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第1話 ㊺異能者とパンティー問題

天界と魔界がひそかに戦争している世界で、色々する変態高校生のお話です。とにかく性癖を詰め込みました(キリッ)

1話は長めですが、2話以降は5分程度でサクサクお読みいただけます。

 6月20日13時20分


 ◇◇◇◇


(……よし。女性用下着の話をしよう)


 初夏の昼下がり。


 給食という楽しみを終えた五時間目の授業中、スーパーウルトライケイケ高校生な俺、伊能推歩いのうすいほはそんな名案を思い付いた。


 退屈な授業を手早く終わらせるための、たったひとつの冴えたやりかた。ふっ、天才すぎて自分が怖いぜ。


 まあ授業なんて寝てしまえば終いだけど、ちょっと込み入った事情で、()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()以降、俺はほとんど睡眠がいらない身体になっちゃったから、寝たくてもどうにも眠れないのだ。


 ならマジメに授業を受けろって?


 ふん。


 …………。


 ま、ごもっともです……。


 ごもっともでド正論なのですが、あいにく、それは個人的主義の問題で不可能なのです。


 浄瑠璃じょうるり。浄瑠璃九平。ちょうど今教壇に立っている現国教師だ。


 コイツは俺たち私立一里塚(いちりづか)高校二年一組の担任で、そしてちょっとだけ、もうアリンコの産毛くらいちょーーーっとだけ若くてイケメンだとかで、クラスの女子生徒から絶大な人気を誇っている生意気ヤロー。


 そのせいで横目で見る限りだけど、みんなして浄瑠璃の授業を真剣に聞き入ってる。


 四時間目は今年初のプールの授業だったっていうのに、よく集中してられるもんだぜ。


 だからまー要するに、コイツの授業をマジメに聞いてるとなんかムショーに腹が立つってわけです。


 いやほんと、寝ることができれば話は早かったんだけどなあ。


 俺の成績がアリンコの産毛くらい、もうほんと小指の産毛くらいちょっとだけ低空飛行ぎみだなんて理由で、俺は中央の最前列とかいう断頭台のような悪席に座するわけだけど、でもむしろ。


 むしろだよ? 


 浄瑠璃のヤローにむしろ見せつけるようにまざまざと寝てやれば、「おまえの授業はつまらない。ひいてはおまえという人間そのものがつまらない」という簡潔で的確な意思表示ができたはずだ。


 しかし天使との契約のせいで眠気がこない以上、俺ができることはせいぜい、「マジメに授業を聞いているフリして頭の中はパンティーのことしか考えていないんだぜ」なんて自己満足のマウントをとることくらい。


 よって、パンティー。


 すべからく、パンティー。


 これが論理的思考ってヤツです。


 さてと。


 よしよし、これでようやく本題に入れるな。


 それではフショウ伊能推歩(いのうすいほ)、進行を務めさせていただきます。張り切っていくぞお! ついてこいよお前ら!


 パンティー。


 それ即ち女性用下着。


 ……別にパンツは女物に限らないだろうとかいう不届き者がいるやもしれないので初めに注意しておくと、男物のパンツはパンティーとは呼ばない。


 呼ばないし、俺が断固呼ばせない。


 パンティーというたった五文字のネーミングに込められた、主に男子中学生達の純情無垢な想いを、その不届き者はまるで理解していないのだ。


 だってそうだろ⁉


 パンツと言ってしまっては男物と区別が付かないし、かといって女物のパンツの話がしたいときに「女物のパンツの話をしようぜ」なんて切り出しては、なんかリアルなだけでワクワクしねえじゃねーか! 


 そして女物のパンツの話がしたいときなんてないとか思ったそこのお前は不敬罪、だ!


 あ、もちろんパンティーに対する不敬罪ね。


 パンティーとはつまるところ女物のパンツへの敬称であり、主に男子中学生からの深いリスペクトが込められた言葉なのだ。


 語尾をほんの少し変化させることで微量のエロティックを含みながらも、あくまでコミカルでキャッチーな印象を抱かせるという高等テクニック。


 パンティーという言葉は攻めすぎた下ネタで闇に葬られた数多の男子中学生のしかばねの結晶なのである。


「――――で、あるからに、下人の行方は――――」


 手を伸ばせば届きそうな距離で声を張り上げる浄瑠璃。ふと視線がぶつかる。


 俺がかつてないほどに深刻な表情をしていることに気付き、心なしか嬉しそうな顔を見せているようだ。


 っはは、悪いが浄瑠璃‼ 俺の頭は今パンティー一色だぜ‼ 


 さて、場も暖まってきたところでいよいよ本格的に、本日の四つのパンティー論題を発表するとしようかあ!


 その一、結局のところ、一番えっちいパンティーの色は純白or漆黒どっちなの問題。


 その二、いまや絶対的な地位を確立したといえるいちごパンツが一番萌える対象年齢はズバリ何歳なの問題。


 その三、なんやかんや言って黒の刺繍が最強なんじゃないの問題。


 そしてその四、ぬあーしかしピンクの紐パンも捨てがたいなぁ問題、だ!


 ……後半に関しては私情というか個人的フェチズムが混在していることは認めるが、しかし論題一、論題二に関しては長年パンティー愛好家の間でも論争が巻き起こり、死傷者が発生したという噂も絶えない重大な論題である。


 ここはいざ、パンティーマスターであるこの俺が直々に――――


「――――ちょっと、ちょっと推歩すいほってば‼」


 ……うっせえ。ほんとうっせえ。


 毎度毎度、どれだけ俺の邪魔をしたら気が済むんだ。右隣から、小声ではあるが強い催促のこもった声。


 名を虹色きらり。一言で言うと幼馴染を超越した幼馴染だ。


 当然のように家は隣だし、幼稚園、小学校、中学校、そして高校一年を経て二年目の夏、合わせて十数年は同じ学校同じクラスであり、そして末恐ろしいことにずーーーーーっと隣の席という因果律的な何かが働いているとしか思えないスーパー幼馴染である。


「んだよ、かの浄瑠璃大先生が授業中だろうが」


 こちらも小声で返答。授業に集中しやがれこの不良女子高生が。


 お楽しみ、もとい学術的研究を邪魔されたので不機嫌丸出しで右を向く。


 視界に入ってきたのはビビッドな桃色ショートヘア。小顔だからサイズ感といい色合いといい、桃って感じ。


 コイツ、神経回路が俺のような天才とはまた違うベクトルでぶっ飛んでいて、色々あったあの春祭り以降、命の次に大切だとかほざいていた黒髪をいきなりド派手なピンクに染めてきたのである。


 しかしそれで悪い噂が流れないあたりはまあ、コイツのクラスでの立ち回りが上手いんだと思う。スポーツ万能で、同性からの人気は恐ろしく高い。


 本当はそんなキャラじゃねーのに。無理しちゃってよ。


 で、何? 何なの? 今忙しいんだけど。パンティーで手が離せないんだけど。


「んだよじゃないわよ! さっきからずっとニヤニヤしちゃってさ。どうせパンツのこととか考えてたんでしょーけど、ほら」


 体を寄せて平気で耳打ちしてくるきらり。距離感バグってんのか。そんでもって平然と俺の思考を読んでくるあたり、おっかないたらありゃしねえ。


 でも惜しいねえ。あいにく、俺が考えてたのはパンツじゃなくてパンティーなのさ。


 ほら、と言われた方を見ると、


「ん、どうだ、伊能いのうには難しいかあ?」


 …………やベっ。


 正面にはじっとこちらの答えを待つ浄瑠璃の姿。さっきも言ったけど、手を伸ばせば届きそうな距離。


「え、えぇっとー」


 慌てて立ち上がる。え、何聞かれたの俺。マジすんません、ちょうどたまたま偶然例外的にパンティーのことばっか考えていたもので何にも分からないんですけど⁉


「ほら、下人の行方よ」


 ほんと推歩はあたしがいないとダメなんだから、とお決まりのイヤミとセットで教えてくれるきらり。こういう時ばっかりは本当にありがたい。いや、マジサンキューな。そっかそっか、下人の行方か。


 下人の行方ね。


 えっと確か、老婆に追いはぎを働いた下人が逃走して、その後。


 その後の、下人の行方。


 …………。


 …………え? 分かるわけなくね? 


 分かるわけないっていうか、分からないのが良いっていうか、あれあれ? 


 もしや浄瑠璃の授業は鬼のようにレベルが高いのかな? クソ教師日本代表のような顔をして、こと授業に関しては普通に神教師なのかな?


「あ、あはは。え、えっとー、下人の行方は――――」


「――――ふにゃあああああああああああああああ⁉」


 ……だからうるせぇよ。


 どう答えたものかと悩んでいる俺の思考を一瞬で忘却の彼方へと吹き飛ばしたのは、左隣の黒姫燦くろひめさんだった。


「あ、あああ、()()っ、悪魔だああああ⁉ なんでぇぇぇぇ⁉」


 右隣のきらりに対して、左隣の黒姫。


 右隣のまな板に対して、左隣のおっぱいちゃん……。


 黒姫さん、そのバストに比例して声もでけえみたい。


 これで左右から一回ずつ鼓膜を攻撃されたわけだが、しかし直後、今度は右からパリィンと耳をつんざくような鋭い破裂音。


 廊下側の窓が割れた音だった。


 ――――つーか、さっき黒姫、()()、って、言ったのか?


 悪寒がする。背筋が凍るような。嫌な予感。それもとびきり最悪の、だった。


 どうやら、俺の脳裏に浮かんだ最悪の展開をその目で確かめるより先に、教室は錯乱状態となったようだった。


「な、何だあのバケモノッ‼」「逃げろおおお‼」「ちょっと、押さないでよ⁉」「お、俺じゃねえ‼ コイツがッ‼」「い、――――る、また――――ッ‼」


 みんなが蜘蛛の子散らすように校庭側の窓へと雪崩なだれこむ。


 有り得ないなんてことは有り得ない。


 春祭りのとき、()()()()()()()()()使()が言ってたっけ。まあサブカルなあいつのことだからどーせどっかのマンガからの受け売りだろうけど、でもそれにしたって、いくらなんでも、こんな真昼間に現れるなんてことが有り得るのか?


 しかしなんというか、何も知らない一般人である黒姫でも一目見てそう命名するくらいだから、やはりコイツはどこまでも悪魔的なんだろう。


 鋭い破裂音の先、廊下側の窓ガラスを割って、


 ――――その悪魔は教室に侵入した。


 泥の異形。


 自称天使によると、天界では悪魔のことをそう呼ぶらしい。


 悪魔は全長二メートルを超える人型の巨体に魔界の泥を全身に覆っていた。


 ぱっと見、気味の悪いでいだらぼっちみたいだ。その虚空の瞳が、どこまでも暗い闇が、俺達を不気味に見下ろしている。


 ふつう、悪魔は最初に()()()()をするんだけど、まだ発声器官が発達していないのか、森のざわめきのような声にならない声をもらすばかり。


 もう数百体は見てきた俺にとってはありふれた低級悪魔に過ぎないが、しかし低級悪魔っていうのは、今回に限ればむしろ厄介だったのかもしれない。


 そしてさらにさらに厄介なことは、悪魔が侵入した廊下の窓から一番近い席に座っていたのが、クラスのマドンナである天音あまねさんだということだった。


 教室だと一段とデカくみえる。


 吊り電球に頭がつきそうな高さから、悪魔はぎょろりと今にもこぼれ落ちそうな目ん玉を天音さんに向けた。


 天音さんは、金縛りにあったみたいにぴたっとなって動けない。


 悪魔は叫び、天音さんへと泥の手を伸ばした。


「パ……ィ。イイイ、イチニンゲン、ニオッパイィィ!」


「い、いやっ」


 短い悲鳴。


 それが天音さんにできる精一杯の抵抗だった。


 脳が、フリーズする。


 あああああああ。


 あ、ああ、ああああああああ⁉ 


 う、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁ‼ 


 奴め、低級のくせに、天上の花嫁が如き天音さんのお胸を、そのお胸をおおおお‼ おもみもみしやがったああああ‼


 くそっ、迂闊だった! 低級ということは、知能が低いということは、脳の隅々まで本能的欲求、すなわちエロ方面に支配されているということを意味するッ!


 この悪魔、こんなナリして考えてることはそのへんのエロ親父と同レベルだ!


 一人間、二おっぱいだとおお⁉ なにその発想、ちょーきもいんですけど! さすがにひくんですけど!


 許さねえ、今すぐ俺の異能でぶった斬ってやる‼ 


(ま、待ちなさい伊能推歩‼ 契約を忘れたのですか⁉ これだけ多くの一般人がいる前で力を使ってはいけません‼)


 脳内に直接響くエコーがかった声。自称天使、もとい契約主のおでましである。


 こちらも脳内で素早く返答。


(うるせぇ‼ あんな低級薄どろエロ魔人に天音さんがあんなことやこんなことされてんのに、黙ってられっかよ‼)


 薄どろとした雰囲気のくせに分厚い泥……、なんてくだらないジョークを言っている場合じゃねえんだぜぇ‼


(そ、それについては、なんというか……。で、ですが良いのですかっ⁉ 散々忠告していたはずです! 契約違反を犯した異能者は死刑なのですよ!)


(はは、天音さんのお胸を守って死ねるのなら本望ッ‼ おい生意気天使、俺だって散々言ってきたよなぁぁ‼)


「俺は――――」


 生徒を守るポージング(ここ重要)をして前に出ている浄瑠璃を、悪魔への憎悪と、ついでに浄瑠璃への個人的な恨みを込めて突き飛ばす。


「な、何をするんだ伊能! 危ないから早く先生の後ろに!」


 うるさい喋るな息吸うな税金泥棒のくそ教師ぃ! へーーんだ!


 ……ゴホン。


 俺は。


(いいか天使、俺は毎日たった一つのことだけを夢想して生きてきた、流離さすらいの旅人、孤高の夢追い人なんだぜ‼ てめえみたいな生意気天使と契約して異能使いになったのも全部、それだけのためなんだ‼)


 そうだ、ここで格好付けなきゃ男じゃねえ!


 今ここに男伊能推歩は高らかに宣言する! 


「俺はッ‼」


 俺は――――。


「天音さんの性奴隷になりたいんだああ‼」


 …………………………………………。


 …………………………あれ、そうだっけ? 


 教室という狭い閉鎖空間に反響する俺の魂の叫び。


 あれあれ? 


 ただの高校生(実は天才、溢れんばかりの才能を持つ)が秘めた力でクラスメイトを守る超格好いいシーンのはずが、ただ俺の性癖を暴露しただけになってない? 


 ああっ、背中から感じるみんなの視線が痛い。痛すぎるぅ。


(……なんというか、見事なまでに最低ですね、あなた)


 ここぞとばかりに首を突っ込んでくる生意気天使。くぐもった笑い声を隠しきれてない。この天使、さては楽しんでやがるな?


 ……で、でもっ! 


 天音さんのためなら蔑視上等、死刑上等じゃい! 


 ていうか、蔑視はむしろイイみたいな所あるよねっ‼


「いくぜっ‼ 異能、佩血剣はいちけんッッ‼」


 瞬間、俺の虚空から伸びる退魔の剣。全長一メートル近い鉄骨が如きそのツヴァイヘンダーを、薄汚い泥豚に向けて一閃するッ‼


 巨悪から天音さんのお胸を守るために。


 あわよくばクラスのヒーローになって、女子からチヤホヤされるためにッ‼

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