第2話 ㊺異能者vsイッパイパイパイ
異能者に気付いた下級悪魔は分かりやすく動揺して後退する。
が、ノロい。
ノロくてキモくてイライラするんだよオッ!
「まずは……その意地汚い手をどけやがれえええ」
佩血剣を振り下ろすは天音さんのお胸を無遠慮にお触りしている右腕ッ!
「グギャアアアアア‼ ウ、ウデガッ! ゼ、ロパイ……ゼロパイニィィィ!」
ザシュッ、と。さながら大根でも斬ったかのように心地よいASMRを響かせ、右腕は悪魔が侵入してきた窓の向こうへと投げ出される。
小汚い泥で隠れた小汚い顔面はさぞかし苦痛に歪んでいることだろう。
「ゼロパイで悪かったなァ! おらっ、まだまだ!」
天使から授けられた佩血剣なら下級悪魔の腕を斬るなど造作もない。右腕を切断した勢いを利用して素早く刀を翻す。斬り下ろしから、斬り上げ。右腕落としたら、左腕ッ‼
「天音さんから――――手を離しやがれこのゲロ豚がぁぁぁ‼」
「アアアアアアアア‼ パイ‼ オデノパイガアアアア‼」
連撃にくじけまいと天音さんの双丘を支えにしていた悪魔がついにその両腕を失う。
悪魔はさながらホールドを失ったクライマーのように仰向けに倒れこんだ。というか、どれだけ胸への執着が強いんだ、コイツは。ホールドにするな馬鹿。
立ち上がる隙なんざ与えねえ。てめえの痴情が犯した罪をその身に教え込んでやる。
眼をひんむいて地面にのたうち回っている悪魔に跨った俺は、再度ツヴァイヘンダー型の佩血剣を構える。
そして、さながら巨大ハリセンで連続ツッコミをするように、あえて無茶苦茶な太刀筋で悪魔に鬼の連撃をした。
一撃一撃、最大限の怒りと侮辱、そしてほんの少しの羨望を込めて。
「テメエの――――じゃねえんだよ――――‼ 天音さんの――――お山はなあ――――言ってみりゃ――――国宝なんだよ‼ 天音さんの双肩にのしかかっているのは――――この世で最も崇高な――――質量爆弾であり――――人類の宝ッ――――分かってんのかッ‼」
九連撃。斬撃というより破壊に近い攻撃は、悪魔に必要以上の苦痛をもたらす。
「イタアアアアアアアア! イタ! イタイタイタイタイタイタイイイイ‼」
この不合理な世界で唯一と言っていい自明の理を、わざわざこんな泥団子に熱弁しなくてはならないというのは、まさに不合理ここに極まれりといった感じである。
泥もずいぶん跳ね切って、至るところでその醜い中身が顔を覗かせている。まだ天使との契約から二ヶ月しか経っていない新参異能者の身なので、こんなに悪魔をいたぶったのは初めてだ。快感ー。
「とどめだァ! さあイキ狂いやがれ! さながらサキュバスモノ催眠音声のラストスパートのようにィィ!」
「アギャアアアアアア‼ ア、アア……。オデ、モット、イッパイィィ。イッパイパイパイ、シタカッタ…………」
それは風に流される砂のように。儚く、切なく、全てが嘘だったみたいに、全てが夢だったみたいに、低級悪魔は教室の塵になって消えた。
まぁ、ポエミーにオチを付けようとしても、そんなありふれた言い回しではごまかしきれないくらい遺言が低俗すぎたけど。何がいっぱいぱいぱいじゃばーか。
昭和のおっさんか。