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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
004-モレキュラー・シーブのの再生 全3話 +2話
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004−モレキュラー・シーブのの再生 3 <電子レンジの利用>

 乾燥剤として使ったモレキュラーシーブの再生は、貧乏研究室ではよく行われる。いや、貧乏でなくても、購入直後のモレキュラーシーブから水を抜くことで活性化し、その能力を高めることができる。しかし、トラブルも多い。先の高温乾燥器を用いる場合、電熱線に触れた溶媒蒸気の分解による有害性のガスの発生や、可燃性ガスによる火災などの事故が懸念される。モレキュラーシーブとそこに吸着されている水分を選択的に加熱し、揮発したガス種を高濃度に閉じ込めない工夫を必要とする。そして、モレキュラーシーブ3Aを用いた乾燥では、十分に乾燥させるために1週間くらいはモレキュラーシーブを入れた溶媒を静置しておく必要がある。モレキュラーシーブを入れてすぐに乾燥溶媒として使える訳ではない。計画性の無い学生さんには使いづらいだろう。


 そのようなモレキュラーシーブの活性化を目的として、しばしば電子レンジを用いる。貧乏研究室では実験用の電子レンジではなく、家庭調理用の電子レンジを流用する。確かに電子レンジによる加熱は水分を効率よく加熱し、モレキュラーシーブの吸着水分の乾燥に適している。それでも素材に高出力の電磁波を照射する装置である。その取り扱いは食品の調理時とは異なる。そして、調理用電子レンジとは別の装置を実験室に1台用意しなければならない。モレキュラーシーブの乾燥などの実験用電子レンジで昼ご飯を暖めるのは、食品に有害物の混入を招く怖れがあり、衛生的ではない。それに教育上もよろしくない。実験用と食品用はしっかりと分けなければならない。


 「扇風機をセットして、磁器製の浅い皿?大きなシャーレ?にモレキュラーシーブ1回分をぱらぱらと入れて、30秒チンする。 だよな。」

作業は換気の良い場所で、30秒ごとに扇風機で湿気と揮発溶媒を吹き飛ばしながら行われる。目的は吸着水分の除去であり、モレキュラーシーブの加熱ではない。だから、30秒加熱したら、磁器皿ごと取り出して風にあてながらプラスチックの薬さじで攪拌し、粗熱をとる。これを4〜5回繰り返す。最後にサラごとデシケーターに入れて室温までさましてから、500 mLの試薬瓶にロートを使ってこぼさないように入れて、さらにしばらくしてから溶媒を入れる。



 『バン!』

派手な破裂音? あまり聞いたことの無い破壊音? とにかく、聞きたくない音が聞こえた。


 「おーい! 何だぁ? 怪我ぁないか?」

安野は実験室に向かいながら問いかける。

 「大丈夫で〜す! 誰も怪我していません。」

少し安心する。

 「何事だぁ? 派手な音は?」

 「え〜と。 電子レンジが壊れました。」

電子レンジを見ると、開けられた扉から薄らと、煙? 湯気? が立ち上ってている。よく見ると、中の分厚いガラスの回転台が割れており、その上の磁器皿から不穏な匂いが漂っている。

 「まず、電子レンジのコンセントを引っこ抜け。」

 「はい。」

 「何をしていたん?」

 「はあ、モレキュラーシーブをチンしていました。 チンしたら、中でガラスの台が割れました。」

 「そっかぁ。 …で何してくれたん?」

 「いえ、モレキュラーシーブをお皿に入れてチンしていました。」

 「いや。 マニュアル通りにチンしていれば、回転台は割れないよ。それに、磁器皿の中のグツグツいっている溶岩はいったい何かな?」

 「…モレキュラーシーブの成れの果てです。」


 彼は、マニュアル通りの30秒ずつチンする方法ではなく、まとめて5分チンしてしまったようだ。「手間を省こうと思った」そうだ。そして、問いつめると、しまいには

 「30秒ずつ6回なら、5分まとめてチンすれば十分じゃないですか!」

と逆切れていた。他の学生が彼を冷たい非難する目で見ている。

 「同じじゃないよね。その手抜きの結果が、これだよね。」

 「…はい。」


 電子レンジの本体は壊れていなかったので、ガラスの回転台を業者に頼んで発注した。 実は2年ぶり3枚目だ。いつも同じ業者さんに発注していると、こういう時に嫌がらずに発注してくれる。でも代わりの回転台が来るまで2週間かかった。 そして、4枚目のガラスの回転台が設置された。 トホホ



 おまけ:

 このモレキュラーシーブを電子レンジで乾燥すると、モレキュラーシーブの能力が購入直後よりも高くなる。 十分にモレキュラーシーブをデシケーター内でさましてから、試薬瓶に入れて蓋をしっかり閉めて、さらに1日置いてそれから溶媒を入れるなければならない。それでも、吸着熱で溶媒が暖かくなることも多い。

 十分に冷えていないと『プッシャー』と溶媒の突沸と噴出が起こる。


 溶媒を敏に入れていた学生が呆然としている。安全メガネをしていたから目には入っていないが…瓶の中身、溶媒とモレキュラーシーブがその辺に散らかしている。

 「はい。換気、換気! 用が無い人は室外退避! 湯沸かし器の種火は消してね。 あっ。発災者はヒヤリハット報告書を作成してね。 特に作業の時間経過を丁寧にしっかりと記載してね。」

 モレキュラーシーブによる溶媒の乾燥は、既にある程度の予備乾燥プレドライを行ったものでなければならない。特に、低沸点の溶媒については要注意だ。また、乾燥する溶媒分子の大きさや形を考慮して、モレキュラーシーブ3Aを使うか、4Aを使うかを選択しなければならない。


 大学での実験は頭を使わなければならない。非定常作業をルーチーンワークでこなそうとすること、作業手順の意味を理解しないままに作業を行うことは事故の元である。


第4章はここまでです。

次回更新は閑話002を月曜日、火曜日に更新の予定です。

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