6 そしてみんな鼻歌の魔女へ
※注意:この作品は「鼻歌の魔女は異世界でアニソン歌手になりたい」の16話のパラレルワールドです。
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★????〇歳
知らない天井?真っ白だ。いや、目がぼやけていてよく分からない。
「おぬしはわらわの古い身体をこき使うのぉ」
「おかえり、薫」
ルシエラとユリアナの声だ。だけど、日本語じゃない。英語でもない。でも知ってる言語だ。理解できる。ルシエラはこの言語でものじゃキャラだ。
「あば?」
オレは返事をしようとした。だけど、口がうまく動かない。それに出てきたのは冴えないじじいの声じゃなくて、とても甲高いアニメ声だ。そう、ユリアナよりも可愛い声。
そうだ!オレはユリアナに魂を抜いてもらったはず。オレはもう一〇二歳だから、手足を動かすのもおっくうだったけど、今は頑張っても手足どころか首も動かない。これはきっと新しい身体だ!ルシエラの前世の身体を若返らせて、オレの依り代にしてくれると言っていた。アニメ声の新生児だ!ひゃっほう!
「ユリアーナ様、いつの間に子を産みましたの?」
色っぽい声が聞こえる。初めて聞く言語だけど、やっぱり理解できる。言語知識も入れておいてくれるって言ってたしな。
なんとか首を動かして振り向くと…、ぼやけててよく分からないけど、アメリカのお菓子のようなどぎついマゼンダの…髪なんだろうか…。とてもボリュームがある…。たぶんツインドリルだ…。それに、胸元には肌色のとんでもない大きさの二つの球体がある。これは胸に違いない。ぼやけててもわかる。オレの本能はそれを欲している。
オレの魂が新しい依り代にあるってことは、ここはもうファンタジー世界だ。どぎついマゼンダ髪で爆乳の色っぽい声をしたお姉さんのいるファンタジー世界なんだ。
「その子って、ルシエラ様の生まれ変わりと同じ顔をしているわ」
今度は青紫髪の幼い女の子の声だ。オレはルシエラと同じ顔なんだな!うんうん。
「でも今回は魂が入っているんだよね」
今度は反対側から声が聞こえた。頑張って振り向くと、オレンジ髪で爆乳のお姉さん。
「そ、そうなのよ。薫っていうのよ。よろしくね」
ユリアナの声だ。銀色の髪。言葉は違うけどユリアナだって分かる。オレのことを薫って紹介してくれている。
「キャロルだね!可愛い!」
桜色の髪の子が…何て言った?キャロル?薫を聞き間違えた?いや、日本人の名前を外国人に紹介するときってたいていそんなもんだよな。
「キャ……」
白い髪のお姉さんは、キャとだけ言って固まっている。発音が難しいのだろうか。最初から合ってないけどね。
「みんなで育てようね」
別の白い髪のお姉さんは、オレに優しく微笑んでくれた。
「あ…、いや…、キャロルじゃなくてかおる…」
ユリアナが正しい発音を教えようとしているけど、みんなは聞く耳持たない。オレは小さいころ、女みたいな名前にコンプレックスを持っていたけど、女みたいな名前はTS転生するためのフラグだ。今となっては名付けてくれた親に感謝してる。しかも、今度はキャロルだって。可愛いじゃないか。
オレはお姉さんたちに抱き上げられたりしてまるでおもちゃだ。でも悪い気はしない。みんなが可愛いって言ってくれる。オレはアニメ声の可愛い女の子になれたんだ!
オレはまだ首の据わってない赤ん坊だ。ユリアナの寝室でずっとベッドに寝っ転がったままだ。夜はユリアナが一緒に寝てくれるけど、昼間はユリアナは出かけていて、メイドさんが面倒を見てくれる。ユリアナって本当にお嬢様だったんだ…。ぜんぜんそんな風ではなかったけど…。まあ、日本人の転生者っぽいからな。結局、誰か分からなかったけど。
そして、オレの食事は…、ユリアナの母乳だ…。日本にいたときユリアナは大事なところを死守していて、オレに晒すのは特別なときだけだった。だけど、今はなんでもないようにオレにそれを晒してくる。オレが遠慮していると、ユリアナはそれを押しつけてくる。ユリアナの柔らかい……。ユリアナはオレがもともと男だったことを忘れてはいないだろうか。それとも、オレたちは夫婦の営みをした関係だからか?夫婦で授乳プレーなんかしなかったけど…。
日本ではユリアナは巨乳だと思ってたけど、この世界ではそうでもない。もちろん十歳の身長にしては大きすぎると思うけど、大人だと考えればこの世界ではわりと普通だ。一緒に寝ているマゼンダドリルのお姉さんとオレンジ髪のお姉さんの胸に比べれば、ユリアナの胸が控えめに見えてしまう。それに、ユリアナよりも華奢で小さな青紫髪の女の子やピンク髪の女の子だってユリアナと同じサイズの胸が実っているのだから。やっぱりファンタジー世界は違うな。
オレがまだ話せないと思って、誰もオレに周りの人の名前を教えてくれないのだけど、それぞれが呼び合っているのを聞いて、ある程度名前が分かるようになってきた。
マゼンダツインドリルで爆乳のスヴェトラーナ。オレンジ髪の爆乳エルフがブリギッテ。青紫髪の幼女がアナスタシア。ピンク髪のキャピキャピした少女がマリア。オレの面倒をよく見てくれる白髪のマレリナ。オレの名前を覚えない白髪のセラフィーマ。
この六人が、ユリアナのお嫁さんだろう。あと、この部屋で一緒に寝ている大人?はルシエラだ。
この部屋には、少し耳の長い赤ん坊がオレの他に六人いる。ユリアナのお嫁さんたちそれぞれの四人目の娘らしい。お嫁さんたちは十六歳から十六年おきに娘を産んでいる。お嫁さんたちは人間だけど毎年若返らせているので永遠の十六歳らしい。
その娘たちも十六年おきに娘を産んでいて、孫娘たちも十六年おきに娘を産んでいて、ひ孫娘たち…は去年初めての出産か…。今、玄孫の代なんだな…。
ユリアナは六十四歳で日本に来て、オレが三十六歳から一〇二歳で死ぬまで一緒にいてくれた。だから、ユリアナは一三〇歳のはずだ。だけど、ユリアナは日本に飛んだ直後の時間に戻ってきたので、この世界の年齢としてはまだ六十四歳だ。
まあ、マザーエルフにとって、六十四歳も一三〇歳も、二十四日分にしか感じないらしいし、身長も二十四日で変わらないから、あまり気にしなくていいんだろうな。だけど、胸が大きくなる速さは身長よりも早いらしくて、胸が大きくなったことはお嫁さんたちに気が付かれてしまったらしい。そこで、青紫髪の幼女アナスタシアと、ピンク髪のキャピキャピ少女マリアは、ユリアナと同じサイズの胸を要求したようだ。というか、もともと盛ってあったらしい。
結局、ユリアナが世界線をまたぐの使った大魔法は、ただの豊胸魔法だと思われてしまったようだ。ああ、服装も替わっていたから、一瞬で豊胸して見たこともない斬新な服に着替える魔法といったところか。
オレは魔法を教えてもらってないけど、いくつかの魔法は日本でユリアナや葵たちが頻繁に使っていたので覚えていたんだ。葵と水樹は三属性しか使えなかったけど、このルシエラの前世の身体は十二属性使えるはずだ。
オレはユリアナのマネをして、ユリアナよりも幼いアニメ声でふんふん♪と筋力強化を歌った。首が据わった!指先も少しは動くようになった。やった!オレ、魔法使いになっ………。
しかし、筋力強化は体力を消耗するとユリアナが言っていた。オレは数秒で力尽きて眠ってしまったようで、次に目覚めたら首や腕が筋肉痛で痛かった。
この身体はルシエラが前世で使っていたものを〇歳に若返らせたらしい。今のルシエラやユリアナには及ばないけど、いつも一緒に寝ている爆乳のお姉さんたちに比べると、とんでもない魔力を持っているようだ。そうだ、爆乳のお姉さんたちの魔力は葵や水樹と同じくらいだ。なんとなく感じる。でも今のオレはそれとは数桁違うってくらいの魔力があるのが分かる。これが魔力なんだ!
こんなチートな身体に転生させてくれるなんて、ユリアナは本当に女神みたいだ。オレは早く動けるようになりたくて、筋力強化で動き回っては気絶しを繰り返しまくった。
この部屋にはガラス窓があって、外が明るくなったり暗くなったりしているのは分かるけど、オレはまだちょっと動いただけで眠ったり気絶したりしているので、実際に何日たったのかはよく分からない。
あるとき、ユリアナが赤ん坊を十人連れてきた。そして、オレの隣に寝そべらせた。
「だえ?」
「うふふ。誰でしょう」
オレはまだろくに動かない口精一杯動かして「誰」と聞いてみた。でも、ユリアナはいたずらに微笑んでいて教えてくれない。
赤茶髪の男の子と金髪の女の子…。見覚えがある顔…。この髪色の取り合わせ…。
「あおい!みうい!」
「正解!」
葵は母音だけなので言えたけど水樹は言えなかった。
っていうかオレの息子と娘?
「こっちの四人は誰でしょう?」
「うい、いうな、でお、ああにゃ」
「正解!」
葵の子の瑠衣(♂)と優奈(♀)と、水樹の子の怜央(♂)と愛奈(♀)だ!オレの孫たちだ!
みんな赤ん坊に…。転生はさせないけど、こっちで赤ん坊からやり直させるって言ってたな。でもまさか、オレと同時に連れてくるとは思わなかった。オレと葵では四十九歳の差があるから、葵に会えるのはそれくらい後だろうと思ってた。
「それからこっちの四人はひ孫のうち魔力持ちの四人ね」
「あーうー」
なるほど。オレの子孫の魔力持ちだけここにいるのか。
「薫が亡くなった後ね、水樹たちが寿命を迎える未来に行ってきたんだよ」
「あーうー」
なるほど。世界をまたぐ魔法は大変だから、何度も使わずに済むように、未来を経由してからこの世界に来たってことか。リアルで四十九年も待つ必要はないんだな。まして、孫とひ孫たちはもっと後だ。
「これからは兄弟姉妹みたいに仲良くしてね」
「うん!」
でも、葵たちは若返っただけで、オレだけアニメ声の乳児に転生させてもらえたなんて、ちょっと申し訳ない。
水樹はアニメ声を引き継いで歌手になったけど、葵は声変わりするころには水樹をうらやんでいて、自分もアニメ声の美少女に転生したいとずっと言っていたんだ。魔法を使える子孫にはみんな、ユリアナとルシエラが異世界から来たことを話してあったから、寿命を終えたら異世界に連れてくることは約束していたけど、転生はダメだと言っていた。
ユリアナにはこの世界に歌を広めるという野望がある。この世界は音楽で魔法を発動させる世界であるにもかかわらず、この世界の人間には音楽能力が欠如している。とくに音感が全くない。そこに、絶対音感を持つオレの子孫の遺伝子をぶち込むわけだ。この世界をオレの子孫でいっぱいにしようって算段だ。
オレみたいなポンコツの遺伝子を広めてどうするのかと思うけど、葵と水樹はポンコツではない。エルフではないけど、ユリアナの遺伝子が混ざったおかげなのか、オレの子とは思えないほどの天才だ。まあ、葵と水樹はオレとユリアナ遺伝子しか持ってないけど、瑠衣たち孫世代とひ孫世代は、オレ以外の日本人の血が入ってる。
だから、ユリアナは葵と水樹や孫たちにたくさん子を作らせるべく、嫁と婿をたくさん用意すると言っていた。だけど、葵、瑠衣と怜央はハーレムなんていらないからアニメ声の美少女になりたいと言っていた。オレも歳でひ孫たちとはあまり関わりがなかったからひ孫のことは分からないけど、なんでオレの子孫の男どもはこぞって同じことを言うんだ。オレの言えた義理じゃないけど。
一方で水樹、優奈と愛奈は逆ハーなんていらないから、エルフのハーレムを用意してほしいと要求していた。そして、水樹たちは子をもらうんじゃなくて、与える側になりたいと。
そう、エルフと人間女性の交配は、エルフから人間女性に子を授けるだけではないのだ。逆もできるのだ。
ただし、基本的には魔力の大きい方から小さい方にしか子を授けることはできない。小さい方から大きい方に子を授けるには、相手が完全に同意して無防備な状態でなければならないし、それも大きな魔力差があるとできない。
幸いなことに、水樹の魔力は人間の最高レベルであり、ルシエラの遠い子孫であればエルフでもそれほど魔力が多くないので、水樹がエルフに子を授けることは可能だろう。
優奈と愛奈はそれほど魔力が高くないので、二人より魔力の低いエルフを探すのは大変かもしれない。その場合は、二人がエルフから子をもらうしかない。
ちなみに、オレの名前がキャロルされてしまったように、みんなの名前も外国人っぽくされてしまった。水樹なんてミルキーだ。だけど、葵はアオーイになっただけだし、怜央はレオン、瑠衣はルーイ、優奈そのままユーナだし、愛奈はアイーナだ。あんまり変わってない。
ってなわけで、オレは息子と孫息子、ひ孫息子たちのやっかみを受けながら、すくすくと育っていった。
★★★★★★
★???????〇歳(キャロル一歳、アオーイ一歳)
知らない天井だ。いや、目はぼやけていてよく見えない。
薫兄ちゃんが逝ってしまってから目も耳もすっかり悪くなってしまった。大好きなアナ・エラの曲がよく聞こえないのは悲しい。いろいろ衰えているのに、意識だけははっきりしてる。老人ホームに入って何十年もたつけど、ボケてないのは私だけだ。
あたしも一〇〇歳を超えてから八年になる。もうそろそろお迎えかな。なんせ、手も足も動かない。明日は目覚めないかもしれない。
「ちゅばしゃ」
小さい子が私を呼んでいる。とても高くて可愛いアニメ声。ぼやけててよく見えないけど、銀の髪…ユリアナかな。ルシエラかな。天使のような二人にお迎えに来てもらえるなんて私は幸せだね。
でもなんだか少し小さいような。二人よりも高くて可愛い声があるなんて信じられない。
あたしは嬉しくなって「ルシエラ」と言おうとした。
「ぶーえあ!えっ?あ、あー…?」
あれ?口が変…。声は…、可愛い!あたしの声?どういうこと?
「この子の名前は?」
日本語じゃない。英語でもない。でも分かる。
声のする方を向こうとしたけど、首がよく動かない。もう一〇八歳だし、ずいぶん長い間寝たきりだったからか。
なんとか力を振り絞って振り向くと、そこには青紫の…髪?コスプレ会場?この子も幼い声をしている。
ついにボケたかな…。老人ホームであたしだけはずっとボケなかったのに…。
「翼よ」
声の主はユリアナっぽい。銀の髪の子だ。でも、翼と言ったのは分かるけど、語尾が日本語じゃない。でも意味は分かる。女の子の口調だ。
「トゥヴァーシャね!可愛いわね!」
トゥヴァーシャ?翼を英語っぽく言ったらそんな感じ?この、初めて聞いたのになぜか理解できるこの言語で発音すると、それが妥当かな…。
「抱かせて」
「ええ」
青紫のカツラの子があたしの首と背中に手を入れる。介護ヘルパーだろうか。青紫髪の介護ヘルパーは、あたしをひょいと抱き上げた。幼い女の子の声をしていたけど、大丈夫かな…。それともあたしはいつのまにか老いて、幼い女の子にひょいと持ち上げられるほど痩せ細ってしまった?
「うふふ。キャロルにそっくりね」
「オレの妹だからね」
キャロル?いつもより幼いユリアナの声をしている小さいユリアナっぽいのはキャロル?
それに、違う言語だけど、オレってちょっと悪ぶってる男の一人称だよね?やっぱりユリアナでもルシエラでもないのかな。それに、あたしがそのオレ様の妹?キャロル…きゃおる…かおる?まさかね。
このときあたしは兄ちゃんと二人で、大好きだったアナ・エラになってユニットを組むなんて想像もしていなかった。
★★★★★★
★キャロル一歳(ユリアナ一三一歳、トゥヴァーシャ〇歳)
オレや葵…アオーイたちは一歳になった。
オレはアニメ声の幼女なんだ。ユリアナは可愛い服を見繕ってくれた。一〇二歳まで生きたおっさんがこんな可愛い服を着せてもらえるなんて…。
ユリアナは地球から可愛いデザインの服をたくさん持ってきていた。ユリアナが日本にやってきた年代のデザインから、オレが亡くなる年代のものまで、六十六年分だ。オレにとってはもう古くさいと感じるようなデザインも多い。
ユリアナはミニスカート好きだったのでミニスカートが多い。それにルシエラのホットパンツでキメた衣装も持ってきている。それらはそのまま使うんじゃなくて、衣装関係の利権に聡いスヴェトラーナさんに渡したらしい。すると、日本から持ってきた服が、瞬く間に仕立屋のラインナップとして並んだ。
この世界のドレスは、年齢が上がるにつれて胸をはださせていくのはいいけど、スカートはどんどん長くなっていくらしい。まあ大人の女性はそういうもんだよな。だけどユリアナがミニスカートとかホットパンツを大量投入したので、その慣習が崩れるかもしれない。
ユリアナはこの一年、オレのひ孫や葵の奥さんたちを転生させる依り代を用意していた。オレには子供が二人いて、孫が四人いて、ひ孫が八人いる。子の代と孫の代は全員魔力持ちだけど、ひ孫の代は半分しか魔力持ちにならなかった。もちろん、それぞれの配偶者は魔力なしだ。
ユリアナが養女になったマシャレッリ家の血を引くエッツィオという人の子孫に、必要な人数分の子を産んでもらったらしい。腹を貸すってちょっと信じられないけど、こういう文明ではアリなんだな…。
とはいえ、今回はユリアナのおなかも大きくなっている。ユリアナの子は誰の依り代にするんだろう…。ユリアナはその華奢な身体に大きなおなかを作業をしていた。
エッツィオさんの子孫は葵と同じくらいの魔力持ちらしい。というか、ユリアナ曰く、葵の魔力は人間が持てる最大の魔力だろうと。マシャレッリ家の人は、ユリアナに魔力の鍛え方を教えてもらって、ほとんどが魔力最大みたいだ。
ひ孫八人のうち、魔力持ちの四人は、葵と一緒に若返らせただけだ。彼らはこの世界にオレの遺伝子をもたらすという使命を負っている。
ひ孫四人と配偶者の魔力がないからといっても、家族は魔法を使うため、魔法や異世界のことを秘密にしておくことはできなかった。だから、魔力なしのひ孫はもちろん、配偶者も魔法と異世界のことを知っているのだ。そのため、みんな寿命を終えたら、異世界にで転生させてもらえる約束をしていた。
しかし、魔力なしのひ孫のうち二人の男は、女に転生して、しかも前世の嫁とまた結ばれたいと言っていたらしい。つまり、エルフになりたいと言っていたのだ。
そこで、今回依り代を提供してくれたのは、エッツィオさんの子孫だけじゃなくて、ユリアナの娘であるアンジェリーナさんとマルグリッテさんというハイエルフの奥さんにも依り代を提供してもらったらしい。ハイエルフの娘はエルフだ。ユリアナの孫娘のエルフは他にもいるけど、もれなくアニメ声の美少女だ。
魔力がなかったからアニメ声の美少女に転生させてもらえるなんてずるいと、アオーイ、レオン、ルーイのやっかみがさらに酷くなった。でも、異世界に来るなら特典として魔法能力は必要だ。子孫を残すために魔力なしでこの世界に放り出されるのはつらい。とくに、このマシャレッリ領ではユリアナが魔力を持つ食べ物を領民に広めたことで、すべての子供が魔法を使えるようになっているから、魔力なしというのはある意味障害児であり、差別用語として禁止しようとしているところらしい。
そんなわけで、ユリアナはまず十六人の子孫と配偶者の…遺体を時間停止のアイテムボックスから取り出した…。そして、少し時間を巻き戻して生き返し、記憶をエッツィオさんの子孫の依り代に移した。最後に、アイテムボックスから取り出した魂と交換だ。
それから、ひ孫息子二人を同じようにして、少し耳の長いエルフの依り代に魂と記憶を移した。
まだ焦点はあってないようだけど、明確な意思を持って周りを見つめている赤ん坊十八人。オレやアオーイも去年はこんなんだったな。
それぞれの赤ん坊たちは転生者だけど、産みの親の元で育てることになった。転生者のことをよく理解していないのか、「うちの子、天才よ!」みたいな声も聞こえていた。
ちなみ、玄孫の代には魔力持ちは生まれなかったため、親も魔法と異世界の存在を隠して生活してきた。だから玄孫の代以降は連れてきてないらしい。
子孫たちを転生させた後、ユリアナとルシエラも出産した。ルシエラはオレと子供を作ったときのように、超絶爆乳の妖艶な大人の美女だったけど、依り代を産んだら元の大きさに戻っていた。
だけど、ユリアナは妊娠する予定はなかったらしい。ルシエラが大人になったのを見て、いてもたってもいられなくなり、子供をもらってしまったらしい。あのルシエラの超絶ボディにはオレも我を失いそうだったからな。今回は油断していて、オレのときに使った本能抑制の魔道具を使い忘れてしまったのか。
だからユリアナの子は依り代にはしないらしい。ユリアナの子はラフィニアと名付けられた。
「じゃあ、ルちエラの産んだよりちろは誰にちゅかうんだ?」
「うふふ、それはね……」
ユリアナがアイテムボックスから取り出したのは…、老婆の遺体…。
「ちゅばしゃ!」
「正解!」
「ちゅばしゃは予定になかったにょに」
「翼って、ルシエラの大ファンだったでしょ。薫が私と結婚するなら、ルシエラはちょうだいって言ってたんだよ」
「そんなことが…」
たしかに、超絶人気アニソン歌手ユリアナとルシエラを、オレは独り占めにしたんだ。認識阻害の魔道具があるから直接被害はなかったけど、それがなければオレはファンに、いや、翼に刺されていただろうな。
「だからね、翼をルシエラの娘にしてあげるんだ」
「なりゅほろ…」
翼はルシエラのコスプレもしてたし、ルシエラの娘はまあ、ルシエラのクローンだからルシエラになれたも同然だ。
それにしても、オレはルシエラの前世の身体を使っていて、その娘がユリアナ、その娘が今世のルシエラで、その娘が翼ってことか…。翼がオレのひ孫…。カオス…。
ラフィニアって子はユリアナがルシエラからもらった子だというから、近親婚もし放題。ルシエラの娘である翼がルシエラと結婚するのもOKだし、ユリアナの親であるオレがユリアナと結婚するのもOKか…。
だけど、ラフィニアは翼とはちょっと顔が違う。マザーエルフが自家交配した場合のみクローンが生まれ、マザーエルフの別の個体で交配した場合は、遺伝子レベルでは姉妹が生まれるっぽい。
ユリアナが翼の遺体から依り代へ記憶を移し、アイテムボックスから魂を取り出して依り代に宿らせた。すると、依り代の赤ん坊は目を覚まし、きょろきょろとし始めた。
「ちゅばしゃ」
「ばーぶー」
オレは赤ん坊に呼びかけた。赤ん坊はオレのほうを見て返事をした。だけど、思い通りに口が動かなくて戸惑っている様子だ。オレも通った道だ。まして、翼は転生することなんて知らされてないんだ。
そんなやりとりをしていたら、青紫髪の幼女、アナスタシアがやってきて名前を問うた。
「うふふ、この子の名前は?」
「翼よ」
「トゥヴァーシャね!可愛いわね!」
ユリアナが日本語の発音でつばさと言ったのだけど、案の定、カッコいい名前にされてしまった。日本語の発音は、どの世界でも難しいのだ。
「抱かせて」
「ええ」
アナスタシアも幼女なのに力があるんだな…。さすがファンタジー世界。
「うふふ、キャロルにそっくりね」
「オレの妹だからね」
いや、ひ孫だっけ。どうせクローンだけど。
そのあとも、ユリアナの他のお嫁さんたちがやってきて、翼を揉みくちゃにしていった。
可愛いの嵐が去ったあと、オレと翼は二人きりになった。
「翼、分かるか?」
オレは日本語で話しかけた。
「うあっ、あーうー」
うーん。喋れないよな。そうだ!
「ふんふん……♪」
オレはロ長調の心魔法を口ずさんだ。
『翼、聞こえるか?これは相手の心に話しかけて、同意の上で心の表層を聞き取る魔法だ。だからオレに話しかけていいと思ったらそう念じてくれ』
『えっ、何これ。魔法?オレ?小さなルシエラはオレキャラなの?』
どうやら成功したようだ。心に直接話しかけるのに、喉から出る声と同じ声が頭に響く感じだ。オレはアニメ声の幼女で翼はアニメ声の新生児だ。心の中ならかまずに話せる。
『オレだよオレオレ。薫だよ』
『えっ…、兄ちゃん、小さなルシエラになったの?』
『オレだけじゃないぞ。ほら、見てみろ』
オレは手鏡で翼に自分の姿を見せてあげた。
『うわっ!かわぁいいぃ!もっと小さなルシエラ!』
『おまえの姿だよ』
『えっ…、あたし…、どうして…』
『ユリアナがおまえの願いをかなえてくれたんだ』
『どういう…』
『ここは魔法のあるファンタジー世界で、ユリアナとルシエラはファンタジー世界から日本に来ていたんだ』
『マ・ジ・で…。そういえば、アナ・エラのこと、何度もアニメキャラみたいって思ったのに、なんで一度も異世界人だと思わなかったんだろう…』
『それはな、そう思わないように魔法を使っていたからなんだ。でも今日からおまえもファンタジー世界の魔法使いだ』
『あたしがファンタジー世界の魔法使いで、あたしがルシエラ…』
『そうだ。その身体は、ルシエラがわざわざ産んでくれたんだ』
『ルシエラの子なの?』
『ルシエラの子はルシエラのクローンになるらしい。オレの身体も、ルシエラが前世に使っていたもので、ユリアナの産みの親だったりするんだけど、クローンだから成長すればみんな同じだ』
『マ・ジ・で…。あたし、成長したらルシエラと同じ顔で、ロリ巨乳美少女になれるの?』
『そうだ』
『すげーっ!嬉しいいい!』
『それに、ルシエラが結婚してくれるらしいぞ』
『えっ…、どういうこと…』
『オレの耳、少し長いだろ。エルフっていう種族なんだ。エルフは女の子どうしで結婚できるんだ』
『マ・ジ・で…。幸せすぎる…』
『だろ?』
『じゃあ、初めて会ったとき、結婚してくれるって言ったの、ホントだったんだ…』
『そんなこと言ってたのか。ルシエラのやつ…』
『っていうか、兄ちゃんも女の子になったんだね』
『そりゃあ、誰だってアニメ声の美少女になりたいだろ』
『うん』
『じゃあまずは身体を動かせるようにならないとな。いくつか魔法を教えてやる。最初は筋力強化だ』
「ふんふん……♪力を強くしたいと念じながら、オレの鼻歌をマネしてみろ」
オレは変ホ長調の筋力強化を口ずさんだ。
「ふんふん……♪おおお……」
翼の首が少し持ち上がった。手足もバタバタと動かしている。そして…、パタリと気を失ってしまった。オレもこんなんだったんだろうな。筋力強化は体力を食う。赤ん坊は体力が尽きてすぐに眠ってしまう。
他の子孫たちが前世の身体で再スタートしたり、一属性持ちの人間でスタートしているというのに、オレと翼だけ全属性持ちのチート魔力だから、またやっかみがひどいだろうな。まあ、がんばろう。
「ななな……♪」『兄ちゃん、聞こえる?』
『ああ。聞こえるぞ』
『やった!』
翼はルシエラにならって、らららで魔法を歌おうとしたみたいだけど、まだ「ら」を発音できなかったようだ。
「トゥヴァーシャ、ご飯の時間でちゅよー」
『ユリアナ来た』
『うん』
ユリアナは翼…、トゥヴァーシャの産みの親じゃないけど、ラフィニアを産んだから母乳が出る。いや、やろうと思えば魔法でいつでも母乳が出る状態にできるらしいけど。
ユリアナはトゥヴァーシャに母乳をあげている。
『にいちゃん、あたし、ルシエラのおっぱいがいい。ルシエラがあたしを産んだんでしょ?ルシエラも出るよね』
『そうだな。ルシエラは育児放棄気味だけど、呼んできてやろう』
「ユいアナ、ちゅばーしゃはルシエラの母乳を飲みたいらちいんだ。だからルちエラをちゅれてくる」
「そっか。トゥヴァーシャはルシエラ大好きだもんね」
「うんっ!」
トゥヴァーシャって言いにくい…。っていうか、つばさも言えない。
「ふんふん……♪」
オレは変イ長調のワープゲートを口ずさんで、町の教会にワープゲートを開いた。
オレは前世でも絶対音感を持っていたけど、この身体は一度聞いたメロディを瞬時に覚えることができる。素晴らしい!
ワープゲートを出ると、ルシエラが子供たちと歌を歌っていた。
教会といっても、その実態は学校だ。この国には宗教のようなものはない。教えるものは何でもいいのだ。そしてそれを決めているのはユリアナとその子孫のマシャレッリ侯爵だ。基本的には、ユリアナが日本人だったときに学んだ中学までのカリキュラムだ。
そして、最も重視されているのが音楽だ。音楽は魔法音楽だけでなく、娯楽・芸術音楽もある。音楽といっても、この世界の人間は歌えない。歌えるのはユリアナの子孫のうち、幼少期から歌っている者だけだ。そもそも、ユリアナの子孫というのはハイエルフやエルフなのだけど、ユリアナの生まれる前からいるルシエラの子孫たちは、幼少期から歌う練習をしていないので、歌うことはできないのだ。
つまり、今、歌っているのはユリアナの子孫ばかりで、他のほとんどの子は木琴を叩いたり、笛を吹いたりしている。それに、曲は地球の童謡のようなものばかりだ。
そんな中で、ルシエラは楽しそうに歌っていた。ここにいる子は十歳になったら卒業なので、ルシエラは最年長の九歳の男子と同じくらいの身長だ。だけど、胸とお尻はいちばん大きい。
「ふんふん……♪」
オレは変ホ長調の筋力強化を口ずさんで、ルシエラの手を掴んだ。
「ちゅばーしゃがおなかをしゅかしぇてるから、帰ってきてくれ!」
「なんじゃ、良いところなのに」
「育児放棄ちないでくれ!」
「ふむ。しかたがないのぉ」
オレが全力で筋力強化して引っ張っているのにびくともしない。筋力強化は自力が重要だという。筋力強化して毎日鍛えていれば、そのうち筋力強化を使わなくても人外の力が出るようになるらしい。実際に、オレは前世で筋力強化の魔道具をもらっていたのに、ユリアナにはまったくかなわなかったからな。
この身体は最初からチートレベルの力を出せるわけじゃないんだ。歌と魔法、あと可愛さ以外の分野では、ちゃんと努力して鍛えないとダメなんだ。
オレが引っ張っても動かなかったのに、ルシエラが折れた途端に動き出して、オレはバランスを崩した。
オレが開いたままにしていたワープゲートでルシエラと屋敷に戻った。
「ちゅばーしゃ、ちゅれてきたよ」
『ありがとう!兄ちゃん!』
心魔法のコネクションはまだ切れてなかった。
手を伸ばしてルシエラを求めるトゥヴァーシャ。
「ふむ。こうして見ると可愛いのぉ。放っておいてすまんかったの」
「あーい!」
ルシエラにも母性本能があるらしい。
「お詫びにこうしてやろう。ららら……♪」
ルシエラは変ホ長調の…、美味しくなる魔法を自分にかけた。マジか…。それ、人にかける魔法なのか。
ルシエラの母乳をすするトゥヴァーシャ。
「んまー!」
「そうじゃろう」
幸せそうなトゥヴァーシャ。大好きなルシエラになれて、大好きなルシエラから母乳をもらっている。
「じゃあ、キャロルもはいっ」
「オレはもういいってば…」
「まだ歯が生えそろってなくてろくに食べられないでしょ。いいからはいっ」
「ふがっ…」
オレはもう一歳になったというのに、ユリアナはその身体に似合わぬ大きな胸をペロンとドレスからはだけさせて、オレの口にいまだに突きつけてくる。
「ふんふん……、ふんふん…、ふんふん………♪」
ユリアナも自分に美味しくなる魔法をかけた…。それだけじゃない。コクがどうとか、やみつきとか、ちょっとまだ知らないメロディがあるけど、かなり長いメロディを口ずさんでいた。
すると、たしかに母乳は美味しくなった…。コクがあってまろやかで、口の中でとろける…、濃厚な生クリームのような……。
オレは先ほど使ったまま解除していなかった筋力強化に任せて、ユリアナの母乳をどんどん吸っていった。
「ああん…、すごい勢い…」
ユリアナの色っぽいアニメ声…をおかずに、ユリアナの母乳をいただいている…、一歳のオレ…。ああ、やめられない…。
★★★★★★
★ミルキー三歳(ユリアナ一三三歳)
私は水樹…だったけど、異世界の人は日本人の名前を発音できないので、ミルキーと改められた。
私たちが未来視で調べた命日の数日前、ユリアナ母さんたちがやってきて、私たちの魂を抜いた。そして次に目を覚ましたときは、赤ん坊の姿だった。でも転生ではなくて若返らせただけ。
私は地球で、母さんたちに勝つべく、ロリ巨乳美少女の姿を魔法で作り上げていた。でもそれは若返らせることでリセットされてしまった。そして、何もしなければわりと普通の体形に成長してしまうだろう。そんなのはイヤだ。
幸いなことに、こっちの世界でユリアナ母さんのファミリーは魔法で身体をいじり放題。母さんのように背が低くて童顔なのにスタイルの良いエルフはいくらでもいるので、魔法で身体をいじったり、いつまでも若い姿を保っている人間が、どさくさに紛れてけっこういるんだ。ロリ巨乳少女どころか、ロリ巨乳幼女もたくさんいるじゃんか。
だからもう自重しない。私はもっと完璧なロリ巨乳少女になろう。ユリアナ母さんにも文句を言わせない。
私は、「乳房とお尻がゆっくり大きく成長する」とか「ウェストがゆっくり細くくびれる」とか、前世で六歳から始めた体形改造の魔法を、こっちの世界に来てからすぐにかけ始めた。三歳になった今、すでに胸もBカップあるし、ウェストもキュッとくびれてて、お尻もプリッと出ている。そこらイカっぱらの幼児体型と違うのだよ。
だけど、ゴールをどこにするか考えあぐねている。通っている教会には、六歳くらいの幼女がいっぱいいるのだ。あれは三十五歳のエルフだという。エルフは背が伸びるのが遅く胸ばかり大きくなっていく種族らしいけど、あれは特別で胸も生えてない。小柄な人間との間に産まれた子孫で、小柄さが強調されてしまっているという。
七歳くらいで巨乳の子もいる。普通の人間だけど、ユリアナ母さんの奥さんらしい。
それから、十台前半に見えるのロリ巨乳少女のハイエルフやエルフは、これまたたくさんいる。というか、それがエルフの標準だ。中には生活困難なほどに大きい爆乳を持ったハイエルフやエルフもいる。どうしよう…、あれはなかなか魅力的だ…。
エルフが外見的にも脳みそ的にもハイスペックなのは地球にいたときから知っている。だけど、私は使命を全うするまで転生を許してもらえない。
私の使命は私の遺伝子を持つ子をこの世界に増やすこと。葵はこの世界の女の子一〇〇人に子を産ませなければいけないと言われている。私は十人の男から子をもらって産めと言われている。ユリアナ母さん、鬼畜すぎる。
そこで私は考えた。エルフは人間女性と交配できる。しかも、魔力さえ高ければ、人間女性からエルフに子を授けることもできるらしい。
どうせなら、相手も可愛いロリ巨乳の女の子がいい!女の子どうしで子供を作れるなんて素敵!だけど、自分の腹を痛めないなら、葵と同じで一〇〇人の子を授けてねって言われた。ユリアナ母さん、マジ鬼畜なんだけど、いいじゃない!一〇〇人のエルフの女の子に私の子をあげるよ!
ユーナとアイーナも同じ使命を課されてるけど、二人は魔力が私ほどないから、エルフのお相手を見つけるのは難しいらしい。二人には悪いけど、おなかを痛めてもらうしかないね。
私は音楽教師という立場を利用して、エルフの生徒にどんどん手を出していった。歌えるのも得点が高い。ユリアナ母さんはもう貴族を引退しているけど、歌えるのはマシャレッリ家由来の者だけだから、私もちゃんとマシャレッリ家由来の者だと思われている。第一に、私はユリアナ母さんたちよりも歌がうまいし、ユリアナ母さんには負けないよ!って、ユリアナ母さんは嫁を増やそうとはしていないか。
★★★★★★
★キャロル四歳(ユリアナ一三四歳、トゥヴァーシャ三歳)
「ねえキャロル、今のところ違うわよ」
「えっ、『異世界でアニソン歌手目指すんだ~』♪だろ?トゥヴァーシャがおかしいんじゃないか?」
「あたちが何年ファンをやってきたと思ってるの?」
「オレなんて旦那だったんだぞ?」
月日は流れ、オレは四歳、トゥヴァーシャも三歳だ。オレたちは教会で楽しく勉強している。
この教会は日本の小学校と中学校を合わせたカリキュラムをやっており、とくに算数と理科はだいたいそのまま日本のものだ。オレたちは免除されている。
オレたちは転生するときにユリアナからこの世界の言語知識をもらった。だから、国語も免除だ。
残る座学は歴史や地理などの社会科だ。こればかりはしかたがない。だけど、この身体の脳みそは、物覚えの悪い前世の脳みそと違って、文系科目でも普通に覚えられる。チートというほどの記憶力ではないのかもしれないけど、オレにとってはチートにも近い能力だ。
そして、一番重要なのは音楽。魔法のメロディを正確に奏でるための魔法音楽。とにかく楽しく楽器を弾ければいい娯楽音楽。演奏技術と表現方法を学ぶ芸術音楽。
だけど、この世界の音楽のレベルは、小学校の童謡レベルだ。オレと翼は、ユリアナの子孫たちに混ざって、お歌の練習をしている。童謡レベルなのだけど、オレの喉から出る声がアニメ声の幼女声なので、歌うのも楽しいし、自分の声を聞いているだけで癒される。それに、トゥヴァーシャもオレより少し幼いだけの同じ声をしているし、ユリアナの子孫の声はみんなアニメ声だ。ここにはオレと同じ四歳の、ユリアナの子、孫、ひ孫、玄孫がいるけど、代を重ねるごとに少しずつアニメ声レベルが下がってきているのは否めないが。
だけど、芸術音楽ではもう少しマシな技術を持っている子がいるようだ。今までは木琴もどきとかバイオリンもどきしかなかったけど、ユリアナとミルキーが日本の音楽大学で仕入れてきた知識を元にして、地球の本物のバイオリンやトランペットなども学べるようになっている。教師はもちろんユリアナとルシエラ、それからミルキーだ。
やっている曲も、童謡ではなくてアニソンが主体だ。娯楽が童謡で、芸術がアニソンってどういうことなんだ。
基本の理系科目が免除されている代わりに、オレとトゥヴァーシャは高校クラスの理系科目を受けることになった。というか、高校クラスが最近新設されたのだ。
ユリアナは日本で女子高生をやっていたのだけど、高校クラスの新設が一つの目的でもある。ここでも教師はユリアナかな…、と思ったら…、教壇に上がったのはオレと同じ背丈のオレの孫…。
葵や孫たちは、寿命を終えたあとこの世界に来ることを幼い頃から聞かされてきた。だから、この世界に地球の文明を取り入れる前提で勉強をしてきたのだ。この世界に遺伝子を広めるだけじゃなくて、そんなことまでやるなんて…。まあ、知識の伝道はユリアナに言われたことではないらしいけど。
オレの子孫たちは、アニメ声の幼女に転生して楽しく歌ってるだけのオレとトゥヴァーシャを目の敵にしている。なんだか授業がとても難しい…。私怨でテストの難易度決めてるよね…。
◆キャロル五歳(ユリアナ一三五歳、トゥヴァーシャ四歳)
オレとトゥヴァーシャは、ユリアナとルシエラと、ユリアナの六人のお嫁さんと、オレと同い年の娘たちと一緒の部屋で寝泊まりしている。アオーイたち子孫は一歳になって動けるようになったら、さっさと独立してしまった。
オレとしては、薄いネグリジェをまとっただけの爆乳のお姉さんや巨乳幼女がいて、目のやり場に困るハーレム状態なのだけど、ここはユリアナのハーレムであって、オレもハーレム要員の一人のようだ…。
しかし、ある日、その目のやり場に困る原因がいなくなってしまったのだ…。オレとトゥヴァーシャが教会から帰って来たときのことだ…。
「今日からね、私、毎日娘の部屋をローテーションで回って寝るから」
「えっ…、どういうこと…」
「この寝室では私はしばらく寝ない」
「ユリアナのお嫁さんたちは?」
「それがね…」
寝室には少し耳の長い見知らぬ新生児が六人増えていた。ユリアナのお嫁さんたちの面影があるけど…、
「あの子たちはね、私の娘で私の孫なの」
「どういう…」
「私と私の娘の間にできた子なの…」
「えーっと、そういうことか…」
ユリアナが父親役だから娘でもあり、ユリアナの娘が母親役だから孫でもあるのか…。近親婚が許されてるってカオスすぎる…。
「それでね、私のお嫁さんでもあるの…」
「えーっと、もう意味が分からない…。新生児と結婚したのか?」
「あの子たちには、私のお嫁さんの魂が宿ってるの…」
「なるほど…」
人間であるお嫁さんたちは、ユリアナの大好きな歌を歌えないことが悔しかったらしい。この世界で歌うことができるのは、ユリアナの血を引いたハイエルフかエルフで、なおかつ幼少期から歌の練習をしている者だけだ。だから、ユリアナと自分の血を引いたハイエルフになって、これから歌の練習をするらしい。
ちなみに、マザーエルフであるユリアナとハイエルフである娘の間にできた子たちは属性数を十も持っていて、ユリアナは気分的にはウルトラハイエルフだと言っていた。そんな種族はないらしいけど。
「でね、この子たちは今ここに集まってはいるけど、普段は母親の部屋にいるから、私はこれから母親、つまり娘の部屋をローテーションして寝泊まりするね」
「そんな…」
「大丈夫だよ、卒乳したら戻ってくるよ。それまでルシエラと一緒に寝ててね」
「わかった…」
「兄ちゃん、あたしとルシエラ二人きりになりたいから、別の部屋に行くね」
「マジか…」
「わらわが可愛がってやるぞぉ」
「わーい」
オレ以外にこの部屋に残されたのは、ユリアナのお嫁さんたちの第四子だ。オレと同い年の子たちだ。五歳の娘ほっぽって、親は新生児に転生しちゃったの?
「キャロルぅ、今日から私たち七人だけで一緒に寝ましょぉ」
「キャロル、わたくしたちでがんばりましょうね」
「私がキャロルを可愛がってあげるよ」
「私がみんなの面倒を見るわ」
「キャロル、あそぼー!」
「私と一緒に魔道具を作りましょう!」
えっと…、アナスタシアさんの娘のアデリーナ、スヴェトラーナさんの娘のナジェージダ、ブリギッテさんの娘のジュリエッテ、マレリナさんの娘のオレイシャ、マリアさんの娘のエレナ、セラフィーマさんの娘のシエナだったよな…。
顔に面影があるから分かる。だいたいみんな親の性格や口調を引き継いでいるけど、アデリーナだけ隔世遺伝で祖母のタチアーナさんの口調と容姿を引き継いでるんだよな。背丈もそろそろアナスタシアに迫ってきている。
後はだいたいそのままだ。エレナは三歳くらいの小柄な子だし、ナジェージダはすでに胸が膨らみ始めているし。
あれ?もしかして、この子たち、オレの嫁にしていいのかな。オレは今のところユリアナのハーレムをクビになってるし、オレがマザーエルフなんだから、この子たちをオレのハーレムに入れちゃえばいいんじゃないか?
ちなみに、ラフィニアはユリアナと一緒にローテーションしているようだ。
しかし、実は、今回転生したのはユリアナのお嫁さん六人だけじゃなかったのだ。地球から連れてきてエッツィオさんの子孫の身体をもらった者のうち、元旦那以外がすべてベリーハイエルフに転生してしまったのだ。
ベリーハイエルフというのはマザーエルフであるユリアナとエルフである孫娘の間にできた子で、属性数を八個か九個持っている。実際にはそんな名前の種族はなくて、気分的な問題らしい。でもたしかに、九属性も持ってたらチート転性者といえるだろうし、気分はベリーハイだな。
ちなみに、今回生まれたエルフの赤ちゃんは無数におり、よりどりみどり。といっても、赤ちゃんは基本的にどれも可愛くて、選びようがないので、持っている属性と親を見て決めたようだ。
とくに、オレのひ孫娘の二人は、親が六歳の幼女である赤ちゃんを選んでいた。胸は授乳のため魔法で盛っているらしいけど、ロリ巨乳幼女が好きのようだ。
それ以外、つまり七人の奥さんたちは、爆乳さんの子か、美人のお姉さんの子を選んでいた。
残ったのは旦那だけ。エッツィオさんの子孫の身体をそのまま使っている。だけど、なんでエルフに男がないんだと文句たらたらだ。
実は、一部の旦那たちは、前世でエルフの遺伝子の研究をやっていた。異世界に行ったらチート転生者になりたいのは当然のことだ。でも、人間のスペックは葵と水樹で頭打ちだと分かっていた。ハイエルフとかエルフという存在についても知らされていた。どうやったら男のエルフというのを作れるのか、ひっそりと遺伝子工学の研究していたのだ。
ちなみに、オレの血を引いているひ孫息子二人は、最初にエルフに転生してしまった。男のエルフには興味がない。
あと残っているのは、地球人の身体のままでいるアオーイとミルキー、孫のルーイとユーナとレオンとアイーナ、ひ孫のうち四人だ。だけど、アオーイら男は、今回の件に文句たらたらだ。自分らもエルフに転生させろと。アニメ声の美少女というチート能力をよこせと。誰も魔法の属性をよこせとは言っていない。オレの血を引いた男どもは、こぞってアニメ声の美少女になりたいのであって、魔法の能力は二の次なのだ…。
それにしても、転生した身体が気に食わないからって捨てるだなんて、子供を提供してくれたエッツィオさん一家にすげー失礼だな…。記憶を移すっていったって基本はコピーなので、元の身体に記憶は残っているのだ。そこに、今回追い出された魂でも入れておけば、エルフに転生する前の自分のできあがりだ。
それでは何も意味がないので、四歳まで育った身体を〇歳まで若返らせて、記憶を消去して元の親に返すらしい…。本当に失礼だな…。オレのひ孫娘にはオレが指導した方がいいのかな。いや、親が指導するべきだよな。いやいや、みんな一度は一〇〇歳くらいまで生きた大人なんだろう。もうちょっとわきまえてほしい…。異世界に来た転生者っていうのは、能力に目がくらんで横暴でバカになるのも嗜みだからな…。
オレの遺伝子を広める使命を負った葵たちは、ノルマ達成したら転生していいと言われている。ノルマって子供の数だよな…。ノルマが何人か怖くて聞けない。
葵たちは、この世界に地球の文明をもたらすべく、いろいろなものをアイテムボックスに入れて持ってきている。スマホやパソコンのみならず、電子機器や自動車を作る工場ごと盗んできたそうだ…。なんでも、時魔法のバグ技で、物体をコピーできるらしいのだ。だから盗んできたといっても、ものがなくなるわけではなく、誰にも迷惑をかけていないのだ。
盗んできたのはものだけに限らず、知識も盗んできたらしい。心魔法と雷魔法の合成魔法で、記憶を読み取って電子メディアに保存する方法を開発していた。そのおかげで、地球上のあらゆる知識人の脳みそを持ってこられたのだ。
オレのひ孫の代までいるのだ。オレが死んでから一〇〇年後くらいだろうから、いろいろ開発していてもおかしくはない。彼らは教会で高等教育の教師をやりつつ、この世界、まずはマシャレッリ領を近代化するべくいそしんでいる。近代化っていっても、オレにとっては一〇〇年後の未来だろうけど。
★★★★★★
★キャロル八歳(ユリアナ一三八歳)
オレは八歳になった。ユリアナとの身長差は十センチくらいだ。だけど、ユリアナは大人の体つきをしていて、オレは普通の八歳の体つきだ。でも少し胸が膨らみ始めている…。女の子として成長するのってなんだか嬉し恥ずかしい…。
ちなみにトゥヴァーシャは七歳だからオレより少し小さい。だけど、トゥヴァーシャはルシエラに身長が近づいていくにつれて、もっと自分をルシエラに近づけたいと考えるようになった。そこで手を出したのが豊胸魔法だ…。こっちの世界ではユリアナの一族は体形を弄り放題。エルフの胸が大きいとか関係ないのだ。トゥヴァーシャは「乳房がすぐに大きく成長する」命魔法を使って、ルシエラと同じサイズまで胸を膨らましてしまった。
そこで、いつも一緒にいる年上のオレがトゥヴァーシャよりも胸が小さいのはおかしいってことで、トゥヴァーシャはオレの胸まで膨らませやがった…。そんな風船に空気を入れるみたいなノリで…。
でも、胸が膨らんでいくときの嬉し恥ずかしさといったら他にありえない。窮屈になっていく服…。でも自分が女らしい体つきになっていくのなら、窮屈なのも嬉しい…。
それはさておき、そんなオレたちは、今日は可愛い衣装に着替えている。今日はライブコンサートなのだ。ユリアナ・アンド・ルシエラと水樹が地球で生涯にわたってリリースした四〇〇〇曲との中から選んだ五十曲を披露する、大イベントだ。それを仕切っているのがオレとトゥヴァーシャなのだ。
曲はすべて変ロ長調に転調済み。歌詞はオレの子孫が持ってきたパソコンに入っているAIでこの世界の言語に翻訳済み。
会場は二万人動員可能。円状になっていて、前側ステージと後ろ側ステージという感じに別れている。
前側ステージのメインを飾るのは、ユリアナ・アンド・ルシエラと六人の小さなお嫁さんたち。
後ろ側ステージのメインを飾るのは、ミルキー、フィーチャリング、キャロル・アンド・トゥヴァーシャ、そして、異世界からの来訪者たちだ!
前側ステージと後ろ側ステージの境界では、ユリアナの子孫たちがバックコーラスを務める。さらに、その嫁たちが演奏を務める。つまり、ユリアナの親族が大集結なのだ。
ユリアナ・アンド・ルシエラの曲で盛り上がりを見せるステージ。金色の光のエフェクトも良い感じだ。誰かが未来から持ってきた機械で演出してるんだろうな。
それにしても、この曲なんかピンク色のエフェクトの方が雰囲気あってると思うんだけど、バカの一つ覚えだな。明るすぎるんだけど、もうちょっとなんとかならないかな。
結局最後まで金ピカなままでライブコンサートは終わった。盛り上がったからいいものの…。
「なあ、誰だ?ワンパターンな照明を使いまくったのは」
「さあ、あたしじゃないわよ」
「オレじゃないよ」
「私も違うわ」
アオーイとミルキーでもないらしい。
「わたくちたち、歌うのにひっちで、しょこまで気が回りましぇんでちたわ」
「しょうね」
この世界で生まれ育ったスヴェトラーナさんやアナスタシアさんが演出なんて考えないだろう。
「実はな、マザーエルフ以外でも魔法のメロディを作る方法があるのじゃ」
「えっ」
突然現れるルシエラ。驚くユリアナ。
「大人数で同じメロディを同時に演奏し、皆の思いが一つになると、そのメロディはその思いをかなえる魔法のメロディとなるのじゃ」
「それってつまり…、金色のエフェクトは魔力?」
「魔力の強いものが多いほどよいし、今ではマザーエルフもいっぱいおるから、一人一人の思いがそれほど強くなくても魔法のメロディができてしまうかもしれんのぉ」
「つまり結論から言うと…?」
「あれらの歌は全部歌詞の内容を願う聖魔法になってしまったんじゃないかのぉ」
「ええええええっ?歌で幸せにするとかできちゃうってこと?」
「そうじゃ。きっとかなうぞ。なんせ何十人もの強力な聖魔法使いが祈ったんじゃから」
「でもそれって私欲だよ…」
「皆の願いじゃ。おぬしの娘や孫はほぼすべて聖魔法使いじゃろう。娘たちは、おぬしの願いをかなえたいのじゃ」
「聖魔法使いが二人で互いの幸せを願えば最強ってやつ…」
「気にするでない。この国の民はおぬしの歌やお菓子ですでに幸せじゃ」
「あれ…、みんなが歌えるようになるのかな…?」
「それはこれからかもしれんな」
ところが、その後、ローゼンダール王国の民が自然に歌えるようにはならなかった。
ユリアナは言っていた。結局、大規模な祝福をしたら、その願いをかなえるのはいつも自分だと。自分の祝福はほとんどマッチポンプなのだと。
たしかに、ユリアナはアオーイたちに子供をたくさん作って、歌える遺伝子を広めるよう指示していた。だけど、それがあんな方向へ進むとは、オレたちはまだそのとき思ってもみなかったんだ…。
★★★★★★
★アオーイ十歳(ユリアナ一四〇歳)
オレはアオーイ。この世界に来て人生を〇歳からやり直してはや十年。
オレとレオン、ルーイ、それから孫息子(ユリアナのひ孫)の二人は、この世界で遺伝子を広めるという使命を課されている。
オレたちはこの世界に妻を連れてきているが、妻たちはこぞってハイエルフに転生してしまい、まだ五歳だ。妻たちとまた結婚してもいいし、別々の人生を歩んでもいいというのは互いに了承済みだった。だけど、妻たちはハイエルフだ。エルフは男を好きにならないのだから、再び夫婦になれる可能性は低い。それに、オレたちもある程度成長したら不老の魔道具を使うから、人生はいくらでもやり直せる。
とりあえず、妻たちが子を産めるようになるのは期待値で四十五年後だ。それに、この世界は一夫多妻どころか多夫多妻が法律で認められている。というか平民に関しては管理されていないので、オレたちは何人嫁を持ってもいい。だから、元妻たちの成長を待ったりして、他の子に手を出さないというのはナシだ。
一応、ユリアナ母さんはオレたちのためにハーレムを作ってくれると言っていたが、できれば相思相愛の嫁が欲しい。オレたちは教会に通いながら、年上の女の子と仲良くなれるように努力してきた。
オレはユリアナ母さんとのハーフだけど、ユリアナ母さんの遺伝子はあまり子供の容姿に面影を残さないので、白人よりは日本人に近い顔つきをしている。レオンとルーイはさらに日本人っぽく、孫息子は外国人の血が入っているといわれてもわからない。
そんな異国情緒溢れるオレたち。さらに、前世で一〇〇年以上生きてきている経験があり、小さい頃から教会の教師をやっているとなれば、引く手あまただ。
オレは三属性を持っているのも大きい。三属性といったら王族レベルだそうだ。一属性しかない息子たちと孫たちも、魔力のレベルは王族レベル。この世界では魔力も魅力の一つだ。
この世界の文明は低レベルということもあって、弱肉強食の風潮がそれなりにある。強い者は魅力的なのだ。オレは強いし、この世界でトップクラスの知識も持っている。
そういうわけで、オレたちには十歳で教会の小中学課程を卒業するまでに、それぞれ四人の彼女ができていた。みんな二、三歳年上だ。この世界で女性が初潮を迎えるのは平均で十二歳。オレたちが卒業したときには、すでにみんな初潮を迎えていた。
貴族は王都にある学園を十六歳で卒業したときに結婚するのが普通らしい。だけど、オレは貴族じゃない。平民はちゃんとした仕事に就き収入があれば、いつ結婚してもいい。とくに、このマシャレッリ領では、ユリアナ母さんが教育に力を入れてきたこともあって、十歳で教会を卒業すると同時にそれなりの収入の仕事に就ける者が多い。だから十歳や十一歳で結婚してしまう者もいるのだ。
そして、奥さんの方の準備ができていれば、子を成してしまう。マシャレッリ領は若夫婦で溢れているのだ。
十二歳といえば、ハイエルフになってしまった元妻の春奈だ。彼女は二十五歳だというのに、十二歳の少女のような身長と幼い顔つきをしていた。
だから、別段おかしなことじゃない。それに、オレは今十歳なんだ。十二歳の少女に手を出すのは別に……、あああ…。
「アオーイさん、どうしたの?」
「早くアオーイさんの子が欲しいわ」
「怖くなっちゃった?案外可愛いところあるのね」
「じゃあ私がリードしてあげるわ」
「アッー!」
ルシエラ母さんいたらきっとこう言う。「へたれじゃのぉ」と。今頃、レオンやルーイ、孫息子たちも同じ感じだろう。
この世界に広める遺伝子が、オレたちみたいなヘタレで本当にいいのだろうか…。っていうか、使命でも負わない限り、オレたちの遺伝子は広まらないのでは…。頑張らないと、とてもじゃないけど一〇〇人の嫁と子を成すなんてムリだ…。
ちなみに、一人の嫁に対して二人目の子は求められていない。一〇〇人の嫁が必要なのだ…。
オレのノルマもきついんだけど、ミルキーたち女性陣のノルマも酷い…。十人の男から子をもらえだってさ…。ユリアナ母さん…、鬼畜だろう…。
でもまあ、この世界には魔法がある。妊娠に伴う諸症状を軽減できる魔道具の下着があるのだ。ユリアナ母さんのうろ覚えの知識でもそれなりの効果があったのだけど、日本から来た旦那たちに医療技術や人体知識を付けてきている者が多いため、魔道具の下着はさらに進化して、つらい症状をほぼ克服できるようになったという。
それに、出産はワープゲートや治療魔法、殺菌などの魔法を駆使して、さらにそれを時魔法で加速して行うので、一瞬にして無痛分娩を実現できてしまうのだ。
だけど、本当につらくないのかは、女になってみないと分からないな…。ああ、おれも早くアニメ声の美少女になりたいなぁ。
★★★★★★
★ミルキー十二歳(ユリアナ一四二歳)
私はミルキー。十二歳になった。
私は身長と顔つきは八歳相当を維持。胸はGカップで、お尻もそれ相当。折れそうなほど細いウェストと大きなカーブを描くくびれ。地球で作り上げた体型よりも一歩進めた形にした。
私も十歳になるまでは教会の基礎教育を受けていた。魔物に関する知識とか、地理とか歴史とかね。
だけど、私は地球で最高峰まで極めた音楽知識をこの世界の人間にも伝えるべく、教会で教師を続けている。
教会にはエルフがちらほら見受けられる。マシャレッリ領はルシエラ母さんの故郷の村とワープゲートでつながっているので、エルフの村と自由に行き来できる。
エルフは主に女の子どうしで交配する種族だ。エルフは、数十年前までは、全部で四〇〇人くらいしかいなかったらしい。エルフは人間の五倍長寿な種族ということもあって、生理の周期が約五倍らしい。しかも常に生理不順で周期の乱れが大きい。だから、子供を作ろうと思ったら何ヶ月もエッチを続けたりしていたらしい。
ハイエルフはもっとひどくて、周期は二十倍。何年かエッチを続けないとできなかった。
だけど、ユリアナ母さんが子宮を成長させたりする魔法を開発したおかげで、排卵をコントロールできるようになった。それからというもの、エルフは爆発的に増えているらしい。エルフはもともとエッチ好きな種族なので。
そういうこともあって、マシャレッリの教会にはエルフがけっこういるし、その気になればエルフの村に押しかければもっとたくさんのエルフに会える。
だけど、ここ数十年で生まれたエルフは、魔力を鍛えるのを徹底してることもあって、私よりも魔力の多い子がけっこういる。私の魔力が人間のマックスだなんて、人間のポテンシャル、低すぎるよ。
まあ、私より魔力の低いエルフもたくさんいるんだ。この世界で魔力の強さは魅力だ。女にとって頼もしく見えるのだ。属性数三というのも、エルフの平均である二よりも上。それに、地球一の歌唱力と音楽知識。私はすでに八人のエルフを侍らせているのだ。この子たちは、私が受け持っている芸術音楽の高等クラスの可愛い教え子なのだ。残念ながら歌うことはできない。だけど、教師と生徒が…むふふ…。
みんな初潮を迎えた二十歳前後。十二歳くらいの身長と顔立ちをしているのに、成人並の胸とお尻。私としてはもう少し幼い方がストライクゾーンなのだけど、じゅうぶん魅力的な体型だ。これがエルフの標準だから参っちゃう。
肝心な、エルフと人間女性の交配方法だけど、ルシエラ母さんに相談したら、時が来れば自然に分かる、自然にそうしたくなると。逆に、それが分からないようであれば、まだどちらかに準備ができてないから、諦めるがよい、とのこと。
エルフの子たちに初潮は来ている。だから、後は私の問題だ。でも、どうやらそれが来たようなのだ。この子たちの…唇が欲しくてたまらない…。
私は転生者向けにあてがわれているアパートに八人のエルフっ子を連れ込んだ。とくに、私の部屋は逆ハーにする予定だったので、部屋も広く、ベッドもキングサイズ。十二歳相当の子八人と、八歳相当の私で十分な広さだよ。
そのベッドに皆を寝そべらせて…、あああ、もう我慢できない!いただきます!
ってそうじゃない!命魔法で排卵させるのが先だ。それに、すぐに奪っちゃったらもったいない。胸とお尻の大きな少女がいっぱい!
さすがに疲れた…。エルフの交配は口づけ。口から魔力を流すことで、何らかの魔法により、卵子に着床するみたい…。
だから、自然にできるのは、魔力が大きい方から小さい方へ授けること。私はこの子たちよりじゅうぶん魔力が多いけど、八人に授けたらかなり消耗したので、最後のほうは魔力が逆流して危うく私が妊まされそうになった。まあ、それでもいいんだけど。
★★★★★★
★アオーイ十二歳(ユリアナ一四二歳)
オレたちには使命とは別に、やりたいことがある。地球の文明をこの世界に展開することだ。そのために、オレたちはさまざまな大学に出向き、偉人たちからスキルをパクってきたのだ。
オレは心魔法のスキルコピーの魔道具を開発しようとした。すると、それは未来から降ってきたのだ。スキルを電子データにすることもできる。それで、出会った偉人のスキルをすべて盗んできたのだ。子や孫たちと手分けして、地球上の知識を頭とディスクに詰め込んできた。
未来から送られてきたものはそれだけじゃない。声に出した言葉か頭の中でイメージしたことを魔方陣にして魔法を発動させるプログラムなんてのもあったのだ。音楽で魔法を発動させるメルヘンな世界観がぶち壊しだ。これについては、こっちの世界に来てからユリアナ母さんには存在を伝えたが、広めるのは身内にすらとうぶん後だと言われた。だから存在を知っているのはユリアナ母さんと、異世界から来た真北家の者だけだ。
オレはパソコンやAI関係の知識を漁った。そして、前世の生涯をかけてスキルコピーの魔道具と、イメージから魔方陣を生成するプログラムのチューニングをしていた。
ミルキーは、ユリアナ母さんだけでなく世界中の音楽家のスキルを盗んで、最強のアニソン歌手になった。それだけでなく、声優としての技術やアニメ製作技術とかも学んできた。たぶん、一人でアニメを作れると思う。
ミルキーの旦那とか娘の旦那の一部は、とにかく男エルフの実現に向けて、医療や生物学、遺伝子工学などのスペシャリストが集まった。
アニメ声の美少女になりたい男は真北家の血を引いているヤツだけだ。他の男は男のまま属性数の多いエルフになりたいそうだ。オレは魔法の属性数よりもアニメ声ってチートが欲しいけどな。
ユーナは地球中から動植物を集めてきた。この世界の果物や一部の野菜は魔力がないと育たない。そこで、魔力の必要ない地球の植物を持ち込んだわけだ。
それに、この世界の作物や肉は美味しく育つ魔法のおかげで美味しいのだけど、魔法がなくても元から美味しいものに美味しく育つ魔法をかけたほうが明らかに美味しいのだ。
他には、自動車や航空機などの重工業関連のスキルがある。この世界では領地間のワープゲートが一般化されているので、あまり大型で高速な乗り物は必要ない。それに、念動の魔法で動く自動車をユリアナ母さんがすでに実用化している。
それから、原子物理学や化学のスキルだ。魔法には質量保存の法則やエネルギー保存の法則も無視したものがあるため、何十万年も物理・化学が進化していない。だけど、きちんと物理法則に則って魔法を使うと格段に効率が上がるものも多い。
★★★★★★
★ミルキー十六歳(ユリアナ一四六歳)
私はミルキー。エルフのお嫁さんを順調に増やして、今や三十人。でももう、フリーのエルフっ子が教会にいないよ。あとは成人ばっかで、巨乳なのはいいけど少女じゃない。それに魔力も高い。ちくしょー。
ユーナとアイーナに四人ずつ取られちゃったのが痛い。まあ、アイーナは私の実の娘だし、ユーナも娘のように可愛がってきた。意地悪しちゃ可哀想だ。でも私と娘たちとでは基礎スペックが違うのだ。魔力の低いエルフちゃんくらい分けてあげないとね。
娘たちはお嫁さんたちと魔力の差が小さくて、なかなか子を授けられないでいたけど、なんとか全員に子を授けられたみたい。
もうエルフは余ってないし、エルフの里に行こうかな…。そんなことを考えていた矢先だ。
ユリアナ母さんと楽しそうにしている嫁の六人を見かけた。魔法で不老にした人間…だったはずなのに、耳が少し長い…?それに、ビンビンに感じるあの魔力は何?
こっちの世界で十六年間も暮らしてるのに、ユリアナ母さんのことを目の敵にして、一歳で部屋を飛び出してからは、ユリアナ母さんの周りのことなんて見てなかった。何あの嫁たちは!
私はルシエラ母さんに聞きにいった。
「あれはじゃな、かくかくしかじかじゃ」
「そんな手があったとは!」
ユリアナ母さんの嫁たちは、歌う能力を得るために、自分の娘に依り代となる赤ん坊を産ませて、魂と記憶を移したという。しかも娘と掛け合わせたのはユリアナ母さん。嫁たちは、自分とユリアナ母さんの孫に転生したのだ。ユリアナ母さんの血が七十五パーセントじゃないか。どおりで魔力をビンビン感じるわけだ。
しかも、しっかり自分の血を引いた身体なので、前世の面影があるのだ。この方法なら、自分の血を残しつつエルフになれるじゃないか!
「ルシエラ母さん、私に子供をちょうだい!」
「よいぞ」
ルシエラ母さんはいつもほとんど二つ返事だ。母さんから子供をもらうってカオス。でも近親婚にならないことは分かっている。
しかし、この部屋にはルシエラ母さんの他にトゥヴァーシャが住んでいる。私が子供をちょうだいと言った途端にあからさまに不機嫌な顔をした。
トゥヴァーシャはキャロル父さんの妹だ。ルシエラ母さんに依り代をもらって、今や十五歳。少し若いだけのルシエラ母さんなのだ。
父さんもそうだ。二人ともマザーエルフという最強の身体をもらって、のほほんと生きてるだけなんて。
まあいいや。今に見返してやる。
「すまんがトゥヴァーシャ、今夜はこやつの相手をしたいのじゃが」
「えー、じゃあ私にもちょうだい!」
なんだって…?久しぶりに母さんと親子水入らずなのに、どこまで図々しいの…?
「ねえ母さん!今日は私だけ可愛がって!」
「ふむ…。そうじゃな。トゥヴァーシャ。こやつはわらわの娘なのじゃ。たまには可愛がってやらねばならぬ」
「はーい…」
こうしてルシエラ母さんと二人きりになった私。
「おぬしは背が小さくて胸が大きいのが好みなんじゃの?」
「うん」
「ユリアナもキャロルも、みんなそうじゃの」
「ユリアナ母さんとキャロル父さんのことはいいの!」
「では胸と尻だけ一万歳成長させよう。ららら……♪」
ルシエラ母さんは、乳房とお尻を「すぐに大きく」ではなくて、「すぐに一万歳」成長させた。ルシエラ母さんの胸がとんでもない大きさに…。私の身体より重そう…。一万年たつと、自然にこの大きさになるってことか…。
なんだか…、ルシエラ母さん…、すごく素敵…。実の母を恋愛対象に見たことなんてなかったのに、この姿を見たらいてもたってもいられなくなった。
私はルシエラ母さんのやわらかい胸に埋もれながら、大事なものをもらった。
◆ミルキー十七歳→〇歳(ユリアナ一四七歳)
私は大きなおなかを抱えて教会の教師を続けた。なぜならこのあと一年間は活動できないから、産休を取るとちょっと休みが長くなりすぎる。
とはいえ、おなかよりも胸の方が重たいので、おなかが大きくなったことはそれほど苦じゃない。普段通り、胸が重たくて大変そうにして、みんなの庇護欲をかき立てるだけだ。
もちろん、出産予定日くらいは休んだ。出産予定日とは、ルシエラ母さん未来視で調べてくれた日にちだ。
私はルシエラ母さんの加速魔法やワープゲートを駆使したファンタジー出産で、一瞬にして無痛分娩を終えた。地球でもこれができれば痛い思いをせずに済んだのに。
私に少し似た、少し耳の長い赤ん坊。私は魔法で顔もいじりまくりなので、デフォの赤ん坊とは違う。髪の色は…私よりも光沢があるけど、くすんだ金色だ。属性検査をしたら、火、雷、木、土、心、時、命、空間、聖。すごい!九個もあるよ!期待値は七・五だから大当たりだね!まあ、アオーイの魔道具があれば、全属性ほとんど使えるんだけどね。
この子には魂があるのだ。母さんに魂を抜いてもらい、時間停止のアイテムボックスに保管しておいてもらう。そして、私の記憶をこの子に移して、そして、私の魂を………。
気が付くと、ぼんやりとした世界。二度目だな、この感じ。力を振り絞って横を向くと、シルバーブロンドの少女が伏せていた。さようなら、水樹。
『ミルキー、聞こえるか?この身体はどうするのじゃ』
ルシエラ母さんが心魔法で話しかけてきた。私の舌はまだ回らないからね。この身体は心属性を持っているから、私から話しかけることもできるんだね。
『うん。身体も魂と一緒に取っておいて。私、貧乏性だから、もういらない身体だと分かってても捨てられないの』
『ユリアナも同じことを言うておったな』
そこでキャロルじゃなくてユリアナ母さんが出てくる理由が分からない。私の産みの親はルシエラ母さんだ。
◆ミルキー一歳(ユリアナ一四八歳)
こうして私はチートハイエルフに生まれ変わり一年がたった。筋力強化を使って、一年で危なげなく活動できるようになった。
部屋には私以外にエルフのお嫁さん三十人と、一歳から六歳の子三十人がいる。私も赤ん坊の一人。お嫁さんの母乳をもらって育ったよ。
ハイエルフの容姿スペックを見てみようかとも思ったけど、面倒だからいいや。〇歳から体形をいじる魔法を使いまくりだよ。
そして、動き回れるようになって教会の教師として復帰したら、なんだか娘や孫娘に面影のある一歳のエルフが四人も…。ユーナ、アイーナ、ユッキーナ(ユーナの娘・薫のひ孫)、レオンの娘(薫のひ孫)も、私と同じことしたんだね。
四人は八属性持ちみたいだけど、親となった前世の身体が一属性だからしかたがない。まあ、じゅうぶんチートでしょう。
こうして私たちはチートハイエルフとなり、その魔力の魅力で次々に人間の女の子を誘惑。そう、エルフの女の子ではなくて、人間の女の子だ。
人間の女性どうしで交配はできないのでエルフちゃんばかり集めていたけど、私がエルフになったのだから相手を選ぶ必要はない。もちろん、今まで魔力が高くて手を出せなかったエルフちゃんもターゲットだ。
前世の遺伝子と関係ないエルフに転生しちゃった奥さんたちも、自分で産んだ子に転生すればよかったのにね。まだ前世の身体を取ってあるかもしれないけど、九属性持ちのチートハイエルフからは戻りたくないよね。
今後成長する私たちは怒濤の勢いで女の子を自分のものにしていくことなる。
★★★★★★
★アオーイ十八歳(ユリアナ一四八歳)
ミルキーとユーナ、アイーナ、孫(薫のひ孫)二人が自分で産んだハイエルフに転生してしまった。じゃあ、オレもルシエラ母さんから子をもらえば…、ってオレは子を産める腹を持ってない。なんでオレは男なんだ!
じゃあ、オレがルシエラ母さんに子を産んでもらえば…。ってそれじゃオレと同じ魔力頭打ちの人間が生まれるだけだ。
そこで、オレの依り代をミルキーに産んでもらおうと思ったけど、少しでも違う遺伝子が欲しいから、兄妹でいいのでこの身体を捨てちゃダメと言われた。ユリアナ母さんの鬼!
五人が女の子を全部持っていってしまうから、オレのノルマがまったく進まないんだよ!オレが人間の最高スペックだとしても、ハイエルフにはかなわない!
くそっ。もうユリアナ母さんにハーレムに入れる子を集めてもらおうかな…。
そうだ…、邪魔法で、オレがもともと女だったとことわりを変えてしまえば…。でもそうなったら、瑠衣と優奈はどうなるんだ?
時魔法による過去の改変は自分のいる世界線に影響を与えない。だけど、邪魔法によることわりの改変は、過去や事実を改変したうえで、自分がその世界線に移動する。
オレが女だったことにしたら、瑠衣と優奈が生まれない世界線に、オレが行ってしまうんだ。
「さすがにわらわも、魂と記憶を移し替える他に、おなごにしてやる魔法は思いつかぬのぉ」
「そうだよな…」
「人間の身体に詳しい奴らがおろう。ユーナとアイーナの元旦那じゃ」
「ああ、男のエルフを作り出そうとしていたな」
ユーナの元旦那の名はエイチ(英一)。遺伝子工学博士だ。
アイーナの元旦那はショーマ(翔馬)。医学博士だ。
それと、ユーナの娘の名はユッキーナ(雪菜)で、元旦那の名はリョー(涼)。二人とも生物学博士だ。
「あやつらなら、人間のどこをいじればおなごになれるか知っておるのではないか?」
「そうか、ちゃんと物理現象に基づいて命魔法を使えば、男から女になれる!」
それにしても、みんなこの国の言葉にしてもあまり不自然じゃない名前でいいな。
というわけで、男エルフの研究にやっきになっている元旦那の研究室がある屋敷へ。
「そんなのは簡単です。男か女かを決めているのはこの遺伝子で……」
ユーナの元旦那、エイチ。遺伝子工学博士だ。
「遺伝子を組み換えた後は、女性ホルモンを大量投与です。それからいらないものを捨てて、治療魔法で必要な部位を指定して回復させると、女性の部位ができていくと思います」
アイーナの元旦那、ショーマ。医学博士だ。
いらないものを捨てて…。
「子宮と卵巣と、あと…乳腺と…。骨格はこうで…」
ユーナの娘の元旦那、リョー。生物学博士だ。
三人の博士は、エッツィオさんの子孫の身体を使っている。
博士たちには、未来から来たノートパソコンを渡してある。地球でそれぞれの専門分野のスキルを集めてきたから、その分野で右に出る者はいないのだ。
博士たちは命魔法などもっていないけど、パソコンとスマホの魔方陣描画アプリで全属性使えるようになっているので、魔法を駆使した研究はお手の物だ。
すげー、あやしい研究室だ…。培養槽のようなものがあって、その中に…、自分たちの複製が入っている…。時魔法による複製で、自分たちを複製して実験台にしてるのか…。むちゃしやがる…。
「はい、命魔法の手順はこんなところだと思います」
「あ、ありがとうございます」
魔法のメロディの楽譜とか魔方陣ではなくて、言葉でそのまま示された。遺伝子のどこをどう組み替えて、ナニを切り落として…、子宮を回復させるとか、女性ホルモンを生成するとか…。
「準備ができたらいつでも言ってください。ここでやった方が都合が良いでしょう」
「そ、そうですね」
でも、自分を複製して実験するのは理にかなってるかも…。自分の身体でナニを切り落とすのは勇気がいる…。複製をいじって完成させたら、自分の魂を移すようにしよう。バックアップ的にもそうした方がいい。
というわけで、嫁たちに事情を告げた。女になるなんて言ったら離婚されると思っていたけど、エルフになるならやぶさかではないらしい。女性の目には、魔力の強いエルフが男性と同じように映っていて、エルフになってふたたび愛して子をもらえるなら、それで構わないと。
むしろ、積極的にそうしてほしいとのことだ。マジか…。
研究室に赴いて、まずは時魔法で自分を複製した。ある場所から一歩移動して。そのある場所の時間を三秒戻すだけだ。オレが今いる場所の時間は戻らないけど、ある場所はオレのいた時間に戻るから、二つの場所にオレがいることになる。酷いバグ技だ。
「オレが改造される役なんだよな…」
「そうだ。よろしくな」
まるっきり同じ人間をこうも簡単に作れるとは。身体どころか魂も複製できてしまった。
「魂が入ってると痛そうだから、早く抜いてくれ」
「痛覚麻痺もかけておいてやるよ」
数分前まで同じ脳みそだったんだ。話をしなくても、何を考えているかは分かるんだけど、セルフボケ突っ込みみたいなもんだ。
さあ、まずは遺伝子組み換えと女性ホルモン投与の魔法からだ。自分には使えない属性ばかりなので、スマホ頼りだ。
それから…、女性にはない部位にレーザーメスを…。見ているだけで痛い…。
博士たちはエッツィオさんの子孫の身体を使っている。だからだろうか。平気で自分身体を実験体にするなんて。でもオレはまだ生まれ育った身体を使ってるんだ。
それから、女性固有の部位…、子宮や卵巣…、乳腺などを指定して治療魔法をかける。この身体は遺伝子レベルではもう女性なので、怪我でそれらの部位を失ってしまったような状態なのだ。声帯も、喉仏が出ているのは異常なので、治療したら引っ込んでいく。
「最後は頼む」
「はい」
そして最後にオレの魂をこの身体に移す。これは博士たちにやってもらうしかない。
「ん…、ん~…」
目覚めると、横たわっていた。そして、オレの声は少し低めの女声になっていた。治療で治せるのはあくまで正常な範囲までだ。アニメ声が正常ではないらしい。
オレは改造される役目の複製の方だ。さっき魂を抜いてもらったはず。見回すと、床に伏せているオレがいる。ということは、改造は成功したんだろう。改造作業の記憶は倒れているオレが持っているので過程は分からないけど。そして、今オレに入っている魂は、倒れているオレが使っていたものだ。
魂の入れ替えって意味あるんだろうか。オレはオレが改造される複製の方だと認識していた。魂を入れ替えただけで、倒れていたオレがこの身体に乗り移ったと言えるのだろうか。これは、別のディスクにデータを移動するようなもので。コピーしてから元を削除しているだけなのではないか。
深く考えるのはやめよう。今倒れてるヤツは使命を終えたのだ。一応、バックアップの役割があるので、抜いてもらった魂とともに時間停止の開いてくボックスに入れておくけど。
「おめでとうございます。これで生物学的には女性になれましたね」
生物学者のリョーからお墨付きをもらった。だけど、この身体は男の体形をしている。だけど、男に必要なものはなくなってしまっている…。あと、この身体が女性っぽいところといったら声だけだ。
「おそらく生理は十六日後です。排卵誘発の魔法は分かりますね?」
「はい」
医学博士のエイチは透視魔法で見ただけで分かるのか。
「遺伝子的には女性だし、女性ホルモンの大量投与もしたので、徐々に女性らしい身体になると思いますが、成長を早めればいくらでも盛れるでしょう」
「いや、この身体はエルフに転生するためのツナギだから、子供を産めさえすればいい」
「ははは、ルシエラ婆さんに子をもらうのでしょう。それならルシエラ婆さんも満足させる身体にしておいたほうがいいんじゃないですか」
「そ、それもそうだな…。まあ、帰ったらやるよ…。今は男の服を着ているし、出るところが出たら困るから…」
嫁の待つ部屋に帰ったら、嫁はオレの声に驚いていた。まあ、オレが一時的に女になることはあらかじめ話してあったからたいした混乱もなかったけど、声が変わっているとか、アレがないとか、多少の騒ぎはあった。
今のオレはまだ男の体つきをしているけど、声だけは女だ。地球で声変わりしていく自分がイヤだったのを思い出した。ボイスチェンジャーを使ってもだんだんアニメ声には聞こえなくなっていったんだ。
だけど今のオレの声なら、ボイスチェンジャーでアニメ声っぽくできる。自分の依り代を産むまでの仮の姿とはいえ、十ヶ月はあるんだ。楽しみ方を考えておこう。
というわけで、オレはその夜、ルシエラの部屋を訪れた。
「ルシエラ母さん…」
「む、アオーイか?聞き慣れぬ声じゃの」
今のオレは、声だけが変わったようにしか思えないだろう。
「頼んでいたこと…」
「トゥヴァーシャ、すまぬのぉ。今度はこやつの相手をせねばならぬ」
「またかー」
キャロル父さんの妹だ。少し胸が小さいだけのルシエラ母さんだな。
ふてくされながら出ていった。
何の使命も課せられずに最強の身体を与えられて、ルシエラ母さんとイチャイチャしてるだけなんて…。
「それでおぬし。おぬしはおなごになったのか?」
「あ、うん」
ああ、盛ってくるのを忘れてた。
「どれ」
「あ、いやん…」
ルシエラ母さんはオレのズボンとパンツを平気で下げて、大事だったものがなくなっていることを確認した。オレは地球で一〇〇年生きていて、この世界で〇歳からやり直してもう十八になるのに、母親だからって平気でズボンとパンツを下げて、大事なところを調べるものなのだろうか。ってルシエラ母さんに期待しても無駄だけど。
「ふむ。付いておらぬようじゃ」
「うん…」
「薫のときは、詫びじゃから薫の好きにさせてやったが、おぬしはそうは行かぬ。わらわも楽しませてもらうぞ。ららら……♪」
「えっ?わっ、ぎゃー」
ルシエラ母さんは、乳房と尻がすぐに成長するとか、ウェストがすぐに細くくびれるとか、顔立ちがどうのこうとか、いろいろ歌いまくっている。オレの急激に身体が膨らんだりへこんだり…。
「ううう、ぐるじい…」
「はよう脱ぐがよい」
オレはシャツのボタンを外していく。ボタンの部分だけ、柔らかい胸に沈み込んでいて、とても外しにくい。しかも苦しいから焦ってしまって、手元が定まらない。この世界の服は魔物素材でできているので、人間の力で破れないのはもちろん、斬ることもできないのだ。
それに、ズボンも張り裂けそうだ。股上が足りなくなってしまい、ズボンの上から丸みを帯びたものが二つ顔を出している。
だけど、なんだか…、自分の女性としての部位が成長してしまったことで苦しくなったりはみ出したりするのって…、なんだか快感…。
「じれったいのぉ。ららら…♪」
ルシエラ母さんが短距離瞬間移動を口ずさむと、オレは一糸まとわぬ姿になった…。服は部屋の端のほうにヒト型のまま瞬間移動して、すぐにバサッと落ちた。
「ひいぃ…」
「わらわを拒むのか?」
「いや…、ください…」
「よかろう。ららら……♪」
ルシエラ母さんはすぐに一万歳成長するを口ずさんだ。ルシエラ母さんは大人の身体になり、胸が信じられないほどの大きさに!
「たっぷり可愛がってやろう」
「アッー!」
目覚めると朝日が差し込んでいた。分かる…。大事なものをもらったことが…。ルシエラ母さんは大人の身体のまま眠っている。胸が重くて窒息していないだろうか。
胸が重くて大変なのはオレも同じだった。急に動くと、胸の付け根が引っ張られて痛い。だけど、不快じゃない…。むしろ嬉しい…。
オレは部屋の端にあった服を手に取って羽織った。そして、ボタンを留めようと思ったが、まったく届かない。パンツもズボンも途中までしか上がらない。
しかたがないのでズボンのポケットからスマホを取り出し、魔方陣描画アプリで「胸とお尻がすぐに小さくなる、太ももがすぐに細くなる」命魔法を使った。たちまち風船がしぼむようにオレは貧相な体つきになった。
それとともに訪れる喪失感。自分の女性としての価値が失われてしまったようだ。オレはアプリで「胸とお尻がすぐに大きく成長する、太ももがすぐに太く成長する」を使った。オレの身体は風船のように膨らみ、女性らしい丸みを帯びた。だけど、服を着られないほどではなくて、それなりにだ。さっきの体型…、よかったなぁ…。
でもこの身体は仮の姿。十ヶ月の辛抱だ。
オレは羽織ったままだったシャツのボタンを留めた。まだ窮屈で、ぐいぐいと胸を潰さないと入らなかったけど、なんだかそれが嬉しい。
ズボンも太ももとお尻をむにむにと潰さないと上がらなくて、それが自分が女性になったことを実感させてくれる。女性として出るべきところが出てしまって、それが服に収まらないというのは、なんて快感なんだ。
服を着たオレはルシエラ母さんの部屋を出て、嫁の待つ部屋に向かった。
途中、みんながじろじろ見てくる…。女になったといっても昨日までは男の体つきだたからな…。なんだか女装してるみたいで恥ずかしい。服が女装なんじゃなくて、中身が女装ってなんだか燃える…。
部屋に戻ると、嫁たちが迎えてくれた。
「アオーイさん…、その格好で戻ってきたの?」
「あ、ああ。ルシエラ母さんに変えられてしまって…」
「それはいいんだけど…、その…、これ…」
「あふん…」
オレの喉からあられもない声が出た。なぜなら、嫁はオレの膨らんだ胸の先端を……。
「あれ…。これずっと尖ってたのかな…」
「そうみたいよ。いやあね、アオーイさん」
「「「アオーイさん、かわぁいいぃ!」」」
「えっ…」
「子供を産んでエルフになったら、また私たちを可愛がってくれるんでしょ?」
「えっ、うん」
「それまで私たちがアオーイさんを可愛がってあげるわぁ!」
「えっ、えっ、アッー!」
オレは嫁たちに可愛がられながら、女性のなんたるかを教えられたのだった。女性のパンツに…、そして丸みを帯びた胸の先端を隠すための…ブラジャー。それから、ドレスを見繕われて、散々おもちゃにされた。だけど、女性らしくなっていく自分を見るのは何だ嬉しかった。昔ヒロインごっこをやっていたときに履いていたハイヒールをまた履けたのは感激だった。
オレの顔はルシエラ母さんによって美人作り替えられているので、オレがそのまま女性になったらどんな顔だったのかはよく分からない。ミルキーは昔から全身改造しまくりだったから参考にならない。ユーナやアイーナに似ているだろうか。
一ヶ月ほどでつわりが来た。でも、子を産んだ経験のある嫁たちに、マタニティ魔道グッズを教えてもらい、快適な妊婦生活を送ることができた。この点においては地球よりも文明が進んでいてよかった。
◆アオーイ十九→〇歳(ユリアナ一四九歳)
臨月がやってきた。大きなおなかを抱えて、歩くのも大変だ。これでも、おなかの重さを軽減する腹巻きの魔道具を使っているのだ。だけど、大きさはどうにもならない。でも、胸の方が大きくしてあるので、それとあまり変わらない。
女性は子供を産むために、こんな大変な思いをしているんだ。オレはユリアナ母さんの使命のために、少し軽い気持ちで嫁たちに子を産ませていたかもしれない。でも、これからはもっと嫁を大事にしよう。
そして、未来視で予測した出産予定日。オレはルシエラ母さんにワープゲートの魔法などを駆使してもらって無痛分娩をしてもらった。
生まれたのはオレの面影がある、くすんだ紫の髪をした女の子。少し耳が長い。
属性検査したところ、火、土、水、風、心、時、命、邪、空間の九属性。ルシエラ母さんが十二属性でオレは三だから、期待値は七・五だったのに、九個だなんて大当たりだ。
ミルキーもそんなことを言っていた。この世界に来てから、基本的に食べ物は魔力のこもった魔物肉や果物なのだ。
魔力を持つ食べ物を食べ続けていると、魔力を持たない人間でも魔力が発現する。今やマシャレッリ領では魔力なしの人間は一部のご老人だけだ。
魔力を持たない人間だけでなく、もともと持っている者でも食べ物によるボーナスがあったということだろう。
逆に、地球では優奈たちは期待値が一・五あったのに、実際には子供四人の平均は〇・五だった。たんに運が悪かったか、それとも地球という魔力のない環境で育ったからか。
ともかく、この子は九属性のチートハイエルフだ。悪いけど、今入っている魂には出ていってもらい、時間停止のアイテムボックスに保管した。
そして、ルシエラ母さんにオレの身体から記憶をコピーして、魂を抜いてもらって……。
気が付くと、ぼやけた白い天井が見えた。この世界でこの光景は二回目だ。
身体がろくに動かない。オレはふんふんと筋力強化の魔法を口ずさんだ。それくらい初めて使う属性でも覚えている。そして、新生児の可愛いアニメ声だ…。感動だ…。
そして、軽く首や腕を動かすと、そこで事切れた。ここまでは織り込み済みだ。
オレは嫁たちに育ててもらった。去年、子供を産んだ嫁は母乳が出たけど、だいぶ前に子供を産んだ嫁は乳腺を成長させて母乳が出るようにさせた。授乳プレーなんかじゃないよ…。嫁たちがオレのことを可愛がって育ててくれてるんだ。
◆アオーイ一歳(ミルキー三歳、ユリアナ一五〇歳)
オレは嫁たちに愛情たっぷりで育ててもらい、一歳になった。筋力強化を使って欠かさず歩行訓練や筋トレをしていたため、一年でしっかりと歩けるようになった。
オレはミルキーの部屋を訪れた。
ミルキーは三歳のはずだ。だけど、三歳とは思えないほどの、持て余すほどの大きさの胸をゆらゆらとさせている。そして、幼女のイカっぱらではなく、キュッと締まったウェストから綺麗な曲線を描いて、少し大きめのお尻がある。さらに、三歳にしてはかなり長めの脚と、色気のある太さの太もも。その綺麗な脚の先には、十センチのつま先立ちピンヒールを履いていた。
胸の大きさは、絶対的には巨乳といえるほどじゃない。ユリアナ母さんよりも少し大きいくらいだ。だけど、その実が成っている胴体がユリアナ母さんよりもさらに華奢なのだ。
「よう」
「可愛い…。誰…」
「オレだよ。オでオで」
「オレキャラ…。アオーイ?」
「しょうだ」
「ハイエルフに転生したの?」
「うん」
「怒られない?」
「この身体には人間のアオーイの血が流れてりゅ」
「そっか、私と同じだね。ルシエラ母さんに子供をもらったんだね…、ってあれ…?」
「深く考えなくていい。とにかく、オではアニメ声の幼女になれたんだ」
「おめでとう。地球にいるときからずっと言ってたもんね」
「うん。しょれでな、アニメ声の幼女になったオレは、今度こしょアニしょンかちゅになりたいんだ」
「そっかそっか。そういう約束だったね」
「今日は、おまえの集めてくれた音楽しゅキルのうち、どれを入れたらいいかしょうだんしにきたんだ」
「なるほどね」
オレたちが地球で集めた偉人のスキルは、みんなに配ったパソコンとスマホで共有されている。ウェーン音楽大学のAという人のピアノ演奏スキルというふうにファイル名が付けられているけど、レベルが分からない。
オレは自分の手にはまだタブレットのような大きさに感じられるスマホ画面をミルキーに見せて、お勧めスキルのファイルのショートカットをフォルダに作ってもらった。
オレは音楽スキルを頭にコピーするために、どのITスキルを抜こうか考えていた。
「これでOK」
「ちょっ、何十個あるんだ」
「二〇〇個」
「えっ…。冗談はよちてくれ」
「私、全部入れてるよ」
「ましゃか…、あっ…、しょうか!ハイエりゅフは二〇〇個はいりゅのか!」
「そうだよ。忘れてたの?」
「わしゅれてた…。アニメ声の幼女になれただけで舞い上がってた…」
すげー…。寿命が二十倍だから、スキルも二十倍ってか…。チートスペックだな…。
「なあ、これは共有されてなかったと思うんだけど、オレがもらっていいのか?」
「うん」
画面には、「アニソン歌手 水樹の歌唱スキル」が含まれていた。
「いいよ。アオーイだけにあげる」
「しゅまないな」
「アオーイがいなかったら、ここまで上り詰められなかったもん」
「そっか」
オレはもともと頭に入っていたITスキルをそのままにして、ミルキーの選んだ二〇〇個の音楽スキルの中から、名前を聞いたこともない楽器のスキルを十個除外して、頭にコピーした。スマホ画面に無数の魔方陣が現れては消えを繰り返す。
とりあえず、音楽スキル一九〇個と、ITスキル十個でいい。あとで使わない音楽スキルを抜いて、入れたくても溢れていたITスキルを入れよう。
これが音楽のスキル。そして、これらのスキルを駆使して、さらなる上を目指した、世紀の大スター、水樹の歌の技術と経験が頭にしみこんできた。
「頑張ったんだな」
「そうだよ。世界中のスキルを集めただけじゃ、母さんたちにはかなわなかったんだから」
「ちめいを終えたらマじゃーエルフの身体をもらうのか?」
「いらない。ユリアナ母さんにはならない」
「そっか。そうだな。オレも、自分のいでんちにルちエラ母さんの遺伝子を混じぇたこの身体でずっと生きていこうと思う」
「うん。アオーイがもう少し大きくなったら、二人でユニット組もうよ」
「双子ユニットの座を奪うんだな」
「そうだよ。二卵性双子ユニットだよ」
「それもいいな」
正確には一卵性双生児の娘ユニットなんだけどな。
「だから、アオーイも私と同じロリ巨乳幼女になろうね」
「えっ」
「ららら……♪」
「ぎゃー」
ミルキーは、「胸とお尻が大きくなる」とか太ももがどうとかくびれがどうとか…、何やらたくさんの体形変化魔法を使った。まだイカっぱらだったオレは、キュッとしたくびれと、ぷりっとしたお尻、そして、一歳児が携えるにはふさわしくないほど大きく、綺麗な丸みを帯びた胸を持つ、巨乳幼女に改造されてしまった。
「ぐるぢい…」
破れない服の中で、ぎゅうぎゅうになっている胸。快感…。
「あと二年して私の今の体形まで成長したら、成長を止めるからね」
「えっ…」
「この世界さ。六歳から十二歳くらいまでの巨乳少女がインフレしてるんだよね」
こうして、二卵性双子のロリ爆乳幼女ユニットが発足した。
◆アオーイ十三歳(ミルキー十五歳、ユリアナ一六二歳)
そして、十二年後、オレとミルキーはこのエロ可愛さと歌唱力で人々を魅了し、何百人もの嫁を迎えることとなった。
オレの身体はミルキーがプロデュースしており、結局、前世の面影などほとんどない、とても可愛い三歳のロリ巨乳幼女に仕立て上げられてしまった。
巨乳っていったって、三歳児にしてはという意味なのだけど、この身体に対しては、本当に大きすぎる。ユリアナ母さんの嫁のスヴェトラーナさんとその子孫の娘たちは、とんでもない爆乳を携えているけど、胴体との相対的な大きさは今のオレも同じくらいだ。そうだ、巨乳幼女じゃなく爆乳幼女だ。
胸が邪魔で手元が見えずろくに手作業もできない。あまり激しく揺らすと痛いし、生活に支障をきたしている。だけど、大変そうにしている、同じ体形のミルキーを見ていると、助けてあげたいとか、守ってあげたいという気持ちがこみ上げてくる。
これは女性の長い髪によく似ている。女性は手作業をするときに、長い髪が落ちてこないように片手で抑えていなければならなかったり、少し顔を傾けたりしなければならない時がある。冷静に考えれば長い髪というのは非実用的だから切ってしまえば済む話なのだけど、そうではない。髪は女性らしさを示すもの。髪を抑える仕草や、顔を傾けている仕草にすら女性らしい色っぽさを感じる。首をずっと傾けて首の骨が歪んでしまうことだって美しい。長い髪とそれに付随する不憫さ、そしてそれに抗う姿すらも、女性の美しさを示す武器なのだ。
つまり、大きな胸というのはそれ自体が女性の象徴でもあるけど、それが重くて疲れるだとか、手作業ができないとか、明かな欠点ですら女性の美しさを示している。さらには、重くても頑張る姿や、手元が見えなくて失敗してもけなげに頑張る姿すら、女性として尊いのだ。
ところが、ミルキーは本当に困っているかというと、じつはそうでもなさそうなのだ。筋力強化を使って鍛えていれば、胸が重たいとはそれほど感じないからだ。それに、手元が見えないのも、常に空間魔法の透視を使っているようで、実際には胸ごしにものが見えているようで、肝心なところで失敗したりはしない。
だからといって、重い胸をぶんぶん振り回して軽快に動き回ったり、手作業をそつなくこなしたりしているわけではない。ミルキーはいつも動くのすら大変そうにしており、手元が見えなくて失敗ばかりしているドジっ娘なのだけ、どうやらそれが演技のようなのだ。
オレが一歳のときに、ミルキー選んでもらった音楽スキルの中に、「アニソン歌手 水樹の女の子の仕草スキル」というのが紛れ込んでいた。オレはそれを恐る恐る脳にコピーした。それは女の子らしく振る舞う極意だった。男にとって女性らしく、美しく見えるような仕草を徹底的に詰め込んだものだった。
一歳当時、オレは妊娠期間に女性らしさを身につけるように、嫁たちから訓練を受けていたけど、男として一〇〇年以上生きているのに対して、訓練はたった一年だ。身につくはずもなかった。がにまたで立っていたり、脚を開いて座っていたり、酷いものだった。
だけど、スキルのコピーは、たんに本を読んで知識を得るのとは違う。勘や慣れ、癖のようなものまで自分のものにできてしまう。「アニソン歌手 水樹の女の子仕草スキル」をコピーしてからというもの、オレは女の子らしい仕草をできるようになった。先ほど述べた、髪をかき分ける仕草はもちろん、大きな胸のためにドジっ娘に見せる仕草も。そんなふうに振る舞っている自分を鏡で見ていると、とても可愛い…。守ってあげたくなる…。オレのミルキーにいだく感情と同じ。こりゃ、誰もが魅了されるわけだ…。
そんなこんなで、オレはミルキーと一緒に、数々の女性をものにしていったのだ。
オレは十二歳になったとき、エルフの交配方法に目覚めた。女の子の唇が欲しくなってしまうのだ。気がついたら、人間だったときに一度子を産んでもらった嫁も、そうでない嫁も含めて、全員を妊ませていた。同じ嫁の第二子はカウントされないけど、子供一〇〇人のノルマなど余裕で超えた。オレたちはユリアナ母さんへの当てつけのように子供を増やしまくったのだ。
さらには、ハイエルフに転生しまった妻のハルーナ(春奈)とも寄りを戻した。ハルーナは二十七歳になっていた。といっても、ハイエルフなので、十一歳手前の少女に、成人の大きな胸が成っているという、ユリアナ母さんとよく似たロリ巨乳少女体型だ。
ハルーナは、前世でもロリ巨乳気味だったけど、本当はそれをコンプレックスに思っていた。だから、転生したら長身の美人になりたいとずっと言っていて、実際に比較的長身美人のアンジェリーナさんの娘の身体を選んだらしい。まだ前世とあまり変わらない身長だけど、もし成長しても長身になれなかったら、その時は魔法でいじっちゃおうと言っていた。
そして、アンジェリーナさんの家系は、ハイエルフにしては子供を産めるようになるのが極端に早く、ハルーナもすでに初潮が来ていたのだ。ハルーナの魔力はオレと同じくらいで、ちょっと大変だったけど、無事に子供を授けられた。
まさか、前世で添い遂げた春奈とまたよりを戻せるとは思わなかった。春奈がかってにハイエルフになってしまったとき、男だったオレをふたたび好きになる要素はなくなってしまったからだ。
オレはもともと使命を全うしたらロリ巨乳少女になるつもりでいたけど、使命を全うするには時間がかかるから、オレのことなんて忘れてしまうだろうと思っていた。
実際に春奈だって人間の嫁をたくさん連れていて、オレのことなんて忘れていただろう。だけど、使命を全うする前にロリ巨乳幼女になっており、水樹の女の子スキルを使っていたオレを見かけた途端、ハルーナはいてもたってもいられなくなり、オレに声をかけてきた。前世の面影がほとんどない、というか性転換してしまったオレは、もちろん葵だとは認識されていなかった。オレも、エッツィオさんの子孫の転生してから、さらにハイエルフに転生していた春奈のことなんて、とっくに忘れていた。
だけど、名前を聞いてあれ?となり、すぐに思い出した。話しているうちにふたたび惹かれ合い、子をもうけるにまで至った。
この国の結婚はとても軽い。というか、貴族は国に結婚を届け出して、配偶者と子孫を貴族の一員として認めてもらう必要があるが、平民の結婚にはなんの手続きもいらない。
貴族は一夫多妻まで認められており、一人の主人に対して複数の配偶者を持てるようになっている。マシャレッリ家以外は人間の男が当主なので、たいていは男一人にたいして妻が群がっている構図だ。いや、マシャレッリ家もエルフが当主なので妻が群がっているが。
しかし、平民は一人の男に対して複数の妻を持てるのはもちろん、一人の女が複数の夫を抱えてもいいのだ。これを複雑にしているのがエルフで、エルフは魔力が強いからエルフ一人にたいして人間女性が複数群がっていることが多いが、エルフはもちろんエルフとも交配できるので、隣のエルフと交わったり、妻を交換したりとやりたい放題。しかも、エルフは長寿なので、ひと世代も二世代もまたいで交わったりして、家系図が蜘蛛の巣状態。
というか、蜘蛛の巣家系図の筆頭となっているのがユリアナ母さんだ。母さんはマシャレッリ家養女になり当主となった。当主の座に付いている間は、普通の一夫多妻の家系図だった。この場合、夫はユリアナ母さんだが。
だけど、当主を降りて平民になってから数十年、ユリアナ母さんは自分の娘に子供を授けたりして、カオス状態。蜘蛛の巣どころではない。親と子を繋ぐ線に重ねて配偶者を繋ぐ線を引いたりして、もはや普通の家系図では家系を表現することができないのだ。というか、そんなことになるのは近親婚の許されるマザーエルフだけだが。
ローゼンダール王国はまだまだ発展途上で人口も少ない。人口増加も生産力向上の手段の一つであるため、子作りを推奨している。
エルフの生理不順の悩みを解消して、爆発的にエルフを増やすこともしている。
だけど、少しやり過ぎじゃないだろうか。
マザーエルフはこの世界に魔法を広めるという使命を負っているらしい。そして、魔法というのはエルフから人間にもたらされるものだ。エルフがたくさんの人間と交配することは本能に基づいている、というのが、オレを性転換させてくれた博士たちの見解だ。
そもそも、生物は自分の遺伝子を反映させようとする本能を持っている。メスは生き残る可能性の高い強いオスの子をもらおうとする本能を持っている。オスは子を無事に産んで育てられるメスを好む本能を持っている。おなかの子を守るためにお尻に厚い脂肪があり、産んでから母乳をたくさん出せる大きな胸を持つ女性をオスが好むのは本能によるものだ。この世界の人間はとくにその傾向が強いようだ。
というより、地球の安全な先進国で育ってきたオレたちは、その本能を忘れつつあるんじゃなかろうか。国民皆平等で生活保護制度のようなものもある現代人は、たいして強くなくても生きられる。
この世界は弱肉強食の世界だったはずだ。だけど転生者であるユリアナ母さんが日本人の考えを持ち込んだため、そうではなくなりつつある。人々は食料に飢えることもない。魔物に脅かされることもない。無料で教育を受けられ、安定した仕事に就ける。そして、オレたち転生者は、この世界に地球の文明をさらに広めようとしている。
だけど、この世界の人々は、まだ子を増やさなければならないという強い本能を持っているので、ここ数十年で爆発的に人口が増えているのだ。地球でも他国から文明がもたらされて、そういう道を辿った国はあった。そのうちこの世界でも一人っ子政策とかしなきゃいけなくなるんだろう。
幸いなことに、この世界には月経を止める魔道パンツというものがあるので、エルフのエッチしたいという欲求には応えることができる。だけど、オレも嫁たちも、エッチだけではなくて、子供が増えるのが嬉しくて、魔道パンツを使わずに毎日エッチしてるもんだから、子供を増やし放題だ…。オレもハイエルフになってしまって、本能に支配されてるんだ。そしてそれを不快とも思わない。
ちなみに、その月経を止める魔道パンツは、女性の成長期が終わることも止めてしまう。つまり女性としての成長が死ぬまで続くので、歳を取っても胸が成長する豊胸アイテムとして重宝されている。
まあ、この世界はオレたちの手で作り替えていくんだ。
★★★★★★
★ユリアナ一六二歳、ローゼンダール暦上九十六歳(マレリナ二十七歳、キャロル三十二歳、アオーイ十八歳)
私がこの世界に戻ってきてから三十二年。この世界でユリアナとして生まれてから、一六二年たつのだけど、地球で過ごした六十六年を除いても九十六歳の扱いだ。まあ、長寿であるエルフの年齢なんて、人間からすれば「すごく長く生きている」で片付けられてしまうし、エルフも自身の年齢を忘れてしまう者が多い。私は九十六歳でも一六二歳でも、身長は一センチも変わらない…、けど胸はちょっと変わるみたいだ…。だけど、私の身内は体形などいくらでもいじれるし、とにかく、年齢など何の意味も成さなくなってきた。
私の目指す世界…。歌で満ちあふれる世界…。
この世界の人々はまだ童謡のような曲を作曲できるようになっただけで、一分三十秒のアニソンTVバージョンですら旋律が複雑すぎて作曲できない。歌詞を旋律に乗せるというのもあまり理解できていない。歌うのなんて夢のまた夢だ。
だけど、それが根底から覆されつつある。歌ったり作曲したりできる遺伝子を持つ者が増えてきているのだ。
ローゼンダールは人口が着々と増えており、今や二十万人。ローゼンダールの領地の数は十九であるにも関わらず、総人口のうちの、なんと三万をマシャレッリ侯爵領が占めているのだ。王都ですら二万。唯一の公爵領であるフョードロヴナでも一万五〇〇〇だ。
その人口増加に拍車をかけているのが、私の血筋…。それはマシャレッリの人口三万のうち、五パーセントにも上る…。
私のお嫁さんや娘たちは、なぜか十六年おきに子を産みたがる。そして、エルフは長寿。娘たちの嫁は普通の人間だけど、身内だけに公開している若返りの魔法を使って、嫁を不老にしている。つまり、子孫は増えるのに誰も死なないのだ。
そして、嫁が六人の私と違って、娘の中には嫁を十人も二十人も持つ者もいる。そのおかげで、私の子孫は、元地球人を除いても六〇〇人いるのだ。
本来、エルフは月経の周期が長く、常に生理不順で時期にランダム性が高いので、とても子供ができにくい種族であった。だけど、私が排卵時期をコントロールする魔道具を世に送り出してしまったために、エルフだろうと人間だろうと、望んだときに子供を作れるようになった。私の子孫ではないけど、エルフの人口も着々と増えつつあるのだ。そもそも、私の子孫ではないエルフというのは、すべてルシエラの子孫である。まあ、私もルシエラの子だから、私の子孫はルシエラの子孫なのだけど。
そして、マシャレッリの人口を多く占めているもうひとつの血筋が薫の血筋だ。薫の血筋といっても半分は私の血筋で、もう半分はルシエラの血筋なのだけど、この際、地球でルシエラが産んだ子は私の子だ。
私とルシエラが地球で薫との間に作ったアオーイたち子孫に、絶対音感を持つ遺伝子を広めるように使命を与えた。男子のノルマは一人一〇〇人。女子のノルマは一人十人だった。それなのに、すべての女子はエルフに転生してしまい、子を授かる側ではなく子を授ける側になってしまった。そして、私への当てつけのように嫁を増やして、一〇〇人を超えてもいまだに子を増やしている。私のお嫁さんたちとは違い十六年おきとかにこだわりがなく、道ばたに可愛い子が落ちていればすぐに拾って子を授けてしまう。その子の数は九〇〇にも上る。
そろそろ、腹違いの姉妹の顔を知らなくて、近親婚で障害児が生まれてきたりしないかなとも思ったりするけど、ひとまずマザーエルフの血は近親婚による遺伝子異常を起こさない。だけど、薫の遺伝子は普通の地球人の遺伝子なので、腹違いの姉妹で結婚しようものなら即、遺伝子異常を起こしてしまうだろう。
たしかに、最近巷で、障害児が生まれたという噂というのはちらほら耳にする。だけど、障害児が生まれて悲しみに伏せているかというとそうでもない。病院に行けば治してもらえるらしいのだ。
その病院をやっているのが、ユーナの元旦那のエイチ(英一)、アイーナの元旦那のショーマ(翔馬)、ユッキーナ(雪菜、ユーナの娘)の元旦那のリョー(涼)の三人。エイチは遺伝子工学博士。ショーマは医学博士。リョーは生物学博士。三人は地球中から集めた医学や生物の知識を元に、ありとあらゆる怪我や病気を治療魔法で治してしまう。遺伝子疾患もそのひとつだ。つまり、障害児が生まれても、ちょっと怪我をして生まれてきたくらいの感覚でしかないのだ。
二十四年前のライブで、歌の内容のすべてが意図せずに祝福になってしまった。祝福は私欲や悪事には使えないから、万が一魔法が発動しても問題ないと踏んで、曲をすべて変ロ長調に転調したのがあだになった。
その歌詞の中には、「世界のみんなが歌えるようになるといいな~♪」というものがあった。だけど、この世界の人間がもともと歌える人種だったとかいう事実改変が起こったりはしなかった。そのかわりに、私の血筋が増えることで、歌える者は確実に増えつつある。もしかしたら、これが祝福の効果なのかもしれない。
私の祝福はいつもこうだ。最初は事実改変がけっこうあったのだ。森に野草がたくさん生えているという事実を作ったり。マレリナが実は命の魔力持ちだったという事実を作ったり。栄養失調のアナスタシアが好みそうな果物やお菓子の原料となる牛乳を出すミノタウロスや卵を持つコカトリスが付近の森に生息しているという事実を作ったり。
だけど、いつしか私の祝福は、私が自分でその願いを叶えるための手助けをしてくれるだけになった。そもそも栄養失調のアナスタシアを助けたのは、私が動いたからだ。私の祝福は、いつもマッチポンプなのだ。占いで○○が起こりますよと告げて、自分でそれを起こしているようなものだ。それが悪事でないのは確かなのだけど。
祝福では自分の望みは叶わない。だけど、親しい者の幸福は自分の幸福でもあるので、祝福の結果、自分が利益を得てしまうことも多い。「世界のみんなが歌えるようになるといいな~♪」という歌詞は私の望みなのだけど、みんなに歌えるようになって幸せになってほしいという意味もあるから一概に私欲ともいえない。それに、私でなくて、私の子孫が歌えば、私の望みも叶えられてしまう。
でも、やっぱりその望みも、マッチポンプ気味になってしまったようだ…。私が子孫に子を産ませて歌える人口を増やしているのだから。アオーイたちに、そんな使命を与えたのも、もしかしたら祝福の効果の一環かもしれない。葵に使命を与えたのは葵が十二歳のときだった。だけど、祝福は過去に遡って事実改変をするから、もしかしたらライブの祝福の効果が過去の私にそう言うようにそそのかしたのかもしれない。
これはきっと罰なんだ…。私があまりにも祝福の利益を得るから、祝福さんが怒って祝福の制約の範囲内で可能な限り斜め上の効果を与えようとしたからこんな事態になっているのだ…。祝福というのは、自分が利益にならない他人の幸福を願わないと、自分がそれをかなえるように行動させられたり、おかしな形でそれを実現されたりする、ちょっといじわるな魔法なのだ…。
◆
そして、ユリアナの祝福の魔の手は各国の王家にも及んでいた。ライブの歌には「王子様なんて気にしない。みんな私のお嫁さん♪」というものがあったからである。私欲はかなえられないので、歌った者がみんなを自分のお嫁さんにはできない。だけど、複数で歌って、他の者がそうなることを望んだのなら、祝福の制約範囲内になる。
ローゼンダール王家は八十年前から、人間の王とエルフの女王の二家体制を取っている。このエルフの女王は、ユリアナが密かに王家の血を引く者に授けた子の末裔だ。しかし、嫁探しをする場である王都の学園では、マシャレッリ家のエルフ娘とエルフの王女がすべての女子を嫁にしてしまい、王子の嫁がまったく集まらない。もうエルフの女王の一家に一本化してしまってよいのではないかと論議されている。
すでに、北のリオノウンズと西のヘンストリッジを除いて、北西のウッドヴィル、北東のアバークロンビー、東のヴェンカトラマンはユリアナの血を引くエルフが国を治めている。各国の王家は、エルフの王女を貴族家に嫁がせ、国の貴族をすべてエルフ娘で置き換える勢いである。
平民から歌い手が増えているローゼンダール王国と違い、周辺国は王族と貴族から歌い手が増えているのであった。
こうして、この世界はユリアナと薫の血を引く者で溢れるようになり、みんなが歌えるようになっていくのであった。
~鼻歌の魔女は日本でもアニソン歌手になりたい~ 完
■ユリアナ(六十八歳、日本戸籍上十八歳)
キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。身長一四〇センチ。
■ルシエラ(二十歳、日本戸籍上十八歳)
前世はユリアナの産みの親。今世はユリアナの娘。
キラキラの銀髪。ハーフアップ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。身長一四〇センチ。
■キャロル(薫)(ユリアナ-一三〇歳)
ルシエラの転生前の身体に宿った薫。
■トゥヴァーシャ(翼)(ユリアナ-一三一歳)
ルシエラの産んだよりしろに宿った翼。
■アオーイ(葵)(ユリアナ-一三〇歳)
薫とユリアナの息子。ローゼンダールに来て〇歳に若返った。
■ミルキー(水樹)(ユリアナ-一三〇歳)
薫とルシエラの娘。ローゼンダールに来て〇歳に若返った。
■ルーイ(瑠衣)(ユリアナ-一三〇歳)、ユーナ(優奈)(ユリアナ-一三〇歳)
葵の子。薫の孫。
■レオン(怜央)(ユリアナ-一三〇歳)、アイーナ(愛奈)(ユリアナ-一三〇歳)
水樹の子。薫の孫。
■ユッキーナ(雪菜)(ユリアナ-一三〇歳)
魔力持ち。優奈の子。葵の孫。薫のひ孫。
■優奈の息子
魔力なし。葵の孫。薫のひ孫。
■瑠衣の子(二人)
息子と娘一人ずつ。息子は魔力持ち。娘は魔力なし。葵の孫。薫のひ孫。
■水樹の孫(四人)
怜央の息子は魔力なし、娘は魔力持ち。愛奈の息子は魔力持ち、娘は魔力なし。
■葵・水樹の配偶者、葵と水樹の子・孫の旦那(ユリアナ-一三一歳)
計七人。エッツィオの子孫に転生した。
■葵・水樹の配偶者、葵と水樹の子・孫の妻(ユリアナ-一三五歳)
計七人。エッツィオの子孫に転生したが、アンジェリーナやアレクサンドラの孫に再転生してしまった。
◆異世界にやってきた真北家家系図
数字は属性数。ユ=ユリアナ。ル=ルシエラ。
子 孫 ひ孫
ユ┬──3葵─┬┬1瑠衣┬┬1息子
| 0春奈┘|0妻─┘|0妻
| | └0娘
| | 0夫
薫┤ └1優奈┬┬0息子
| 0英一┘|0妻
| └1雪菜
| 0涼
ル┴──3水樹┬┬1怜央┬┬0息子
0剛─┘|0妻─┘|0妻
| └1娘
| 0夫
└1愛奈┬┬1息子
0翔馬┘|0妻
└0娘
0夫
翼
属性数が0のひ孫娘二人と妻七人は、エッツィオの子孫の身体で四年間暮らした後、全員ハイエルフに転生。
属性数が0のひ孫息子二人は、アンジェリーナの娘エルフとマルグリッテの娘エルフに転生。
夫七人はエッツィオの子孫の身体のまま。
属性数のある者十人は地球人身体の若返らせてそのまま。
薫はルシエラの前世の身体をもらって転生。
翼はルシエラの娘の身体をもらって転生。
◆地球で集めたスキル
葵:IT、AIエンジニア
春奈:IT
水樹:音楽
剛:声優
優奈:植物博士
英一:遺伝子工学博士
愛奈:外科医ドクターI
翔馬:医学博士
涼:生物学博士
瑠衣:電子工学
瑠衣の妻:電子工学(OutelのCPU設計者)
怜央:機械工学スキル
怜央の妻:スマホ設計者
◆魔法の属性:シンボルカラー;音楽の調;効果
火属性:赤色;ハ長調、イ短調;火、加熱
雷属性:黄色;ニ長調、ロ短調;電気、光
木属性:緑色;ホ長調、嬰ハ長調;植物操作
土属性:橙色;ヘ長調、ニ短調;土、固体操作
水属性:青色;ト長調、ホ短調;水、解熱、液体操作
風属性:水色;イ長調、嬰ヘ短調;風、気体操作
心属性:桃色;ロ長調、嬰ト短調;心・記憶・感情操作
時属性:茶色;変ニ長調、嬰イ短調;時間操作
命属性:白色;変ホ長調、ハ短調;肉体・人体・動物操作、治療
邪属性:黒色;変ト長調、変ホ短調;世の中のことわりの管理
空間属性:紫色;変イ長調、ヘ短調;空間・移動操作、念動
聖属性:金色;変ロ長調、ト短調;祝福、幸せ、加護