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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
002-赤い花きれい  全5話 +1話
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002-赤い花きれい 4 <動機の考察>

 翌朝、9時丁度に橋本君は安野の部屋にやってきた。

 「まいどどうも、橋本です」

 「昨日はご苦労さまでした。まあ、コーヒーでも。」

 安野は紙カップにコーヒーをついで林に渡した。


 「お砂糖とミルクは?」

 「あ、要りません、ブラックでいただきます。」

 「よかった。この部屋には砂糖もミルクもないんだ。」

 「なんですかそりゃ。それならなんで聞いたんです?」

 硬い表情の橋本君の顔にすこし笑みが戻った。

 「薮こき、ご苦労様です。」

 「ほんとに、『ご苦労様』な作業です。明日も明後日もご苦労様です。エラいこっちゃです。今のところ、農学部駐輪場以外には不審な花はありませんでした。」

 「それは…、まずは、よかった。」

 二人はコーヒーをすすった。


 「あの〜。」

 「何?」

 「今回の「赤いお花」は事故でしょうか事件でしょうか?」

 「橋本さんはどう思う?」

 「私は事件だと思います。」

 「根拠は?」

 「まず、私がこの大学に来てから15年間、あの花が咲いたことはありませんでした。学内キャンパス内に自生していたとは思えません。誰かが種か株を持ち込んだ、としか思えません。」

 「なるほど。」

 「それと花株のはえ方です。2カ所とも同じようにはえていました。2カ所とも同じようにコンクリート部分から5cmくらい離して、2株が30 cmの間隔ではえていたのは不自然です。偶然と考えるのには無理があると思います。先生はどう思います?」

 安野は一口コーヒーをすすった。


 「私も事件だと思う。断定はできないが、限りなく黒に近いグレーだな。」

 「やっぱり、先生もそう思われますか。」

 「いままでそんな気配もなかったところにあの花が生えるのは私もおかしいと思う。しかも2カ所の現場はかなり遠い。300 mくらい離れたところだよね。しかも、同じように2株はえていたんだろう? それに、学内を探しまわっても、あの2カ所だけしか生えていないというのも、ある意味不自然だよね。」

 安野はまた一口、コーヒーをすすり、橋本君に聞いた。

 「さて、今回の件は事件にするか、事故にするか、悩ましいところだよな。橋本さん、…で、どうする? どうしたい?」

 「どうする?と言いますと?」

 「ケシの栽培は犯罪だよね。栽培なら本当は事件だよね。2つ目の件も保健所に話しを通したんだろう? あ、保健所は、何と言っている?」

 「1日に2回も呼び出されたので、少しイライラした風でしたが…特に何も言われていません。」

 「向こうさんは事故にしたいわけだな。それじゃあ、この件は事故にしてほっておくかなあ。」

 安野は椅子の両方の肘かけをつかみ、少し上を向きながらつぶやくように言った。


 「でもケシの栽培は犯罪ですよね。私の立場では犯罪を見過ごせません。」

 「公務員の無謬性ですか…。でもまだ犯罪と確定したわけではないし、犯人がだれかわかっているわけでもないし…。」

 「じゃあ、何もしないんですか。せめて再発防止対策は必要でしょう。」

 「そりゃそうだ。でも一番確実で手っ取り早い再発防止は犯人を捕まえることだよね。」

 「でも、大学職員には逮捕権はありません。それにおおごとにするのは、ちょっと…」

 橋本君の歯切れが悪い。落としどころが見えないのだろう。 


 「どうしたら良いかねえ。もし犯人がいるとして、犯人は何をしたかったのかねえ。まず動機だけでもわからないと、再発防止対策を立てようが無いよね。 でも、私はこの件はこれで終わると思うよ。」

 「根拠は?」

 「根拠はない。ただの勘です。」


 二人はまたコーヒーをすすった。橋本君がつぶやいた。

 「動機ですね。」

 「動機です…。どうき息切れです。…げふん。えーと。このままでは動機はわからない。おそらく犯人を捕まえて自白させない限り本当のことはわからないだろうな。今は推測するしか無いよなあ。」

 「やはりアヘンを作るつもりだったのでしょうか。」

 「いや、アヘンを作るためには本数が少なすぎる。私はグリーンテロリズムじゃないかと思う。今回のケースは、好ましからざる植物を植えて、その土地の所有者や管理者の社会的な信用を失わせ、苦痛を与えるグリーン•テロリズムじゃないかと思うんだけど。」


 「グリーン•テロリズム?というのは?」

 「よく言うグリーン・テロは、たとえば、繁殖力のつよいドクダミやミントの種や苗を花壇に植えると、そこで育てていた植物を覆い尽くし、枯らすわけだ。物理的な攻撃だね。今回のテロは社会的信用を失わせるものだ。もっと厄介だしその攻撃力も強い。攻撃対象が眼に見えない大学の社会的信用というのは厄介だ。実際、その赤いお花が生えているというだけで、昨日に今日と明日、事務部は大変な労力と時間を奪われているよね。」

 「大変です。アタマガイタイデス。」

 橋本は大げさに頭を抱えて見せた。


 「もし、新聞沙汰にでもなれば、うちの大学はキャンパスの管理責任を問題にされ、信用を失う。あっ、保健所への口止めのお願いは…」

 「大丈夫です。2回目もなんとか約束してくれました。」

 「そうか。よかった。とにかく、この件はイロイロと最後まで内々にしなければならない…。」


毎週日曜日水曜日更新の『狭間の世界より』

https://ncode.syosetu.com/n8643jw/

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