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- sequel 1 - お金

沢山の応援をいただき、第二部を書くことにしました。

その前に、第1部の後日譚的な小編を、本日二つ投稿します。


「ん?」


 知らないIDからのパーソナルデバイスの呼び出しに、首を傾げたマックスは、その通信を取った。


「こちらは、NCBナショナルセンターバンクの者ですが、マクシミリアン・リード様でしょうか?」

「あ? ああ、そうだが。まさかなにか引き落とせなかったか?」

「とんでもございません。本日は、金融商品のご案内をさせていただきたく――」

「金融商品だぁ?」


 確かに、マックスは危険な職業に付いているため、一般のレベルから見れば、それなりに高給取りだ。

 だが、支出も多く、NCBから個人的に金融商品の勧誘を受けるほどの残高は――

 

 その時マックスは、非常に、ひじょーに嫌な予感にさいなまれた。


「あ、ああ。すまない。今のところ考えてないから、またそのうち頼む」

「え?」


 相手が何かをしゃべる前に通話を切ったマックスは、すぐに自分のクレジットをチェックした。


「おうふ。毎日、百万クレジットずつ三回の入金だと?」


 そりゃ、NCBも連絡をしてくる訳だと納得しながら、マックスはリンを探すために居間に向かった。


 テラバウムで起こった奇跡の日から、丁度4か月。マックス達は、バイアムの本拠地である、ビームス星系の惑星シェードに戻っていた。

 スペースポートをレンタルするのは金の無駄なので、トゲトゲはテラバウムでリンの倉庫に格納して、バイアムが引き上げる便で一緒に戻って来たのだ。

 

 トゲトゲの居住環境に慣れてしまっていたマックス小隊の面々からはブーイングが上がったが、メルシー商会の船にずっと乗っているというのも変なのでマックスの独断で却下した。

 

 ビームス星系は、バルクゲートのヨナ側にある、baruch-2-3と呼ばれるゲートをくぐった先にある星系だ。


挿絵(By みてみん)

 

 テラバウムを出た人類がテラリウムを発見した後、ローズ星系やカーストル星系を結ぶ主要なルートにあるゲートには宗教的な名称が付けられたが、それ以外のものは、単純にゲースの理論の起点となる場所の名前に使用した素数をくっつけたものがIDとして割り振られていた。

 したがって、baruch-2-3 ゲートは、バルクを起点とした、素数2で示される位置のゲートをくぐった後、その、baruch-2ゲートを起点としてゲースの理論に3を当てはめて得られる位置のゲートという意味になる。

 

 実際には、同じルールでテラバウムを起点にユニークなIDが割り振られているのだが、通常は短縮形として先述の名前ルールが利用されていた。

 

 ビームス星系は、ビームス・ソーンにより発見された星系だが、周囲に小さなゲートが非常に多く存在している星系で、冒険者や開拓者が好んで移住したためフロンティア星系の別名を持っていた。

 また、首都惑星のシェードは、多数のバイアムが本拠地にしていることで、バイアムの巣とも呼ばれていた。

 

「こら、リン! お前、なにを勝手に人の口座の金額を増やしてやがるんだ!」

「ん? だって、ぐんそー。欲しいものがあったら、チャージして買えと言ったではないか」


 きょとんとしたリンの様子に、マックスは首を傾げた。

 確かにトゲトゲのラウンジでそう言ったことは覚えていたが、チャージだけされていて使った様子がなかったからだ。


「いや……確かにそう言ったが、一体何を買ったんだ?」

「そこの店で売ってるアイスだ! これが冷っこくて美味いのだ。八千年前には氷しかなかったのだぞ?」

「アイス?! で、何で三百万も……」

「いや、アイスを買うたびにチャージしたのだが。確か三回かな? 今日も行くつもりなのだ!」

「はぁ?」

「ん? ぐんそーが、『買い物をするときは、そっちのカードからでもチャージできるから、その時々で必要な金額をチャージして使え』と言ったのだろ?」

「――『大きな』が抜けてるだろうが! 後、お前には『必要な』の意味が理解できんのか!?」


 マックスが頭を鷲掴みにして力を入れると、手足をばたつかせてリンがうめいた。


「んがががが、痛いぞぐんそー!」


 リンは、マックスに握られた場所をさすさす擦りながら、口を尖らせた。


「もー。暴力は何も生み出さないのだぞ?」


「お前に言われたかねーよ! 大体、そんな細々したものは、チャージなんかせずに、そのまま俺のカードを使ってりゃいいんだよ」

「そうなのか?」

「それが、扶養するってことだろ」

「おお! そうだったのか!」


 ぽんと手を叩くリンを見て、マックスはため息を吐いた。


「しかし、前々から言おうと思ってたんだが、お前にはちょっと常識的なお金の使い方と言うものを教育する必要があるな」

「ええ?」

「ええ、じゃねぇ! お前のチャージカードは一旦使用禁止だ!」

「えええ?! 酷いのだ! 横暴なのだ!」


 そう訴えながらリンの顔は笑っていた。


「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」

「やはり、養い親には虐待されるのが定番なのだ。そうして、悪い養い親に全財産を――」

「いや、それはもういいから」


 マックスはどさりとソファーに腰を下ろすと、疲れたように言った。


「ともかく、日常的な買い物は、チャージなんかせずに勝手に使え。あと欲しいもんがあったら先に言え。俺が認めたときだけ、チャージを許可してやる」

「仕方ない、そうしてやるか」


 リンは楽しそうにそう言うと、マックスの隣へと腰かけて、彼を見上げると笑顔を見せた。


第二部「水の檻」は十二月中には始めようと思います。


それまで、ブクマしてお待ちいただけると嬉しいです!

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