012-リサイクル 3 <故紙>
翌月、安野は『環境センター廃棄物部門副部門長』として、月に一度の会議へ参加していた。今月の議題の一つは故紙回収業者の変更の件だった。今まで10年以上取引をしていた回収業者を別の業者に変えることの承認だ。
安野は質問した。
「委託先変更の理由は?」
橋本君が答える。
「単価が安くなるそうです。」
「どのくらい?」
「Kgあたりで10%くらい安くなると購買のヒトが言ってました。」
「その新しい業者さんは信用できるの?」
「わかりません。私が契約した訳じゃないから。それに新規参入業者だそうです。割り込むためのディスカウントだそうです。」
「新規参入業者のディスカウントって…怪しいなあ。」
「そうは言ってもねえ。業者選定と契約は購買部の専権事項だから...承認していただけますか?」
「嫌な予感がするよ? 変更はやめた方が良いと思うけど。」
「本件は審議事項ではなく承認事項です。それに、もう契約済だそうです。」
「ダメじゃん。ここで議論する意味があるの?」
「ま〜ったく、ありません。」
橋本君は憮然とした顔で答えた。彼も思うところがあるのだろう。参加者全員が苦笑した。
安野は会社員時代に、産業廃棄物として業者に委託した『廃酸』のドラム缶が不法投棄され、数年後に排出者責任で回収処理した事例の報告書を読んだことがあった。廃棄物処理業者は安いよりも信用できることを優先すべきである。そのことを思い出していた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
その2ヶ月後、橋本君が安野のところへ相談に来た。
「今日は何のご相談ですか?」
「相談ではなく、ご報告です。…古紙回収業者の件です。」
「どうしました?」
「困ったことになりました。こちらの計量と先方の計量が大きく異なりました。それで、昨年同時期よりも20%増の額を請求されました。」
「なにそれ?」
「私が先方の作業場を見に行ったんですが…屋根のない場所に故紙を置いていました。」
「それって野ざらし?」
「そうです。 しかもホコリが舞うと言って水を撒いていました。」
「…つまり、故紙が雨や水を吸って重くなって、その文字通り水増し分の重さで処理料金を請求されたと…。」
「はい。そうです。」
「…」
「それで、文句を言ったら、『こんなことはどこでもやっている!』って凄まれました。」
「それは、また、とんでもない業者に当たった、というか…お気の毒と言うか、なんと言うか… で、どうすんの?」
「解約して元のとこへ戻すと思います。でも、再契約ではなく、新規契約になるため、単価が他と同じ条件になり、以前の単価より10%高くなるそうです。」
「あ〜あ。現場を確認せずに、目先の数字だけで契約を打ち切った報いだなぁ。でもって、恫喝して来た怖い業者さんとは解約できるの?」
「知りません。 それは数字だけで契約してしまった購買部のお仕事です。」
橋本君が凄まじい顔で微笑んだ。それはそれは怖い笑顔だった。




