルノになる。 そして、下の階は消火活動で放水があると水浸しになる。」

 「うへぇ。」

 「僕が不在の時でも、修士の学生さんが指名して、この階、上下階に非常事態を伝えるように。」

 「「へ〜い」」


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