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村の凶作

本ばかり呼んでいる愛読家貴族令嬢はある晩、領主である父親に呼び出された。


「領主代行として、共作が続いている村に行け。」


「本ばかり読んでいる私が何故?」


と問うも


「本の知識を少しは役立てろ。」


と王様っぷり発言。


反論虚しく、一昨年の災害でかなりの被害が出た小さいが作物の生産量が多い村に行くことになった。

「お嬢様、村にご到着しました。」


侍女の言葉で目が覚める。窓の外を見ると道中の赤い花々に惹きつけられる。


「本当に凶作のようね…。」


馬車の窓から見える景色は酷いものだった。道の草木は枯れ果て、村人たちは痩せ果てていた。一昨年の災害の爪痕がまだ残っているのを示すように、折れた木々が道の端に寄せられていた。


(土砂崩れが原因とはいえお父様はこれを放置していたというの?本当に酷すぎる風景だわ。)


馬車を降りると出迎えたのは人あたりの良さそうな老人だった。


「ようこそお越しくださいました。この村の村長を

しとるものです。こんなところまで足をお運び頂きありがとうございます。」


挨拶も程々に、村長の家とやらに案内されこの村の現状を聞く。


「お嬢様のご存知の通り、一昨年の災害で我が村の作物は殆どに実ることがなく凶作に陥りました。今は何とか備蓄品を使い飢えを凌いどりますが、村といえども何せ人数が多いもので…。それに最近だと頭痛や下痢、嘔吐、腹痛などの体調不良を訴えものもおり、みな生気がありません。それに年々死亡者は増えていく一方で…。お嬢様には我々を救って頂きたいのです。」


「『頭痛や下痢、嘔吐、腹痛』ですか?何か作物に原因があるのではなくて?」


「いえ、作物に何も原因はございません。病気も貰っておりませんし…。」


少々疑問が残るものの今の状態では何も解決しないので、村長に進められ村の畑を見て回ることにした。こちらも酷いもので全くと言っていいほど実った果物や小麦がなかった。


「備蓄品があるとおっしゃいましたよね。そちらも見せていただけませんか?」


村の備蓄庫は想像していたものより一回り大きく、食物の保存状態も良かった。しかし、残っている食べ物はほとんどなく道中に見た村人が痩せ細っているのも納得した。


「ほとんど食べ物がない状態でも作物を作っているのですね。どこから種を仕入れているのですか?」


「ここらへんの村はほとんど凶作ですから、商人から仕入れとります。確か…産地はこの領地の首都から見て東側の村だと聞いとります。」


商人から仕入れた種も見せて貰ったが、特に問題は無い。


(この村は南側にある。東と南ではさほど気候も変わらない。それに東側と言っても南東らしいから作物が腐ることはない。凶作の原因は災害だけど、村の人達の死亡者が増加しているのは何故?頭痛や下痢、嘔吐に腹痛の原因は?)


もちろん、「凶作だから」と言えば済ます話だが、本で読んだ時、食べ物不足で体調を崩すことや栄養不足で死ぬことはあっても、凶作の年に採れた食べ物で死ぬという話は書かれていなかった。


「そういえば、この村は人数が多いわね?備蓄庫にあった分で足りるとは思えないのだけれど。」


「ええ、そうです。ですから、商人から食べられると聞いたものをいくつか買いまして…。」


「他に買ったものがあるの?見せてちょうだい。」


村長は少し驚いた様子で、村の者に命じ商人から買ったもののリストを渋々ながらも見せてくれた。


小麦粉、じゃがいも、ピーマン、枝豆、とうもろこし(などの種)、玉ねぎ、人参、魚、貝、エビなどなど。


リストを見て、1つの項目に目が釘付けになった。


(頭痛、腹痛、下痢、嘔吐、死亡者の増加...。)


「あの、何か、問題がございましたか?」


黙りこくって何も言わないことに不安でも覚えたのだろう。眉をひそめた。


「村の方々を集めていただけませんか?お伝えしたい、重要なことがございます。」


*****


村長の家の前に村の人々が集まった。さすがに村長の家に全員は入りきらなかったので全員に聞こえるよう、外で話すことにした。


「皆様の中に頭痛、腹痛、下痢、嘔吐、などの体調不良を起こした方はどれぐらいおりますか?」


村人に問えば、まぁまぁな人数が手を上げる。小さい子供もいれば、若い女性、体つきが大きい大人、老人もいる。


「それが何だってんだ!そんなん、凶作が原因に決まってんだろ。」


そうだそうだ、と声が上がる。


「いえ、凶作ではなくコレが原因です。」

..

見せているものある花の球根。だがそれは普段食べる身近な野菜によく似ている。


「それは玉ねぎだろう?それが何だってんだ?」


「これは玉ねぎではありません。こちらの村で言うならばレッドスパイダーリリー、別名ヒガンバナという花の球根です。」


ザワザワ、と驚きを隠せない声がする。


「この球根には毒があります。頭痛、腹痛、下痢、嘔吐などの症状があり、最悪の場合死にます。」


「そんな...でも、それを食べたってことは分からないだろう?!」


「ええ、分かりません。しかし、村長の話を聞く限り、災害が終わったあとの死亡者増加の原因はこれです。先程、誰かがおっしゃいましたね?『それは玉ねぎだ』と。似ているんです、玉ねぎとこの花の球根は。死亡した方の症状を聞けばこれを食べたというのは明らかかと。」


「じゃあ、商人のやつがそれを持ってきたのか?」


「いえ、商人の方はしっかり玉ねぎを持ってきたと思います。ただ、球根はこちらで混ざったのかと。凶作の年にも玉ねぎは仕入れていたのだから体調不良者が出ればすぐに玉ねぎだと気づくはずです。気づかなかったのは、凶作から数年が経ったあとだから、今まで食べていた物に問題があるなどと思いもしなかった。ましてや、毒が混ざっているなんて考えもしませんでしょう。」


村の人々は黙りこくる。唐突なこんなことを言われれ、どうすればいいか分からないのだろう。


「...ごめん、なさい…。」


静寂した空気に幼い男の子の声が響き渡る。全員が声の主を見る。


「僕、間違えた...。赤い花抜いたら、いつも食べてる野菜が出てきたから、お母さんに渡して、皆に食べれるよって、言っちゃった……。」


唐突な告白。黙っていれば気づかれなかった事実。その場の空気に耐えられなかったのか、罪の意識があったのか。玉ねぎと球根の見分け方なんて大人でも分からないのだから子供でも分からないだろう。


「この子の、親は…、」


「1ヶ月ほど前に母親も父親も、死にました。」


子供ながらに自分が何をしてしまったのかわかったのだろうか。自分が親を殺してしまったかもしれないと考えたのだろうか。


「皆様には必ず支援をするとお約束いたします。必ず、皆様のお力になります。」


「だから、悲しいだろうけど、辛いだろうけど、必ず活気ある村にすると誓うわ。」


最後にできる精一杯の慰めだ。


(こんなので、気持ちが和らぐなんてことないでしょうけど、有言実行あるのみよね。)


『どうか、よろしくお願いします。』


村の人々に言われればやるしかない。領地を持つ貴族とはそういうことだ。


*****


玉ねぎと球根の選定をし、球根は破棄した。また、村の人々に見分け方を教え、後日見分け方の書物を送ると約束をした。持ってきた食材も配給し、あとは村長に託す。村長には2週間に1回の頻度で村のことを手紙で事後報告してもらうことにした。領主代行とはいえ、村に長く滞在することは出来ない。報告や対策会議も待っている。


「本当にありがとうございました。感謝しても、しきれないぐらいでございます。」


「貴族の仕事をしたまでです。お役に立ててよかった。」


村の人々に見送られながら馬車を発車させる。


「ねえ…。」


「はい、なんでございましょう。お嬢様。」


侍女が答える。


「貴族って重いわね。」


弱音であり、独り言。


「…そうですね。」


次来た時、村はどうなっているのだろうか。

初めて投稿しました。

ど素人の作品ですので、正しい文章か、間違った表現を使っていないかなど心配事が多いですが、何とか仕上げました。楽しく呼んでもらえれば、幸いです。

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