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【大】魔導師様、目覚める!  作者: そういち
 第4章 大魔導師様、宇宙へ
24/39

マックス、首都星に立つ

 スペースポートの指定位置へと停泊したトゲトゲから下船したマックス達は、そのまま入国審査をスキップして、スペースポートの展望台へと下り立った。


「いやー、外交官特権って凄いですね。これって密輸なんかやりたい放題じゃないですか?」

「今時そんなことができるかよ。便宜上手続きをスキップしているだけで、スキャンはされまくってるに決まってるだろ」


 そんな問題は、人類がテラバウムに縛られていた時代に散々経験してきたことだ。

 現代科学がそんな暴挙を許すはずがなかった。もっとも何か問題があるものを見つけたからと言って、逮捕されるかどうかは別の話だったが。そこには当時も今も国家間の力学と言うやつがあるのだ。


 それにしても船体スキャンでトゲトゲをスキャンしたとき、内部の様子がどう見えるのかは、非常に気になるところだった。

 下手にスキャンを逃れる隠し部屋みたいな構造になっていて、スキャン不可能な怪しげな部屋があると、確実に臨検の対象になるからだ。

 

 もっともリンによると、空間拡張を行った部分はスキャンに使われる電磁波類を素通りさせるそうだ。

 つまりは、何もないドンガラが表示されるだけのようだった。それはそれで疑われないかとマックスは思ったが、何しろ乗員が七名の船だ。居住スペースになにもないように見えても同情されるだけだろうとのことだった。


「ほう。ここがクリムゾンか」


 スペースポートの展望台からその星を見下ろしたリンが、感慨深そうにそう言った。


 カーマイン共和国の首都星クリムゾン。それは人類がテラバウムから首都移転をした時の対象惑星だ。

 今でも単に首都星と言うと、クリムゾンのことを意味しているし、星歴の1年はこの星の公転時間が基準になっている。

 

 もっとも各惑星では、利便性を考えて自分たちの自転と公転に合わせたローカルな暦が使われいる。星歴はあくまでも共通歴としての暦で、クリムゾン以外では、主に各種公式記録で使われていた。


 クリムゾンのスペースポートは、最初から反重力システムの恩恵を大きく受けていたため、軌道エレベーター方式ではなく人工ステーション方式で建設された。

 結果、幾らでも大きく拡張することが可能だったこともあって、今では空に浮かぶ巨大な都市を形成していた。

 

 地上にも三千メートル級の千階を超える超高層が普通に立ち並んでいる都市の様子は、わずか千年やそこらでよくも開発したものだと、それを見るものを圧倒していた。


「人類もなかなか捨てたもんじゃないだろ?」

「そうだな」


 リンが活動していた当時、魔法の力では宇宙へと進出できなかった。

 もちろんそれは、人類にとって地上がまだまだ広大だったというだけのことかもしれないが、リンは素直に縮退炉を始めとする科学の力の大きさを認めていた。

 

「さて。台下はこの後どうされるんです?」

「あくまでもスーキ・Kとして入国しましたから、国賓としての行事等はありません。政庁へ連絡して、スケジュールに従って会談を行うことになるでしょう」

「おひとりで?」

「まあ、そうなりますか」


 いくらお忍びと言っても、教皇のおつきがゼロというのは問題がありそうだ。

 マックス達に課せられた契約は、教皇を無事クリムゾンに届けて、テラバウムに連れ帰ることだが、クリムゾンで暗殺でもされたりしたら、後半の契約が履行できない。


「よし、サージとパウエルは、台下の侍従として彼を護衛しろ」

「ええ?!」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ、軍曹。パウエルはいいですよ? ザ・護衛って感じですし。だけど俺は――」


 慌てて文句を言うサージを遮って、マックスは言った。


「あのな、カリーナとフェリシアは女だろ?」

「ええまあ」

「残念ながら、クレリア教で女性は聖職者になれん。馬鹿みたいだが、そこは宗教だからな。日頃うるさい連中もそこに文句はつけないだろ?」

「軍曹、どっかからクレームが来そうな発言は止めてくださいよ。それに護衛に聖職者もくそもないでしょう?」

「いや、相手が勝手に勘違いしてくれなくなるだろ」

「勘違いって……」


 交渉時において、相手に情報を不必要に与えることは悪手だ。たとえそれが性別程度の話であっても、相手は勝手にそこから深読みをするのだ。


「それに、ショートはお調子者すぎるし、アダムスは言葉が悪い。二人とも一国の特使として派遣するには不安がありすぎるだろ」

「それは、まあ」


 それを聞いて二人は中指を突き上げてブーイングの声を上げた。

 上官に向かってこんなことをしたら、一発で独房にぶち込まれそうな行為だったが、マックスの小隊は通常下における、そういう部分が非常に緩かった。

 もっとも、だからこそ護衛に使えそうな人員が二人しかいないともいえるのだが。


「「ぶーぶー」」


「なんだお前ら、やりたいのか?」

「いえ、遠慮しますぜ」とアダムスが言えば、「右に同じです!」とショートが追随した。


 なら最初から文句を言うなよと、マックスは苦笑した。


「都合、お前とパウエルしかいないだろ?」

「ええ?! 軍曹がいるじゃないですか!」


「俺は、リンのお守りがあるんだよ! 何なら代わってやろうか!?」

「台下の護衛を承りました、サー!」

 

 それを聞いた瞬間、サージは直立不動で敬礼してそう言った。

 

 なにしろ、クリムゾンはカーマイン共和国の首都星だ。おそらく宇宙で一番発達している都市のひとつなのだ。ハロー砦なんかとは比べ物にならないくらいいろいろなもので溢れている。

 つまりは、リンの興味の対象も、比べ物にならないくらい――


「って、言った傍から、あいつらはどこに行ったんだ?!」


 ふらふらと地上を見ていたかと思ったら、リンがいつの間にかいなくなっていた。まあ彼女が誘拐や暗殺されるなんてことはほぼあり得ないから、それはいいが、逆に相手に被害を与えて損害賠償を毟られるのが一番怖い。


「ちょ、待ってくださいよ、軍曹。着るものはどうするんですか?! 俺たちそんな場所に着て行けるような服は持ってませんよ!」


 マックスは、スーツの一つくらい用意しておけよと思ったが、バイアムの礼装は、そのバイアムの儀典用制服で用が済む。だから普通のスーツを持っていない連中も多いのだ。


「セブンスナイトの礼服じゃまずいか」

「当たり前でしょ! 教皇のお供なんですよ?!」


「お忍びだろ。よし、後で経費で落としてやるから、出来るだけ見栄えが良くて『安い』服を台下に選んでもらえ。領収書を忘れるなよ? あて名は――そうだな。メルシー商会で頼む」

「分かりました!」


 何しろ今回は、パーソナルコントラクトだ。セブンスナイトの名前を出すといろいろ面倒が付いて回りそうだと考えたマックスは、商会の経費で落とすことにした。

 しかし、依頼の経費だと考えれば、これは教皇庁に落とさせるべきだったのだ。


「では、台下。二人を自由にお使いください」

「ありがとう。リードさんは?」

「私は少々やることがありまして……」


 それを聞いたポッペウスは興奮したように目を輝かせた。

 船内でリンに付いて回っていた時、彼女を助け出した彼の武勇伝をいろいろと聞かされて、すっかり心酔していたのだ。

 リンが調子に乗って盛ったというのも多分に作用していた。


「世界平和のために活動されるんですね!」

「は? あ、いえ……」


 いきなりそんなことを言われて、面食らったマックスだったが、確かにリンを野放しにしないというのは、世界平和に対する一助となるかもしれないと考えた。


「まあ、そのようなもので」

「分かりました! 頑張ってください」


 勢い込んでそう言ったポッペウスに、いや、頑張るのは台下の方だろと、マックスは内心苦笑した。


「いえ、台下の方こそ……なにかありましたら、二人に言っていただければこちらにも連絡はつきますので」

「ありがとうございます!」


 マックスはポッペウスに一礼してから、サージに近寄った。


「サージ。いざとなったらトゲトゲにサーチの魔法を使わせろ。この都市ひとつくらいならどうとでもなるだろ」

「了解。軍曹は?」

「馬鹿野郎! リンを探さないと、どこで損害賠償を請求されるかわかったもんじゃないだろ!」


 そのあまりの言い草に、サージはくすくすと笑いながら言った。


「ご愁傷様です。ただ、カリーナとフェリシアもいなくなってますから、一緒にいるんじゃないかと思いますけど」

「だといいがな。じゃ、後は頼んだぜ」

「サー、イエスサー!」


 巻き込まれるのを嫌がったのか、すでにアダムスやショートも姿をくらませていた。

 なんとも自由時間の時だけは素早い奴らだと苦笑したマックスは、早速カリーナをコールした。一緒にいるのならそれで捕まるだろう。


   ****


 オバデヤゲートからほど近い位置にある、セントール星系の主星ダリウスにある、カーマイン共和国の第4方面軍セントール基地では、警報が鳴り響いていた。

 

---- 主要星系およびゲート模式図

φ星系

〇惑星

□大ゲート

△小ゲート


 φパラノシア星系

  〇主星:テラバウム

  □イザヤ

   △ホセア

   △ヨエル

   △アモス

  □エレミア ---- □エゼキエル ---- φポルケウス星系

   △オバデヤ      △ゼファニヤ      〇主星:テラリウム

    φセントール星系  △ハガイ

   △ヨナ        △ゼカリア

  □バルクゲート     △マラキ

   △ミカ       □ダニエル

   △ナホム     φカーストル星系

   △ハバクク     〇主星:ノーライア

 φローズ星系      

  〇主星:クリムゾン

----


「〈エゼキエルゲート〉から連絡。ノーライア帝国の中隊規模の艦隊が〈ゼファニヤゲート〉方面から現れました」

「ポルケウス星系への艦隊行動じゃないのか?」

「いえ、どうやら、〈エレミアゲート〉へ向かうようです」

「なに?」


 カーマイン共和国とノーライア帝国が直接接しているのは〈エレミア〉と〈エゼキエル〉の両ゲートだ。

 カーマインがノーライアに攻め込む場合は、必ず〈エゼキエルゲート〉を、ノーライアがカーマインに攻め込む場合は、必ず〈エレミアゲート〉を使用することになるのだ。

 そのため、この〈エレミア〉-〈エゼキエル〉間の宙域は、非常にセンシティブな領域になっていた。

 

 ノーライアが、中隊規模とは言え、この宙域でエレミア方向に艦隊を移動させるとなると、それはカーマイン共和国に攻め込む意思があるとみなされても仕方がない。


「すぐにクリムゾンへ連絡! ノーライアの大使に確認を取れ!」

「はっ」


 主席連絡官の男が、敬礼をして駆けだした。


「〈エレミア〉駐留艦隊を先行させて前線を築き、すぐに〈オバデア〉駐留艦隊を合流させろ! セントール基地からの後詰めを待つように言え!」

「了解」


 先だって、〈バルク〉の駐留司令官名義で、パラノシア星域で行方不明になったらしいノーライア帝国の分隊に関する報告や、異常な速度でローズ星系に向かう貨物船の情報は受け取っていたが、今回の艦隊行動もそれと関係があるのだろうか?

 あちこちで小競り合いがあったとはいえ、主星系同士での戦争はここのところ起こっていない。


「平和というのは儚いものだな」


 彼は誰にともなくそう呟いた。


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