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【大】魔導師様、目覚める!  作者: そういち
 第4章 大魔導師様、宇宙へ
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マックス、愛の戦士になる

サブタイが違う? ふっ、そう言うこともあるのさ。

 トゲトゲがけん引ビームで引っ張って来た重巡の残骸は、すべての外装がはがれた状態で、まるでドックの中で建造中の艦艇のように見えた。

 もしも人間が乗っていたとしたら、内部に充填されていた空気の拡散に伴って、外装と共に宇宙空間へと飛び散って行ったことだろう。


「こいつは……一体全体どんな武器を使ったらこうなるんだ?」


 それを見たギリーが、唖然としてそれを見上げていた。


「さあな。アームドブレイカーとか言っていたが」

「アームドブレイカー?」


 リンがその様子を監督しながら、誇らしげに胸をそらした。


「それはな、武器や防具を使えなくする魔法なのだ」

「使えなくする?」

「もっとも不届き者が使ったおかげで、脱衣魔法などと言う本来の目的と違う呼ばれ方をされたりもするのだが……」


 彼女の説明によると、アームドブレイカーは、武器や防具の接合部の強度をゼロにする魔法だという事だった。後年はネジが登場したため、それを外す効果もあるという。

 だが、それはつまり着ている防具をばらばらにし、着ている服を縫い目でばらばらにするため、結果としてすっぽんぽんになってしまう場合が多く、それ目的に利用されることも多かったらしい。


「すっぽんぽんねぇ」

「聞いた感じじゃ、要するに接合部の摩擦力をゼロにして、分子構造が大きく変わっている境界の強度をゼロにする魔法ってことか」

「そりゃ、一体型で削り出したようなものを除いて、何でもかんでも部品単位でばらばらになるわな」


「しかし、稼働中の縮退炉がばらばらになったらどうなるんだ?」

「マイクロブラックホールが、どっかへ飛んで行くんじゃないか?」


 維持するシステムがない以上、それ自体は一瞬で蒸発するはずだ。


「反物質貯蔵庫や核融合炉は?」

「そいつはちょっと想像したくねぇなあ」


「心配するな。ばらばらになるのは、言ってみれば防具部分だけだ」

「防具部分?」

「そうだ。航宙艦なら、船殻部分が対象なのだ」


 航宙艦の外壁は、トリプルハル(三重船殻構造)以上が当たり前で、構造上内部に隔壁も多い。アームドブレイカーは、どうやらそれらの構造を構成する隔壁が効果の対象になるらしい。


「なんともふわっとした話だが、んじゃなにか? そいつのせいで外壁が全部ばらけた状態があれってことか?」


 マックスがそう言って、目の前の重巡を指さした。


「なにしろ資材の再利用が目的だからな。爆発して破壊したりしたら使えなくなるではないか」


 そう言って嬉しそうに笑うリンを見たギリーが、「この嬢ちゃん、実は地獄からやって来た悪魔の一味じゃないのか?」と、大袈裟に身震いした。乗船していたものにとっては、まさしくそうだろう。


「おまえ、そのためにあんな武器を作ったのかよ」

「まあな」


 その後も忙しそうにあちこちをうろうろしていたリンが、難しい顔をして重巡を眺めていたかと思うと、マックスの前にトテトテとやって来て小首を傾げた。


「あとな、ぐんそー。二日ほどこのへんで漂ってていいか?」

「二日? なんのために?」

「あの、一番おっきな船に、でっかい縮退炉があってな。それをトゲトゲにくっつけたいのだ」

「はぁ? この船のどこにそんなものを――」


 設置するんだよと言おうとしたマックスだったが、そういやこいつにとって、空間はどうにでもなるものだったっけと思い直した。


「トゲトゲの縮退炉の下に収納して、バックアップと、キャパシタのチャージに使うのだ」


 考えてみればトゲトゲの内部の空間拡張は、縮退炉から供給される魔力で支えられている。

 もしも縮退炉が止まって魔力の供給が途切れたら、あの空間がどうなるのか……マックスはバックアップと聞いて戦慄した。


「お、おい、リン。もしかして今までは結構ヤバかったんじゃ――」

「まあ、資材もなかったしな。仕方がなかったのだ」


 リンはいかにも悪びれない様子で、そう言って腕を組むと、目をつぶってうんうんと頷いた。

 そりゃいくらなんでも縮退炉の予備はなかっただろう。しかし、さすがは実験艦と銘打つだけのことはある。これは早急に何とかしなければならない問題だ。だが――


「そうは言っても、この場で二日間は無理だな。そんなに長い間この辺でふらふらしていたら、ノーライアの連中が確認に来かねん。どっかこの先の適当なところで時間を取ってやるから、今は収納だけにしとけよ」

「そうかー。でも、他の船もあるし、あれを全部私の倉庫に入れるのはちょっと嫌だな……」


 どうやら収納魔法は、そこに入っているものの質量に応じて常時少しずつ魔力を使うようだった。

 さすがに航宙艦十隻は、文字通り荷が重いのかもしれない。もっともそれが「無理」ではなくて「嫌」だと言うのが、すでに信じがたいところなのだが。


「そうだ! せっかく資材もそこそこ使えるようになったのだから、トゲトゲが収納魔法を使えるようになればいいのだ!」

「ん? 別空間にあるっぽいカーゴと収納魔法って違うのか?」


 今までだって、トゲトゲ内の空間はいたるところで拡張されている。マックスは、それも収納魔法の一種だろうと思っていたのだ。


「全然違うぞ。カーゴはあくまでも空間の確保しかやっていないからな。ものを適当に突っ込むわけにはいかないのだ」


 どうやら収納魔法はカーゴや客室と違って、そこに入れたものの三次元空間上での位置や領域と言うものが存在しないらしい。

 

 そういう意味では、マックス達が使う亜空間庫に近いが、あちらは作り出された空間に放り込んだものを自動的に詰めた形で配置しているだけだ。だから、総量は物体の体積に依存している。

 収納魔法の場合は純粋に質量が問題になるだけで、形は大きさは問題にならないらしい。


「そりゃ、なんでも入るわけだな。しかし、そんなに簡単に使えるようになるものなのか?」

「魔力の使用量を気にしなくていいのなら、問題ないのだ」


 どうやら、収納魔法で難しいのは、人間が持つ魔力量でそれを実現、維持するための効率化部分らしかった。

 リンは、縮退炉さまさまなのだーと言いながら、ご機嫌な様子で作業を始めていた。


「おい、リン、それってどのくらいかかるんだ?」

「そうだな……まあ、二時間もあれば」

「ならいいか。急げよ」

「任せておけ!」


 元気に返事をするリンを見ながら、ギリーがため息を吐いた。


「あんたが、縮退炉さえあればカーゴスペースはどうでもいいと言っていた訳が良く分かったよ」

「だろ? だが、事故を防ぎたきゃ、縮退炉が二つは必要になりそうだな」

「拿捕部品が十隻分もあるんだ。その辺のフリゲートあたりにくっついていた縮退炉なら、タダで譲ってくれそうな気がしないか?」

「俺が邪魔するから無理だ」

「かー、ケチな野郎だなぁ」


 そうしている間にも、航宙艦を資材として収納する作業は、滞りなく進んでいた。


「しかし、船がああいう状態だと、どこかで人間が生き残ってたりしてもおかしくないよな」


 別段爆発して吹き飛んだわけではなくて単に外壁が全部はがれただけだ。もしも宇宙服を着た奴がいて、解放される空気に逆らい、どこかにしがみついていたとしたら、二十四時間程度は生きていたとしてもおかしくない。


「だが、分解は一瞬だったんだろ? 反撃が考えられない状態で宇宙服を着ている奴なんかいるか?」


 そんな結論の出ないことを議論していても始まらない。マックスはトゲトゲを呼び出した。


「トゲトゲ。周囲一万キロ以内で救難信号が出ていたりしないか?」

「救難信号の発信は認められません」


「なら、生体反応をサーチできるか?」

「可能です。実行しますか?」

「頼む」

「アイサー」


 物好きな奴と、好奇の目を向けてきたギリーに、マックスは顔をそらしながら言った。


「一応戦闘が終われば、人命救助は俺たちの世界のルールだからな」

「殺し合ってたやつを助けるのがルールだなんて、変な奴らだぜ」

「ノーサイドってやつさ。俺たちは金のために戦ってるわけで、主義や主張は関係ない。戦闘が終われば、相手は敵じゃなくなるのさ」

「相手がバイアムならそうだろうが、主義主張で戦ってるやつもいるだろう?」

「毎年それで何人かは命を落とすって話は聞くな」


 なにしろ相手が非力な女だろうと子供だろうと、現代の武器はスイッチが押せれば兵士を殺せるのだ。助けようとして逆に殺されるヤツも後を絶たない。


「だろ? 今回の相手は主義主張で戦ってる奴らじゃないかと思うんだが」

「かもな」


 正規軍の航宙艦がバイアムによって運用されているはずがない。乗組員は、ノーライアの軍人に間違いないだろう。


「あの……」


 ブリッジの扉が開いて、おずおずと顔を出したのは、ポッペウスだった。


「お。台下。どうしました?」

「いえ、何か船内があわただしかったので。いったい何が?」

「あー、早速海賊に襲われたので撃退したところです。ご安心を」

「海賊?」


 ブリッジの全天球スクリーンには、建造中のような重巡が浮かび、その向こうには、何隻もの似たような船が集まってきていた。


「これが?」


 ポッペウスは戦闘が残した残骸の多さから、それが単なる海賊と言ったレベルではないことに気が付いた。そうしてそれが、ほとんど何も感じることなく終わっていたことに驚いていた。

 マックスは仕方なく、ポッペウスに経緯を説明した。


「では、我が国の管制が、この船をノーライアが待ち構えている宙域に誘導したということですか?」

「証拠はありません。それに、これが本当にノーライアの艦隊かどうかだって分かりませんしね」


 そうは言っても管制の航路設定に影響を及ぼせる組織など数が限られている。しかもそれを行ったのはクレリアのハロー砦にある宙港だ。

 最も可能性が高いのは教皇庁の高官で、次がノーライアにそそのかされたイシュールだろう。

 

 どちらにしたところで、自分を狙った襲撃に間違いないことをポッペウスは理解していた。

 なにしろ神託で、ライン(定期航路)を使わないようにと、わざわざ指定されていたのだ。それはこれが原因だろう。

 

 ポッペウスは申し訳なさそうにマックスを見上げた。


「お話し中失礼します、軍曹。クルー以外の生命反応を発見しました」

「なんだと?」


 トゲトゲの報告に、マックスとギリーは顔を見合わせた。ああ言ってはみたものの、まさか本当に見つかるとは思っていなかったのだ。


「生命反応と言うと、敵の?」


 もの問いたげにそう訊いたポッペウスに軽く頷いたマックスは、トゲトゲに、すぐに誰かを救援に向かわせるよう指示した。


「敵も助けるのですか?」


 戦争のルールで捕虜の扱いは決まっていたが、戦場にいる人間を捕虜とするかどうかは明文化されていない。

 なにしろ怪我人はリソースを食う。自国の人間ならともかく、それを敵のために割くことを嫌がったとしても仕方がないことだった。


「ま、誰もみな、望んで死にたいってこたぁないでしょう。宗教にもあるでしょう? なんでしたっけ、ええっと……そうだ、アガペーってやつですよ」


 マックスはうろ覚えの神学に出て来た言葉を使って、適当にはぐらかした。

 彼はそれを、仲間意識くらいのつもりで使っていたが、実際は神の無償の愛であり、信徒同士の関係をを表す言葉だったのだ。

 

 それを聞いたポッペウスは目を見開いた。

 愛のために戦い、愛ゆえにそれまで戦っていた相手を助ける――その瞬間、マックスは、彼の中で愛の戦士となったのだ。

 

 それは、なんとも痛ましい事件であった。


「す、素晴らしい……」

「え?」

「いえ、なんでもありません。皆様に神のご加護がありますように」

「そりゃどうも」


後始末は後1話だけ続くんじゃ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛戦士は流石に笑うわ
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