表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
002-赤い花きれい  全5話 +1話
14/27

閑話-001 檸檬考

 「レモンなんだ。ミカンじゃない。リンゴでもない。バナナは論外だ試すまでもない。メロンは形状が似ていているけど….似ていても高くて手が出なかった。」


 なんでそんな話しになったのだろう? 休憩時間に研究室でお茶を飲みながら、何人かの学生さんと助教授は、『梶井基次郎の「檸檬」』の話しをしていた。


 「まだ僕が学生の頃、うん、昭和だな、『檸檬』を読んで、『なぜ檸檬なんだろう?』という疑問がわいてでたんだょ。

 幸いに四条河原町の丸善は下鴨の下宿からバスで一本だったから、その検証に行ったんだ。で、平積みの本の上にいろいろな果物を置いてみたんだ。

 …オレも若かったなあ。」


 助教授は遠い目をした。それを見た多くの学生は口を半分開けたあきれ顔で、先生を見ていた。


 「さすが実験研究者の鑑」

 「また…迷惑なことを…。」

 「いや、なんでそんな疑問を?」

 からかい半分、呆れ半分の乾いた感想が皆の口から漏れた。


 それに続き、ひとりの学生がニヤニヤしながら聞いて来た。

 「で、どうなりました?」

 先生は少し困った顔をしてうつむき、ボソっと言った。

 「….店員さんに叱られた。」 


 みんなで笑った、先生も苦笑した。苦笑しながら、照れ隠しに言った。

 「いや、本を汚さないように果物はラップに包んでおいたんだけどなあ。

 まあ、騙されたと思って、一度読んでごらんなさいな。」


 ♫  ♫  ♫  ♫  ♫ 


 月曜日の朝、ひとりの学生がお土産の『阿闍梨餅』を先生の机の上に置きながら、言った。


 「先生、やっぱり檸檬でした。」


 助教授はぽかんと口を開け、大きく目を見開いた間抜けな顔で、彼を見つめた。しばらくして、二人で大笑いした。


 まだ四条河原町に丸善書店があった平成ひと桁の頃の話しである。



 ★  ★  ★  ★  ★


注:『桜の樹の下には』を検証・実験してはいけません。


1995年のほぼ実話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ