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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
001-金曜日の塩化メチレン 全6話
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001-金曜日の塩化メチレン 2 <インシデント>

 前回の塩化メチレンの検出からちょうど1週間後、またまた橋本さんが研究室にやってきた。

 「安野先生、先ほどから安全の事務の方がお待ちです。」

 学生居室の椅子に橋本技術主任が待っていた。修士課程2年の四谷君は橋本主任との雑談で不穏なものを感じ取っていた。

 「四谷君。お手数だけど、この3日間の実験ノートのコピーを至急作って下さい。」

 「はい。また塩メチが出たんですか? 先生の言いつけ通り、この2週間はうちの研究室では誰も塩メチを使っていませんよ。買ったばっかりのガロン瓶も封印しています。」

 「わかっている。それでも疑われたら使っていないことを証明しなきゃならん。冤罪をかぶせられないようにノートのコピーをまた提出します。 それから、塩化メチレンを『塩メチ』と略しちゃいかん! 学会でも『塩メチ』とか『メチクロ』と言うアホがいるが、あれは許されん。勝手なローカル・ネームや略称は事故の元だ。「塩化メチレン」あるいは「メチレンジクロリド」「ジクロロメタン」と正しい名称で呼びなさい。」

 「はい、スミマセン。」


 四谷君は肩をすくめた。その横で橋本さんは顔を横に向けて安野から目をそらした。

 「では面倒だけど実験ノートのコピーを作ってすぐに持って来てね。よろしくネ。」

 安野は一通りのお説教と指示の後、橋本さんの方を向いた。

 「お待たせしました。どうするかを相談しましょう。私の居室の方へ。


 居室の机を挟んで、安野と橋本は椅子に座ってコーヒーをすすっていた。

 「で、実験排水は塩化メチレンで間違いない?」

 「はい、間違いありません。これまでと同様に、また出ました。」

 げっそりとした顔で橋本君は答えた。ふたりとも日本語が少々おかしくなっている。

 「これで何度目かねえ。」

 「もう5回は出ています。今回もまた規制値の半分程度です。」

 「アラートはどのくらいの濃度で出しているの?」

 「アラートは規制値の1/10です。今回はアラート値の5倍ですから、規制値の半分くらいですね。かなりギリギリです。」

 「前回がアラート値の4倍、基準の4割くらいだったっけ。」

 「そうです。毎回同じくらいの濃度で出ています。」

 「いつもほぼ同じ濃度だというのも気に入らないねえ。」

 「だれか、きっちり計って流しているとか。」

 「まさか! そんな酔狂なことをするやつはいないよ。動機が無いよ。」

 「いやがらせ…だとか。」

 「誰への嫌がらせ? 環境安全部への? 橋本さんには心当たりがある?」

 「そんなもの、ありませんよ」


 橋本君は水からあがった犬が水を切るように、首をぷるぷると振った。手に持ったコーヒーをこぼすなよと思いながら、安野はコーヒーを一口すすった。



 「工学部1号館の.実験排水…だよね。」

 「はい。同じところです。」

 「しかも、毎週金曜日…だよね。」


 このところ、毎週金曜日の午後に塩化メチレンによる排水異常アラートが出ている。しかも、いつもほぼ同じ時刻だ。

 工学部の1号館には応用化学科と機械工学科、それとシステム工学科が入っている。システム工学科は化学物質を一切使わない。納品記録からは、塩化メチレンを購入し使用しているのは応用化科だけだ。だから、応用化学科は強くこのインシデントの原因として疑われている。

 

 「この2ヶ月の購入伝票を購買で確認しましたが、塩メチの納品は応用化学だけです。」

 「塩メチじゃなくて、塩化メチレンだぞ。なんで略すんだ? でもって、君もうち(応用化学科)の中に犯人がいると考えているのかな。」

 「先生の研究室も、先々週1ガロン(3L)瓶を買っていますよね。」

 「おいおい、うちの研究室を疑っているのかな?」

 「塩メチを購入した研究室は、みんな容疑者です。」

 橋本君はジト眼で私を見ている。

 

 「先週、先々週の学生さんを含めてうちの実験ノートのコピーは提出したよ。他の研究室も同じように使用情況をそっちへ申告しているとおもうけど。」

 「はい。いただいています。どの研究室も金曜日には使っていませんね。」

 「うちの研究室では先週から金曜日に塩化メチレンを使わないように自主規制しているからねえ。今週も金曜日に検出されたんなら、うちは白だろう?」

 「う〜ん。それはそうなんですけどねえ。」


明日も更新の予定です。

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