帰り道
たまたま部活がなくて早く帰路に着いた日
空を見上げたら真ん丸の薄い月が浮かんでいた
ああ、夜も見なきゃなとそう思った
家に着いて自慢の一眼レフで月の写真を撮った
綺麗には撮れなかった
勉強をする気にもならず、ずっと過去の写真を眺めていた
空の写真ばっかりだった
気に食わない写真を消して時が経つのを待った
そんな時、君が通知を鳴らした
「月が綺麗だね」
とても嬉しかった
君が純粋に月を楽しんでいるのだと思って
僕の好きな空を君が好きになってくれたのだと思って
そうじゃないといいなと少しの期待をしながら
「そうだね」
僕の返事はこれだけだった
ご飯の時間を待ちながら君が空を見上げる所を想像した
その日結局月は見なかった
化学の先生の呪文を聞きながら空を見上げた
至って普通の空だった
この心地の良い席から君が見えないのは少し残念だった
でも君が話しかけに来てくれたからその日は1日ハッピーだった
「今日も月が綺麗かな」
夕焼けのせいだろう
君の顔が赤いのは
きっと僕の顔はもっと赤かった
帰り道暗がりの中を照らす大きな月は僕の好きな月だった
「綺麗だったね」
そう言われるのを期待していた
でも次の日君が話しかけてくることは無かった
君が学校を休んだのはいつぶりだろう
今日の月はあまり好きじゃなかった
少し欠けてきて不恰好だから
君は最近学校に来ない
LINEも既読にならない
「暇なときは空を眺めるのがいいよ」
無愛想で友達もいない弟が教えてくれた
あの時は可哀想だなって思ったけど
やっぱり兄弟か、血は抗えない
そんな弟がいなくなって毎日引きこもって泣いていた時
漫画みたいだけど君がプリントを届けにきてくれたんだ
これが一目惚れか
そんなダサいことを考えた
そんな君も嫌になることがあるんだね
急に学校が楽しくなくなった
君はすごいね
僕が学校に行く一番の理由だったんだと気づいた
桜が舞う中
僕は卒業証書を手にして走っていた
夕日で君のほっぺが染まった日から
君が学校に来ることはもうなかった
君の親友がもっと頭のいい学校に転校したんだって言っていた
いつの間にか机が減ってて君ともう会えないんだとわかった
どれだけ泣いたか、君には言えないよ
それでも時は流れ、だんだん君の顔も思い出せなくなった
忘れたわけじゃない
空を見る度に嫌でも思い出したから
忘れてしまった方が楽だったよ
でも君が忘れないでってどこかで言ってるんじゃないかと思って
挨拶もしないでいなくなったくせに
その日からいっぱい勉強して君の行きそうな大学を受験した
居るかは分かんないけど
君のために頑張ったんだと言いたかった
もう月を見てる暇はなかった
毎日図書館にこもって必死に勉強してたから
その甲斐あって無事に合格した
卒業式の雰囲気はあまり好きじゃなかった
君がいたらもっと楽しかったかな
そんな時だった
君の親友から手紙をもらったのは
「君に返事をもらうために辛い時も耐えれたんだ ありがとう」
震える字で、何回も消して書いた跡があった
ああ、僕はバカだな
こんなに君に会いに行きたいのに足が動かない
急に背中を叩かれ足が一歩だけ前に出た
何してんだよ、行けよヘタレ
君はやっぱりすごいね
こんなに強くて優しい親友がいて
運動不足の受験生が走るにはそれはきつい道だった
上を向いたら昼間の月が見えるのが救いだった
やっぱり、君の笑顔は僕の太陽みたいだ
病院のベットで楽しそうに談笑する君はあの時から何も変わらない
「今日は月が綺麗に見えそうだね」
そんなことを言う君がたまらなく愛おしかった
「大好きだ」
あまりに大きな声だったから看護師さんに注意されちゃったけど
君が喜んでくれたからなんでも良かった
その日は特別に病院の屋上から満月を見せてもらった
とても長くて疲れた日だった
そして、一生忘れないであろう1日だった
僕と再会してから君は一週間も経たずに亡くなった
後悔はたくさんあった
でも君とみれた月も
あの時の照れた顔も
最後の時を共有できたことも
全部僕の宝物になった
仕事からの帰り道
とても大きくて美しい月を見ながら
君のことを考えた 完
お読み頂きありがとうございます!初作品なので拙いですが、感想を頂けるととても嬉しいです!!これは、ふと月を見上げた時に思いついた作品です。皆さんも今日はぜひ空を見上げてみてください。