表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/50

第4話「街からの手紙」

王宮の執務室に、朝日が差し込んでいた。


「殿下、失礼いたします。」

月光の里の状況報告の為、ライアンが戻ってきていた。


「月光の里からの便です」


ライアンが差し出した封筒の束に、アイリスは目を見張る。

大小様々な封筒。それぞれに、異なる種族の筆跡が並んでいた。


(これは...)


最初の一通を開く。人族の商人からの手紙。


《私の店の収益の一部を、月光の湯の再建資金として提供させていただきたく...》


次は、エルフの薬師から。


《薬草園の収穫物を、今後三年分お約束いたします。その売上げを、どうか再建の費用に...》


ドワーフの鍛冶屋。

獣人の革職人。

そして──魔族の宝石商からも。


《微力ながら、私たちにできることを》

《この街の未来のために》

《種族を超えた交流の場所として》


次々と広げられる手紙に、アイリスの視界が徐々に滲んでいく。


「ライアン...これ」

「はい。街の方々が、自発的に」


その時、一枚の古びた羊皮紙が目に留まる。

差出人は、グラウス。


《若き日の私は、父上と共に月光の湯を建てました。

種族の違いなど気にせず、ただ誇りある技を振るった日々。


あの建物には、私たちの想いが染み込んでいます。

今度は、この老いた腕と共に、私の持つ全ての技術を差し上げましょう》


「グラウスさん...」


そして最後の一通。エルシアからの手紙。

開くと、淡い光を放つ小さな結晶が零れ落ちる。


《これは、源泉の底から見つかった結晶。

かつて、この温泉が持っていた力の証です。


人々の心が動き始めています。

彼らの中で眠っていた何かが、目覚め始めているのです》


窓の外から、風が吹き込む。

手紙が舞い、それはまるで湯けむりのようだった。


「これが、私の守りたかったもの」

アイリスは、水晶を胸に抱く。

「種族を超えて、自然と心が通い合う場所」


その時、執務室の扉が開く。


「殿下」

レイチェルが、何かを抱えて入ってきた。

「これを、お見せしたいものが」


差し出されたのは、古い革の手帳。

開くと、見覚えのある筆跡が目に入る。


「これは...母上の」

「ええ。王妃様の日記です」


ページをめくると、そこには月光の里での日々が記されていた。


《この温泉には不思議な力がある。

心の壁を溶かし、人と人を、種族と種族を繋ぐ力が。


いつか、この国がこんな風になれば──

種族も立場も超えて、心が通い合える場所に》


「母上...」


アイリスの頬を、一筋の涙が伝う。

それは悲しみの涙ではなく、

確かな希望の証のように、温かかった。


「レイチェル卿、これを見せてくださったのは」

「ヴィクター卿との話の後で、思い出したのです」

レイチェルは、柔らかな表情を浮かべる。

「王妃様の夢は、今、殿下の中で生きている」


執務室の窓から、街の喧騒が聞こえてくる。

人々の声、商人の呼び声、子供たちの笑い声。

その全てが、希望の音色のように感じられた。


アイリスは立ち上がる。

母の日記と、街からの手紙を胸に抱きしめながら。


「お母様の夢、そして皆の想い」

「必ず、形にしてみせます」


朝陽に照らされた街並みの向こうに、

遥か彼方の月光の里が、

温かな光を放っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ