会話劇場「肝試し」修正版
作者の見た夢をそのまま会話劇にしたものです。まるでリアリティーを無視していて、なおかつ適当です。
それでもよろしけば……。
「雨宮桂馬と沖瀬零音」
放課後。某学校の武道館正面にて。
雨宮「沖瀬さん!八月ですよ!つーか夏です夏!」
沖瀬「……あぁ、そうね。雨宮」
雨宮「僕好みの季節ど真ん中ですよ、沖瀬さん」
沖瀬「あー、はいはい、そうだね。……って、え?あんた夏すきだっけ?」
雨宮「今さら何言ってんですか?大好物ですよ」
沖瀬「嘘」
雨宮「う、嘘じゃないですって。即答で断定とかしないで下さいよ」
沖瀬「…いや、だって、海は?」
雨宮「塩水は嫌いです。潮風はべとつくし」
沖瀬「プールは?」
雨宮「かなづちの僕に溺れろと?」
沖瀬「祭りは?」
雨宮「人混みが嫌いです。何で五百円も払ってたこ焼き食わなきゃいけないのか、理解に苦しみます」
沖瀬「花火は?」
雨宮「トラウマ的にちょっと…。昔近所のえっちゃんに髪の毛を花火で丸焦げにされたので」
沖瀬「……………」
雨宮「……沖瀬さん?」
沖瀬「やっぱ嘘じゃん」
雨宮「だから違いますって」
沖瀬「何が違うって言うの?夏の風物詩全否定じゃん」
雨宮「何言ってるんですか!もう一個残ってるでしょ?風物詩っ」
沖瀬「……さぁ?」
雨宮「怪談ですよ怪談!」
沖瀬「……あぁ、そう言えばそうだね。でもあんたの場合って季節関係あんの?」
雨宮「え?何でです?」
沖瀬「だってあんた。年中ホラー一色の変態じゃない」
雨宮「ひどっ。そりゃホラーは好きですけど、年中は見てないし。つーかそもそも変態ってのが聞き捨てならないんですけど」
沖瀬「変態でしょ?女の子の腕が千切れるシーンを見ながら自慰できるなんてあんたくらいのもんよ」
雨宮「それは間違いなくド変態野郎ですけど、断じて僕はそんなことしてません!」
沖瀬「そうなの?首が爆砕するのを観て大爆笑とかしないの?」
雨宮「しません!」
沖瀬「しないの!?」
雨宮「……何かすごく驚かれちゃったよ。そんなに意外なことですか?」
沖瀬「まぁね。私、雨宮のことド変態野郎だと思ってたから」
雨宮「失礼な!すぐに訂正してください!」
沖瀬「あー、はいはい。まぁそうよね。あんたって言われてみればスプラッターよりサイコ系が好きだったわね」
雨宮「そうですよそうですよその通りですよ沖瀬さん!」
沖瀬「……気持ち悪いなぁ……。それで結局雨宮は何が言いたいの?」
雨宮「何か非常にむかつく悪口が聞こえた気がしますが、あえて無視します……えーとですね、簡単に言うと、夏と言えば怪談、怪談と言えば肝試しと、こういうことが言いたかったわけです」
沖瀬「?……つまり、肝試ししたいから一緒に行かないかってこと?」
雨宮「そういうことです」
沖瀬「……相変わらずの暇人っぷりねぇ」
雨宮「沖瀬さんだって人のこと言えませんよ」
沖瀬「そんなことないわよ。私、こう見えても結構忙しいのよ」
雨宮「あ、そうなんですか。何かご予定でも?」
沖瀬「……えーと、自分探し…とか」
雨宮「…何ですかその、取ってつけたような用事は?」
沖瀬「他に思いつかなかったのよ」
雨宮「そう言ってる時点ですっごく暇ってことじゃないですか!」
沖瀬「まぁね」
雨宮「はぁ、良かった。じゃぁ、沖瀬さんは参加でいいですね」
沖瀬「それはまぁ、いいけど。他には誰が来る予定なの?」
雨宮「早乙女さんとか永崎君とか…あぁ、あと鳩木君も」
沖瀬「えー、鳩木はいいよ、来なくて」
雨宮「まぁまぁ、そう言わずに」
沖瀬「だってあいつ、この前道行く女性を襲ってまわした上にお金取っていったんだから」
雨宮「ええ!?」
沖瀬「私、すぐに警察に連絡したんだけど逃げられたの」
雨宮「……沖瀬さん」
沖瀬「何?」
雨宮「察するにうそでしょ、それ」
沖瀬「うん♪」
雨宮「…たち悪いですね。一瞬信じかけたじゃないですか」
沖瀬「友人なんでしょ?そこは一瞬でも信じちゃだめでしょ」
雨宮「…はぁ、そうですけど。……ところで――」
沖瀬「ん?」
雨宮「――鳩木君のこと。何で来てほしくなんですか?御二人は仲良かったと記憶してるんですけど」
沖瀬「うん…それはね」
雨宮「それは?」
沖瀬「仲良くなりすぎたからなの」
雨宮「…………は?」
沖瀬「だから、告白されたの。鳩木に」
雨宮「えええええええええええええええええええええ!?」
沖瀬「うるさい」
雨宮「今から一週間前に学校で告白されたけど、まだ返事を返していないから会うのが恥ずかしいですって!?」
沖瀬「へ!?あ……ちょ、ちょっと待て!何で知ってる!?」
雨宮「すみません……隠していたんですが……僕には超能力があるんです!」
沖瀬「…………おい、雨宮」
雨宮「……は、はい」
沖瀬「……察するにお前……嘘をついてるな」
雨宮「――は、はいぃ」
沖瀬「本当のことを話せ」
雨宮「わ、わがりまじだがら、ぐびをじめるのをやべでぐださいっ」
沖瀬「よし」
雨宮「――ったー。しんどっ!」
沖瀬「ほら、きりきり話せ」
雨宮「はいはい。……多分沖瀬さんのことだから、ある程度予想はついてると思うんですけど、鳩木君って好きな人ができると割と分かりやすい行動をとるんです。で、この夏もそんな態度が目立ったので、暇つぶしに彼の好きな人を割り出してみようと思いまして、彼を逐一観察しました」
沖瀬「逐一……?」
雨宮「逐一です。ですか、一向にそれっぽい人が見えてこない。そこで視点を変えてみることにしたんです。同学年ではなく、一つ上の三年生にあたりをつけてね。そこからはすぐにあなたの名前が浮上しましたよ。あとは適当に尾行していたら、告白現場に居合わせてしまったので、そのまま成り行きを見守っている感じですね」
沖瀬「あんたのそんなストーキング的な行動の予想は一切していなかったんだけど――っていうかてっきり鳩木に相談されたのかと思ったんだけど」
雨宮「一度教室で、彼が書いたラブレターを音読したことがあって以来、彼は僕のことをあまり信用していません。だから相談なんてあるわけないじゃないですか」
沖瀬「最低極まりないなお前!」
雨宮「はっはっはっは。キモヲタですからね。それくらいの外道はやりこなせないと」
沖瀬「こなすなよ」
雨宮「とにかく!どうせ鳩木君は肝試しに『絶対』来るんですから、沖瀬さんもついでに告白の返事とかしといたらどうですか?」
沖瀬「うーん……この際だから便乗しちゃうか」
雨宮「しちゃいなさいしちゃいなさい」
沖瀬「で、日時と集合場所は?」
雨宮「明日、学校に夜八時です」
沖瀬「ん、了解」
「永崎順介と早乙女純」
夜。ファミリーレストランにて。
早乙女「ねぇ、順介。聞いた?肝試しの件」
永崎 「おお、聞いた聞いた」
早乙女「で?行くの?」
永崎 「そりゃぁね。俺、そういうイベント好きだし」
早乙女「ふーん」
永崎 「早乙女も誘われているんだろ?行かないのか?」
早乙女「あたしはちょっとパスしようかなって思ってる」
永崎 「………。何でさ?」
早乙女「…………………………………」
永崎 「言えないことなのか?なら無理にとは――」
早乙女「いや、別に……そういうわけじゃないけど」
永崎 「じゃぁ、言ってみ」
早乙女「……肝試しにさ、淳雄が来るって桂馬が言っててさ」
永崎 「え?鳩木?あいつが来るのか?」
早乙女「そうみたいなの。だからちょっと……ね」
永崎 「…………。ま、まぁ、分からなくもないが、もう一年だろ?そろそろ落ち着いたし、いいんじゃないのか?」
早乙女「順介は分かってないなぁ。気まずいでしょ?元カノが来ちゃ」
永崎 「そう……かもな」
早乙女「でしょ?桂馬が何であたしを誘ったのかまるで分らないわ」
永崎 「……………………」
早乙女「何で黙るのよ?」
永崎 「あ………いや…」
早乙女「?……ねぇねぇ、肝試しの話で思ったんだけど、最近桂馬って怪しくない?」
永崎 「…そうか?」
早乙女「そうよ。夏嫌いのあいつが、妙に行動的なのが気になる」
永崎 「そう言えばそうかもな。雨宮っていつも夏は引きこもってゲームばっかしてるイメージあるもんな」
早乙女「そもそも桂馬からこういったイベント物の話が出たのって、今回が初めてじゃない?……何か、陰謀の匂いを感じるのよね」
永崎 「陰謀?」
早乙女「そう。桂馬の背後で、この一連の企画を操っている奴がいるってことよ。そうでもなきゃ、あのキモヲタがこんな面倒なこと言い出すはずがないもの」
永崎 「…………………………」
早乙女「……だから、何で黙るのよ?」
永崎 「……あ、ああ。悪い――すみません、店員さん。ウーロン茶おかわり」
店員 「はいただいまぁ」
早乙女「………………」
永崎 「…………何だ?」
早乙女「順介………あんた、あたしに何か隠してない?」
永崎 「………………………。いいや、何も」
早乙女「ものすごく間が空いたのがひどく気になるけど、ま、詮索しないでおいてあげるわ」
永崎 「そうか」
早乙女「――にしても肝試しかぁ。最後に行ったのはいつだったかなぁ」
永崎 「中学の時の廃病院探検じゃなかったか?」
早乙女「あぁ、あったわね、そういうの」
永崎 「雨宮がビビりまくって、皆で行こう皆で行こうばっかり言ってうるさかったもんな」
早乙女「桂馬ってホラー好きな癖にああいうのだめだもんね」
永崎 「確かに。でも皆で行ったのに速攻で早乙女と鳩木は姿くらましてたよな?お前らあの時何やってたの?」
早乙女「順介さぁ、恋人同士の二人が姿くらましてすることっつったら決まってんでしょ?」
永崎 「……あー、やっぱり――って、やっぱりじゃねーよ!中学生だぞ!?」
早乙女「その気になったら年齢なんて関係ないでしょ」
永崎 「いやいやいや、あるだろ!」
早乙女「順介ってホント堅物だよね。まぁ、ド変態な桂馬よりはましだけど」
永崎 「あんなのと俺を比べるな」
早乙女「じゃぁ、淳雄と比べてみる?」
永崎 「いや……だから。何で俺が雨宮や鳩木と変態度を比べられにゃならんのだ?」
早乙女「いいじゃない。順介がいかに変態じゃないかがはっきりするんだから」
永崎 「何か、複雑だなそれ」
早乙女「そう?あたし調べの変態ランキングじゃ、一位が桂馬、二位が淳雄。で、大きく下回って順介は百位」
永崎 「間の九十七人がひどく気になるところだが、それはさておき――」
早乙女「さておくんだ?」
永崎 「――二位が鳩木って。あいつそんなに変態なのか?」
早乙女「そう見えないでしょ、あいつ。ところが結構アレなのよ」
永崎 「全然そうは見えないけどな」
早乙女「あいつ、ああ見えてかなりの焦らし好きだからね。その焦らしようと言ったら、さっき頼んだウーロン茶が未だに来てないってくらい焦らすの」
永崎 「わけのわからん例えだが、それくらいなら許容範囲だろ?」
早乙女「いやいやいやいや。酷いもんよ。最終的には放置とかあるし」
永崎 「……。なんちゅうマニアックなプレイしてんだよ」
早乙女「その当時は愛し合っていたんだからいいじゃない」
永崎 「限度ってもんがあるだろ」
早乙女「順介は止めどなく溢れ出る愛を、限度があるからと言ってせき止めちゃうわけ?」
永崎 「なんだそりゃ。話を差しえるな。中学生なんだから節度を守れって言いたかったの、俺は」
早乙女「はぁ。ほんっと、あんたって堅物よねぇ」
永崎 「ほっとけ!」
「鳩木淳一郎と雨宮桂馬」
雨宮宅
鳩木「あーめーみーやー!」
雨宮「やぁ、鳩木君。いよいよ今夜だね、肝試――」
鳩木「やい、てめぇ!早乙女純まで来るとは聞いてねーぞ!」
雨宮「え?」
鳩木「『え?』じゃねーよ!聞いてねーっつってんだ!」
雨宮「そりゃそうだよ。言ってないからね」
鳩木「ぬけぬけと返してんじゃねーよ、このボケ!」
雨宮「??……何をそんなに怒ってんのさ?」
鳩木「純だぞ、純!元カノの前で、別の女に告白の返事聞けってか!?」
雨宮「聞けば?」
鳩木「!?」
雨宮「『元』彼女なんだから、別に問題ないでしょ?」
鳩木「くぁぁぁぁぁぁ!これだから恋愛をしたことのないキモヲタは!察しろよ、気まず
いだろ!?」
雨宮「そうなの?」
鳩木「そうだろうがよ!」
雨宮「そうなんだ。ふーん………ま、頑張ってよ」
鳩木「えぇぇぇぇ!?何その無責任発言!?」
雨宮「いや、まぁ、他人事だからね」
鳩木「だぁかぁらぁ!お前のせいだろうがぁぁぁ!」
雨宮「しょうがないだろ。君が僕に沖瀬さんを誘えと言って来たように、早乙女さんを誘ってくれって別口で頼まれたんだから」
鳩木「何だと!?永崎か!?」
雨宮「まぁね」
鳩木「永崎め!人畜無害な顔をして俺の恋路を邪魔しくさる気か!?」
雨宮「君の恋路を邪魔して、彼が得するわけないでしょ。彼も君と似た理由だよ」
鳩木「何?ってことは永崎、純が好きなのか?」
雨宮「そうみたいだね」
鳩木「だったら何で同じ日にしたんだよ!?別々でもいいじゃねーか!」
雨宮「面倒くさいからに決まってるでしょ」
鳩木「こんっの!ヲタの分際で!」
雨宮「そんなに言うなら、僕なんかに頼んないで自分で動けば良かったんじゃないか。そ
もそも僕のこと信用してないのなら、この展開は予想できたでしょうに」
鳩木「くっそぉ、ああ言えばこう言いやがって。仕方ないだろ。沖瀬先輩の知り合いで俺
と知り合いが同じなの、お前しかいなかったんだから」
雨宮「……へたれ。恋愛臆病のプレイボーイ」
鳩木「悪口なのは違いないが、なんかそれいろいろ矛盾してるぞ」
雨宮「君の行動自体、いやむしろ存在自体に僕は矛盾を感じているけどね」
鳩木「やかましいっ!――で、沖瀬先輩はちゃんと来るんだろうな?」
雨宮「早乙女さんの件はもういいの?」
鳩木「種を蒔いたのは貴様だが、種を渡したのは永崎だ。お前への責めはこれくらいにし
してやる」
雨宮「ふーん」
鳩木「で、沖瀬先輩は?」
雨宮「来るよ。複雑な顔をしてたけど、あの感じならまず間違いなく来るでしょ」
鳩木「じゃ、じゃぁ、俺が来ると知って顔を赤らめたり、恥じらいの表情を見せたりとか
はなかったのか?」
雨宮「君のその自意識過剰な点はものずごく腹がたつが、まぁ…なくもなかったよ」
鳩木「そ、そうか。ならある程度期待してもいいんだな?」
雨宮「……さぁ、どうだろ?誘っているとき君を強姦魔に例えてたからね、あの人」
鳩木「!!……何で!?お前、一体どういう誘い方したんだよ!?」
雨宮「普通普通。僕の割には至って普通」
鳩木「嘘つけ!」
雨宮「そりゃ、信じる信じないは君の自由さ」
鳩木「都市伝説みたいにしめんな!」
雨宮「いいじゃない。あんな暴力女とくっつこうってんだ。ある意味僕の中では伝説と呼
んでもいいんじゃないかなと思っているんだよね」
鳩木「いや、わけわかんねーし!」
雨宮「……………」
鳩木「………んだよ?急に黙りやがって」
雨宮「………鳩木君」
鳩木「あ?何だよ?改まって。気持わりーな」
雨宮「君はさ、かなり重症なへたれだけど、ここ一番の思い切りは最高にいいし、ルック
スもいい。だから勇気を持って――」
鳩木「………………」
雨宮「砕けて来い」
鳩木「…………………。おい」
雨宮「砕け散って来い!」
鳩木「こら!」
雨宮「跡形も残らず!」
鳩木「あのなぁ!」
雨宮「そして死ね!」
鳩木「……………。マジ殺してー」
雨宮「あははは。鳩木君、今君なかなかユニークな顔をしてるよ。憎悪で持ち前のルック
スが形無しだ」
鳩木「………………」
雨宮「………………ん?鳩木君。その……振り上げている拳はどこに落ちてくるのかな?」
鳩木「決まってんだろ」
雨宮「………」
鳩木「――てめぇの脳天だよ」
雨宮「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その五時間後。
清水廃工場前で、予定通り肝試しが行われ――その後、二組のカップルが成立した。
終わり
最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。