表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
003—マツカレハ 全4話
18/62

003—マツカレハ 4 <その後>

 8月のオープンキャンパスも終わり、一番暑い時期が終わった頃、台風が大学を襲った。数十年に一度の規模の風台風だった。市内でもトラックや軽自動車が横転し、家屋の板塀や屋根が飛ばされた。100Kmほど東にある大学キャンパスでは『ヒマラヤ杉が何本も倒れた』、と朝のニュースはその被害を伝えていた。

 ケヤキに比べ、元々は岩場に生えることに特化しているヒマラヤ杉は根が浅い。土に植えられ、岩を抱き込んでいない場合はしばしば強い風で土地ごとひっくり返る。その点、ケヤキは広くしっかりと根を張るため、大風でひっくり返ることは無い。しかし、広く張った木の根はその周辺の石畳やアスファルトをボコボコにしてしまう。その木の根やめくれ上がった石畳による転倒事故を引き起こす。そして、その落ち葉の掃除は大変だ。一長一短である。


 グリーンベルトの何本かのヒマラヤ杉は昨夜の大風に耐えられるとも思えない。今朝のキャンパスの惨状を想像すると私の出勤の足取りは重かった。


 「被害なし?!」

 「はい。台風の被害なしです。」

 橋本君は嬉しそうに告げた。

 「そういえば、あのグリーンベルトのヒマラヤ杉も倒れていなかったな。」

 「はい。おそらくですが、上半分の葉がなくなっていたので、強風をモロに受けずに済んだのかと思います。」

 「そうか…。塞翁が馬だな。」

 「本当に!」

 もしあのグリーンベルトのヒマラヤ杉が倒れていれば…、理学部1号館側に倒れ掛かれば建物被害もあっただろう。あるいは食堂の方に倒れていれば、玄関のガラス戸を破壊し、食堂はしばらく休業になっただろう。


 私はヒマラヤ杉のおじいちゃんの残酷な意図を理解した。


 「ケムタン…」

私は小さくつぶやき、キャンパスを守ってくれた今は亡き小さな友のために祈った。



第3章終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ