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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
004-モレキュラー・シーブのの再生 全3話 +2話
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閑話-002 理系の文章 2 <高次文法>

 「高校までの英語の文法は、単語をつなげて文を作る『文法』ですね。でも、単語を作る規則や、文をつなげて文章を作る規則も存在します。後者を私は高次文法と呼んでいます。 前者は『語源』を調べると、理解できます。元々英語は『音』をつなげて単語を作っています。 え〜と金田一春彦先生は音ではなく『拍』と呼んでいました。日本語の50音とは異なります。英語の歌の音符一つ分を一拍と見なせます。 だから英語をしゃべれるようになるためには、英語の歌を歌いましょう。 あ!シャウト系はだめですよ。 お薦めは”My old Kentucky home”です。あのフライドチキン屋のコマーシャルソングですね。」

 白髪、白ヒゲの安野は、今日、白っぽいジャケットに赤いネクタイでちょっと見にはフライドチキン屋の店頭の創業者の人形に似ている。これは受け狙いだ。この格好で国際学会のポスターセッションに参加していると、”Hi! Colonel”と声を掛けられることがある。 起きている学生は少し笑っている。それをいま目覚めた学生が「なにが面白かったんだろう?」と不思議そうな顔で見回している。

 「中国からの留学生の方の日本語文のしゃべり方が日本人と違うリズムなのは、中国の方には漢字一文字が一拍になるからですね。だから漢字ひらがな混じりの日本語の文を読むとき、日本人とは異なるリズムになります。」


 安野は黒板に『com・bi・na・tion』という単語を書いた。

 「これは『組み合わせ』という意味ですね。でもってこのcom = together、bi = twoです。そしてna・tionは名詞化の接尾語ですね。だから意味的にはtwo together ですね。 なんか、漢字の『へん』と『つくり』に似ていますね。だから、拍の音の意味を憶えると、単語の意味がわからなくても、ある程度は想像できるようになります。でもね、例外も多いんですよ。それと、この拍を意識し絶え入る辞書は、…最近少なくなりましたねえ。昔の研○社の英和中辞典は拍の切れ目を明示していました。もし古本屋で見かけたら買うと良いでしょう。この前、駅前のB○○k○ffで、210円で売ってました。」



 「さて、高次文法です。英語の場合パラグラフ・ライティングというものです。理系文章は英語に準拠していますから英語のパラグラフ・ライティングを参考にできます。 パラグラフはわかるよね? 日本語の段落ですね。一字下げて書き始める文章の単位です。このひとつの単位はひとつの『思考』になります。イギリスの大学のカレッジではこの様な高次文法を習うことで、論理思考を鍛えるそうです。」

安野はそこまでいうとパワーポイントで『三つのパラグラフパターン』を示した。

 「英語のパラグラフ・パターンは130種類とも250種類もあると言われます。でも、化学系の論文をネーティブ・スピーカーの先生と一緒に分析したところ、大雑把ですけど、3種類に分類できました。

 まず1つ目は『要旨・概説』パターンです。数百の論文のAbstractを分析しました。多くの読みやすいAbstractは以下の(この)4つの部分からなっています。『内容宣言』『方法』『結果』『結論』です。イギリス人の論文、アメリカ人の論文はおおよそこのパターンをしっかり踏んでますが、中国人、インド人の方の論文は最後の結論が強い様に思われます。日本人の論文はしばしば最後の結論を欠いています。

 次に2つ目は『論理パターン』です。論文の序論や考察などで見られます。『状況』『解決すべき課題』『解決案』『解決案の評価』の4つの部分からなっています。論理の展開に使われます。

 そして3つ目は『一般論・例示パターン』です。これは論文の過去の研究例の提示や、実験結果の提示に使われています。『一般論』『例示1』『例示2』…そして最後に『評価・結論』となります。一般論と評価を読めば、このパラグラフで著者が何を言いたいかわかります。

 だから、ひとつのパラグラフが4文以下であることは、まずありません。レポートでも、このパターンを踏んでください。もし、何か欠けているのなら、それは文章の不備です。 つまりこのパターンを踏んでいるかどうかは理系の文章の『検算』になります。」

安野はパワポの映されたスクリーンを指し棒でパンパンと叩いた。


 「レポートは情報や思考を共有するためのものです。感情や思いを共有するためのものではありません。 感想文を書かないように。だから、『〜と感じた』というような文章を見かけたら、レポートと見なさず、却下し、課題不達成とします。」

学生から不満の「え〜?」という不満の声が漏れる。これまで書いてきた「感想文」を否定されたのであるから、当然と言えば当然の反応だろう。

 「あと、事実と意見の混合を禁止します。同じ文、つまり同じ『。』の句読点中に事実と意見を同居させないように。文を分けてください。結果と結論は全く異なるものです。」


 「それから、事実には必ず客観的に検証できる根拠を示すように。引用文献の記載方法は配布資料を参考にして、私がアクセスできるようにしてください。アクセスできなければ、ウソ記載と見なします。ネット情報の場合はurlを丁寧に記載すること。字が汚くて私が打ち間違えたら、正しく書いたつもりでも、ウソ記載と見なします。 あと、レポートを見てからまた細かいことを指示します。ここまでで、なにか質問は?」


 「先生、もし引用文献が間違っていたらどうなります?」

 「その時は、あなたのレポートに点がつきません。間違いの記載されているソースを採用したあなたの責任です。 といっても、世の中の情報は○×だけではなく△もありますよね。ですからネット情報は『裏が取れる』ことが必須条件です。異なる組織による同じ事象のソースがあれば、まあ可とします。でも、その根拠をたどれば結局同じソースに行き着く場合は『不可』です。あとはあなた方の常識力をそれで測ります。 まさか『東○ポ』の『宇宙人の死体発見』とか『カッパを捕まえた』というニュースを根拠にするようでは...この講義的にはだめでしょう。」

安野はニヤリとわらった。何人かの学生は安野の冗談に笑いを漏らした。

 「質問が無ければ本日第1回目の講義を始めます。」


閑話2はここまでです。

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